第20話 確実にブチ切れてたろうが
――ジンドラクラック第六十六階層。
マディメア討伐後、『再燃する走馬燈』の副作用でぶっ倒れながらなんとかゲートを開き、全員で一度無限の箱庭へ退避した後、インターバルを経て再びダンジョンへ戻ってくる。
すやすやと寝息を立てていたハレはメイドさんに預けておいた。
どうにも一度力を使うと、しばらくはそうなっちまうみたいなんだよなぁ。
ともあれ、マディメアを討伐した場所から少し進めばもうそこは次の階層へと繋がっていた。
そして――。
「わぁぁ……!! ねぇおじさま見てください! すっごいですよ!」
「うおぉ、こいつは本当だな……! もちろんがっつり期待はしちゃいたが……それでも予想以上の光景だ……!」
目に写るのは、あちこちの壁中から隆起する大量のオルハリコン。
なんつーかもう、テンションも相まってキラキラどころかギラギラと輝いてみえるぜ。
目利きなんてモンができるワケじゃねぇが……これほどの量があればまず間違いなく目標である十億には届くことだろう。
どうやら無事、最後の賭けにも勝てたみたいだな。
しかもこの辺りはセーフスポットになっているらしく、魔物もよってこない。しばらくは他の冒険者もここまで降りてはこねぇだろうし、採取し放題ってワケだ。
俺達全員で肉体強化をフルで行使すりゃ、二、三日もあれば目標額のオルハリコンを集めきることができるだろう。
……ま、いざとなったらガングリッド達にも手伝ってもらうかね。
ともかく、これで『写本』を競り落とす資金は何とかなった。
唯一の問題と言えば……。
「おいほらお前らもみてみろって、な? すげぇぞこれ!」
「うぅ~……!! もー! こっちはまだそれどころじゃないの!! おっちゃんのばか! デリカシーナシナシおじさん!」
「はぅぅ……! ち、違う……わたしはあんな、え、え、えっちな子じゃないんだ……! あれは……あれは状態異常のせいで……」
「うにゃあぁあぁ!! ウチってばよりによってあんな重いコみたいなセリフを……! 記憶を消す魔法……! 記憶を消す魔法を作らないと……!」
「うう……! 自分からあんな、お、お嫁さんだなどと……!! それだけならまだしも、あんな駄々をこねる子供のように……!! あ、ああああ……っ!!」
……四人ともがっつり記憶が残っちまってるってことなんだよなぁ。
「もー! だいたいボクだけ恥ずかしい思いするのおかしいじゃん! おっちゃんも普通にちゅーしてくれればボクだけこうならなくて済んだのにぃ~っ!!」
「なに言ってんだ、ちゅーしたらちゅーしたで確実にブチ切れてたろうがお前……」
「そりゃ怒るよ! でもさ、でも……んぬぬぬ、もー!! もーおー!!」
いやどーしろってんだよ……。
むしろ状態異常につけこんでちゅーしちゃうような人間じゃなかったことに、もうちょい感謝してくれても良いと思うがねホント。
「にゃうぅ、ハクちーもずるいよぅ! 一人だけ無事で……えいえい!」
「わわ!? ……えへへ、今まで頑張ってきたしるしですから!」
えへんと胸を張るように、脇腹をつつくエテリナに答えるハク。
……どうやら今度は本当に、いろいろと吹っ切れたみたいだな。
「さぁほれ、気持ちは分からんでもないがそろそろ採取に移ろうぜ? なんせこれだけの量だ、俺とハクだけじゃどうにもなんねぇぞ?」
「……こほん、そ、そうだな、確かに計画的に採取せねば…………うぅ、まだまともに顔が見えん……」
「すーはーすーはー……。う、うん……そ、それじゃあまずは――」
「――頑張ってきたしるし、ふふ……! ……いつか本当にハクが勇者になっちゃったら、きっとお父様たちも――」
……………………
…………
……
――数日後。
あれから予定通りに目標のオルハリコンを採取することができた俺達は、頃合いを見てまとめてそいつを冒険者ギルドに持ち込んだ。
……の、だが――。
「か、換金できない!? ……って、おいどういうことだよフー!?」
まさかの事態に、思わず声を荒げてしまう。
「……ほれ、アンタらのおかげでアカバンの連中が捕まったやろ? そいつらを手引きした関係者も含めて、不正に関わってた連中は全員芋づる式にしょっぴかれたんや。もちろん、そいつらが採取してきたオルハリコンも没収されて……」
「ちょ、ちょっと待ってくれって! 俺達はアイツらと違って正式に手続きをしてだな……!」
「ウチかてそれはわかっとる……! けど、『無限の箱庭』のことをおおっぴらにするわけにもいかへんやろ……!?」
「ぐ……!」
本来であれば、ダンジョン素材の採取手段や経緯なんかを申告する義務はない。
なにも『夢幻の箱庭』以外にも階層をスキップする手段がないワケじゃあ無ぇし、そもそも手段の是非の証明を省くために、事前の採取許可の認証や出入り口での面倒な手続きが敷かれてたんだからな。
……が、今回は不正があったせいで、その前提が崩れちまったってワケか。
一応潜った期間の短さについては、『俺たちも偶然その隠し通路を見つけた』ってことにはしてあるが……。
「とはいえ正式な手続きを踏んでいる以上、アンタらのオルハリコンまで没収されるって事態にはまずならへんはずや。ただ……」
「ただ……?」
「アンタらがネームド『マディメア』を討伐したっちゅう、ギルドによる正式な確認は必要になるやろな。地図士や専門の冒険者を派遣して……どんだけ早ようても一ヶ月っちゅうところやろか……」
一ヶ月……!?
オークションはもう来週末、ギリギリどころか完全に間に合わんぞ……!
「それとな、これはまだ未確認な情報やけど……今回の一連の不正事件、黒いフードの男が関わってるっちゅう話が出とる。ひょっとしたら――」
「!? おいまさか……フリゲイトか!?」
やられた……!!
すでに先手を打たれていたのか……!!
『写本』を手に入れるためのオルハリコンの採取……さらに俺たちならああするだろうと予測して、事前に不正に加担しそうな連中を仕込んでいたってところか……!
マディメアに俺たちがやられれば良し、仮に討伐されても、まさに今この現状となってしまえばオークションには間に合わない……。
こうなると、不正した奴らが通ったっつう隠し通路とやらも、ジョーダインの『ダンジョン干渉』によるものかもしれん。
……とにかく一度トリア達のところに戻って説明をしねぇと……!
「――えぇ!? それじゃあオークションには間に合わないってこと!?」
「あぁ……一応フーからも上にかけあってはもらえるみたいだが……」
「にゃむぅ……フーねぇの権限じゃ、そのあたりの決定を覆すのは難しいんじゃないかなー?」
残念ながら俺も同意見だ。
一人心当たりが無いでもないが……恐らくジエムはそういった贔屓みたいな手段に手を貸してはくれないだろう。
「ね、ねぇどうするのおっちゃん!?」
「……商人ギルドをあたってみる。冒険者ギルドの立ち会いのもとなら、ダンジョンで採取した素材の個人間での売買も可能なはずだろ?」
「確かにそういった話は聞いたことはあるが……しかしイルヴィス、今の我々は何も知らぬ他人からみれば怪しいのは確かだ。商談を取り付けるのは難しいのではないか……?」
「も、もしわたしたちが本当に不正に手を染めていたとしたら、か、買い取った側もリスクを負うことになっちゃうからな……。ど、どうしても警戒はされちゃうと思う……」
「うにゃあ……そもそもあれだけのオルハリコン、一手に引き取ってもらえるような相手がいるのかどうか……」
「全部わかってる。そのうえで確かに足元はみられるだろうが……この際背に腹は代えられん……!」
売値を相場より安くして、何とかまずは交渉へと持ち込むしかない。
幸い予定より多くのオルハリコンを採取できた、落札額が予想以上に高騰しなけりゃ何とか……。
「あ、そうだ! オークションはいったん諦めて、後で落札した人からまた買い戻すっていうのはどう? その分お金もちゃんと上乗せしてさ!」
「……そいつはできん。俺たちの手元にも今『写本』は一冊あるが……じゃあそいつを『十億円で売ってくれ』って言われたとして、それに俺たちが『はい喜んで』と応じるか?」
「あ、そっか……」
資産としての価値より、『写本』そのものの価値に重きをおく相手だとしたら金なんざそれこそ何の意味も無い。
もし俺たちのように『不落の難題』を追っているような奴ならなおさらだ。
だからこそ、オークションっつぅ『金でなんとかできる』現状を逃すわけにはいかんのだが……。
「とにかく一度、リィンねぇ……じゃなかった、リィンさんのとこへ行ってみる。リィンさんのツテで、オルハリコンを買い取ってくれそうな相手がいねぇかどうか――」
「――……あのぅ? でしたらそのオルハリコン、全て私がお引き取りしましょうか? もちろん、正式な相場で買い取らせていただきますよ?」
「……!?」
ふと声をかけられた方に顔を向ければ、そこには一人、初老の男が立っていた。
……誰だ? 少なくとも知っている顔じゃあないが……。
「そいつは確かにありがたい申し出ではあるが……アンタは?」
「おっとそう警戒しないでください、しがない一人の商人ですよ。――そう、貴方がたのことを良く知る……ね?」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!
以降の更新については、また週一ほどで番外編を二話更新する予定です!
その後は……すみませんまたちょっといつになるか未定となっております……!
どうしてもじわじわと執筆時間が取れなくなってきてるのが現状でして……。
とはいえ、皆さんのおかげでとうとう200話を超えた今、
ここまで来たらもうエタるつもりは毛ほどもありませんので
どうか気長にお待ちいただけるとありがたいです……!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!




