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第16話 きっかけになるような出来事でもあれば

「――なるほど……不正な手続きに秘密の抜け道、ねぇ……おら、もういっこ言うべきことがあるんじゃねえのか?」


「「ず、ずびまぜんでした……!」」


 たどり着いたセーフスポットで、アカバンの連中に情報と謝罪の言葉を吐かせてやる。もちろん全員ボッコボコにしてやった後、フックガン用の予備のロープでぎっちりと縛り上げてやったしな。


 話を聞いた感じ、どうやらコイツらは入口が封鎖された直後にはもうダンジョンへ潜っていたそうだ。

 本来必要な手続きも……ま、管理者側が不正を働いてんなら意味を成さんわな。


 さらに追加で賄賂を支払った連中には、普通の階層図には載っていない比較的安全な抜け道(・・・)の情報もセットで提供していたらしい。

 コイツらはそれでおよそ二十階層以上をすっ飛ばしてきたって話だが……。


「とりあえず聞いときたい情報はこんなもんとして……さて、コイツらをどうすっかねぇ」


「な、なぁ勘弁してくれよ……! もうアンタ達には手を出さねぇし、なんならオルハリコンも諦めてこのまま帰るからよぉ……!」


「お、俺たちを憲兵につきだしたところで、アンタらには大した見返りもないだろ? かかってる賞金だって、一山あてた時にくらべりゃあ雀の涙ほどだ……!」


「そのオルハリコンだって、わざわざ俺たちを外に連れてく間に他の冒険者に採取されちまうって……! な? 悪い事は言わねぇから、ここはお互い持ちつ持たれつで……」


「何が持ちつ持たれつだ、あいにく悪人の言う『悪い事は言わねぇ』ってのは聞き流すことにしてんのよ俺。……ただま、お前らをつきだしたところで旨みが無いのは確かだな」


 男たちの後ろに回り、縛っていたロープをほどいてやる。


「うえ!? お、おっちゃん!? それはちょっと……」


「いいから……俺たちはもう行くけどよ。お前らも約束通り、すぐにダンジョンから出て行けよ? さもねぇと次は――」


「わ、わかってる、わかってるって、へへ……!!」


 いそいそ『踵の道標(ホームカミング)』を準備するアカバンどもを尻目に、俺たちはセーフスポットを後にした。



 ……

 …………

 ……………………


「ねぇおっちゃんてば! ホントによかったの? あんな……」


「おいおい何言ってんだよトリア? そりゃあもちろん……毛ほども良いワケはねぇだろうなぁ」


「ええぇえぇーっ!!?」


 アカバンどもを置いてきたセーフスポットから少し離れたところで、分かりやすく驚きの声を上げるトリア。

 ……ま、予想通りの反応ではあるな。


「だ、だったら……!」


「ま、まぁ落ち着くんだトリア……。わ、わたしたちには、おっちゃんのコレ(・・)があるだろ……?」


「これって……ゲート? あ……! そっか、じゃあ……」


「そういうことだよ。『踵の道標(ホームカミング)』の魔法陣が完成するには少し時間がかかるからな。その間に部屋の電話から、フーにでも事の顛末を伝えておけば……」


「悪党どもがダンジョンから脱出したところを一網打尽……というわけだな」


 ご名答。

 すでにアカバンとして手配されてる連中だ、俺たちが奴らの悪事を証明しなくても、その場で即お縄につくことになるだろうよ。


「なーんだ! もーおっちゃんも最初からそう言ってくれればよかったのにー!」


「悪かったって。つっても、アイツらの前で大っぴらにゲートを使うワケにもいかねぇだろ? 警戒されちまわないように……っと? ……ふーむやっぱ、ここいらにも戦闘の痕跡が残ってるか……」


「にゃふふ、それも結構新しい(・・・)カンジのねー?」


 さっきからあちらこちらで見かける俺たち以外(・・・・・)の戦闘の痕跡。

 どうやらエテリナも、俺の意図に気付いているようだ。


「えと……どういうこと? ダンジョンの中じゃ珍しいものじゃないよね?」


「普段はな。ほれ、俺たちが入るまでダンジョンの入り口は封鎖されてたろ?」


「そうじゃなくても四十階層以降は原則として、一般冒険者の立ち入りは禁止されてたからねー? それなのにわざわざこーんなところまで来る物好きさんがそんなにいるとは思えないってカンジ?」


 エテリナの言う通りだ。

 そりゃ階層図を更新するためにやってくる地図士や、その護衛の冒険者だったりすればまた話は別なんだろうが……。


 そういった連中はまず、それこそ隠ぺい系やヘイト管理系のスキルなんかで極力戦闘を避けるはずだからな。

 多少って程度ならともかく、こうまで頻繁に痕跡を残すとは思えん。


「ならば……先程のならず者達のように、他にも不正にダンジョンへ潜っている者達がいるということか……」


「それも一組や二組じゃねぇかもな。……どうにも、きな臭ぇモンを感じるぜ」


「えーずるいじゃんそんなの! ひょっとしたらその人たちがもうオルハリコン見つけてるかもしれないし!!」


「まぁそうかもしれんが……早く潜ったからっつって苦労せず見つけられるもんでもねぇし、仮に採取できたとしてもさっきのアイツらを憲兵につきだしといたおかげで、その苦労も水の泡になっちまうだろうよ」


「にゃふふ! よくて見つけたオルハリコンのぼっしゅー、悪ければそのまま牢獄へちょっこーう! ……っていったところかなー?」


 ゲートを使える俺たちが入り口でわざわざ正規の手段をとったのも、こういう事態を見越してのことだ。

 余計な疑いを持たれないに越したことはねぇからな。


「それに潜る前にも説明したろ? どのみち俺たちはこの辺りの(・・・・・)オルハリコンを(・・・・・・・)採取する(・・・・)つもりはない(・・・・・・)……ってよ?」


「それはそうだけどさー……。でもでも、ちょっとは足しになったかもしんないじゃん」


「いやお前考えてみろって。俺たちの目標は最低でも十億だろ? ここいら一帯のオルハリコンを根こそぎかき集めて数百万……いや、それこそ数千万分を採取できたとしても、一割にも満たねぇんだぜ?」


「にゃふふ! その分労力や時間も使っちゃうしー、だったらそれで他の冒険者の恨みや妬みを買っちゃうよりは、目当て(・・・)の物以外は残しておいた方がイイってカンジ?」


「そういうことだ。……ま、そっちも賭けにはなっちまうんだがな」


「ではやはり、目的(・・)は当初の予定通り……」


「あぁ、六十五階層のエリアボス(・・・・・)とその先の……ん? ……どうしたハク? やっぱり調子が良くねぇみたいだが……」


「……え?」


「そ、そういえばさっきも様子がおかしかったな……。それに……か、感覚系の肉体強化が得意なハクが、あ、あんなにあっさり捕まっちゃってたのも……」


「もしかしてあいつらに気付けなかったこと気にしてるの? だったらそんなの気にしなくていいよ! 悪いのは間違いなくあっちなんだし!」


「あ、いえその……そうじゃないんです。そうじゃなくて……」


 そのまま小さく顔を伏せてしまうハク。


「実はその……ずっと『恩恵ギフト』のことを考えちゃってて……」


「『恩恵ギフト』のことを?」


 ハクの恩恵ギフトは『めざせ魔物(モンスター)マイスター』

 ヘイト管理系スキルの効果を底上げしてくれる恩恵(ギフト)で、エテリナも言っていた通り上手く使いこなせれば戦略に大きな幅が出るモンだが……。


「ハク、本当はもっと……もっとつよい恩恵ギフトが良かったんです……。トリアさんやエテリナさんみたいな……そうじゃなくても、いつでも『先祖返り』を使えるようになったりとか、そういうのが……」


 ……あぁなるほど、そういうことか。

 まだ見ぬ自分の恩恵ギフトに大きく期待を抱いていて、それが少し思ったのと違うってんでちょっとがっかりしちまってたワケだな。


 普段はトリアよりしっかりしてるんで忘れがちになるが、ハクはまだ十一歳の女の子だ。

 そうなっちまうのも無理はないってもんだろう。


「……ハク、その気持ちは私にも痛いほどよくわかる。というか、私に気を遣っていままでそれを口に出さぬようにしてくれていたのだな?」


「あ……はい。その……ごめんなさい、クヨウさんも同じように悩んでたって知ってるのにこんな……」


「ふふ、言ったろう? 気持ちは痛いほどわかる、と。確かに私も『脱兎のごとく!』を与えられた時は失意に沈んだものだが……今となっては良かったとさえ思えている。……きっとハクにも、必ずそう思える時が来る」


「クヨウさん……」


「そうだよ! だってハクすっごく頑張ってるもん! ね?」


「う、うん……! き、きっとクヨウみたいに、いつかハクなりの恩恵(ギフト)の使い方を、み、見つけられるはずだ……」


「にゃふふそうそう! そういえばたしか、アカりーのパーティにヘイト管理系のスキルが得意なコがいたはずだよねー?」


「ああ、一度話を聞いてみると良いかもしれんな。私の方から、アカリに話をしておこう」


「みなさん……! えへへ、はい……!」


 クヨウ達の励ましに、少し元気を取り戻すハク。

 ……勘弁してくれよ、おっさんもう歳なんでこういうの見てると涙腺に熱いモンがこみ上げてきちまうんだってホント……。


 とはいえ……『もうぜんぜん気にしていない』と言っちまえるほどには、まだ吹っ切れちゃいないようにも見えるか。

 解決するのは時間か、それとも……。


 ふーむ、何かハクにとってのきっかけ(・・・・)になるような出来事でもあれば良いとは思うんだが――。

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