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第15話 遠慮なんざしてやらなくてもいいぞ?

 ――ジンドラクラック第三十六階層~三十七階層。


 ダンジョンの入り口で正式な手続きを踏んだ後、人目につかない場所でゲートを開いた俺たちは、予定通り他の冒険者から抜きんでて歩を進めることができていた。


 ダンジョンが封鎖される直前までの間、地道にコツコツと攻略を進めておいたからな。おかげで、採取が解禁された四十階層はもう目と鼻の先ってヤツだ。


「うひゃー! 完全に底が見えないよおっちゃん! ねぇねぇおっちゃんってば!」


「わかったわかったっての……覗き込むのはかまわんが、落っこちてくれるなよ頼むから!」


 ()を覗き込むトリアをなだめつつ、切り立った断崖に続く崖路を歩いていく。


 ジンドラクラックは巨大な地割れの断面に無数の洞窟が点在するダンジョンだ。

 その性質上、洞窟から洞窟へはこうして崖道を経由する場所もでてくる。


 ……しかし外から見ればちょっとした地面の裂け目にしか見えないってのに、足を踏み入れると途端に巨大な地割れのようになってるんだからなぁ。

 毎度のことながらダンジョンっての奇妙さってもんを痛感するねホント。


「はわわわわ……! おおお、おっちゃん手をぉ~……ててて、手を離さないでくれぇ~……」


「おっと、わかってるってほら、な? 大丈夫だから、手ぇ繋いでゆっくりいこうな?」


「ううう、うん……! はひぃ、はひぃ……!」


 ……………………

 …………

 ……



「はふぅ、はふぅ……! や、やっと……やっと渡りきった……」


「よーしよし、よくがんばったな?」


「うへへ……! う、うん……おっちゃんが手を繋いでくれてたから……」


 崖道から再び洞窟へ入ったところで、少し腰を下ろして休息をとってやる。

 ……しかしこうなると、崖道を進むときはネルネだけゲートを経由させてやった方がいいか?


 だが冒険者を続けていく以上、ある程度こういう部分を克服させてやるのも親心っつーか……。

 本人も『頑張る』っつってるしなぁ……。


「おじさまー!」


「おっと……なんだよ? あまえんぼうさんだなハクは?」


「えへへ~!」


 『先祖返り』をおこしたハクが、ぴょんと膝の上に座ってくる。

 この姿のハクは相変わらず、いつもより感情を表に出しやすいようにみえるな。


 ま、別に悪い事じゃあ無い。

 むしろ普段は良い子過ぎるくらいだ。


 それにそうは言っても、最近は結構落ち着いてきたってもんだしな。

 初めて先祖返りを起こした時なんざ、『魔物(モンスター)を根絶やしにする』的な物騒なことを口走ってたからな……。


 色々と経験して、ぐんぐん成長してるってことなのかね。

 冒険者としてだけじゃあなく、ハク自身も――。


「そういえばさ、とうとうハクにも恩恵(ギフト)が与えられたね!」


「うむ、『めざせ魔物(モンスター)マイスター』……確か、ヘイト管理系スキルの効果を底上げしてくれる恩恵(ギフト)だったはずだな」


「にゃふふ! これでまた一層と戦略の幅が広がりますなぁ~」


「うんうん、ボクももっと楽ができるようになるしね!」


「……お前はその発言に思うところはねぇの? もうちょいこう年上の先輩としてよぉ……」


「ふふん! ボクってば年功序列にはこだわらないから! 実力主義実力主義!」


 なんでコイツが言うとこんなに言い訳じみて聞こえるんだろうね。

 いやまぁ実際言い訳だからなんだろうが……ん?


「ハクどうした? なんつーか……」


「え? ……ううん、なーんでもないです! それよりもハク、辺りに魔物(モンスター)さんがいないか少しだけ調べてきますね!」


「あ、おい……!」


 ハクがぴょんと膝から飛び降りる。


「あ! じゃあボクもついてこっと! ハクがいれば安心だし、もしかしたらもうオルハリコンが落っこちてるかもしれないしね!」


「いやそんなポンポン落ちてたら苦労しねぇっての。……つーかアイツ、潜る前(・・・)に話ししたことももう忘れてんじゃねぇだろうな……」


「お、おっちゃん、おっちゃん……」


「っと、ネルネ。もういいのか?」


「う、うん、もうだいぶ……。それよりおっちゃん、ハクのことなんだけど……な、なんだか少し元気が無いように見えるんだ……。き、気のせいならいいんだけど……」


「やっぱりそうか? 俺も実は――」




「――きゃぁっ!?」


 突如として聞こえてくる小さな悲鳴。

 この声は……!


「ハク!?」


「――おーっと動くなよ? できればこんな子供にトラウマを植え付けるような真似はしたくねぇんだぜ俺たちは?」


 悲鳴を聞いてすぐ駆けつけてみれば、いつの間にか現れた男どもが……一、二……全部で十一人か、ハクはそのうちの一人に腕を掴まれてナイフを向けられている。


「ご、ごめんおっちゃん、ボクたち全然気づかなくて……」


「トリアだけじゃなくハクもか。となると隠ぺい系のスキルだな……!」


 しかしそれにしても……いや、今はそれはいい。

 とりあえずは……!


「その身なりと手馴れた様子……貴様ら、どうやら冒険者ではないな……!」


「だろうな、恐らくは街に入れない野党の連中……いわゆるアカバンってヤツか」


「へへへ、ご名答~」

 

 やはりそうか、しかし……こいつはどういうことだ?


 確かに『ジンドラクラック』は、デリオドールの結界のギリギリ外側にあるが……それでも、奴らが衛兵なんかに見つからず、易々と侵入できるとは考えにくい。


 おまけに入り口は解禁日である今日まで封鎖されていた……つまり、こいつらがこの短時間でこの階層まで潜ることは不可能なはずだ。

 ゲートを使った俺たちとはワケが違うからな。


 となると……。


「事前に解禁日の情報が漏れていたこといい、やっぱりダンジョンの管理側にこのイベントを不正(・・)に利用してるヤツがいるってことかよまったく……! いやになるね、どうにもよ……!」


「おいおい、そんな顔してくれるなよ。こんなに早くここまで潜れたってことはお前たちも同類(・・)……同じ穴のムジナどうし、せいぜい仲良くやろうぜ、なぁ?」


「一緒にしてくれるんじゃねぇよ。こっちはきちっと正規の手段を踏んできてるんだっつの」


 ま、ちょっとばかりのショートカットはさせてもらったがな。


「へっ、まぁ別になんでもいいさ。どっちにしろお前らもオルハリコン目当てでここまで来たんだろ?」


「心配しなくても好きなだけ採取させてやるとも! ……ま、ダンジョンを出る前にはぜーんぶ回収させてもらうがなぁ!?」


「この先にセーフスポットがあるからよ、お前たちはただ手に入れたオルハリコンをそこで待ってる俺たちに届けてくれればいい。あぁもちろん、いたいけな子供を見捨てて逃げちまえるってんなら話は別だがなぁ~?」


「ぎゃははは! 冒険者ってのは大変だよなぁ!? わざわざ身の危険を冒したあげく、最後にはこうして俺たちに利用されちまうんだからよぉ!」


 ……いやホントに嫌になるね。

 大人の男がみんなこんなんだと思ってくれなきゃいいんだが。


「おら! とっとと奥まで潜りやがれ!! でねぇと本当に――」




「……あのぅ、おじさま? こういう時ってやっぱりその……」


「あー……まぁ気が進まねぇかもしれねぇけどよ。そいつらもここまで潜れる程度には頑丈みてぇだし……こんなゲスいことやってんだ、遠慮なんざしてやらなくてもいいぞ?」


「あ、はい、えと……それじゃあ――」


「あぁ!? テメェら勝手になんの話を――」


「――えいっ!!」


「ぎょん!!」


 突如として奇声をあげながら、ハクの腕を掴んでいた男がその場にうずくまる。


 ……ま、無理もねぇか。

 拘束を振りほどきながら放ったハクの肘打ちが、おもいっきりみぞおち(・・・・)に突き刺さったみたいだからな。


 対人特訓、まさかこんな早くに役に立つ時が来るとはな。

 いろいろやっとくもんだねホント。


「ごほごほっ! て、てめぇこのガキ……!! ふざけた真似を……っ!!」


「クソが!! なめてんじゃねぇぞ!!」


「はっ、ナメてんのはどっちだよ。……お前らアレだろ? 安くない賄賂でおいしい(・・・・)話に飛びついてここまで来たものの、ここいらの魔物(モンスター)に太刀打ちできず立ち往生でもしてたんだろ?」


「……ぐっ!?」


「その挙句に子供を人質にとって略奪行為とは見下げ果てた奴らだ。大方、外でも似たようなことを繰り返してたのであろうが……あて(・・)が外れたようだな」


「にゃふふ! ほーんとナメてるのはどっちだよってはなしだよねー? ダンジョンも冒険者(ウチら)もー、おじさんたちが思うほど甘いものじゃあないってカンジ?」


「こ、ここにいるみんなはちゃんと、か、覚悟を決めてダンジョン(ここ)に来ている……! そっちが子供と侮ったハクも含めて、みんな……!」


 アカバンの連中にもひるまず、格好良く啖呵を切るうちの子たち。


「く、くそが……! おいテメェら囲め!! コッチには上級冒険者相当の手練れもいるんだ、数で囲めばこんな小娘共に……!!」


「ほぉ、上級ね。良いじゃねぇか、うちにも二人ほどいた(・・)んだぜ? もっとも――つい最近まで(・・・・・・)の話だがな(・・・・・)


「へ……?」




「――『キ! ラ! メ! テ! オ! バンキッシュ!!!』」


「うぎゃあああぁああぁあ!!?!?」


「な、なんだ!? なにがおきて……!!?」


 トリアのキラメテオバンキッシュが、アカバンどもを吹き飛ばす。


 あくまでも大怪我なんかををさせちまわないよう、上手く調整も出来ているようだ。こんな悪党どもを無駄に傷つけて、わざわざ罪悪感を持ってやる必要もねぇからな。


「この力、ま、まさか……!!」


「さ、『最上級』!!? コイツ最上級の冒険者かよ!!?」


「ひぃいぃ……!? こ、こんなガキどもがなんで……!!・」


 ご名答、トリアとエテリナは最近、『最上級』にまで実力を上げたところだ。

 他の三人も、しっかりと実力を上げていっている。みっちりとレベリングをつづけた成果ってヤツだねホント。


 さぁて……。


「対人特訓の成果は上々……とくれば相手がレベリングを望めねぇ魔物(モンスター)じゃねぇ以上、俺が引っ込んどく理由もないってもんだ」


 倒れ込む男たちの前に、ざりっとわざとらしく音を立てて躍りでる。


「ひ……!」


「覚悟しとけよお前ら……俺はトリアみてぇに優しくねぇぞ? ……二度とこんなクズみてぇな真似したくならねぇよう――おもっくそにぶん殴りたおしてやるからよぉ!!」


「ひ、ひいいっぃいぃ――!!?」

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