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第14話 すごくつよいのだったらいいなぁ

「これは……何かの台座? のように見えるっすけど……」


 ハレが興味を示していたのは、例の四本の柱に囲まれてた白い台座のような場所だった。

 ここもなぁ、あからさまに意味深ではあるんだが……。


「こ、これもあっちの魔法陣なんかと一緒で、は、初めからここにあったんだ……。たぶん、む、夢幻の箱庭の一部なんだとは思うんだけど……」


「でもでもー、どれだけにゅーねんに調べてもただのインテリアでしかないんだよねー? 魔術や錬金術……ううん、それ以外にも特殊な技術は使われてないーってカンジ?」


 まぁそういうことだ。

 うちの頭脳派ツートップ、ネルネとエテリナがそういうなら俺だってもう手を上げざるを得ないって話だぜ。


「でもこうしてハレちゃんが反応してるってことは、やっぱり何かあるんでしょうか? おなじ『不落の難題』どうしですし……」


「ふむ……『大陸の楔』の力を使う、『新種族』であろうと思われるフリゲイト……。そしてそのフリゲイトが出現を手引きしている『七大魔王』……」


「んでもって、『七大魔王』であるハレが反応してる、『夢幻の箱庭』の謎オブジェ、か……」


 確かに無関係と割り切っちまうのどうにもな。

 ひょっとすると、『不落の難題』には全てなんらかの繋がりがあるのかもしれん。


「うにゃむむむ……! 別の専門家だったらもしかすると、もうちょっとなにか分かったりするかもなんだけど……」


「専門家……なるほど。イルヴィスどの、こちらのこの欠片(・・)、ナイフと一緒に持ち帰ってもかまいませんか?」


「欠片? っつーと……その折れてる柱のか?」


 こちらを伺いながら、柱の周りに落ちている大きめの破片を手に取るクレハ。


「専門家というのであれば、フゥリーン家には数多くの職人がそろっています。イルヴィスどのからのご要望とあれば、ヒスイさまにも許可をいただけるはずです」


「そいつは確かに渡りに船だが……いや、そうだな頼めるか?」


「おまかせください、ニンニン」


 となればひとまず、白い台座についてはその結果を待つとしよう。

 『この世のどこよりも楽園に近い場所』っつう夢幻の箱庭のキャッチフレーズについても、これでなにかが分かるかもしれんな。



「――それにしても……!!」


 ……と、ハレの興味がひと段落したところで、一瞬ギラリと鋭くなるメイドさんの眼光。

 その視線の先にあるものといえば――。


「このあまりに無造作に置かれている魔導器具の数々……!! メイド眼力をもって察するに……これらは全てエテリナ様の物っすね!?」


「にゃ!? た、確かにそうだけど……」


 すげぇなメイド眼力。

 いやまぁ確かにうちで魔導器具をコレクションするようなヤツっつったら、あとはネルネぐらいのもんかもしれんが……。


「で、でもでもメイドにゃん! これはぜーんぶちゃんと必要なものなんだよ!? にゃうぅ……汗水たらして必死に稼いだ身銭を切って、断腸の思いで買いそろえたものばかりで……!」


 いや確か『買いすぎてお金なくなっちゃったー』みたいなこと言ってただろ。

 断腸どころか完全に衝動買いじゃねぇか。


「なにも捨てろと言っているワケじゃないっす。ですが……いくら無限にスペースがあるといってもこう乱雑に置きっぱなしのはいただけないっす! 必要なものであるというのならばなおのことっすよ!」


「やーい、おこられてやんのー」


 珍しく焦るエテリナを指さして、ここぞとばかりに煽ってやる。

 いつもエテリナには俺の方がしてやられてばかりだからな、こういう時ぐらいちょっと反撃してやっても……。


「……何を他人事のように言ってるんすかご主人様。むしろ一番の問題児はご主人様と言っても過言ではないんすよ?」


「うぇ!? お、俺ぇ!? いやちょっと待ってくれよ、俺は別になんもしてねぇだろ!? なんならトリアあたりの方が余計なモンを持ち込んで……!」


「ふえ!? ちょ、ちょっと! 飛び火させないでよおっちゃん!」


「もちろんトリア様の方も気にはなりますが……ではお聞きしますよご主人様? このパーティのリーダー、つまり責任者はどなたっすか?」


「……ん? そりゃまぁ、一応最年長である俺ってことになるんだろうが……」


「はい、そうっすね。ではでは、パーティのメンバーに悪いところがあったとき、その行動を諌めてあげなければならないのどなたっすか?」


「……俺です」


「はい。ではつまり、エテリナ様やトリア様がこんなに散らかしてしまう前に、きちっとそれと注意してあげなければならなかったのは――!?」


「――俺ですぅぅぅ……!!」





「……ほ、ほらおっちゃん、げ、元気をだすんだ……よしよし……」


「きゃうきゃう~」


「うぅ……俺は、俺は駄目な責任者だ……」


「よしよし……。……ふふ、落ち込んでるおじさまってやっぱりちょっとかわいいです……!」


「えっと……なんかゴメンねおっちゃん? ……あ! ほらほら、ぱんつぐらいなら見せたげるからさ! 元気出してよ!」


「……そんなんするよりちゃんと片付けてくれ」


「なぁ!? そんなんとはなにさそんなんとはー!」


 だいたいこの状況でパンツ見て立ち直ったら、完全に駄目な大人だろ……。

 ……いや、もうすでに駄目な大人だったな俺は。ははは……。


「エテリナも、またイルヴィスが叱られてこうなってしまわないよう、普段からもう少し整理整頓を心掛けてだな……!」


「にゃへへ、クーよんも手きびしいですなぁ……あの~メイドにゃん? それでウチの魔導器具ちゃんたちは……?」


「まぁその辺は追々考えるっすよ。アタシがズバーッと整理してもいいんすが……それだと本来の役割を放棄することになってしまうっすからね。一応、別の方法が無いことも無いんすが……」


「別の? どのような方法なのですか?」


「簡単っすよクレハ様、ご主人様がもっと稼げばいいんす。アタシレベルの使用人があと二~三人いれば、ここもきっちり片付いておつり(・・・)がでるはずっすから」


 さらっと無茶を言ってくれんなぁ……。


「ほほう! じゃあちょうどいいねおっちゃん! ついでに向こう(・・・)で、その分も稼いじゃおうよ!」


「ついでってお前……」


「? なにかあて(・・)でもあるんすかご主人様?」


「いやまぁ確かにこの後ドカッと稼ぐつもりではあるんだが……」


「お、それはいいことっす! うんうん、お金そのものはいくらあっても腐りはしないっすからね! 腐るのはいつも人間の方で……っと、そんなことは良いとして、差し支えなければどれぐらい稼ぐつもりなのか聞いても良いっすか?」


「あー……十億ほど?」


「へぇ、じゅう……じゅ、十億!!!?? え十億っすか!!!??」


「なんと……これにはニンジャもびっくりです。ニンニン」


 ホントにおどろいてんのそれ?


 クレハの反応はともかく、メイドさんはまぁそうなるよなぁ。

 つっても、その使い道はもう決まっちまってるわけだが……。




 ……

 …………

 ……………………


 ――数日後。

 ラティ大陸の一国、アニマドに存在する都市デリオドール。


 あの後すぐ、この街にあるダンジョン『ジンドラクラック』でのオルハリコン採取の解禁日が発表された。


 予想どおり……と言うには大分ギャンブル性が大きかったようにも思うが、まぁなんだ、ひとまず最初の賭けには勝ったってところだな。

 フーやウリメイラには頭が上がらんねホント。


 ここでバシッと稼いで、なんとしても『ミストルノ手記帖』の写本を競り落とすための資金を工面しねぇとな。

 それにしても……。


「ねぇおっちゃんこれいつ入れるのー? ボクもう並ぶの疲れちゃったんだけどー?」


「ええい、子供みたいな駄々をこねるんじゃないよ」


 今まさに解禁される直前のジンドラクラックの前には、大量の冒険者が押し寄せている。

 この数が全員、オルハリコンを狙ってここまで来てるってんだからなぁ。


 まぁもちろん俺たちもそのうちの一組なんだが。


 超が付くほどの高難易度ダンジョンの、深層部でのレア素材探索。

 下手をすれば本来、月単位での探索計画を余儀なくされるところだが……。


「しかしこう見るとやはり、私たちの軽装さ(・・・)はいささか浮いて見えてくるように思えるな……」


「にゃふふ……! 『夢幻の箱庭』さまさまですなぁ~」


「しょ、食糧の持ち込みや、野営のための安全確保なんかの心配もしなくていいしな……。ちょ、ちょっとだけずるい気もするけど……」


「なぁに、別に『ダンジョン内をワープしちゃいけない』なんて決まりはねぇんだ。犯罪をおかそうってワケじゃあねぇし、アドバンテージはきっちり活用していかねぇとな――っと、そろそろみたいだぞ?」


 ジンドラクラックに限らず、こういったダンジョンは解禁日の数日前から完全に入口が封鎖されている。


 スタートを横並びにすることで、ある程度の公平性を持たせるためだそうだ。

 とはいえオルハリコンの希少性や発見の困難さを考えりゃ、ちょっと早く入ったからって格段に有利ってワケでもねぇだろうけどな。


 それと事前に、ギルドで冒険者カードに『オルハリコン採取許可』の認証を施してもらう必要もある。


 ダンジョンへの出入り(・・・)の両方でこいつを提示できなけりゃ、採取したオルハリコンはすべて没収されちまうって話だ。


「うひゃー! なんだかちょっとワクワクしてくるね! 宝探しーって感じで!」


「つい今までぼやいてたくせによく言うねお前は……。だがまぁその気持ちはわかるぞ、やっぱいいもんだぜこういうのは。これぞ、まさに冒険者冥利に尽きるってヤツだな!」


「えへへ、おじさま! ハクもたーくさん頑張りますからね!」


 うーん、まぶしい笑顔だ。

 頼もしさも相まって、まるでおひさまの様だぜホント。



 …………ん?

 いやまてよ、おひさまの様っつーか物理的にちゃんとまぶしいっつーか……。


「にゃ!? ハクちーそれって……!」


「え? ……あ、あれ? なんだか足元が光って……!」


「これは……『恩恵ギフトの光』か!」


「え、ええぇっ!!?」


 いやマジかよこのタイミングでか!?

 しかし間違いない、コイツは確かに『恩恵ギフトの光』だ……!


 都合、三回程体験しているからなおっさんは。

 まぁ一回目はとある事情で蘇生前だったし、三回目といえばジエムの『リフレクトペイン』を相手に必死で、ちゃんと覚えて無かったりもするんだが……。


「はわわわわ……お、おっちゃん、れ、列も動き始めたぞ……!」


「と、とにかくいったん中に入るぞ! すまんハク、『恩恵ギフト』の確認は少し落ち着いてからでもいいか……!?」


「あ、はい! だいじょうぶです!」


「悪ぃねホント……っておいトリア! ちゃんとはぐれねぇように――」




「――ハクの、ハクの『恩恵ギフト』……! やっと……! えへへ、どんなのかなぁ……! おじさまの役に立てるような、すごくつよいのだったらいいなぁ……!」

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