番外編 ワールズレコード033:魔石
このお話は《五章第4話》と《五章第五話》の間ぐらいの出来事です
また、内容を補足する程度の挿絵が含まれますので、
苦手な方はお手数ですが、右上の表示調整から設定をお願いします
「――ね、どうどう? いいアイデアだと思わない!?」
「いーや、毛ほども思わんね」
「えー! なんでー!?」
「なんでじゃあるかい。だいたいなぁ……」
ウリメイラんちでの宅飲みの翌朝。
今日も今日とて、朝からトリアのヤツがやってきたんだが……。
「おはようイルヴィス、トリア……ってどうした、また朝から賑わしいようだが……」
「あ、クヨウおはよー。……ふふーん! ボクってば『写本』を落札するためのすっごくいいアイデアを思い付いたっちゃんだよねー! それなのにおっちゃんがさぁ~」
「良いアイデア?」
「そう! 前におっちゃんがオッドカトブレパスのおにくとってきたコトがあったよね?」
誕生際の時だな。
ベレテスとかいうヤツが孤児院にちょっかいかけてきたあの事件だ。
「それと同じようにさ、おっちゃんがゲートで深層に潜ってレア素材いっぱいゲットしてこればいいんじゃないかなーって! もちろん、その間ボクたちはいい子でお留守番しててあげるからさ!」
コイツはホントに隙あらばサボろうとしやがって……。
というか――。
「お前なぁ仮にだぞ? もし仮に俺が一切合切をかなぐり捨てて血を吐きながら死ぬほど頑張って、一日に10万ほど稼げたとするだろ?」
「おー! 一日10万だなんておっちゃんも強気だねー?」
「いやだから……まあいい。でだ、『写本』の予想落札価格は最低でも数億……ひとまず一冊五億としても、二冊で十億だぞ? 単純計算で何日かかるよ?」
「え? え~と、ボクって数学は苦手なんだよねぇ……」
数学じゃねぇよ算数だ算数。
ハクでも解ける問題だぞ。
「ふむ、十億と考えると一万日……単純計算で、およそ25年以上はかかる見込みになるだろうな」
「へー25年かぁ……25年!? え!? ぜんぜんいいアイデアじゃないじゃんおっちゃん!!」
なんで俺に言うんだよ。
おっさんさっきからずっとそう言ってたろうが。
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ワールズレコード033:魔石
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「――なるほど、それでオルハリコンか……」
「オルハリコンっていうと、すっごい高価くてメチャメチャ固いっていうアレのことだよね?」
まぁ認識としちゃあ間違ってもないが……。
しかしそれにしたってお前、もうちょい語彙力をだなぁ……。
「えっと、銀だと『ミスリル』になって、金だとアダマンタイトだから……たしかプラチナの魔石なんだっけ?」
「……お? なんだよ珍しいじゃねぇか、お前がその辺しっかり覚えてるなんてよ」
「えへへー! ……あれ? ちょっと馬鹿にされてない?」
「ん? してないしてない、ほら、よーしよし」
トリアの頭をくしくしと撫でてやり、浮かんできたであろう疑問から気をそらしてやる。
「まぁいくら『マナの結晶体』っつっても、実際にはとんでも謎物質ってワケじゃないからな魔石ってのは。れっきとした鉱石や金属だったり……」
「でも普通のものとはやっぱりちがうんだもんね? どうしてそうなるんだろ?」
「あーと、そいつは確か……」
「ダンジョンの壁や床、その他諸々を構成する物質はすべて『魔素』からできているのだが、それらが生成される際にどうしても大気中の『マナ』も混じってしまうらしいのだ。それで……」
「お、そうだそうだ。そんで『邪魔モンは一ヶ所に押し固めてちまおう』とでも言わんばかりにマナを押し付けられたなにがしが、耐えきれず地面から飛び出したりして『魔石』になるってワケだな」
ダンジョンによって混じるマナの量なんかも全然違うようで、それが魔石の採取量や質にも影響してくるらしい。
形や材質なんかも様々で、クインカーバロウみたいに水晶のような鉱石として見つかるところもあれば、それこそ木の実のように枝にみのる……なんてダンジョンもあるって話だ。
「その中でも特に、他の魔石と違ってある程度の加工ができたり、それ自体が特殊な性質をもつような魔石には特別に名前が付けられている。『オルハリコン』もそのひとつってワケだな」
「へ~……でもさ、じゃあ魔石ってマナを集められた物質のことなんだよね? なんでマナ石じゃなくて魔石っていうんだろ?」
「そりゃお前、マナじゃなくて魔力を産みだすからだろうよ。魔導器具はほぼ全て……それこそ今あっちでゴウンゴウンとお仕事をしてくださってる洗濯槽サマも、魔石のおかげで動いてるんだからな」
「じゃあなんでマナの塊なのにマナじゃなくて魔力が生まれるの?」
「……ん? そりゃお前……なんでなんだクヨウ?」
「あ! やっぱりおっちゃんもわかんないんじゃん!」
いいんだよこういうのは得手不得手があるんだから。
……前にもあったなこんなこと。
「まったくお前という奴は……。そうだな、先ほどダンジョンの構成物質の中にはマナが混じってしまうと話しただろう? それと同じように、どうしても魔石の中にも多少の魔素は混入してしまうものなのだそうだ」
「へぇ~そうなんだ?」
「うむ。そしてダンジョンの外では魔素はほぼ霧散してしまうからな。すると魔石の中に『魔素の形』をした隙間ができてしまう。……本当に穴が空いている訳ではないぞ? あくまでイメージとしての話だ」
「ふむふむ……」
「その際、魔石に蓄積されたマナは隙間を埋めようとするのだが……ダンジョンによって無理に押し固められた影響で上手く混ざり合わず、『元々のマナ』と『隙間を埋めたマナ』との間に隔たりができてしまうのだ」
「えーっと……氷と水みたいな感じ?」
「うむ、そう考えても良いだろう。そして隔てられたマナ……つまり隙間に流れ込んだマナの方は必然的に、魔素と同じような形になる。すると……」
「……あ! 前にエテリナに聞いたことある! 魔素に似た力……それってつまり魔力になるってことだよね!」
「ふふ、あぁその通りだ。そしてその魔力を上手く取り出してやれば、またその隙間にマナが流れ込む。それを繰り返すことによって……」
「魔導器具なんかの動力源になるっつうわけか、なるほどなぁ……」
おっさんも今までなーんも考えずただただ消費してるだけだったが……きっちり理屈があったりするもんなんだと感心するね。
「とはいえ知っての通り、魔石も無限に使える訳では無い。繰り返すことによってマナが馴染んでいき、やがて魔力を産みだしていた隙間が無くなってしまうからな」
「あーだから買い替えなきゃいけなくなっちゃうんだー。でもクヨウよくこんなこと知ってたね?」
「ふふ、マジックアイテムとして作られる刀の素材には、そういった特殊な金属を使われる場合も多いからな。学んでおいて損はないだろうと、少しかじったことがあるだけだ」
なるほど、こんなところでもクヨウの努力家ぶりが垣間見えるとはな。
立派なもんだよホント。
「……っと、そんな話をしてたら洗濯槽サマもお仕事を終えたようだな。よっと……」
「あ、ならば私も手伝おう。今日は良い天気だ、洗濯物もさぞかしよく乾くことだろうな」
「いいっていいって。おっさんのほれ、パンツとかもあったりするしよ」
「ぱ、ぱん……!? べ、別に私その……その程度き、気にしないが……!?」
「いや俺の方が気をつかうっつの……。いいからほれ、座ってトリアの相手でもしててくれよ」
渋るクヨウをソファに追いやり、今日もお務めを果たしてくれた洗濯槽の前へとやってくる。
「さてと……ん?」
なんだ? 洗濯物の中に一つ、入れた覚えの無いもんがあるな。
小さな布で……ハンカチか? …………いやまて、コイツはまさか――。
「く、クヨウの…………パンツ……?」
…………いやおかしいだろ!?
なんでこんなもんがここに……。
そういやアイツら、俺の部屋のどっかに予備の着替えをおいてあるっつってたが……それがなんかの拍子に紛れ込んじまったってことかなのか……?
なにが一番の問題かって……俺がコイツに見覚えがあって、クヨウのもんだと断定できちまったことなんだよなぁ……。
かといっとこのままってワケにもいかねえし……。
はぁ……しかしなんつって返せばいいんだよこんなもん……。
どう切り出してもまたおっさんの株が下がるだけなのが目に見えるって話だぜホント……。
補足イラストどうでしたかね、ちゃんとわかりやすくなってます……?
不評でなければ今後や過去の投稿にも使っていこうかなぁ




