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第8話 最低のクソ野郎だ……

「先に言っておくデシよ!! 最大レベルの『ピンクルスキャッター』はこれまでの比じゃあないデシ!!」


「頻度も効果も今まで以上……! たとえ一人で引きこもっていようが、必ず何かしらのトラブルがユーをおそうでヤンス!!」


「グフフ! 下手をすれば歴史的な大変態として、永久に名を残すことになるでゴンスねぇ!!」


 ぐへぇー!!

 い、嫌すぎる……!!


「そ、そんなことはさせません! ここで皆さんを捕まえて、おじさまにかけたスキルを解いてもらいますから!!」


「おーっとお嬢ちゃんそうはいかないでヤンス!! なぜなら……『クイックムーヴ』!! デシレさま!」


「まっかせるデシ!! ――『ウインドスカージ』!!」


 デシレが唱えたスペルとともに、瞬間的な突風が吹き荒れる。

 この風……まさかあん時トリアのスカートがめくり上がっちまったのも……!!


「うわぁ!!? ま、またスカートが……!!?」


「きゃっ!! ……あっ!?」


「――さらばデシおじさん!! せいぜい最後にシャバの空気を楽しむと良いデシ!!」


「お、おい待て! 逃げんじゃねぇ!!」


 風に気をとられた一瞬の隙に、ヤンスゥとデシレを抱えたゴンスモンが飛び上がり、屋根をつたって逃げていく。


 ヤンスゥってヤツの強化(バフ)スキルの効果なんだろうが、あの巨体でなんつー身軽さだよ!?

 まずい、このままじゃあ……!!


「あわわわわ……! お、おっちゃん……!! は、早く追いかけないと……!!」


「そ、そうだな、よし……!」


「いやいやだめだって、二人とも落ち着いてってば! このまま追っかけたらあの三人の言う通りになっちゃうでしょ!!」


 う、確かにそうだ……!

 あのセリフがハッタリじゃないとすれば、このままじゃあおっさんは公衆の面前でセクハラを働きまくるクソ野郎として檻の中へぶちこまれかねん……!


 それだけならまだいい。

 ……いやまぁ毛ほどもよくは無いんだが、一番の問題は最大の被害者は俺じゃあないってことだ。


 見知らぬおっさんにいきなりセクハラかまされたとなれば、相手からしてみりゃ下手をしなくてもトラウマもんだぞ……!

 どうにかしてスキルを解かせねぇと……!


 ……あーでもマジでどうするよこれ!?

 一人で引きこもっててもムダだってんなら対処のしようが……!



「――えい!」


「……え? ――ってハク!? ちょ、アイツらの話聞いてたろ!? 今の俺は……」


「い、いいんです! ハクは……ハクはおじさまにならどんなことをされたってかまいませんからっ!!」


 俺の右腕を抱えるようにくっついたまま、きゅっと目をつむって叫ぶように主張するハク。


「い、いや、そうは言ってもだな……!」


「……にゃふふ、そっかその手が……! えーい!」


「おわ!? エテリナお前もかよ!? 今は……!」


「にゃふふ、まーまーオジサンよーく考えてみて? 今考えられる最悪の事態といえばー、『事情を知らない他人にセクハラして本当に捕まっちゃうコト』……だよねー?」


「え? ま、まぁ最悪っつったら……そうなるのか?」


「にゃふふ、でしょでしょー? でーもー、こうして近くにウチらがいれば、その対象はウチらに絞られるんじゃないかなーって! ね、ハクちー?」


「は、はい! ハクもそう思って……!」


「うんうん、事情を知ってるウチらならオジサンのことを衛兵さんにつきだしたりしないしねー! にゃふー! これでもう最悪の事態は回避できましたなー!」


 回避……できてんのかこれ?

 ……いやまて、他人だろうが知人だろうがセクハラかました時点で存分にアウトっつーか……。


「じゃ、じゃあわたしも、ちょ、ちょっとだけ恥ずかしいけど……む、むぎゅ……」


「っと、ネルネお前まで……!」


 後ろから腰に抱き着いてきてるんで顔は見えんが、真っ赤になっているのは間違いないだろうに……。


「ふ、ふむ、流石に五人を抱えたままというのは難しいか……私とトリアは少しだけ距離を保ってついていくとしよう。他の者が近づかぬようにもせねばならんしな」


「も~しょーがないなーおっちゃんは。……言っとくけど、おっちゃんだから許したげるんだからね! こういうの、誰にでもしてあげるんじゃないんだから!」


「いや、気持ちはマジでありがたいが流石にこれは……」


「あ、わがままはだめですよおじさま! ちゃんとハク達から離れないようにしててくださいね?」


 いやわがままっつーかなんつーか……。

 え? ホントにこれで追いかけんの? マジで?


 ……………………

 …………

 ……



「うう……俺は最低のクソ野郎だ……お前らの好意に甘えてこんな……こんな……」


 ――あれから一時間ほどたっただろうか?

 『ピンクルスキャッター』……どうやらその最大レベルってのは伊達じゃあ無いらしい。


 少し動くたびにすっころんじまったり引っかかっちまったりとトラブルが発生し、あげくその度にコイツらの胸やら尻やらそれ以外やらがこう……あああぁぁぁぁ、じ、自己嫌悪が……。


「もーほらおっちゃん、ボクら気にしてないって言ってるでしょ? ね?」


「よしよしだいじょうぶですよー? ハク達はこんなことでおじさまを嫌いになったりなんてしませんからねー? むしろ……うふふふふ……っ」


「にゃーん、オジサンってば変なとこマジメだからねー? 男のヒトからしたらこーんなオイシイ状況、喉から手がでちゃうほどのものなんじゃないかって思うんだけどなー?」


「しかし実際、このままでは埒が明かないというのも確かだな。……か、体に触られるのはまぁ、私たちが我慢すれば済むことだが……」


「が、我慢……! そうだよなぁ、我慢させちまってるよなぁ……。すまん、すまん……」


「あぁ! ち、違うのだイルヴィス、別にお前を責めているわけではなくてだな……! ただ私は……」


「く、クヨウの言いたいことは分かる……。確かにこのままじゃ、た、たとえあの三人を見つけたとしても……」


「あそっか! そのタイミングまたエッチなことが起きちゃったら、その隙に逃げられちゃうもんね?」


「にゃふふ、さらに向こうはいざとなったら隠ぺい系(・・・・)のスキルも使ってくるかもだしねー? 鬼ごっこやかくれんぼってなるとー……確かにこっちが不利になっちゃうかも?」


 おいおいマジかよ……。


 確かにただでさえ他人を巻き込んじまわねぇよう、なるべく人通りの少ない道を通っているからなぁ……。

 そのせいもあって、足取りをたどるのは容易とは言い難い現状だ……。


 そう考えるとこのご時世、(おれ)を失墜させるのにこれ以上効果的なスキルも無いのかもしれん……。

 いや本当、本当にアホみたいなスキルではあるんだが……。


 人のいない場所……たとえば屋根を使って一人で走って追いかけるか……?


 ……いやいやまてまて、一人で引きこもっててもムダだっつってたろうが。

 下手をすれば『屋根から飛び降りて襲いかかってくる変態』として新聞を賑やかすことになりかねんか……。


 つってもさっきも言ってたように、このままコイツらに甘え続けながら奴らを追いかけるってのも現実的じゃあないし……。

 どうする……? なにか方法は――。




「――……ム? やはりイルヴィスか、どうしたんだこんなところで。……いやお前のことだ、また何か厄介なことに首を突っ込んでいる、といったところか」


「いやまぁ突っ込んでいるというか突っ込まされているというか…………ん?」


 この声は……って!?


「お、お前! お前こそ(・・・・)なんでこんなところに――!!」

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