第5話 女神様だったりする?
――アニマドのデリオドールにあるダンジョン『ジンドラクラック』。
オルハリコンはどうやら、その第四十階層以降で採取できることがあるそうだ。
以降っつっても、四十階層周辺ぐらいではアホかってぐらいに低確率らしい。
深く潜れば潜るほど、見つかる確率も上がるらしいが……。
ともあれ、ひとまず狙いは決まった。
が……解禁日まではまだ少し時間があるからな、今のうちにやるべきことはやっておきたいところだ。
どちらにせよ、しばらくは準備期間を作るつもりだった。
もうすぐメイドさんも来てくれるし、ケインの地下室にあった役人達への賄賂の証拠なんかも、握りつぶされないようにアレコレする必要があるからな。
他にも……拠点を『夢幻の箱庭』にしてあちこち動くってんなら、やることはそれこそ山ほどある。七大魔王の出現は懸念すべきところだが、だからといって地盤を疎かにして全滅……なんてことになれば、笑い話にもならんってもんだ。
そんなわけで、今日も今日とてレベリングに励むトリア達を……まぁすんなりとはいかねぇがなんとか送り出した後、俺は一人でリィンねぇちゃんの店まで足を運んでいた。
目的はとある魔法薬を発注するためなんだが……その前にももう一つ、気になることもあったからだ。
さて――。
「なぁ、ねぇちゃん。いきなりこう……変なこと聞いちまうんだけど……」
「? なあにイルヴィスくん、そんなあらたまって……」
「いやなんつーか、ひょっとしてねぇちゃんってさぁ……、――女神様だったりする?」
「え……?」
ミヤビでのヴァルハーレとの戦い。
あの時俺は、薄れる意識の中でまた奇妙な体験をした。
それこそエンフォーレリアやジエムの時と同じような感覚。
だとすればあの女性も恐らく『戦女神』サマの一人なんだろう。
……その女性は俺が目を覚ます直前、それまでの厳つい雰囲気とはうってかわって、柔らかな様子で『頑張ってね』と言葉をかけてきた。
最後に『イルヴィスく――』とも。
もしそれが『イルヴィスくん』と続くんだったとしたら……そう呼ぶ人物が、俺の知人の中にも数人いる。
そして……リィンねぇちゃんもその一人だ。
まさかとは思うが、『ジエム』が『メイズ』と名乗っていたようにねぇちゃんも――。
「女神様って……えぇっ!? な、なぁに急にそんな……もう! そうやっておだてても、おまけなんてしてあげないんだらね、まったく……!」
少し顔を赤らめて、怒っているようなご機嫌なような、どちらともつかない顔をしているねぇちゃん。
どうやら『女神』という俺の言葉を、単なる誉め言葉として受け取ったらしい。
……ふはぁ~、ま、そりゃそうか。
演技をしているようには見えねぇし、これが普通の反応だわな。
そもそもよく考えてみりゃ、もしねぇちゃんが戦女神なら、ハクがジエムの時と同じように『そわそわ』を感じとってるはずだ。
……いかんねどうにも。
最近いろいろありすぎたせいで疑心暗鬼が過ぎていたって話だ。
「ん、こほん……! それで……今日もいつもの魔法薬なんかをそろえに来たのかな?」
「え? あぁそれもそうなんだけど……もう一つ、ちょーっと『特殊な魔法薬』なんぞを作ってほしいなーって……」
いかんいかん。
緊張の糸が切れちまってつい忘れそうになっちまったが、どちらかと言えば本命はこっちだ。
「『特殊な魔法薬』? うーん……まずはどういうのが欲しいのか聞かないとなんとも言えないけど……」
「ほら、ねぇちゃんところでいつも買ってるマナポーションあるだろ? それをさ……」
俺は耳打ちするように、頼みたい魔法薬の詳細を伝える。
すると――。
「――えぇっ!? 流石にそれは……! だ、だいたいそんな物使ったらイルヴィスくんだって……!」
「あ、そのへんは大丈夫だって! ねぇちゃんももう知ってるだろ? 俺がどんなパッシブスキル持ってんのかは」
「それはそうだけど、でも……」
「もしあれなら、俺のマナにだけ反応するようにしてくれてもいいからさ、何とか頼むよねぇちゃん! ……お願いします!」
アイテムへの適性を利用し、俺だけにしか使えないよう制限をかけた魔法薬……いわゆるところの専用アイテムってヤツだな。
何とかそれを作ってもらえるよう、手のひらを合わせて頼み込む。
「で、でも………はぁ、わかったよ、もう。……あ! それでさっき女神様だなんて……――ふーん、ほんとにただのお世辞だったんだ? あーあ、喜んで損しちゃったなー?」
「え? あーいや違う違うさっきのはちょっと別のアレで……というか、お世辞じゃなく普段から似たようなことは思ってるって! ホントマジで!」
「……ふふ、もう都合の良い事ばーっかり言って……ま、いっか。……でーも! 無茶して使いすぎないよう、一度に売れるのは一つだけだよ? もちろん、ちゃあんとパーティ内での『最大所持数制約書』も作ってもらうからね?」
最大所持数制約書。
その名の通りひとつのアイテムに対するパーティ内での最大所持を定め、きっちりと管理されるための誓約書だ。
こっそり上限以上のアイテムを持つことはほぼ不可能。
たとえ荷物に空きがあったとしても『このアイテムはこれ以上持てないよ』なんて言われちまうしな。
「それじゃあひとまず……イルヴィスくんの正確なマナプールとマナの自然回復量を計らないとね。えーっと、精密計測器どこに置いてたかな? 最近はしばらく専用アイテムなんて作ることなかったから……」
あー……ねぇちゃんはああ見えて、しっかり整理整頓するのとか苦手な方だからなぁ……。
正確に言えば、商品棚なんかの目に見える部分はきちっとしてんのに、人から見えない部分になると途端に大ざっぱっつーか……。
そんなことを考えながら、俺もカウンターの向こうを覗き込んでみる。
確か前にどっかで見たことあったような……。
「……あ! ねぇちゃんあれじゃね? ほら、あっち高い棚の上の方の……」
「上? えっと……あ! うんあれだよ! なんであんなところに……大掃除のときかな? とりあえず……よいしょっと、イルヴィスくん脚立支えててくれる? 最近立てつけ悪くってぐらぐらしちゃうの」
「そいつは良いけど……なんなら俺がやろうか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! こういうのはあぶないんだから、おねぇちゃんにまかせなさい!」
ねぇちゃんがえへんと胸を張りながら脚立に上っていく。
……いやまぁそりゃねぇちゃんからしたら俺は年下なんだろうが……おっさんもう35よ?
相変わらず子ども扱いされてるこの現状はどうかとは思うねホント。
シーレの奴も姉貴面してくるし、フェアリーといいエルフといい、寿命が長いヤツらはみんなこうなのかねぇ。
っと……?
「あれ? これひっかかって……んー! もうちょっと……こうやって引っ張って――きゃあっ!?」
「〰〰っ!? 危ないねぇちゃん!」
計測器を引っ張り出した反動で、ねぇちゃんは脚立の上でよろめいてしまう。
それを支えるため、俺は咄嗟に両手をのばした。
すると――。
むにゅん。
……むにゅん?
なんだ? この掌に感じるの柔らかくもハリのある感触は……って、こんな感じのこと最近もあったような……。
「あ、あのイルヴィスくん……? えっとね、そこおしり……」
「……おわっ!? ご、ゴメンねぇちゃん、咄嗟のことで……!!」
「あ! だ、だいじょうぶだいじょうぶ! ぜんぜん気にしてないよ、ぜーんぜん! むしろ支えてくれようとしたんだもんね? ありがとー、えへへ……」
……照れ隠しに笑いながらも、明らかに俺を気遣ってくれているのが分かる。
とにかくあれだ、まずは脚立を支えながら先に計測器を受け取ってと……。
しかし……はぁ~、つい最近も気をつけなけりゃならんと思ったばかりだってのに、何やってんだ俺は……。
これじゃあまるで本当に――。
「――……っ!?」
「……? どうしたのイルヴィスくん? 窓の外になにか……」
「……いや、今なんか妙な視線を感じたような――」
このペースなら土曜日中には十話まで更新できる気がする……!




