第4話 つい口に出ちまうほどなんだぜ?
「でもうーん……アニマドか、そういえば――」
「お、流石はウリメイラ! なんか有益そうな情報でもあんのか!?」
「ふふ、有益かどうかは分からないよ私には。でも……うちのギルドの酒場のお酒は、ほぼ私が管理してるって話はしたことあるだろう? その仕入れ先はアニマドにもあるんだ」
あー、たしかカサッシャとかいう酒だったか?
『ラムみたいだ』みたいなことを何の気なしに口にしたら、ウリメイラに懇々と蘊蓄を語られたっつう苦い思い出があるな。
「それで……その相手が最近『地元に羽振りが良い客がいる』って話をしてたんだよ。アニマドのデリオドールって街で……確かそこにもいくつかダンジョンがあったんじゃないかな?」
「デリオドールのダンジョンっちゅうと……『ジンドラクラック』があるやん! まさにオルハリコンが採取できるダンジョンやで!」
「ほう……! なるほどのう、羽振りが良い……つまり言えば金に糸目をつけず、大量の酒を仕入れている、といったところじゃな?」
「だろうね。中には普段なら卸さないような高級なお酒もあったみたいだし、話しぶりからして量も相当なものなんじゃないかな?」
「ほほほ、ならば大量に仕入れたそれらを全て捌いてしまえるあてがあるのかもしれぬのう? たとえば……『ジンドラクラック』の採取区域解禁で、人が集まるのを見越している……とかの?」
……!
おいおいこいつはひょっとすると……!
「……って、ちょ待ってぇな! そないな情報、普通そこいらの酒場に漏れてまうようなもんやあらへんで!?」
「人の口には戸が立てられぬからのう。どこぞの魔が差した関係者なぞが、見返り欲しさに情報を横流しした……などと、まったく考えられぬ話でもあるまいて」
シーレの言う通り、ダンジョンを管理している奴らがいる以上、事前に情報を知ることができる関係者は必ずいるだろうからな。
アニマドはリーズシャリオ……つまりマッフィーノが『黒い金』を集めていたあのダンジョンがある国だ。
賄賂と引き換えに情報をってんなら、あり得ない話じゃねぇだろう。
「横流して……はぁぁぁ~。あーもう、それもし冒険者ギルド側の人間の仕業やったら、まーためんどいことになってまうんやろなぁ……」
「あまり気を揉まない方が良いよフー? 君が悪い訳じゃあ無いんだからさ。というわけでイルヴィス、私が提供できる情報はこれはこれくらいだけど……」
「いいや、この状況で賭けに出るには十分すぎるほどだぜ……! 流石、やっぱりこうして頼ったのは正解だったな! 愛してるぜ二人とも!」
目標が定まった勢いから、景気よくグラスを煽る。
あとは解禁日に合わせて採取区域の階層を探索できるよう、事前にダンジョンに潜ればいい……!
情報が漏れている以上、解禁日の直前は冒険者でごったがえすだろうが、俺たちならゲートを事前に仕込んでおけば……!
……ん?
「どうしたよ? 二人してそんな妙な顔して……」
「な……!? あっ、あいっ……愛してるておまえ! そっ、そないに急に……! おまえ……おまえなぁ!」
「……ふふ、やれやれまったく。ここ短い間に随分と軽薄になったもんだね君も」
「……あ! いやほれ、愛してるってのは別にヘンな意味じゃなくてだな……!!」
……………………
…………
……
「うにゅ……うへへ、愛してるておまえ……しゃーないやつやなぁもう……」
「……まーだ言うかコイツは……」
相変わらず酔いつぶれちまったフーの寝息に混じって、ウリメイラがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
『酔い覚ましに軽く水浴びをしてくるよ』なんて言ってたが……俺が部屋にいるこの状況で行くかね普通。
アイツ俺のこと男と思ってねぇんだろな。
「ほほほ……! フーはともかく、ウリメイラがああして動揺する様は珍しいのう!」
「アイツが動揺? してたかぁ?」
「ま、ニブいおヌシには分からんかもしれんがな。なんといっても、ワシはこの中では一番のおねぇさんじゃからのう?」
「は、一つ違いでえらそーに……」
ウリメイラやフーから見ても八歳程度離れてるだけで……。
……いや、八歳っつったら結構なもんか?
付き合いが長すぎてその辺の感覚がわからんくなってきてんね、どうにも。
「そういえば……ガングリッドの奴めもそろそろ安定するそうじゃぞ? これでまた五人で飲めるというものじゃな」
「お、そうか……! ……そういやこっち帰ってきてからも、見舞いにゃ行ってなかったな」
ここ数日は引きこもっちまってたしな。
また適当なときにでも顔を出してみるか。
「……――のうイルヴィス、トリアから聞いたぞ。……昔のことを、話したそうじゃな。それと……おヌシの兄が、どうやら生きておったということも聞いた」
「……そうかい。ま、生きてたってのはお前達にも話つもりだったんだぜ? ――酒の力でも借りながらよ」
シーレ達昔なじみの四人も全員、俺の過去のことは知っている。
昔、ちょっとした拍子に話したことがあったからな。
「ほほ、そうか。……まだ、人を愛するのは恐ろしいか?」
「……! ……おいおいなに言ってんだよ。あっちにもこっちにも愛してる奴らばっかりいて、こちとらつい口に出ちまうほどなんだぜ?」
「ほっほ……! お主の方こそ、何年ともにおると思っておる。……恐ろしいのじゃろう? もし自分が子を成した時、それが兄のように……あるいは自分のようになってしまうのではないか……との?」
……!
……まいったね、どうにも。
「まったく……そんな臆病風に吹かれておるから、良い歳をして女を知らぬままなのじゃぞ? これだけワシが愛を囁いておるというのに、一向に手も出してこぬしのう?」
「うっせーっての。つか、良い歳ってんならお前だって一緒だろうが」
「ほほほ、ワシはよいのじゃ。なにせ……初めて抱かれる相手はお主だと、あの時から心に決めておるからのう?」
小さなグラスを揺らしながら、流し目のような視線を送ってくるシーレ。
またコイツはこういうことを……。
……まぁ、俺だって付き合いの長さは変わんねぇからな。冗談だけで言ってるわけじゃねぇってのは、なんとなくわかっちゃいるんだが……。
「それにフェアリーの一生は長い。エルフやドワーフほどではないが……それでも180~200は生きることを考えれば、相対的にはトリア達とそう変わらぬ歳といっても過言では無いというものじゃ」
「へいへい、おねぇさんっつったり若者っつったり、都合の良いことで」
その理論でいくと100%ヒュームの俺が、こん中じゃ一番年下ってことになっちまうのかね。
「……ふふ、なんだか楽しそうな話をしているね?」
「……っと、いやウリメイラ、お前も他人事だからって……って!? お前その恰好……!」
上はシャツを着ているが下は下着だけ。
……まぁ、うちには普段から似たような格好でにゃーにゃー言ってる奴もいるんで、見慣れてるっちゃあ見慣れてるんだが……。
「仕方がないだろう? 部屋ではいつもこの格好なんだし、私の部屋で飲むのは久しぶりだったからね。ついいつもの癖で、これしか着替えを持っていかなかったんだよ」
「だからってお前なぁ……男の俺がいるんだからもうちょっとこう、フーを呼ぶとかシーレを呼ぶとか……」
「別にいまさら気にしないさ私は。それに……ふふ、君に私をおそえるほどの度胸があるとは思えないしね?」
「ほほほ、それはそうじゃのう!」
目の前でことも無さげに衣装棚を開くウリメイラと、それに同調するシーレ。
ええい、どいつもこいつも……。
……ん?
「ウリメイラお前……そんなこと言いながら少し顔が赤くなってんじゃねぇの?」
「……そうかい? まぁ、シャワーを浴びていたからね。多少なりとはいえお酒も入っているし……」
「いや水浴びだっつってろうが。それにお前が酔って赤くなった姿なんざ今までほとんど見たことねぇぞ?」
ウリメイラのヤツはマジでもうアホかってほど酒に強いからな。
つまり……。
「……あ! 分かったぞお前~! 『ズボン忘れたからとってほしい』なんて、自分から言うのが恥ずかしかったんだろ? な? 図星だろ~?」
コイツは普段からクールに振舞うことを信条にしてるとこがあるからな。
『忘れたけどそれがなにか?』みたいな態度をとることで、そのクールさを守ろうとしたってワケだ。
いやまぁ、俺からしたらその恰好で出てくる方がよっぽど恥ずかしいと思うんだが……。
……ん?
「……って、おいなんだよ二人とも、そんなジトッとした目で人のことを見やがって……」
「…………はぁ~。本当にデリカシーっていうものが無いよねぇ君は」
「まったくじゃ。そういうものはの、たとえ気付いても言うてやらぬのが華というもので……」
な、なんだよ二人して俺を悪者みたいに……。
そりゃトリア達にもデリカシーが無いだの言われることも多いのは自覚してるが、俺だってそれなりにだな――。
「――んにゃぁ、イルヴィスぅ……あかんよそんなトコ、んふふ……」




