第3話 なんだってこんなことに……
「とにかくさ! やっぱりボク達が先に『不落の難題』解いちゃわないとね! そうすれば『七大魔王』が悪用されることもない訳だし……ね、おっちゃん!」
「! ……あぁそうだな、その通りだ。――ぃよし! 前にも少し話したが、解き明かすにしてもまずは的を絞っていこうと思う。当面の目的は……コイツだな!」
俺は懐から一枚の紙きれを取り出して全員に見せつける。
「これって来月開催のオークションの……あ! 確か『ミストルノ手記帖』の『写本』が出てるんでしたよね?」
「う、うん、それも二冊……け、結構話題にもなってるみたいだ……。で、でもおっちゃん……」
「あぁ、今『不落の難題』に対する世間の興味はうなぎ登りときているからな」
もちろんこの『写本』もべらぼうに価値が吊り上がってるってワケだ。
「にゃふふ! ウチが聞いた話だとー、落札予想価格は最低でも数億は下回らないんじゃないかなーって言われてるらしいねー?」
「す、数億……!? それを二冊ともなれば、相当の資金が必要になってくるが……」
「ま、金については少し考えっつーか策みたいなモンがあるからな、ソイツは追々話すとして……とりあえず、そろそろ特訓の続きといこうぜ? 次は……よーしトリア、こい!」
「うえ~? もう結構やったんだし、今日はそろそろおしまいでもよくない? ……あ! いたたたた! これは足首とか捻っちゃってるかも……?」
「おいおいまじか? そいつは確かによくないな」
「でしょー? だから……」
「……んじゃあネルネ、トリアにとびっきりのスライムを頼むわ」
「ま、まかせろー……!」
「わー! うそうそ、スライムいらないよぅ!! ……むぅ~、だいたいおっちゃんってば、模擬戦とはいえ女の子相手に本気で襲いかかってこようとするんだもん……どうかと思うなそういうの!」
コイツはまた人聞きの悪い言い方をしよってからに……。
そもそも真剣にやんねぇと模擬戦の意味がねぇだろうがよ。
「ねー明日からまた頑張るからさー、今日はもう終わろーよー? ……あ! なんなら特別にちょっとぐらいならぱんつ見せたげてもいいからさー?」
「その交渉今まで成功した試しがねぇだろうが。だいたい――」
――と、そこまで口にした瞬間、俺たちの間にひときわ強く風が吹いた。
トリアは普段スカートをはいてるからな。
それが風によって浮かび上がれば、向かい合っていた俺には必然的に……。
「うひゃあ! ……むぅ! おっちゃん今ぱんつ見たでしょ!」
「い、いや、見たっつーか見えたっつーか……そもそもお前、ついさっき自分でも『見せたげるから』とか言ってたじゃねぇか! だったら……」
「自分で見せるのとは違うんだもん! もーばか! えっち!! えっちおじさん!! 約束通り今日の特訓はこれでおしまい! お店みたいに豪華なパンケーキも作ってもらうんだからね!」
「は!? おいさらっと願望丸出しの要求まで増やしてんじゃねぇよ!」
「ふーん! しらないもーん! ばかばか! えっちえーっち!!」
ぷんすか眉を吊り上げながら、ぽかぽかと抗議してくるトリア。
俺はついそれに気圧されて後ずさりをしてしまい――。
「――うおっ!?」
「うにゃん!?」
「きゃあ!?」
いっててて……。
どうやらそのまま足をもつれさせてすっころんじまったようだ。
…………ん?
なんだ? この両手に感じる柔らかい感触は……。
「うにゃぁん……! とうとうオジサンの方から手を出されちゃったぁ……! トリニャーたちが見てる前で、しかもクーよんと一緒にだなんて……にゃふふふふ……!」
「い、イルヴィスお前……!! こ、こんな……!」
「……うおっ!? す、すまん二人とも!!」
二人に覆いかぶさるようになっていた体勢をとっさに起き上がらせる。
いやまずいまずいまずい……!
なんだかんだここまで直接的な接触は……まぁゼロだったとは言わんがそれなりに気を遣ってきたつもりだってのに、こんながっつり二人の胸を――!
「――にゃ!? オジサンちょっとまって……!」
「あ! ま、まだ足がもつれて……!」
「え? ……っと、うお!?」
再び仰け反るように倒れてしまう俺の体。
……なにやってんだ俺は本当に。
と、自責の念に駆られながら目を開くと――。
「お、おっちゃん……?」
「おじさま、その……」
――いの一番に目に飛び込んできたのは……あれだ、パンツが丸見えになっちまっているネルネとハクの姿だった。
……あぁなるほどね。
どうやら倒れ込んじまった時、俺が二人のスカートを掴んじまったようで、さらにそのまま上手いことずり降ろしてしちまったみたいだな。
…………いやこんな状況起こりうんのか普通!!?
おかしいだろどう考えても!?
まるで何者かの意思によって意図的に引き起こされてるみてぇな……!!
と、とにかく……!
「す、すまん二人とも! 完全に俺の注意不足で……」
「…………ねぇ、おっちゃん? ひょっとしてわざとやってるのかなぁ……?」
「ひ!? い、いや違うんすよトリアさん……こう、不可抗力っつーかなんつーかね、その……――すんませんしたっ!!」
笑顔で圧をかけてくるトリアをはじめ、全員に向かって許しを請うように地面に頭をこすりつける。
いやホント、なんだってこんなことに……。
……………………
…………
……
「――そんで? 数日部屋に引きこもってやーっと出てきた思たら、ヒトの妹にそないな風に手ぇ出すやからなぁ? はー、こっわいこっわい」
「これはワシらも気をつけておかねば、いつ手籠めされてしまうか分かったものではないのう?」
「本当にねぇ? 昔の君はそんなことをする奴じゃなかったはずだけど……まさかこうして私達をお酒で酔わせてるのも……」
「ひえ~! おっそろしい男やわ~ホンマに!」
「…………頼むからそんな人聞きの悪い絡み方してくれるなってのホント……」
姦しいなんて言葉がぴったりの三人を前に、ちびりとグラスに口をつける。
トリア達との模擬戦をしたその日の夜、俺とフーとシーレの三人はウリメイラの部屋へと集まっていた。
いつもの宅飲みと……ちょっとした頼みごとをするためだ。
「ほっほ、それで……オークションの資金じゃったかのう? 格好をつけて大見得きった策というのが、こうしてウリメイラとフーに頭を下げることだというのじゃから……お主も昔から変わらんもんじゃ」
「いやホンマやで」
「そんなこと言わねぇで頼むって……な? 大口叩いた手前、せめてここで挽回しとかねぇと最年長者として面目が立たねぇっつーかさぁ……」
「やれやれ……君はやるときは結構やるっていうのに、同じくらいに刹那的な部分があるよねぇ? 後先考えてないっていうか、子供じみているっていうか……」
「はん、はっきり言ったったらエエねんウリメイラ! 『この見栄っ張りでカッコつけののダメ男がー!』ってな! …………まぁ別に? ウチはそんなところもキライっちゅうわけやあらへんけどー……」
フイっと顔をそむけながらグラスをあおるフー。
最後のほうはごにょごにょと口ごもっててよく聞こえんかったが、そんな飲み方してるとまたすぐに潰れちまうぞ? すでに顔も赤いみたいだしよ。
「それにしても……『オルハリコン』、か。確かに解禁日も近いとはいえ、短い期間での資金繰りのための策というには随分ギャンブルじみていると思うけどねぇ?」
「いや、俺もそいつはわかってんのよ? けど実際問題数億だぜ数億? 他に方法なんざぁないとも思わねぇ?」
――オルハリコン。言わずと知れた伝説級の鉱物だ。
その知名度たるや、たとえ冒険者じゃなくても『耳にしたことぐらいはあるぞ』ってヤツも多いだろう。
オルハリコンはその性質上、たとえ手のひらサイズの大きさの物でも相当な高値がつくからな。
知名度もあわさって狙ってる奴は多いなんてもんじゃあない。
だが……。
「オルハリコンが採取できるダンジョンは世界にいくつか存在しておるが、そのどこも採取できる階層が解禁されるのは数年に一度だけ……それも長くて二、三ヶ月しか潜れぬよう、全てしっかりと管理されておるからのう」
「たしか、むやみやたらな乱獲を防ぐため……だったかな?」
「それともう一つ、実力が伴わへんようなヤツらが一攫千金を夢見てアホみたいに殺到すると、えらいことになってしまうからなぁ」
「そうでなくてもオルハリコンに限らず、鉱物系の素材は育つのに時間がかかるからのう。世界国家連合としても、まだ大きく育つ前のレア鉱物をむやみに採掘されてしまうのは避けたいところなんじゃろうて」
オルハリコン見つかるようなダンジョンは最高レベルの難易度なうえに、採取できる階層もえらく深層ときているからな。
並の冒険者じゃたどり着くことすらも困難、あげくそこまで行けたとしても入手できる確率はめっぽう低い。
そんなワケで、いろいろと制限されてるって寸法だ。
……それでも無謀な挑戦者は後を絶たないってんだからなぁ。
人の欲の怖いところねホント。自分のことは棚に上げとくけども。
「んで、今年解禁されそうなダンジョンのある国なぁ……ギルドの情報から予測するに、メイルケイン大陸の『メープルフィズ』、イーラージャ大陸の『ストロジフ』、あとは……ラティ大陸の『アニマド』のどこかっちゅうとこやろか?」
……! アニマドか、リーズシャリオがある国だな。
ゲートを使ったこともあるし、そこが解禁されれば移動にゃ困らんのだが……。
「とはいえウチも確証があるわけやないで? ……まぁ仮に知っとったとしても、流石にこれ以上の情報を私的に横流しするっちゅうわけにはいかんかったやろうけど」
「わかってるって、こんだけでも十分すぎるほどだぜ。ウリメイラはどうだ? お前の顔の広さでこう……なんか情報を聞いたことがある、とかよ?」
「いやそんな雑な聞き方されてもね……。でもうーん……アニマドか、そういえば――」




