第1話 新たに判明したことがあるのでーす!
「――ってなワケで、そんなヤベーヤツの双子として生まれた俺は親戚中からも疎まれ、たらいまわしの末にばーさんの孤児院に引き取られましたとさ……っと!」
「……くっ!!」
俺のナイフとクヨウの刀がぶつかりあう。
――ヴァルハーレの討伐から三日。
現在俺たちはナザリアの森の近くで、特訓を名目にした模擬戦をおこなっていた。
……これから先、恐らく前回のような『対人戦』を余儀なくされる場合もあるだろうからな。
魔物相手とは勝手が違う戦闘を経験しておいて損は無いはずだ。
「ふぅ、こんなもんか。……鬼神装、大分使いこなせるようになったみてぇだな?」
模擬戦を終え、最早気絶することもなく鬼神装を解除するクヨウに向かって声をかける。
「うむ。……ミヤビでは色々あったが、そのおかげで私も成長できたのかもしれん。普通に使う分には、理性を失ってしまう事はもう無いだろう」
そいつはすこぶる心強いね。
「だがその……試してみたわけでは無いのだが、やはり私一人の力で玄涜を首輪として使うには、まだ練度が足りないように感じる。つまり『黒曜天煌華』も……」
「にゃふふ! オジサンになでなでよしよしちゅーってされないと使えないってコトですなー?」
「あぁそうなのだ……ってちがう! ちゅ、ちゅーは違うぞちゅーは! ち、違うからなイルヴィス! 断じて! だ、断じてそんな破廉恥な考えでなく、あくまで首輪をお前につけてもらわなければと……!!」
「わかってる、わかってるから落ち着けって……」
そんなに顔真っ赤にしてるとまーたぶっ倒れちまうぞ?
……どちらにせよクヨウの話によりゃあ、殿サマをブッ倒したあの大技……『雪花双輪纏艶終』も、そうポンポン使えるスキルじゃあなさそうだ。
全盛期じゃあ無いとはいえ、勇者級を無力化することも可能っつうとんでもねぇスキルだが、一度使えば鬼神装は力を使い果たし、しばらくは使用不可能となる。
そのうえ……。
一、クヨウの目利きで相手のクセや筋肉の動き、マナの流れなんかを分析。
二、散布した感覚器によって、それを瞬時に察知。
三、任意のタイミングで、神速の一撃を叩き込む。
……という三段階の流れが必要になるからな。
諸々のことを考えると、ネルネの『ブレイブスライム』同様切り札的にってのが正しい使い方だろう。
「それにしても……おっちゃんってばやっとお部屋から出てきたと思ったら、何の説明もなく『特訓行くぞ!』なんだもん! ……これでも結構、心配してたんだけどー?」
「そ、それに……あのヴァシネって人の話も、も、模擬戦をしながらだったし……」
「まぁ、そう言ってくれるなって。悪かったとは思っちゃいるが……こういうのはこう、勢いに任せちまわねぇとうまく吐き出せねぇと思ってよ」
「にゃふふ! しかたがないですなーオジサンは! 今回は許してしんぜよー!」
「おじさまの過去……ご両親がいらっしゃらないことは知ってましたけど、そんな辛いことがあったんですね……」
「自らの両親の命をも、か……。弟であるお前の前で言うべき言葉では無いのかもしれんが、あのヴァシネという男は恐ろしい人物のようだな……」
まったくもってその通りだ。
そして……俺はと言えば、死んだものとして折り合いをつけていたヤツへの感情に、今さらどう向き合えばいいのか分からずにいる。
情けねぇ話、『ヴァシネが実は生きていた』という事実を認めることはできても、そいつを上手く呑み込んじまうことが未だにできちゃいないんだろう。
この胸ん中でグジグジしたモンはアイツへの恨みなのか。
それとももっと……そうだとしたら、俺は復讐でもしたがってんのか?
親父とおふくろを殺したヴァシネを……同じように俺のこの手で――。
「――おじさま大丈夫ですか……? やっぱり、顔色があんまりよくないみたいですよ……?」
「……! ……いや、大丈夫だよ。――ホントにな。」
――そうだ、今の俺にはコイツらが……今まで俺を支えてくれた人達がいるじゃねぇか。
たとえヤツに対する恨みつらみが生涯晴れねぇもんだとしても、今の俺なら極端な答えにたどり着くことは無いはずだ。
……きっと。
「ほ、本当に大丈夫なのかおっちゃん……? む、無理せずに、辛いなら辛いってちゃんと言ってくれなきゃだめだぞ……?」
「心配すんなって、おっさんが魔王をブッ倒しちまうほどににつえーのはお前らも知ってるだろ?」
「何言ってんの! おっちゃんのメンタルなんてスライムぐらいよわよわなんだよ? ちょっと立ち直ってもすぐにへこんじゃうに決まってるんだから!」
「お前は俺を元気づけたいのか追い打ちでへこませたいのかどっちなんだよ……! 別に良いんだよ俺は? この場でお前らがひくぐらいに泣きじゃくってやってもよ?」
「どんな脅し文句なのだそれは……」
いい歳したおっさんがわき目もふらずにむせび泣く姿……。
さぞかし対応に困ることだろうぜホント。
「にゃふふ! ウチとしてはそんなオジサンの姿にもきょーみシンシンなんだけどー。…………ねぇオジサン?」
「……! ……あぁ、気にしなくていい。というか、そうしてくれたほうが俺もありがたいしな」
「……にゃふふ、うんそっか! それでは改めましてー! ヴァシネってヒトとフリゲイトがお仲間さんなら、あの時のお薬のネタばらし……あれもヴァルハーレの出現のために、わざとああしたって思うんだよねー?」
「そうだな……確かにあのタイミングでわざわざ薬の話をするのはいささか不自然だとも感じていたが、そうであるならば納得がいく」
「き、機が熟したとき……じ、自由なタイミングでヴァルハーレを出現させられるように、す、スパイみたいにあらかじめ潜り込んでたいたってことかな……」
恐らくその通りだろう。
そして……エテリナが気を遣ってくれたように、まず間違いなくヴァシネはフリゲイトと繋がっている。しかし……。
「だがそうなると腑に落ちねぇこともある。……コイツだ」
俺は眼帯に隠れた左目をこつこつとつつく。
「あそっか。出現することがわかってたんなら、おっちゃんより先に手にいれることだってできたはずだもんね?」
「ま、そういうことだ。……考えてみりゃ、前にも似たようなことがあったんだよ。例えば……左腕の紋様もだな」
俺は左腕の装備を外し、ゲートを作り出す例の紋様を晒しだす。
「『夢幻の箱庭』に繋がるコイツだって、アイツら自身が……それができねぇなら別の都合の良い人間にでもあてがっとけば、わざわざ隠したりする必要もなかったはずだろ?」
「確かにそうだな……。ならば単なる失態ではなく、何らかの理由あっての行動ということになるのだろうが――」
「――にゃふふ! はいはーい! それについてはウチに一つ心当たりがありましてー!」
「お! 本当かよエテリナ!」
「まぁあくまで『いくつかある理由の内の一つ』だろうなーってだけなんだけどねー?」
いやいや、実際それでも十分すぎるほどだ。
流石うちの頭脳担当、相変わらず頼りになるってもんだぜ。
「フリゲイトが『人を直接傷つけることができない』ってことはほぼ確定したでしょ? そしてもう一つ……新たに判明したことがあるのでーす! にゃーん! エテリナちゃんってばちょーエライ!」
「判明したこと?」
「いえーすトリニャー! さてさて、フリゲイトにとっての都合の良い人間……例えばヴァルハーレはお殿サマにあてがおうとしてたんだろうけど、それは我々の手によって阻止されてしまいましたー!」
両腕でばってんを作るような仕草とともに、説明を続けていくエテリナ。
「……でーもー、それでも『お仲間さん』であるはずのあのヴァシネって人を、かわりにあてがうことはできなかったんだろうねー? なぜなら……フリゲイトはたぶん、そのヒトがやってきたことを知ってるから――」
「? それって……」
「――フリゲイトはね、きっと『人を殺せない』んじゃないかなー? ……それがたとえ、『間接的』なものだったとしても……ね?」




