第五章 プロローグ
――俺には、双子の兄貴がいた。
ヴァシネ・スコード。
間違いなく血を分けた、俺の双子の兄弟だ。
ヴァシネは当時から、それこそ五歳にも満たないってのに何でもできた。
運動も勉強もそれ以外も……後から聞いた話じゃあ、親戚一同からも『神童』なんて呼ばれていたらしい。
俺も『兄っていうのはきっとそういう存在なんだ』と、何の疑問も持たず普通にそう思っていた。
つっても、その全てを覚えているわけじゃあ無いが。
……だが一つ。
一つだけ、鮮明に覚えていることがある。
あれは確か、五歳の時の誕生祭の夜……だったな。
親父や親戚たちが騒いでいる中、『もう寝なさい』と寝室に追いやられる子供組。
その中で俺とヴァシネの二人はなかなか寝付けずにいた。
そんな時だ、ヴァシネのヤツが『父さんと母さんは好きか』と、他愛もないよくある質問を投げかけてきたのは。
当時の俺は、もちろんそいつを肯定した。
そして同じように……当たり前のように、ヴァシネもそう答えるモンだと思っていた。
だが――。
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「――僕はねぇイルヴィス、彼らの考えが手に取るようにわかるのさ。だからこうして、彼らが喜ぶようにふるまってあげている……クク、これじゃあまるで、大きなお人形を使ったおままごとと変わらないねぇ」
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……好きとも嫌いともいわず、ヴァシネはそう答えた。
当時の俺はヴァシネが何を言っているのか良く分からなかったが……なんとなくそれがとんでもなく怖いことのように感じて、すぐに布団に頭から潜り込んだのを覚えている。
そして……その少し後からだ。
ヴァシネが親父やおふくろと、頻繁に言い争うようになったのは。
……いや、今思えば言い争いとは少し違うか。
語気を強めているのはいつも親父たちで、ヴァシネはといえば常に冷ややかに、ともすれば笑いながらそれに反論していたように思う。
三人が何について言い争っているのかは理解できなかったが……唯一、親父たちがヴァシネに『何か』をやめさせようといることだけは分かった。
それでもヴァシネは折れることは無く、『やりたいことをやって何が悪い?』と、親父たちに対する態度を変えることは無かったが。
俺はと言えば家族がケンカするその光景を見るのがおっくうで、それでよく逃げるように、一人で外へ遊びに行っていたもんだ。
……その日も同じだった。
同じようにして外へ逃げ、それでも暗くなる空と比例するように増していく心細さに、またとぼとぼと帰路へつく。
ケンカが終わっているようにと祈りながら、いつものように家へとたどり着いたそのとき――。
――その帰るべき家は、不気味なまでに燃え盛る炎に飲み込まれていた。
……炎は、俺の持っていた全てを飲みこんでいった。
親父も、おふくろも、思い出も、日常も……何もかも、すべてを。
――これはあとから聞いた話だが、どうやらヴァシネは『禁術』と呼ばれるものに手を出していたらしい。
安全面や道徳的な理由で、世界国家連合に使用や継承なんかを禁じられている危険な術式……どうにもそいつが失敗して、こんな事態を招いたってワケだ。
親父たちはきっと、そいつをやめさせようとしていたんだろう。
だがそれでもヴァシネは止まらなかった。五歳かそこらの子供が持っているとは思えないほどの、狂気的な好奇心によって。
……事故、と一言で言っちまうには、あまりに理不尽だと今でも思う。
親父もおふくろも、悪い事なんざなにもしちゃいない。
ただヴァシネの狂気に巻き込まれるような形で犠牲になっちまっただけだ。
まぁ、そう思っていたのは多分俺だけなんだろう。
あれだけヴァシネを褒めていた親戚の連中も、『子供一人制御できないなんて』と、そんなようなことを言っていたしよ。
……俺はヴァシネを恨んだ。
親父とおふくろはヴァシネに殺されたようなもんじゃねぇか、と。
だがその恨みをぶつけようにも、事を起こした張本人さえも、その炎は持っていっちまった。
…………いや、持っていっちまったと、そう思っていた。
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『あぁあれね、作ったんだよ僕の遺体も。良くできてただろう? なんせ役人達にも見抜けなかったぐらいだしさあ?』
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――あの時のヤツの言葉を思いだす。
遺体を作った……可能不可能はこの際置いとくして、それが本当ならつまり、偽の遺体をあらかじめ用意していたってことになる。
ならば……あれは事故じゃあなく、故意に起こされたってことなのか……?
だとすれば、親父とおふくろは本当にヴァシネに――。
今日から日曜日ぐらいまでにかけて、ちまちまと十話まで更新する予定です!
しかし前回更新から四カ月て……




