第四章 エピローグ
「――こいつか、殿サマが言ってた例のモンは」
俺たちは現在、殿サマが女を囲ってたっていう別邸に足を運んでいた。
そして……今まさに、目的のモンの前に立っている。
「えと、こうやって手を合わせるんですか?」
「ああそうだ。そうして目をつぶって……」
……殿サマが若返りの呪法の生贄として差し出した胎児。
そして……その亡骸を供養するための、いくつかの小さな墓。
世界国家連合に連行される前の殿サマに、代わりに様子を見てほしい、なんて頼まれたからだ。
「……これがお殿様にとっての痛みってやつなのかな」
「……どうかねぇ。仮にそうだとしても……やっぱり俺には、このやり方は肯定できんよ」
「うん……えへへ、よかった! おっちゃんもそう言ってくれる人で!」
暗くならないように、努めて明るく振る舞うトリア。
……呪術か。結局、ジュジュニャンのヤツはあの後姿を現さなかったが……。
ん……?
「ど、どうかしたのかおっちゃん……?」
「いや、なんつーか……なんだこの違和感みたいなモンは……? 『戦闘力解放』……!」
「にゃ……!? オジサン、こんなところで何を……!!」
「……無い……!!」
「え……?」
「無ぇんだよ、この下にあるはずの……殿サマが埋めたはずの遺骨ってやつが……!」
「――……あーあ、気付いちゃったかぁ」
――!!
突如塀の上に現れた一人の少女。こいつは……!
「ジュジュニャン……! まさか……これはお前が……!!」
「まーそうと言えばそうなんだけどさー。言っとくけど、アタシだって好き好んでこんなことやんないんだからねー? けど……」
「――不快にさせてしまったのであれば申し訳ない。だが……我々にとっても必要なことだったのでね」
「……!! ――イヴェルト……!!」
瞬きをする間もなく、ジュジュニャンの隣に現れるイヴェルト。
いや、イヴェルトだけじゃあ無い。
これは……!!
「さて……良い機会だ、一度改めて皆を紹介をしておこうか。――『アーデム』、『マジューリカ』、『モンステリュウス』……」
「やほー」
「……うふふ」
「キシシ……!!」
「『ゼクセー』、『ジョーダイン』、『ジュジュニャン』……」
「ちっ……!」
「…………」
「キャハハ!」
「『クウカイ』、『ロゥル』……」
「やれやれ……」
「ど、どうも……」
「そして……この私『イヴェルト』。……どうやら君たちも勘付いているようだからな。それならばと、こちらから全員で挨拶に伺ったという次第だ」
「……はっ、そいつはご丁寧にどうも……!!」
勘付いている……か。
フリゲイトと『大陸の楔』の関係性……どうやら間違いないみたいだな。
「さて……以前も話をしたが、我々も少し話合いの場を設けてね。そこで、一人の男をこちら側に引き入れようという話に至ったのだが……」
「にゃ……! もしかしてその男のヒトって……」
「――俺のことか……!」
「……いやなに己惚れてんのー? 全然おじさんのことじゃないですけどー、キャハハ!」
「えっ」
違った。
……え、うそだろ? 絶対もうそれ俺みたいな雰囲気あったじゃん……。
『こちら側へ来い』とか勧誘してきたりとかさぁ……。
「あぁ! おじさまが両手でお顔を覆って……!」
「だ、だいじょうぶだぞ……? わ、わたし達もおっちゃんのことだと思ってたからな……?」
「こらー! おっちゃんのメンタルはよわよわさんなんだから、あんまり紛らわしいマネされるとこうなっちゃうんだからねー!」
ぐふ……!
トリア、それは追い打ちで……。
「しかし……イルヴィスで無いのだとすれば一体……」
「無論、無関係という訳では無い。イルヴィス・スコードの勧誘も彼が――」
「――お、みんなそろってるねぇ」
と、突如まるで散歩でもするかのように、てくてくとやって来る一人の男。
あいつは……。
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「これはね、原因ですよ。殿がおかしくなられた原因……それがこの薬です。ここに居る者は皆が持っていて、隙を見て殿のお食事に少しずつ……ね」
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あの時、俺たちの前で薬のネタばらしをした役人か……!?
まぁその薬も結局ただの水だったワケだが……いやそんなことよりも、世界国家連合に連行されたはずのコイツがどうしてここに――!?
「それにしてもイルヴィス、そんな風に可愛い女の子達をはべらせて、まるでお人形遊びじゃないか。あの頃から変わらないねぇ」
「あの頃だと……?」
俺とコイツは初対面だったはずだ。
だってのに、なんだこの感じは……?
まるで……。
「ん~? まーだ気づかないのかいイルヴィス? ……はぁ~、お兄ちゃんは悲しいなぁ」
「――〰〰っ!!!?」
「おにい……さま? おじさまの……?」
――そんなはずは無ぇ。
そう頭では理解していても……俺の体は、俺の口は、その名を呼ぶことをやめられなかった。
「――ヴァ、シネ……?」
「お、やっと気づいたかい? そのとーり、まさに君の双子の兄である……ヴァシネお兄ちゃんだよーぅ」
ば、かな……!!
そんなことがあるわけがねぇ……!! そんなことが――!!
「〰〰っ!! ふっざけんな!! ヴァシネは確かにあの時……!! 親父や、おふくろと一緒に……!!」
「あぁあれね、作ったんだよ僕の遺体も。良くできてただろう? なんせ役人達にも見抜けなかったぐらいだしさあ?」
作っただと……!?
そんな、そんなことが――!
「本当は、兄弟水入らずでおしゃべりでもしたいところなんだけど……お兄ちゃん今まだちょっと忙しくてねぇ。……またそのうち顔を出しに来るよ」
「ま、待て……!! まちやがれ!!」
「それまで……ちゃんと好き嫌いせず、何でもよくかんで食べるんだよイルヴィス」
ごうっ!! と、一瞬強い風が吹く。
次に目を開けた時……フリゲイトもヴァシネの姿も、そこには見当たらなかった。
「……おっちゃん? いまのって……」
「……悪ぃ、少しだけ……いや、しばらく時間をくれねぇか。……気持ちの整理がついたら全部……全部、話すからよ」
これにて第四章は終了となります!
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます!




