第39話 ちょうどいいさ……!
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「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」
「――おおぉおぉぉぉッッ!!!」
標的を俺に絞り、さらに激しくなっていくヴァルハーレの攻撃。
襲ってくるツタも飛んでくる花びらも、ひとつ残らずまとめて叩き落しながら、何とか隙をついて本体に攻撃を入れていく。
だが……!
「……『雪花双輪纏艶終』。物理法則をも超えた神速の一撃に、すべてのマナを総動員しての防御をさせられた……いや、散布した感覚器とその卓越した目利きによって、余がそうせざるを得ぬ瞬間を見極めたといった方が正しいか……」
表情が無いぶん、効いてんのかそうでないのか判断しづらいね、どうにも……!
……まぁいいさ、どうせやることは変わらねぇ、とにかく全力で切りつけまくってやるまでだ!!
「――マナも底をつき、最早今の余は『勇者級』どころか、一人の駆け出しの冒険者にも劣ることであろう。だが……だがやはり、それでも結果は変わりはせぬ」
ギリギリの攻防の中で、一瞬がくんと何かに足をとられる。
足元を見てみれば……。
……おいおいツタだと!?
今まで攻撃にしか使ってこなかったろ!? ここに来てこんなテクニカルな使い方もしてくんのかよ……!!
まずい、動きが――!
「――そう、変わらぬのだ……。どれほど慈しもうとも、どれだけ苦心しようとも、何も……何一つとして変わりはしなかった……」
――ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
「――〰〰っ!!!」
瞬間、これでもかと降り注いでくる、光の花びらたち。
目がくらむほどの衝撃と爆発にさらされて、声にならねぇ声が肺の底から漏れ出してくる。
「――余が憂いたのは、人の怠慢さだけでは無い……。無くならぬ蛮行と他者への不理解、そして……並々ならぬ人の欲。……罪に手を染めるのはなにも、上層部だけに限った話ではないということだ……」
チカチカと頭の中に星が飛ぶ。
歯を食いしばり、持っていかれそうな意識を無理矢理繋ぎ止めながら、足元のツタにバッシュクラックを叩き込む。
なんとか絡まっていたツタからは脱出できたが……一息入れる間もなく、ヴァルハーレは攻撃を続けてくる。……くっそう、もうちょっと加減してくれてもおっさん文句は言わねぇってのによ……!!
「――だからこそ、変えたいと願った……。民のため、国のため……勇者と呼ばれ、曲がりなりにも国の頂点にたった自分なら変えられると、心よりそう思った」
『傾向限界突破』でゴリゴリに身体強化もしてるってのに、それでも防御が追いつかん……!! かといって感覚強化で回避に専念したところで、時間切れになっちまえばもうそれまでだ……!
「――道は困難を極めた。自身の限界と自惚れを悟り、他国から政や人心にまつわる指南書なぞを取り寄せもした。……やがてそれらが棚を埋め尽くすころ、その全てが無駄だったのだと気付いた……」
こうなってくると改めて、あのブレイブスライムの恩恵を実感するね……!
エンデュケイトと対等にやり合えたのはあれがあってこそだったからな……!!
「――……たとえ十年前より良き世界であろうと、それが一年前よりも優れていなければ満足はできない……人というものの性だ。愚かしいとも思うが……それを果たすのもまた王の役目……」
つか、ブレイブスライムが勇者級の力を数倍に引き上げてくれてああだったってことは、単純に考えりゃ俺が数人いてやっと対等ってことじゃねぇか……!
よく考えなくてもタイマン勝負なんて無謀も良いとこだぜホント……!!
だがそれでも……!!
「――故に、力が必要なのだ……! 全ての民を愚へと走らせぬため……その欲を正しく導く程の、大きな力が……!!」
「――はっ……! 力、ね……!」
殿サマの呟くようなその言葉に、ついついそんな悪態が口をつく。
ヒュームだろうがエルフだろうが、どんな種族でも五十歳を過ぎたころを境目に、それ以上のレベルアップは望めなくなる。
いわゆるところの『レベル上限』ってヤツだな。
……『勇者級』と呼ばれる程の力を手にし、それでも自身の理想には遠く足りなかった殿サマは、自分以外の別のモンにその力とやらを求めたんだろう。
その結果がこのヴァルハーレと……胎児を犠牲にしてでも手に入れたっつう、あの歪な若作りってワケだ。
「そうだ、力だ……。余が求めた『七大魔王』の強大な力……あの翠の巨人無き今、たとえ勇者級の力もつ其方でも、それを一人では覆すことなど――」
「――……そうかい。アンタには今、俺が一人で戦ってるように見えるんだな……!」
「な、に……?」
「俺の力はどうにも融通が利かなくてよ……! いつだって何かを、俺一人の力だけで成し遂げられたことなんざなかったさ……!」
今だってそうだ。
アイツ達がいなけりゃ、とっくにヴァルハーレはあの花びらをばらまきながら、そこいらの町を練り歩いていたことだろうよ。
……俺がぶっ倒れた時、トリア達は一時的に撤退することもできたはずだ。
だが……ヤツの攻撃が爆発を伴うもんである以上、並の蘇生屋じゃあ犠牲者を生き返らせることは難しいだろう。
そうなれば教会復活を待つしかなくなっちまう……もちろん、『記録を代償に』だ。そいつを良しとしなかった俺のワガママを、アイツらは汲んでくれたってワケだな。
いや……そいつは少々卑屈になりすぎたか。
きっとアイツらも……。
「分かるかい? 例えこの力がもっと便利になったところで、結局一人でやれることなんざたかが知れてんのさ。……だからよ、今俺が一人に見えるってことは――やっぱり、アンタと俺のやり方は相いれねぇってコトだね!!」
殿サマにそう答えながら、マナポーションを大量に取り出す。
そのまま全ての瓶をナイフで開封し、再び一気に胃の中へと流し込んでやる。
……背中の一坪への適正。
常にアイテムをある程度ストックできるおかげで、こんな緊急事態においても魔法薬を過剰摂取できる。
普通なら中毒を起こして即ぶっ倒れちまうような使い方だが……『バッドステータス無効』を持つ俺なら一時的とはいえ、その恩恵だけを享受できるからな。
特にマナプールの大きさに応じて相対的に効き目が変化するマナポーションは、『戦闘力解放』で勇者級のマナを持つ俺にとっちゃ、抜群に相性が良いといってもいい。
そして……『傾向限界突破』。
大量のポーションで無理やり回復速度を底上げしたマナをつぎ込めば、傾向の適正を無視して肉体強化をゴリ押せる。
『身体強化』、『感覚強化』、『機能強化』の三傾向。
今俺がマナをつぎ込もうとしてんのは……もちろんその全部にだ……!!
肉体強化だけじゃあない、攻撃やスキル……それ以外にの全てにも、ありったけのマナをつぎ込み続ける。
……これが、今の俺の全てを使った一手。
はっきり言っちまえば無茶で無謀も良いところだ。
その証拠に今の今まで……それこそリーズシャリオから帰ってからの訓練中にすら、成功未満のそれを使えたのは小指の先っぽぐらいだったからな。
「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」
ドガガガガガガガガアァッ!!!!!
降り注ぐフラワーシャワーとツタによる攻撃は未だに健在。
無茶の反動とダメージで焼き切れそうな意識を、すんでの意地でつなぎとめる。
それでも何とか食らいつくが、思うようにスキルを組み立てることができん。
おまけに無理やり肉体強化にマナをつぎ込んだ影響で、体が軋み、感覚が歪み、内臓がねじ切れそうになってきやがる。
……生と死の狭間で、感覚と記憶が混濁していく。
走馬灯ってのはこういうのを言うんだろうね、初体験ってワケじゃねぇけどよ。
「――――はっ……!! ちょうどいいさ……!
ついさっきも噛みしめていたところだ、俺一人の限界ってヤツをよ……!!
俺の中の全部を使っても足りないってんなら……走馬燈の中から思いだせ……!!
トリアのように奔放に――!
ネルネのように自在に――!
ハクのように繊細に――!
エテリナのように精密に――!
そして……クヨウのようにひたむきに――!!!
バチバチに過敏になった今の俺の感覚なら、走馬燈だって現実と変わらねぇ……!!
あの時の……『アルティメット一致団結』の力で、あいつ等のマナが流れ込んできたあの時の感覚を、無理矢理にでも手繰り寄せろ――!!!!
「――! あ、あれは……!」
「おっちゃんの……腕から……」
「鈍色の……光が――!!」
――バチンと全部が上手くハマった感覚が全身に走る。
……俺一人じゃあたどり着けなかった。
やっぱりアイツらがいるからこそ、俺はこうして戦えてるってことだ。
そうだ、いつだって俺はそうだった。
だから……だからこそこの力の名は――!!
「スクラムアーツ……!!」
「――『ガンメタルエフェクト』!!!」
可視化するほどの膨大なマナが、俺の両腕を起点として全身に溢れだす。
……単純な話だ、体の中で抑え込んでられないってんなら、こうして外にだしちまえばいい……!!
俺の技量だけじゃそいつを制御することはできなかったろうが……今の俺にはアイツらの力の記憶がある……!!
文字通り、この体で直に感じたアイツらの力のな!!
ナイフを構え、地面を蹴り出す。
自分自身でも、さっきまでとは比べ物にならんとわかるほどに加速した俺の体は、瞬時にヴァルハーレの眼前へと肉迫する。
「――オオオオオッッ!!!!」
ヤツの本体へバッシュクラックを叩き込み、そのまますかさず離脱を繰り返す。
ツタによる攻撃も、花による爆発も、今の状態の俺ならきっちり叩き落して尚先手を打てる。
確かな手ごたえってモンを感じるぜ……!!
このままいけば――!!
「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」
「……!?」
俺が確信めいたものを感じたその瞬間。
すでに何度目かも分からん叫び声をあげながら、枝を畳む様に体を縮めるヴァルハーレ。
そのままヤツが地面の近くまで降りて来ると、それに呼応するように地面から生えたツタが全て、ヤツ自身の方へ向かって伸びていく。
集まったツタはそのまま、枝や花ごとまるっとヴァルハーレを包み込み、やがて蕾のような形に変わっていった。
「……!? こいつは……!!!」
攻撃を捨てて、防御に徹したってのか……!?
……甘いぜ、確かに目に見えて防御力は上がっているようだが……今の俺の力なら、まるで通じないってワケじゃあ無ぇ……!!
このまま攻撃を続ければ時間内には……!!
「けほ……! 防御……? ちがう……あの蕾、着物の時よりももっと……!」
「ハクちー? ――にゃ……!? まさかまた自爆するつもりじゃ……!!?」
自爆だと……!?
……なるほどな、最後に自暴自棄になって、ムカつくやつらを全員道連れに吹き飛ばしちまおうってワケかよ……!!
そうかい、それなら……!!
「――最後の癇癪を起す前に、きっちりケリをつけてやるさ!!」
俺の体を通して、ナイフにも『ガンメタルエフェクト』を流し込む……!!
もっとだ……!!
もっと……!!
この一撃に……今の俺の全てを込める――!!
「――『ガンメタルバッシュ』……ッ!!!」
鈍色の軌道とともに、蕾に向かってナイフを振りぬく。
そして――。
……………………
…………
……




