第38話 結構嫉妬深いもんでね
「――はぁ、はぁ……!! まだです……まだ……!! せめておじさまが動けるようになるまでは……!! おじさまのために……! おじさまのために……! おじさまの……ため……に……」
ふらりと後ろに倒れるハクを、優しく支えてやる。
……どうやらトリア達とは少し離れたところに分断されちまってたようだ。
「ようハク。……本当に、よく頑張ってくれたな?」
「おじ……さま……? ……えへへ、よかった……動けるようになったんですね……? ハクは……はぁ、はぁ……ぅ……えほ! けぽ……っ!!」
俺の腕のなかでぐったりとしながら、口から何かを吐き出してしまうハク。
これは……!
「ヴァルハーレの……最初の爆発で砕けた、あの着物の破片か……!?」
「けほ、こほ……! はい……えと……魔物さん達は魔素で作られてるんでしたよね……? だから……七大魔王って呼ばれるぐらい強い魔物さんの一部なら、飲み込んじゃえばもしかしたらと思って……」
ハクが地上で、魔素が必要な先祖返りになれていたのはそういうことだったのか……!
素材として採取しないままの、魔物の一部をそのまま飲み込む……こんな手段は聞いたこともねぇが、確かに魔王と呼ばれる程の魔物の一部なら、強い魔素の塊ではあるだろう。
ハクは魔素に対する感受性が強いからな、本能的にそれが可能だってことを感じ取っていたのかもしれん。
そんなことを考えながら、よごれちまった口もとを拭ってやる。
「むぁ……! お、おじさまだめです……そんなところ、汚いですから……!」
「汚い事なんてねぇさ、むしろ悪ぃね、おっさんのごつい手ぐらいしか拭いてやれるモンがなくてよ。今度からはきれいなハンカチでも持ち歩いて――」
――ガキン!!
「……どうにも、無粋なヤツだねホント」
ハクを狙ったであろうツタの攻撃を、ナイフでいなすように弾き飛ばしてやる。
まずはハクを安全な場所に移動させてから――。
「――イルヴィスどのおおぉおおぉ!!」
「……って、うえ!? ご、ご家老サン……!!? なんでこんなとこに……」
いつかの時と同じように、俺の名前を叫びながら走ってくるご家老さん。
ホントになんでこんなところに……
「はぁ……!! はぁ……!! ……イルヴィス殿、私めは……私めはどうしようもない人間にございます……!!」
「……!」
「人は弱く、快楽に流されやすい……そうして流されたその先において、人は腐っていきまする……!! 私めもその一人……弁明のしようもございませぬ……!!」
震える声とともに、御家老サンは地面に額をこすりつけそうな勢いで頭を下げる。
「我が身の可愛さ故に欲望にあらがえず……ですがイルヴィス殿……!! あなたは……あなた方はそうではなかった……!! その身を呈して我々を……いいえ、オウカに住む民たちまでをも……!! 私めは自分が恥ずかしい……!!」
「ご家老さん……」
「しかしだからこそ!! たった今この瞬間だけでも腐ったままでいたくはないのです……!! 私とて元冒険者の端くれ……!! 必ず、必ずハク殿を安全な場所までお連れしまする……!! どうか、どうか私めにその役目を……!!」
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、再び頭を下げる。
確かに、ご家老サンたちがやっていたことは簡単に許されるようなモンじゃねぇが……それでも今の訴えが打算的なそれじゃあないことは、俺にもわかる。
だから……。
「……わかった。攻撃はこっちでも防ぐんで……ハクのことを頼めますか?」
「……!! ははーっ、必ずや……!! ささ、ハク殿、こちらへ……!」
「は、はい……! あの、おじさま……!」
「任せとけって。サボっちまってた分、きっちり終わらせてくるからよ……!!」
……
…………
……………………
「――ごめんねエテリナ……ボクってばもう、打ち……止め……かも……」
「トリニャー!!? にゃうぅっ……『ベールブラッド』!! はぁ、はぁ……!! ウチも、もう……!!」
「……っ! 無理もない、あの攻撃に狙われ続けたのではな……! しかし……これが七大魔王の力……!! 防戦に専念して尚、これほどとは……!! だが……!!」
「……!? ヴァレむー!?」
「トリア・ラムネーヌをつれてゆけい、エテリナ・クルカルカ……!! ここからは吾が食い止めよう……!!」
「でも……っ」
「ゆくのだエテリナ・クルカルカ!! すぐにまた花弁による攻撃が……!!」
「――『バッシュクラック』!!」
ドガガガガガガガガァンッ!!
「……! この攻撃は……!! もしや……!」
「……!! にゃ……にゃ……!!」
連鎖する衝撃に巻き込まれるように、次々と爆発していく物騒な花びらたち。
密集して凶悪性は増しちゃあいるが……逆に言えば花びらがまとまった分、俺のバッシュクラックでも対処が可能ってワケだ……!!
さて……!
「よう……! 悪いな、いつもながら随分と待たせちまってよ……!!」
「〰〰っ! んにゃぁあっ! オジサン!!」
「お、おっちゃん……! えへへ、おそいよぅ……!」
「悪かったって。……頑張ったな、エテリナ、トリア。……ヴァレリアス、二人を頼めるか?」
「ふむ……大きな口を叩いておいて情けの無い話だが……任されよう。だが……勝てるのか、あれに……」
「はっ……! 勝てる確証の無ぇ戦いなんてモンは今までも何度だって乗り越えてきてやったさ……!!」
「ふ、なるほど……! ならば……二人の安全は必ず吾が保証しようとも……!!」
「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」
トリアとエテリナをヴァレリアスに任せた瞬間、まるで『そうはさせまい』とでも言わんばかりに再び大量の花びらを飛ばしてくるヴァルハーレ。
おまけにあちこちから生えたツタ共まで同時に襲い掛かってくる。
「さて……得体の知れない魔物を相手取るってんなら、本来ならその特徴なんかを掴むために、様子見も必要になってくるもんだがよ……!」
が……すでにトリア達がさんざんそいつを引き出してくれてたからな……!!
おかげでヤツの特徴はつかめてる、つまり……!
「――最初っから全力でいけるってワケだ!!」
襲い掛かってきた大量の花びらとツタ。
俺は肉体強化と『傾向限界突破』で限界まで身体能力を強化し、そのすべてをひとつ残らず打ち落としてやる。
「キャアァァア……!!」
……巻き起こる無数の爆発の中で、俺を見据えるヴァルハーレ。
どうだ、わかるか……!!
お前にとって今一番脅威的な……いや少し違うか。
――お前が今もっともその感情をぶつけるべき相手が誰なのかがよ……!!
「キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」
「……よう、スライム越しじゃあない顔合わせはこれが初めてかい……? 随分と、うちの奴らが世話になったみてぇじゃねぇか、なぁ……!!」
俺の言葉を理解してんのかしていないのか……。
だがそれでもゆっくりと、ヴァルハーレは俺の方へと向き直る。
さて……!
「そうだ、それでいい……! おっさんは結構嫉妬深いもんでね、他の奴には目もくれてくれるなよ? ……俺だけを見て、そんでもって――俺だけに、その『怒り』をぶつけて来い!!」




