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第36話 相応の傷みをもって

 うっすらと覚醒していく意識の中で、再び鳴り響く轟音。


 トリア渾身の『キラメテオバンキッシュ』によって一番内側(・・)の着物を攻撃されたヴァルハーレは、こちらの意図通りにそいつを自爆させたようだ。


 その衝撃はもちろん相当なもんだったが……最初のモンとは比べりゃあ雲泥の差と言ってもいい。

 どうやらこっちも思惑通り、残った十枚の着物が俺たちを守ってくれたらしいな。


「……! お、おっちゃん、き、気が付いたんだな……! 今トリア達が……!」


「……あぁ、詳しくはまた話すが……状況は把握できてるよ……。……ネルネ、お前が頑張ってくれてたこともな……?」


「え、えと……わ、わたしはそんな……」


 ネルネに返事を返しながら体に力を入れてみる。

 ……ダメだな。まだ思うようにはいかねぇみたいだ。

 どうにも不可思議な経験をしたが、そうそう都合の良い話は無いってことだな。


 体も動かず、こう声もかすれてちゃあ上手く指示を出すこともできん。

 もうしばらくはみんなに任せっきりになっちまうか……!


 だがもう少し……あと十数分ほどでインターバルも終わるはずだ……!

 そうなれば……!


「――なるほど。相性もあるのだろうが……あのような方法でヴァルハーレの鎧を破壊するとはのう。だが……ヴァルハーレよ、『七大魔王』である其方が、よもやその程度で終わる道理もあるまいな……!」





「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」





「……!!?」


 再びあげられたヴァルハーレの叫び声とともに、自爆攻撃(やくめ)を終えた一番内側の着物が崩壊していく。


 いや、内側だけじゃねぇ……!

 自爆していないはずの十枚の着物さえも、同じようにガラガラと音を立てて崩れていっているようだ。


 残ったのは中心部、恐らくヤツの本体であろう例の彫像の様な部分と、そして……その背中から翼の様に生えている、物騒極まりない満開の花を咲かせた金色の枝。


 着物の崩壊は自爆攻撃の衝撃による影響か……!?

 いや、これは――!!


「〰〰っ!! トリニャー離れて!! ――『サンダーテンペスト』!!」


 俺より一瞬早くそれ(・・)に気付いたエテリナが、トリアに警戒をとばしながら魔法を放つ。


 そしてまさにその瞬間、ヴァルハーレはぐぐっと体勢を捻り、背中の枝をまるでのように羽ばたかせた。

 つまり――!!



 ――ドガガガガガガガガアァアアッ!!!!



 トリアの眼前で炸裂する、無数の爆発。


 さっきまでひらひらと舞い落ちるだけだったあの花びら(バクダン)だが……ヴァルハーレは枝を羽ばたかせるように振るうことで、そいつを任意の方向へとまとめて飛ばしてきたってワケだ……!


 ……エテリナが咄嗟にサンダーテンペストを使ってなけりゃあ、あれがまとめてトリアに襲い掛かってたのかよ……!!


 向こうさんも後がなくなって本性を現しはじめたってところなんだろうが……エンデュケイトの時と同じく、随分と出し惜しみをしてくれるもんだぜホントによ……!!


 七大魔王ってのはみんなこうなのかね……!!


「トリアさんっ!!」


「げほ、ごほ……!! だ、だいじょうぶ……エテリナのおかげでなんとか……! ハクも気をつけて――」


 トリアがそう言い終わる前に、再び羽ばたくような動作にはいるヴァルハーレ。

 まずい、また……!!


「……っ!! ボウガンの攻撃じゃ追いつかない……!! それなら……っ!!」


 一度ボウガンを下げ、体勢を低く構えたハクが口を大きく開く。


「今ならできるはず……ううん、やってみせます!! ――『ホワイトォ……フレーズッ!!』」


 ハクの口元に集まった白い光がそのまま閃光となって、襲い掛かって来た無数の花びらを薙ぎ払う。


 ホワイトフレーズ……!!

 ガングリッドとの戦いの時のように、今のハクは先祖返りの力を自分の意思でコントロールできているみたいだ。


 本来なら、その成長具合に浸っていたいところなんだが――!!



「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」



 どうにもヴァルハーレはそいつを許してくれなさそうだ……!!

 相変わらず歯がゆい状況だぜホント……!


「わ、私もスライムを使えれば……い、いや、今考えるのはそんなことじゃない……! き、着物が無くなって、ヴァルハーレの攻撃は更に直接的になってる……! そ、それならおっちゃんのインターバルが終わるまで……!!」


 瓦礫の陰に隠れながら、それでも臆することなくヴァルハーレを見据えるネルネ。


「と、トリア……っ!! ヴぁ、ヴァルハーレ本体のヘイトはまだトリアに向かってるはず……!! こ、攻撃は諦めて、か、回避に専念を……!!」


「うんわかった!! はぁ、はぁ……! うへへ、ボクもうけっこうギリギリだけど……やるしかないってね!!」


「うにゃにゃにゃ……!! ハクちー! ウチらはトリニャーが動きやすいように援護するよ!! ハクちーは空からお願いっ!!」


「はい!! ……げほ……!! まだ……! もう少し……!!」



「――キャアァァアッッ!!」



 あちこちで鳴り響き続ける爆発音。

 まるで癇癪でも起こしているかのように、トリアに向かって花びらを飛ばし続けるヴァルハーレ。


 エテリナとハクの援護もあり、トリアは何とかそれを躱し続けているが……地面から生えてるツタ(・・)の方はトリアだけじゃあなく、エテリナやハクにも攻撃を向けてやがる……!!


 あれを三人で相手するには……!


「にゃうぅ……! さ……さばききれない……!!」


 ……っ!

 まずい、クヨウ達の方にも花びらが……!



「させません……! ――『蛟櫓渦みづちのやぐらか』!!」



 ドガガガガガガガガァア!!!


 腰の水筒からあふれた水を、忍術を駆使して自在に操るクレハ。

 渦を巻いたような水の膜が、ヴァルハーレの攻撃を防いでくれたようだ。


「っ、流石に強力……! ――クヨウさま、ヒスイさま……! こちらへ流れてくる花弁はわたくしが抑え込みます……! あとはお二人で……!!」


「! ……なるほど、わかりました……クヨウ!」


「はい母上!! はぁあぁぁああっ!!!」


 鬼神装の力により、次々と形を変える雪凪で怒涛の攻撃を繰り出すクヨウ。

 そしてその隙を埋めるように、ヒスイがクヨウを援護する。


 つい先日親子喧嘩をしていたとは思えんほどの連携で、殿サマに肉薄する二人。

 だが……それでも殿サマはその全てを防ぎながら、逆にクヨウ達に幾度となく刃をつきつける。


 二人もそれを何とかしのいではいるが……!


「……っ! やはり、一筋縄では……!!」


「にょほほ、良い連携だ。美しき親子の絆には称賛に値するものがあるが……言うても聞かぬのであれば仕方があるまい……。――殺しはせぬが相応の代償は覚悟してもらうぞ……!!」


 目まぐるしいその攻防の最中、殿サマは攻撃をいなしながらもヒスイとクヨウを分断し、二人は連携を崩される。


 そしてその瞬間、殿サマの刀がクヨウの脇腹を貫き――。




「――申し訳ございません、ザンマさま。先程クヨウさまたちに『お二人で』と任せるような発言をしましたが……わたくしはけっこう、冗談を言う方なのです……!」


 クレハがそうポツリとつぶやくと、脇腹を貫かれたはずのクヨウの姿がすぅっと消えていく。

 これは……!!


「幻影による身代わり……!? いいや、気配すらもか……!!」


「『虚幌空蝉うろぼろうつせみ』……! ――クヨウさま!!」


 クレハの作った幻影の死角の中で、クヨウが巨大な刀を構える……!!

 雪凪の形態変化……! 英雄級のヒスイの刀すら折ってみせたあの……!!


「――おおおおおおっ!!!  『雪鬼ッ!! 怒涛斬ッッ!!!』」







「――なるほど、良い攻撃だ……。だが……余の信念を砕くには、まだ少しばかり精進が足りぬようだったな……」


 巨大な刀身によるクヨウ渾身の一撃……あのヒスイを退けた『雪鬼怒涛斬』さえも、殿サマは躱すでもなく、正面から刀で受け止める。

 さらに……!


「な……っ!? ――ぐぅ!!?」

「がっ……!!」


 間髪入れず、二人を同時に吹き飛ばす殿サマ。

 二人とも、何とか致命傷は防いだみたいだが……!


「ごほ……! くっ……!」


「二刀……!? ……っ、そうだった、ザンマ様は……では今までのあれは、本気どころか……!」


「にょほほ……! 殺さぬように力を抑えるのも、なかなかに骨が折れるものでな……?」


 両手に刀を持った殿サマが、悠々とそれを構える。


 おいおい……!

 じゃあ今までは手を抜くどころか、武器・・すら一つ抜いていたってのかよ……!?


「……『覇道の勇者』の称号……! 特別なスキルや恩恵(ギフト)に頼ることなく、マナによる肉体強化と自身の剣技のみにて道を切り開き、勇者と呼ばれるに至った者……!!」


「これが……これがザンマ様の……『勇者級』の力なのか……!?」




「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!!」




「にょほほ、あちらもいきの良いこと……! さぁどうする若き者達よ……! 余も、あのヴァルハーレも、まだまだ健在しておるぞ……?」


「……っ!」


「なに、余も鬼では無い。……イルヴィス・スコードの服従か死。今ならばまだいずれかをもって、この場を収めても良いと考えておるのだが……」


「そのどちらも、出来ぬと申し上げているのです……!!」


「……で、あろうな。ならば……相応の『傷み』をもって、自身の無力さを嘆くがよい――!!」

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