第33話 満開の花
マイトローチっつう魔物がいる。
一定以上のダメージを受けて瀕死になると冒険者へとつっこんでいき、そのまま自爆するなんて厄介極まりないヤツだ。
威力は比較にもならんが、ダメージを受けた魔物による自爆攻撃ってのはそんなに珍しい話じゃあ無い。
むしろ『憤怒』の化身としちゃあお似合いの能力かもな。
ぼんやりとした意識の中で、そんなことを考えて――。
「――お、おっちゃん……っ!!」
――!
……しまった、少しの間意識がとんじまってたみてぇだ……!!
覗き込むように心配するネルネの顔が見える。
どうやら俺はネルネの膝の上に頭を乗せているらしいが……。
状況から察するに、ブレイブスライムを分離させ、マナを使い切っちまった俺を比較的安全そうな物陰に運んできてくれたってところか――……。
「……っ!」
いかん、落ち着いて呼吸を整えろ……。
気を抜けばすぐ、また意識を失っちまうぞ……!
目線だけを動かして辺りを見渡して見れば……まるで隕石でも落ちたのかってぐらいに、一帯の地面が陥没していた。
……相変わらずむちゃくちゃしてくれるもんだぜ、七大魔王ってやつはよ。
が……衝撃の余波であちこちボロボロになっちゃいるが、何とか人が集まっているような場所への被害は抑えられたようだ。
ブレイブスライムとショータイムウインドウのおかげだなホント……。
夜で敷地内の人が少なかったことも幸いして、恐らく治療も蘇生も出来ないような被害者は出ていないだろう。
「……ネルネ、悪い……! 俺の無茶に……巻き込んじまって……」
「わ、わたしの方は大丈夫だ……!! それよりも、お、おっちゃんが……!!」
悲しいことに、流石にこの規模の自爆攻撃を防いだうえで『ピンピンしてるぜ!』と強がりを吐けるほど、俺の体は若くはねぇようだ。
ダメージだけでもキてんのに、その上マナポーションで無理やりマナを底上げしていたからな。戦闘力解放からの落差も相まって、どうやらマナ欠乏症やポーション中毒なんやらを同時に起こしちまってるみてぇだ。
おかげで体どころか、声も上手く出せんときている。
……ケインとの戦闘後のことを思いだしちまうね、どうにも。
びき、びしびしびし……バキン!
ガラガラガラ……!
……! 爆発の衝撃によってボロボロなっていた敷地を囲う塀の一部が、耐えきれなくなって崩れたようだ。
そこから見える人影、ショータイムウィンドウの効果で声は聞こえないが……。
『いたぞ! 役人共だ!!』
『絶対に逃がさねぇぞ!』
……恐らくそんな風に、相変わらず町の住民たちがブチ切れているだけは見てわかる。
この状況でまだ逃げ出さずにそっちを優先してるってことは、やはりアレもフリゲイトの干渉のせいなんだろうな。
さて……。
「ごほ……! 流石は……エテリナの契約魔法だぜ……。あれだけピンピンしてんなら、ひとまず町の奴らへの被害の心配はいらんだろうよ……」
「お、おっちゃん……! まだ動ける状態じゃ……!!」
そりゃ俺もお言葉に甘えたいところではあるんだがね。
しかしなんせ――。
「たったの……たったの一枚だと……!?」
「あの規模の爆発が、あと十一回も続くと言うのか……!!?」
さっきから聞こえてくる、狼狽えるような役人共の声。
まぁそいつも無理はないだろう。
「……キャアァァ……!」
あの自爆攻撃で爆発したのは着物だけ……それも表面の一層だけときている。
つまり……本体のヴァルハーレはピンピンしてるんだからな……!
確かクヨウが十二単のようだっつってたが……なるほど、それであと十一回か。
分かりやすいが、その分絶望的な現状をも見せつけられるってもんだぜ。
いやになるね、ホント。
「も、問題はない……! 要はこちらから攻撃せねば良いのだ、その間に何か対策を考えればよい……!」
「そ、そうだな! イルヴィス殿が回復したらまた盾になってもらうという手も……?」
役人の一人が勝手なことを言い終わる前に、ヴァルハーレが動きを見せる。
……なんだ? 着物の袖の部分がゆっくりと、広がるように持ち上がっていってるようだが……。
「あれは……? き、金色の……枝……?」
ネルネの言う通り、ヤツの袖口から金色の枝のような物が伸びていく。
それも一本や二本じゃあない、無数の枝が文字通りさらに枝分かれしながら伸びていき、やがてそれは光り輝く花を咲かせていく。
そして……そのうちの一枚。
たった一枚の花びらがひらひらと舞い落ちていき――。
――ゴガアァンンッ!!!
「な――!?」
地面に触れた瞬間、小さな爆発を起こした。
流石にさっきの自爆攻撃ほどの威力は無いようだが……それでもそこいらの上級魔法ほどの威力はありそうだ。
……いや、一番の問題はそこじゃあない。
威力もさることながら、そいつをさらに厄介にしているのが……。
「ごほ……! おいおい花見ってのはよ……もっと春先の、あったかーい季節にやるもんだと聞いてるんだがね……!」
――金色の枝を埋め尽くす、満開の花々。
あれが全部バクダンだっつうのなら……ヤツが花びらを散らせながら町の中を移動するだけで、そこらじゅうは壊滅状態に陥るだろうぜ……!!
「――……キャアァ……?」
「……ひっ!?」
小さく叫び声をあげる役人の元へ、ヴァルハーレがゆっくりと動き出す。
……あの時と同じだ。
七大魔王の行動原理は恐らく、『自身の性質』に沿ったもんになってるんだろう。
ヴァルハーレは『憤怒』の化身、つまり……見定めたってワケだ。
自分を攻撃した相手、すなわち、怒りを向ける矛先ってヤツを――!!
「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!」
「ひ、ひいぃいぃ……!! く、くるなぁーっ!!」
くそ……!! まだ体が動かん……!!
当然だがマナも上手く操作できねぇし、なんなら動いたところでしばらく『戦闘力解放』は使えねぇ……!!
『悪人だから見捨てちまえ』と切り捨てちまえるようなら、最初から庇いやしねぇって話だ……!!
なんとかして――!
「――『メテオパンチ』!!」
……!
ゴガンとヴァルハーレに衝撃が走る。
この攻撃は――!
「ほらほら! こっち! こっちだよ!」
「……! キャアァァア……!!」
――トリア!?
ヴァルハーレの性質を利用し、攻撃を仕掛けて標的を自分に向けたのか……!!
だが……!!
「と、トリア……!! う、うえ……!! は、花びらが落ちて……――!」
そうだ、思惑通りゆっくりとトリアの方へ近づいていくヴァルハーレだが、今度はその花びらがトリアの方へ――!
――ドカドカドガンッ!!!
「え……!? あ、あれは……!」
俺たちの心配をよそに、花びらが枝から離れた瞬間……地面どころかトリアにたどり着くことすらなく、空中で爆発を起こす。
これは……!
「――『ホワイトサイト』……! 攻撃力はいらない……集中して当てるだけでいいのなら、今のハクにでも……!!」
――ハクか!
感覚系の肉体強化……特に目元にレンズ状にマナを集中したハクが、少し離れたところからボウガンを構えていた。
その狙撃は正確無比で、ひらひらと不規則な軌道で落ちていく花びらを的確に射貫いていく……!!
「ほら今のうちだよ! はやくにげて!」
「あ、あぁ……!!」
標的になったトリアが、立ち回りを調整しながらヴァルハーレを引き付け、役人共を逃がしていく。
あの厄介そうな花びらも、トリア達に命中しそうなものは全てハクが空中で処理しているおかげで、被害は思った以上に少ない。
たった二人でヴァルハーレを翻弄するトリアとハク。
これならむやみに攻撃をする必要もないってワケだ……!
そうやって少しでも時間を稼いでくれれば――!
「――キャアアァアアァアァアアァ!!!!」
「……っ!? こ、今度はなに!?」
僅かな光明が見えたのも束の間、再び不気味な叫び声をあげるヴァルハーレ。
これは……!?
「トリアさん気をつけてください! 地面から強い魔素の反応があります!」
「地面!? 足元には……」
「――トリニャー後ろ!!」
「え!? うわっと!!」
屋根の上から叫んだエテリナのおかげで、間一髪でそれを躱すトリア。
だが……!
「こ、これって……」
「地面から……金色のツタのようなものがたくさん生えて……!」
ハクの言う通り、恐らく自爆攻撃や花びらの爆発によってヤツの魔素に汚染されたであろう地面から、無数のツタが生えてくる。
そして……それらがすべて、トリア達に向かって鞭のように襲い掛かってきた。
「うわっ! この……!! ……んにぃぃぃ!! こっちからは本体に攻撃ができないのに、このままじゃ……ぎゃんっ!!」
「と、トリアっ……!!」
ツタの一撃によって、瓦礫に叩き付けられるように吹き飛ばされてしまうトリア。
……クソ! この状況で見ていることしか出来ねぇなんてなんてザマだよ……!!
「けほ……! だ、大丈夫……! すっごく痛いけど、ガマンできるもん……!!」
「トリアさん……!! 花びらの対処は出来てもこのままじゃ……せめて、せめてハクも『先祖返り』が使えれば……! ……――!! もしかして――!」
1時間~2時間に一話のペースで
現パートの終わりまで投稿する予定です




