第32話 アンタと俺とは相いれねぇ……!!
「――力を手にした余と、自らの愚かしさによる痛みを知った民達……その時ミヤビは、真の意味で理想の国となるだろう! ……そのためならば余は、外道と呼ばれる道を推して進むその決意に、何ら一つの曇りもない!!」
「はっ、そいつは大層なこった……!」
壮大極まる殿サマの演説。
どうやらコイツは本当に、心底国のためだと思ってこんなことをしでかしたってワケだ、だが……!
「だがよ殿サマ、例えば……もしその理想の国とやらで、アンタの考えについていけないヤツが出てきたとき……そん時アンタは、そいつを平気で切り捨てちまうのかい?」
「異なことを。無論……ねじ伏せてでもつれていくとも……! 皆が真なる意味で共に手をとりながら進んで行く……そのより良き未来の先へと――!!」
「……決まりだな。アンタと俺とは相いれねぇ……!!」
『みんなでそろって苦難を乗り越え、国民全員で仲良く手を取り合う理想の国』……ね。
結構なことじゃねぇか、是非とも実現させてほしいもんだぜ。
――その国が、こんな方法で生まれるモンじゃなければの話だがよ。
どんなに理想的な生き方だろうと、他の選択肢を奪ったうえで強制的にそいつをさせようってんなら、それはもう日常的に課せられるただのノルマでしかねぇ。
実質、力と思想による支配……弱者も、強者も、殿サマの描いた理想の道を踏み外すことを許されないってワケだ。
そいつを良しとするヤツもそりゃいるかもしれんが……俺だったら御免だね。
なにより……自分の子供を生贄にしちまうようなヤツが語る『理想の国』ってやつがそう良いモンだとは、俺には到底思えんからな……!!
「相容れぬ、か……ならばどうする、イルヴィス・スコードよ……!」
「決まってるさ……!! ヴァルハーレはここでぶっ潰して――」
――ズガアアアァンッ!!!!
「……っ!? なんだ!?」
突如響いた炸裂音に窓の外を見てみると、いつの間にか数人の役人がヴァルハーレに攻撃を仕掛けていた。
「た、民たちよ聞けぃ!! ザンマ様は恐ろしい計画を立てておられた! わ、我らはそれを未然に防ぐため、やむなく手を汚していただけにすぎぬ!!」
「げ、現に城の敷地内には、七大魔王の一体が出現しておるのだ! ザンマ様はこれをミヤビに解き放つ気で……!」
あいつら……!
この期に及んでまだあんな事を……!!
「おっちゃん!! ヴァルハーレが……!!」
役人共の攻撃を受けたヴァルハーレ。
エンデュケイトの時のようにすぐに反撃が始まるかと思いきや、俺たちの意に反してそのままふわりと宙に浮いていく。
だが……もちろんただ逃げるために浮いていく、なんてワケじゃあなさそうだ。
浮かび上がるヴァルハーレに追随するように、水面から巨大な……それこそ、そこいらの建物ほどの大きさもある着物のような物が、ゆっくりと姿を現していく。
布のような、自然物のような、はてまた金属の様にもみえる巨大な着物。
そして……まるでそいつを纏うかのごとく、襟元のように開いた中心部へとおさまるヴァルハーレ。
「あれは……!? 巨大な十二単のようにも見えるが……」
「っは……! ただ豪華な着物でのおめかしってだけなら、おだててやる程度の器量はあるつもりなんだがね……!」
なんならおひねりだって奮発してやってもいい。
……それで大人しくしていてくれるってんならな。
「……っ! ひ、ひるむなー!! リーズシャリオに現れた七大魔王も、無名の冒険者にすら討伐が可能だったのだ! わ、我々が勝てぬ道理などあるはずがない!!」
「あ、ああそうだとも!! 無論、その通りだ!! 撃て撃てーぃ!!」
後に引けなくなったのか、攻撃を続けていく役人達。
「にゃ……!? オジサン! とにかく不用意な攻撃をやめさせないと!!」
「あぁ!!」
ヴァルハーレは未だに、不気味なほどの静寂を保っている。
が……あいつらの余計なちょっかいのせいで、それがいつ崩れるかはわかったもんじゃねぇ。
そう危惧しながら窓の外へと向かおうとした瞬間――。
――ガキィンン!!
「……っ!!」
とっさに戦闘力を限界まで引き上げて、忍ばせておいたナイフで攻撃を受け止める。
物騒な『待った』だぜ……!
相手はもちろん――。
「……残念だが、それをただ許すほど余は慈悲深くは無いぞ?」
――『勇者級』である殿サマだってワケだ……!
「おいおい、そう堅いこと言ってくれるなよ……! ちょっとばかり、アンタの計画をまるっと台無しにしてやろうとしてるだけなんだからよ……!!」
「にょほほ……!! 其方にとっては余と相対する利もないはず……今の内にあれの手の届かぬ場所へと逃げ落ちる方が、よほど賢明だと思うがのう?」
「そうでもねぇさ、俺たちも七大魔王には用があってな……! そのうえでヤツをノしちまえば、町の被害だって食い止められるだろ? ……メリットしかねぇって話だぜ!」
エンデュケイトが出現したリーズシャリオも、今まさに復興の真っ最中だ。
奇しくもマッフィーノの手配した蘇生屋のおかげで人的被害こそ出ちゃいなかったが……今でも多くの人間が、その被害に苛まれている。
『あんな悲劇は二度と起こさせない!』……なんて格好をつけるつもりはねぇが、悲劇なんざ起きないに越したことはねぇからな……!!
なんてことを考えている内も、殿サマは次々と攻撃を仕掛けてくる。
こうしている間にも役人共はヴァルハーレに攻撃を――。
「――おじさま! あのヴァルハーレさんの着物からなんだか……なんだかすごく、嫌な感じがします!!」
……!
ハクの指摘を受け、殿様の攻撃を捌きながらヴァルハーレに注意を向ける。
見たところ何か特別なことをしているようには見えんが、確かにこれは……!
俺だって伊達に長年冒険者をやっているワケじゃあない……! いや、そうでなくともハクの感覚を信じないなんて選択は今の俺にはさらさら無ぇ……!
だとすれば……!
「うにゃにゃ……!! 『シャドウストーク』!!」
足者にのびてきた魔法の影が、まるで剣山のように飛び出して、俺と殿サマを分断する。
「イルヴィス!! ここは私たちが食い止める!! お前とネルネは外へ!!」
「エテリナ、クヨウ……!! ……っ、分かった! 任せる!!」
ほんの一瞬ためらいそうになっちまったが……そうだ、ここは信じて任せるしかねぇか……!
「えー? おじさんってば逃げちゃうのー? なっさけなーい! ……でーもー、黙って逃がすワケないじゃんねー? キャハハハ!!」
窓から外へ向かおうとする俺の前に、今度はジュジュニャンが立ちふさがる。
ハクと同じぐらいの少女に見えるが……フリゲイトだってんなら、それで油断はしてやれんところだね……!
「おっといいのかよ? ……知ってるぜ? お前らフリゲイトが俺たちに本気で攻撃はできねぇってことはよ……!」
「はぁ~? よわよわのくせになにエラそうにしてんのー? 別にホンキなんかださなくても、無傷でおじさんたちを抑え込むコトなんて余裕なんですけどー?」
……無傷で、ね。
やはりフリゲイトは俺たちを意図的に傷つけられないようだ。
となると……どうやらまた一つ、エテリナの仮説は立証されたみたいだな。
「お、おっちゃん……どうする……? た、戦うのか……?」
「いや……ネルネ、トコロテンの話、覚えてるか?」
「と、ところてん……? って…………あ! う、うんわかった……!! ――あ、『アルファスライム』……! お、『オメガスライム』……!!」
「キャハハ! ブレイブスライムってやつー? でもどうせハッタリでしょ、こんな部屋の中あんなでっかいのを使えばどうなるか――」
「――『ミックス』……ッ!!」
「……って、え!? う、うそ!!?」
ネルネのスペルとともに、バラバラになった鎧からあふれ出すスライム。
そのままネルネが袖を振って操作すれば、大量のスライムがジュジュニャンの方へと勢いよく向かっていく。
「わ!? ちょ、ちょっとまってまってなにこれ……わきゃあぁっ!!」
そのままジュジュニャンごと、窓の外へと押し出すようにスライムを操るネルネ。
トコロテン、上手くいったじゃねぇか……!
あとは俺がネルネを背負って窓から飛び出し、空中で大量のスライムと合流すれば……!!
「――ぶ……『ブレイブスライム:ΑΩ』……!!!」
ずしんと轟音を響かせ、大地に降り立つブレイブスライム。
さて……!!
「翠の巨人……!? これは……!!」
「い、イルヴィス殿!!? 人には手を出すなと釘を刺しておきながら、こんな手柄を横取りするような真似など……!!」
「何が手柄だ、人の忠告をガン無視しやがって!! とにかく、俺の後ろに下がって隠れてろ!! でねぇと……!!」
「――キャアアァアアァアァアアァッ!!!!!!」
突如、役人共の攻撃を無抵抗に受けていたヴァルハーレが、悲鳴のような声をあげ始めた。
と同時に、着物の表面が不気味な発光を始めていく。
ハクじゃなくてもわかる……!
どんな攻撃が来たとしても、おそらくコイツは相当ヤバい……!!
下手をすれば城の敷地内どころか、外に詰め寄ってきている町の奴らまで――!!
「――『ショータイムウインドウ、最大範囲展開』!!! オジサン!!!」
「――!! 流石だエテリナ!!」
いつの間にか屋根の上で、敷地全体を囲うように魔法を展開するエテリナ。
ネルネが持ってきてくれていたおかげで、ブレイブスライムの中には背中の一坪もとりこんである。
そこからマナポーションを三、四本取り出して、無理矢理胃の中に流し込む。
「お、おっちゃん……!? そんな風に飲んじゃったらまた……!!」
「わかっちゃいるが、俺の勘が正しければおそらく必要になるからな……!! ネルネ! 『ギガンティックマテリア』を広げて使えるか!?」
「広げて……!? わ、わかった……! す『スライミングセル』、臨界増殖……!!」
増殖したスライムが、盾のような、壁のような形状となって結晶化する。
そして俺がそいつを構えた瞬間――。
……キンッ。
と一瞬、冴えたような音が耳をついた。
嵐の前の静けさ、なんて言葉があるが……俺の本能とでもいうべきモンがそいつを感じ取ったのか、ぞくりと背筋に悪寒が走る。
縁起でもない、なんて考えがふと頭によぎった次の瞬間――。
――おびただしいほど衝撃と熱量、それと凶暴なほどの無慈悲さをもって、それは襲いかかってきた……!!
限界まで蓄積され、一気に解き放たれた膨大な魔素の奔流……!!
閃光と轟音の津波……いいや、もはや壁がそのまま押し迫ってくるようなその光景に俺は……!!
「……っ!! ――やらせるかよおぉっ!!!」
――――ゴガアアァアアアアァアアアアアァアアアンッッッ!!!!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴ…………。
……………………
…………
……




