番外編 ワールズレコード032:ダンジョン名
このお話は《第四章第29話》の中盤あたりの出来事です
「……ここだな。壁の向こう側に明らかに空間がある」
色々と紆余曲折の末、例のセーフスポットへたどり着いた俺たち。
隠し部屋とやらを探すために、俺の『傾向限界突破』で辺りを探ってみると、すぐさま怪しい個所が見つかった。
「壁の向こう側かぁ……別になんてことない普通の壁みたいだけど、またデルフォレストの時みたいに壁をこわしちゃえばいいのかな?」
「で、でも……で、出入りの度に毎回壁を壊さないといけないなら、そ、それはもう隠し部屋っていえないような気もするけど……」
まぁそうだよなぁ。
となると……何か手段があるはずか。
デルフォレストの時ほど緊急性が無い今、わざわざセーフスポットの壁をぶっ壊すってのはなるべく避けたいところでもあるしな。
……いやまぁ仮にそうでなくても、特にこのダンジョンにおいては迂闊な行動でどんなトラップが起動するか分からんってのも……ん?
「どうしたクヨウ、何か見つけたのか?」
「いや、そういう訳ではないのだが……この壁、寄木細工のようになっているな……となると――これは仕掛け箱のような構造になっているのかもしれん」
「えと、仕掛け箱……ですか?」
「あぁ、ミヤビの工芸品の一つでな。簡単に中の物をとりだせないよう、特殊なからくりが施されている箱のことをいうんだ。もしそうならば、ここを開くには正しい順序で仕掛けを動かしていく必要があるのだが……」
「にゃふふ、なるほどなるほどー! 術式なんかが仕掛けられてない分、直接的なアプローチが必要がということですなー!」
鍵開けの魔法なんかが通用しないってことか。
確かにもしそうなら、隠し部屋の存在を知らなけりゃ入口があるってこと自体に気付けないかもしれんな。
「へぇー! なんだかパズルみたいで面白そうだね! えっとうーん……あ! ここ動きそう! えい!」
ごんッ!!
「痛ったい!!」
不用意に壁の部品を動かしたトリアの頭に、鎖に繋がれた分銅のような物が直撃する。
「ぶえぇ……! おっぢゃ~ん……!」
「お前ねぇ……。ホントに学習しないっつーかなんつーか……。ほら、よーしよし……」
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ワールズレコード032:ダンジョン名
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「……あーあ、たんこぶできてんじゃえねぇか。肉体強化使ってなかったら、結構な参事になってたとこだぞホント」
「ぐしゅ……! おっちゃんもっとたくさん撫でて……。あとちゃんと『かわいいよ』って優しく言うのも忘れないで……」
……いやまだがっつり余裕あるなコレ。
そこそこ撫でてやったらスライムにバトンタッチしてやろう。
「どうやら正しい手順を踏まねば、こうして痛い目を見るようだな……」
「トラップと連動してんのかよ……。さて、どうしたもんか……」
「――にゃっふっふ……!! オジサンオジサン? まさにこういうことにうってつけな、頭脳明晰でセクシー極まりない人物をお忘れではないですかなー?」
……っとそうか、うちにはコイツがいたな!
セクシー云々はスルーしておくとして、エテリナの頭なら容易く……とまでは流石にいかんかもしれんが、比較的安全に仕掛けを解くことが可能かもしれん。
いざとなればトラップは俺が防いでやればいい。
となれば早速……。
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ……!! ――がちゃり。
……ん?
「ひ、開いたぞおっちゃん……」
「「「えぇぇぇーーーっ!!?」」」
ネルネ!?
いやいやいや、いとも容易くなんてスピードじゃないぞこれ!?
「す、凄いですネルネさん! もう全部解いちゃったんですか!?」
「う、ううん……ちょ、ちょっとした隙間があったから、ピッキングスライムを使ったんだ……。魔法がかかってない仕掛けだっていうなら、お、応用できるかもと思って……」
み、身も蓋もねぇ……。
バンダルガで地下室を探る時は助かったりもしたが……まさかダンジョンさんサイドもこんな方法で開けられるとは思わなかったろうな……。
「にゃうぅ……ウチのでばん……」
「ま、まぁいいじゃねぇか、手間が省けたのは確かなんだし……な?」
……………………
…………
……
「ここは……しょ、書斎のようにも見えるけど……」
「書き物机にー、あと本棚もあるね。全部からっぽみたいだけど……」
「随分と年季が入っているな。このダンジョンが見つかったのは六十年程前の話で、ザンマ様がここを攻略したのが……確か、四十年と少し前だと私も聞いたことがあるが……」
その時からここを使ってたってのか?
そりゃ年季が入ってくるのもうなずける話だが……。
「そういえば、このダンジョンって『ザンマレジデンス』っていうんでしたよね? お殿さまのお名前とおんなじですけど……何か関係があるんでしょうか?」
「あ、そ、そうか、ハクはまだそのあたりよく知らないんだな……。え、えと……う、生まれたばかりだったり、発見されたばかりのダンジョンには、さ、最初から名前がついているワケじゃないんだ……」
「にゃふふ! ダンジョンが自分から『ぼくの名前は○○です!』って自己紹介をしたなんて話、今のトコロは聞いたことが無いしねー?」
そりゃ今後も無いと思うね俺は。
……無いよな?
おっさんちょっと嫌だよ?
自己紹介までかましてくるダンジョンのハラの中に入んの。
「えーっと、最初の踏破者……つまり、ダンジョンの最深層にいる『ダンジョンボス』を倒してダンジョンを『攻略』したって認められた冒険者が、そのダンジョンの『命名権』を持つ……んだっけ?」
「うむ、そうだな。故に飛行船でぶつかったあの雲型のダンジョン……あそこはまだ完全には攻略されていないため、名前も付けられていなかったという訳だ」
「あ! じゃあこのダンジョンを最初に攻略したのがお殿さまだから、ザンマレジデンスっていうんですね!」
ま、そういうことだな。
「でも、なんだかちょっと不思議ですね? 最初に発見した人じゃなくて、最初に攻略した人が名前をつけるのって」
「あぁ、浅層は『洞窟型』のダンジョンでも、奥に進むと実は『地下都市型』のダンジョンだった、なんてのも珍しい話じゃねぇからな。最下層まで潜った冒険者ならほれ、間違いなくその辺も把握してるだろ?」
「「あ、なるほど~!」」
納得したように頷くハクと……ん?
いやだからなんでトリアまでそっち側なんだよおかしいだろ。
……はぁ、まぁ今さらか。
「んで、その辺りの情報と命名権を組み合わせて、冒険者ギルドに申請。その後、ギルドを通して世界国家連合に承認されれば、晴れてダンジョン名がつけられるって寸法だ」
「それじゃあ、デルフォレストとかハーミナイトラグーンとかについているのも、攻略した冒険者さんの名前なんですか?」
「いや、特にこだわりが無けりゃあ、そのまま攻略した奴の名前をつけるのが普通なんだが、必ずしもそうしなきゃいけないってワケじゃあない。例えば……俺たちみたいな数人パーティの冒険者なら、全員の頭文字をとったり、なんて風にな」
他にも家名だったり、飼ってるペットの名前だったり、好きな小説の登場人物だったりといろいろだ。
まぁあんまりアレな名前を申請しようとすると『不適切な文字が含まれています』っつってやんわり怒られるんだが。
ギルドに所属していない、どこぞのお偉いさんお抱えの冒険者だったりすると、攻略した本人を差し置いて、そのお偉いさんの名前をつけるってのもよく聞く話だったりもするな。
それどころか、全然関係のない冒険者から金で命名権を買ってまで、自分の名前をつけたがるヤツってのもまぁ少なくないらしい。
自分の名前が後世まで残るってのが魅力的に見えるんだろうが……つっても、ダンジョンってのはいつかは枯れちまうもんだからなぁ。
金で権利を買ってまでどうこうってのも、虚しいもんだと思うがね俺は。
「さて、とりあえず何か手がかりがないか、もう少し探ってみるか」
「はーい」
しかし見たところ、正直たいした情報は期待できそうにない。
となると……このタイミングでのヒスイの登場を考えりゃ、俄然、御家老さんを含むあの役人どもが怪しくなってくるか……。
「……ねぇ、オジサン」
「あぁ、わかってるよ」
んでもってそうなると……ヒスイはやはり、あっち側の人間ってことになっちまうんだろうな。
となればクレハも……。
……憂鬱だねぇ、どうにも。
さっきの今で、クヨウにそれを伝えなけりゃならんってのはよ。
…………いやまてよ? そういやあの時……。
だとすればひょっとすると――。




