第27話 右手だけ
「――『鬼神装……顕現』……!」
腕輪を装着し、呟く様にその言葉を唱えるヒスイ。
そのままどこからともなく現れる巨大な甲冑を身にまとい、クヨウと同じ、あの『鬼神装』へと姿を変える。
だが……。
「……! そんな――」
「『玄涜』を使えるのが自分だけだとでも思いましたか? ……まったく、この程度の物に振り回されるとは……」
……これが、クヨウとの決定的な違い。
ヒスイはクヨウと違い、あの『鬼神装』とやらをまとっても暴走状態のようにはならないようだ。
適正みたいなもんがあるのか、それとも……。
「……秘刀『雪凪』。そして、鬼神装具『玄涜』。どちらもフゥリーン家に受け継がれている家宝と等しき存在であり、そしてそのどちらも……フゥリーン家の思想とは真逆の存在でもあります」
秘刀『雪凪』……?
確か……クヨウの家で『玄涜』と共に飾られていた刀のことだな。
「秘刀『雪凪』は変幻自在の刀身を持つ、千変万化の魔刀……マナ込め方とその量によって、その刀身を様々な形へと変貌させます」
クヨウを一瞥しながら、その手元の刀へと目を向けるヒスイ。
……流石に細かい装飾までしっかり覚えちゃいなかったが、クヨウが普段使っている刀はあの『雪凪』だったのか。
「斬撃の際は打刀、突きを繰り出す際は直刀、小回りのきく短刀から、長柄を持つ長巻まで……。もっとも、生来マナの少ないお前にとっては、それほど大きな変化をさせることは難しいでしょうがね」
「……っ!」
クヨウの表情から察するに、どうやらその指摘は正しいらしい。
実際俺も、あの刀がそれほどの変化をしたところを見たことは無いからな。
「そして……この鬼神装具『玄涜』。特殊な空間に封印された『鬼神装』を顕現させる鍵でもあり、これ自体がその鬼神装の一部でもあります」
腕輪に指先をそえながら、ヒスイは説明を続けていく。
特殊な空間っつーと……俺の『背中の一坪』や、エテリナがネルネに渡していたあのマジックアイテムみたいなモンか。
「『鬼神装』は大気中からマナを吸収し、纏うものに大きな力をもたらしますが……その力はマナと繋がる『魂』にも大きな影響を及ぼします。すなわち……」
「……代償として、心を喰われた装着者はやがて死に至る……」
「その通りです。もっとも私はそうならないよう、腕輪の力を抑えていますがね。……こうなってしまえばこの『鬼神装』も、少し質の良い装備品程度の甲冑にすぎませんが」
……なるほどな。
腕輪の力を抑えれば、暴走はしないが本来の能力は発揮できない。
そしてその逆も……っつうワケか。
「確かにどちらも、ただの装備品として見るのであれば強力な物ではあるでしょう。ですが……フゥリーン家では、このどちらも是とはしていません。……それはクヨウ、お前も良く分かっているはずです」
「……不純を捨て、『自らの心』と『自らの技』と『自らの肉体』をもってのみ、己が剣と成す……」
「そうです。伝統やしきたりをないがしろにしたあげく、フゥリーン家の教えや誇りさえも捨てさり……さらにはこんなものに頼って尚この程度……。お前が独りよがりで身に着けた力など、まるで児戯にも等しい」
「……っ!!」
「何百、何千もの先人が残してきた教えと、たった一人のお前の、その覚悟という名の我儘。比べるまでもなく、己が使命に背を向けたうえでのそんなものに何の価値もありません。……今這いつくばっているお前の姿が、その何よりの証拠」
「……っ、ぐぅ……!!」
クヨウが唇をかみしめる。
「……惨めで、無様で、哀れな我が娘。ですが……それも許しましょう。今ここで、今までの過ちを認めると言うのであれば――」
「私……私は――!!」
「――大丈夫だクヨウ。今までお前の積み上げてきたモンが無駄なんて、そんなことがあるもんかよ」
「……! ……イル、ヴィス……?」
震えるような声とともに、小さくこっちへ振り向くクヨウ。
……あぁほれ、そんな辛そうな顔してくれるなってのに……可愛い顔が台無しだぜホント。
「……また貴方ですか。先程も申しあげましたが、これはフゥリーン家の問題……軽々しく口を挟まないでいただきたい」
「ま、クヨウが『受けてたつ』っつった以上、俺としてもそのつもりだったんだがね。だが……」
相変わらず当たりの強い視線を受け流しつつ、俺は言葉を続けてやる。
「……アンタがそうくるなら、口を挟むどころか手まで出すつもりだぜ俺は。……わかるかい? 『自分以外の力』に頼ってんのは、アンタも同じじゃねぇかって言ってんのさ……!」
「……何を言うかと思えば。この『鬼神装』のことをおっしゃっているのでしたら、的外れも甚だしい。こんなものが無くても私は――」
「違うっつの。……本当にアンタ、気付いてねぇんだな」
「! 何を……」
「――伝統だのしきたりだのと、自分以外の他人が作り上げたモンを仰々しく掲げあげて……そいつを正論ぶって振りかざしてることにだよ……!!」
「……!」
そのうえさらにクヨウの覚悟や歩んできた道を、まぁ惨めや無様だのと……。
まったくもって、良い気分のしない話だぜホント。
「……フゥリーン家の歴史を愚弄するおつもりですか……!」
「おっと勘違いすんなよ? そいつを否定するつもりはねぇのさ俺は。過去の先人が積み重ねてきたモノの大切さ……結構なことじゃねぇか、なぁ?」
「ならば……」
「だがその大切なモンをだ……! 実の娘を無理やり従わせるためにむやみやたらと振りかざす、それが気に食わねぇと言ってんだよ……!! そんなモンがアンタの言う『誇り』ってヤツなのかい!?」
「――〰〰っ!!」
「…………イルヴィス……」
「……なぁクヨウ、薄情なように聞こえちまうかもしれねぇが……俺はおふくろさんが本気でお前と向き合って、その結果もし、お前が心から納得して故郷へ帰るっつうなら……それも仕方ねぇと思ってたんだよ」
……これは本当だ。
たとえ結果的には同じことを言っているのだとしても……それがヒスイ自身の言葉によるもので、さらにクヨウが自らその道を選ぶのであれば、俺は本当にそれでもいいと思っていた。
――だが……!
「だがこれは違う……! おふくろさんはただ、お前の心を折りにきているだけなのさ……! それも自分の言葉じゃあなく、お偉いお偉いご先祖様の威ってヤツをガンガンに拝借しながらな……!」
「……っ、黙りなさい……!」
「最初からクヨウと向き合うつもりなんざんねぇんだろ? そのうえで押しつけようとしている……『自分の思う正しさ』ですらない、他人の作った『フゥリーン家の正しさ』ってヤツをよォ!!」
「――黙れと言っているのですッ!!」
俺の言葉に目に見えて激高するヒスイ。
……それができるならなんでもっと――。
「貴方に……貴方に何が分かると言うのですか……! フゥリーン家の何が……!!」
「……さぁてな。そんでもって、悪いが黙っていてはやれないね。……言ったろう? 口を挟むどころか手まで出すってよ」
ヒスイに向けてひらひらと、これ見よがしに右手を掲げてやる。
「……とはいえクヨウ、確かにこの決着はお前の……お前自身の手でつけなきゃならんもんだと、俺も思っている。……それがどんなに不利な相手だとしてもだ。だから……」
そうだ、だからこそ――。
「――俺が出す手は、この右手だけだ」
少し書き貯めてた部分があったんで
調子良くて筆がのれば、次話も今日中に投稿できる……かもしれません




