第26話 それを証明してみせる!!
「あの方が……クヨウさんのおかあさま……」
「あぁ。数年ぶりの顔を合わせがよもやこんな場所でとは、私も思いもしなかったがな……」
クヨウの母親か……。
確か五年前にサーリープラトーで話を聞いた時は、父親とあわせて相当に腕の立つ冒険者だっつってたが……。
「しかし何故ここに母上が……? いや……そうかクレハ、お前が……」
「……申し訳ございませんクヨウさま。ですが……フゥリーン家に勤める者として、クヨウさまのご動向を報告しないわけにはまいりませんでした……」
「いいんだクレハ、責めるつもりはない。フゥリーン家のそういった部分は、私も良く分かっているつもりだ」
……なるほどな。
俺たちがここへ来るのを知っている様子だったのはそういうワケか。
しかし……。
「――良く分かっているつもり、ですか。フゥリーン家としての責務も果たさぬお前が、よくもそんなことを言えたものですね」
……わざわざこんなダンジョンの中で待ち伏せていたことといい、こいつはどうにも良い雰囲気での親子の再会ってわけにはいかなさそうだな。
「母上……。……お叱りは甘んじてお受けします、ですが私は――!」
「お前の未熟な考えなど聞いてはいません。……やはり御屋形様が許したとはいえ、冒険者として独り立ちをさせるのは誤りだったようです」
クヨウの言葉に耳を傾ける様子もなく、おふくろさんは懐から何かを取り出す。
あれは……飛行船のチケットか?
「手配は全てこちらで済ませてあります。……クヨウ、すぐにミヅハミへと戻りなさい。そして今度こそ……フゥリーン家の者として正しい生き方へと、その身を投じるのです」
「!? 母上私は――!!」
「聞いてはいないと言ったはずです。……これ以上の言葉を、この母に言わせるつもりですか――?」
「……っ!」
「……いやぁ、そいつはちょっと横暴なんじゃないっすかねぇ?」
睨み合う親子を遮るように、二人の間に割って入りこむ。
……感動の再開に水を差すようで悪いが、クヨウのおふくろさんとなりゃあ是非とも挨拶はしておかねぇとな。
「……イルヴィス・スコード殿、ですね。お初にお目にかかります、ヒスイ・フゥリーンと申します」
「こいつはどうもご丁寧に……名刺とかなくて申し訳ないっすね?」
「……娘が大変お世話になっております。ですが……これはフゥリーン家の問題です。部外者は口を挟まないでいただきたい」
おっとスルーか。
どうやら冷たい態度は娘にだけってワケじゃあ無いらしいが……。
「いやいやおふくろさん、お気持ちは分かりますよ? しかしこれがそういう訳にもいかねぇっつーか……」
「何を……」
「なんせほれ……。――俺はクヨウのことを、部外者だなんてこれっぽっちも思ってないもんでね……!」
「! ……」
丁寧な口調とは裏腹に、刺すような視線をぶつけてくるヒスイ。
……そう睨んでくれるなって。
まぁこっちも悲しいかな、痛い視線ってのには随分と慣れてるからな。
怯んでやるつもりは毛頭ないんだが。
俺はクヨウの前に陣取ったまま、更に言葉を続けていく。
「悪いが本人が望んで帰るんならまだしも、そうじゃないってんならもう少し話を聞いてやってくれませんかね?」
「イルヴィス……」
「いや情けない話、俺もクヨウには助けられてるもんでして、このままはいサヨナラっつうのはどうにも納得できないんすよ」
「……随分と戯れたことをおっしゃるのですね。おおよそ成熟した者の発する言葉とは思えません」
「そうですかい? いやすいませんねぇ手本にならない悪い大人で」
「……軽薄な、話になりません。――クヨウ、今ならばまだこれまでの蛮行にも目をつぶりましょう。自由の身は十分に楽しんだはずです。ならば――」
ヒスイは目の前の俺を無視して、直接クヨウに語りかける。
つれないね、どうにも。
「イルヴィス、私は……」
「……わかってるよ。そいつをそのまま、おふくろさんにぶつけてやりゃあいい」
俺がそう言ってやると、一度小さく目を伏せるクヨウ。
そして……再び強い決意と共に、母親を見据えるように目を開く。
「母上……! 私はイルヴィスと……彼らと共に進みたいと、心よりそう思っています! ですから……このまま一人で故郷へと帰るわけにはまいりませぬ!」
「……それは、フゥリーンの伝統をおざなりにしても……と、そう解釈してよいのですね?」
「もとより……いいえ、数年前のあの日から、覚悟の上です……!!」
……良い啖呵じゃねぇか。
これは俺が出しゃばる必要はなかったかな?
「……そうですか。そうまで言うのならば仕方ありません」
小さくため息をつきながら、ふいっと視線を外すヒスイ。
……一瞬、ほんの一瞬だけクヨウの言葉に納得してくれたのかとも思ったが……どうやらそういうワケでもなさそうだ。
何せ――。
「――刀を抜きなさい、クヨウ。お前の浅き考えに、今ここで引導を渡してあげましょう」
――何せ、こうして実の娘に刀を向けているんだからな。
……………………
…………
……
「はぁあああぁああっ!!!」
「……ふっ!」
ガキンガキンと、刀を交える音が響き渡る。
親子喧嘩にしちゃあこの上なく物騒だが、クヨウが『受けてたつ』っつうなら、俺はそいつを見守ってやるしかない。
……もどかしいもんだよ、ホント。
「……どうしました? やはりお前の覚悟とはその程度の物だったのですか?」
「っ!! まだこれから……! いいや、ここから推し切る!! ――『雪花の太刀』!!」
ヒスイの攻撃に合わせ、クヨウが完璧なタイミングでカウンターを放つ。
本当にこれ以上の無い、完璧なタイミングで――。
「――……『雪那の太刀』――」
瞬間、カウンターを仕掛けたはずのクヨウの体が、逆に大きく仰け反らされる。
とっさに防御して致命的なダメージは免れたみたいだが……。
……本当に、これ以上の無い完璧なタイミングだったはずだ。
だが単純に、ヒスイの剣速はさらにそれを上回っていた。
これは……。
「技さえ決まれば、一矢報いれるとでも思いましたか? ……無駄と知りなさい、お前のような者に後れを取るほど、母は衰えてはおりません」
「げほ、っつぅ……! ――まだです、まだ!!」
「……我が娘ながら哀れな……。大方、あの殿方に対する浅い恋慕のような感情を、信頼や絆のような高尚な物と履き違えているのでしょうが……」
「!? わ、私はそんな――!!」
「たぶらかされていると言っているのですよ、お前は。曲がりなりにも『勇者候補』と称されるその力を、未熟ゆえの青さと共に利用されている……情けない、本当に……」
「……っ!! イルヴィスは……」
ヒスイの挑発的な言葉に、ぐぐぐと態勢を立て直すクヨウ。
そして……。
「――イルヴィスは断じてそのような男では無い!! 決して!!」
「……どう違うと言うのです? 仲間というのは共に高め合ってこそ……かように未熟なままのお前がそれを口にしたところで、塵芥ほどの説得力もありません」
「ならば私が……! 私がここで母上に勝って! それを証明してみせる!!」
……!?
クヨウ、そいつは――!!
「――『鬼神装……顕現』ッ!!!」
叫ぶように『玄涜』を装着すると、それに呼応するように現れる巨大な甲冑。
そいつを身にまとい、クヨウは再びあの『鬼神装』へと姿を変える。
クヨウ、お前は――!
「――オオォオオォオオッッ!!!」
「……秘刀『雪凪』だけでは飽き足らず、鬼神装具『玄涜』まで……。どこまでも愚かな……!!」
獣のような雄叫びをあげながらクヨウが繰り出す斬撃の全てを、いなすようにして無力化していくヒスイ。
いやそれだけじゃあない……!
こいつは――!?
「……クヨウ。お前のその太刀筋の、礎となった剣術が誰のものか……忘れたわけでは無いでしょう……!」
瞬間、怒涛の連撃をかいくぐるようにして、ヒスイがクヨウの懐へと潜り込む。
そして――。
「――ハァァッ!!!」
突き出されたその刃によって、防ぐ間も無く破壊されてしまう『玄涜』。
……そして同時に、バキンと砕けるようにして巨大な甲冑も消滅していく。
「はぁ……!! はぁ……っ!! そん、な……!!」
膝をつき、瞬時に現状を理解したであろうクヨウは、狼狽の色を隠せないでいるようだ。
……無理もない、俺だってあの姿のクヨウには随分手を焼かされたんだ。
それをこうもあっさりと……。
『鬼神装』を装着していた時間が短かったせいか、あの時のように気絶するまではいかなかったみたいだが……。
「おっちゃん……! このままじゃクヨウが……!」
「……」
「……? おっちゃん……?」
「――理解しましたか? クヨウ、お前の謳う覚悟などはこんなもの……所詮はこんなものなのです」
「……っ! 私、は……!」
かつかつと、膝をつくクヨウの元へ近づいていくヒスイ。
砕かれた『玄涜』がその足元で、うにうにとうごめきながら元の腕輪の形へと集まっていく。
ヒスイはそれをひょいと拾い上げると……。
「見ていなさい、そして……自らの愚かしさを噛みしめると良いでしょう。――『鬼神装……顕現』……!」




