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第25話 なんだってこんなところに

「んしょっと……にゃふー! やっぱりこの解放感はたまんなーい!」


 ダンジョンへと足を踏み入れて少し歩を進めると、エテリナが唐突に上着を脱ぎはじめ、相変わらずネジの外れたいつもの下着のような格好へと変貌する。


 ……毎度どうかと思うがねこの光景は。


「オジサンに調教されちゃって、普段のエテリナちゃんってばすっかり常識人の仲間入りですからなー?」


「常識人は()もちゃんとしたモンを履くんだっつの。つか、ダンジョン(ここ)ならまだしも、街中で調教とかいうセリフを堂々と口走るんじゃねえぞ?」


「だいじょーぶだいじょーぶ! ウチってばホワイトな目で見られるのはもう慣れっ子だからねー?」


 おっさんの社会的信用は毛ほども大丈夫じゃねぇんだよ。

 ただでさえ、悪い意味でも名が知れちまってるってのに……。


「? 調教……ですか? えっと、お馬さんとかを訓練したりすることですよね? どういう……?」


「にゃふふ! いえいえハクちー、この場合の調教っていうのはねー……」


「おいやめろ」


 このやりとり何度目だよ。

 あんまり耐性の無い他の三人が、顔を真っ赤にしちまうのも含めてな。



「……にゃ、そーだそーだ! えーっとちょっと待ってねオジサン……あ、あった! ネルネルはいコレ!」


「え……? えと……あ、こ、これってもしかして……」


「にゃふふ! お察しのとーり、頼まれていた例の物ですぞー!」


 突然、預かった上着のポケットをごそごそとまさぐったかと思えば、アクセサリーのような物を取り出してネルネに手渡すエテリナ。

 頼まれていたものっつーと……。


「お、じゃあ完成したのか? あの……」


「そう! うちのコレ(・・)とおんなじでー、ちょっとした物を収納できるマジックアイテムってカンジ?」


 両腕を抱えて胸を強調するように、胸元のマジックアイテムを見せつけてくるエテリナ。

 確かエテリナのいかつい(・・・・)杖は、普段はこん中に入ってるんだったな。


 ……分かった分かったから、わざわざ俺の方へ向けてくんじゃないっての。

 また痛い視線にさらされちまうだろうが。


「と言っても、ネルネルに合わせて作ったとはいえ……前にも話した通り、コレは完成品とは言いがたいからねー? 装備スロットを一つ使ったうえでも、収納できるのはバラバラ状態の鎧くんたちだけになっちゃうけど……」


「う、ううん、それでも十分だ……。わ、わたしも背中の一坪(リビングパック)みたいに、空間操作系のアイテムバッグを探してみたんだが……て、適性するものが無かったからな……」


 そいつを一ヶ月ちょっとで造りあげちまうってんだから、改めてエテリナの規格外っぷりを実感するね。


 マーカースライムを仕込めるスペースも完備されていて、紛失対策も万全。

 これで戦闘中に、わざわざネルネへ鎧を放り投げる手間が省けるってワケだ。


「ではではさっそく、装備といきませうー! ほらほらオジサン、ネルネルに装備させてあげて!」


「俺が? ネルネも自分で装備はできるだろ?」


「にゃふふ! ダンジョンで万が一『装備酔い』を起こしっちゃったら危険でしょー? 装備の紐付けは、この中じゃあ一番オジサンがじょーずだしね?」


 装備酔い、か。

 まぁ確かに一理あるが……だったらもうちょっと早く渡してくれたら済んだ話なんじゃねぇのこれ?


 まぁいいか、とりあえず……


「どうするネルネ? 自分でやるってんなら『夢幻の箱庭(むこう)』にでも……」


「う、ううん……。す、少しでも急がないと、じ、時間も無いかもだし……お、おっちゃんにお願いしてもいいかな……?」


「まぁそいつは構わんが……。そんじゃ壁に軽く手をついて、背中を向けてくれるか?」


 装備の紐付けはなんつーか……心臓(・・)に近い位置に手をあてる必要があるからな。

 さすがに前から(・・・・)触るわけにはいかん。


「え、えと……うん……。……お、お願いしておいてなんだけど、こうやっておっちゃんにやられるのは、す、少し恥ずかしいな……」


「……なんかおっちゃんやらしいんだけどー?」


 なんでだよ。

 そいつはお前の心の方が汚れちまってるんだと思うね俺は。


 そんな理不尽さを感じる中、ネルネがそっと壁に手をつく。

 そしてその瞬間――。


 ――くるん、ぱたん。

 …………え?



「………………た、たすけてぇ~……」

「ネルネーー!!?」



 突然どんでん返し(・・・・・・)のようにくるりと回転した壁の向こうから、ネルネのか細い声が聞こえてくる。

 そして入れ替わるように出てきたのは……


「カラクリゴーレム!? ええい、とりあえず蹴散らすぞ!」


「あいさー!」


 ……………………

 …………

 ……



「はぁ、はぁ……し、心臓に悪いぜホント……」


「ご、ごめんおっちゃん……。し、心配かけて……」


「いや大丈夫だ、しかし……こいつは本当に、慎重に進まねぇとなぁ」


 ネルネと入れ替わるように出てきた魔物(モンスター)を倒したのち、もっかい同じトラップを起動させると、くるりと再びネルネが戻ってくる。


 ……これがこのダンジョン――『ザンマレジデンス』の特徴ってワケだ。


 厄介なことにここのトラップは天然……という言葉があってんのかは分からんが、他のダンジョンのように『ダンジョンからトラップが生まれる』んじゃあなく、『ダンジョンの構造自体がトラップを構成している』らしい。


 いつものダンジョンのを『後付け式』トラップとするなら、ここのは『内臓式』とでも表現すればいいのかね。


 おかげでハクの魔素探知にひっからないトラップも多く、階層図は手放せん。

 まさに噂に聞く『からくり屋敷』ってやつだな。


「にゃふふ! 確かにこれは随分と厄介そうですなぁ」


「えっと……ご家老さんって方のおはなしでは、目的の『セーフスポット』は二十二階層に有るんでしたよね、おじさま?」


「あぁそうだな」


 ザンマ(・・・)レジデンスはその名の冠する通り、最初の踏破者……つまり、初めて最深層の『ダンジョンボス』を倒してこのダンジョンを『攻略』したのが、全盛期の殿様なんだそうだ。


 しかもそれをパーティも組まず、たった一人で成し遂げちまったらしいってんだから、恐ろしい話だぜホント。

 ……いやホントマジでな。


 そういった経緯もあるせいか、殿様にとってもここは思い入れの深いダンジョンの一つであるらしく、ちょくちょく一人でふらりと立ち寄っていたらしい。


 まぁそんなワケで……。


「ザンマ様しか知らぬ何か(・・)が、ここにはあるかもしれない……か」


「ま、そいつがおかしくなっちまった原因と関係しているかは、ひとまず調べてみねぇことにはな」


 ご家老さんの話じゃあどうやらそのセーフスポットの周辺に、殿様しか知らない隠し部屋(・・・・)みたいなモンがあるらしいが……。


「い、以前わたしたちみたいに調査に来た人は、み、みんな無事には帰ってこなかったって言ってたけど……そ、それもやっぱり、このトラップのせいなのかな……?」


「……どうかねぇ。まぁもう少し進めば何か見えてくるもんもあるかもしれん。……あくまでも慎重にな」



 ……

 …………

 …………………


 ――翌日、ザンマレジデンス第二十一階層。


 途中休憩なんかも挟みながらではあるが、階層図を頼りに最短ルートでここまでやってきた。


 ……いやもうホントマジで大変だったぜ……。

 トラップもさることながら、隠し通路やらランク高めの魔物(モンスター)やらと、行く手を阻む障害には事欠かなかったからな……。


 つっても階層図のおかげで、トラップなんかの位置はある程度分かってんのよ?

 しかし出てくる魔物(モンスター)どもがこう……ソリッド属特有の無駄のない動きで、的確にトラップへと誘導してくるんだよなぁ……。


 改めて、『夢幻の箱庭』のありがたさを痛感するねホント。

 あそこが無けりゃあここまで来るのに、相当疲弊しきっちまってるって話だ。


「うぇえええん、もうやだぁぁあぁ……。もうあの『きりきり』ってトラップが起動する音聞きたくないいぃぃいぃ……」


「ほらトリア、私も泣き言を言いたくなるのは分かるが……もうすぐ例のセーフスポットに到着するからな?」


「トリアさんよしよし……お背中を撫でてあげますから、もう少し一緒にがんばりましょうね?」


「ぐしゅ……うん」


 ……相変わらず、どっちが年上なのか分からんね。


 まぁ俺も気持ちは痛い程に分かる。

 一番トラップに引っかかっちまってるトリアほどじゃあないが、おっさんもそろそろうんざりしているところだ。


 しかし……殿様はここを一人で散歩してたってのか? 

 バケモンかよ……。


 だがクヨウの言う通り、階層図によればここを抜けてもう少し進めば――。




「――……どうやら、ようやくおでましの様ですね」




 ……!

 少し広めの、大部屋の様な空間に足を踏み入れた瞬間、俺たちの前に二人の人影が現れる。


 一人は俺と同い年か少し下ぐらいの女性で……あの角は、オーガの亜人だな。

 しかし……佇まいというか雰囲気っつーか、そういったもんが誰かに似てるような……?


 ……ん?

 隣に座ってんの、あれクレハじゃねぇか。

 なんだってこんなところに……。


「……っ!? 母上……っ!?」


「……へ?」


 ……クヨウのヤツ、今なんつった?

 俺の耳がぶっ壊れて無けりゃ、確かに――。


「母上? っていうと……えぇ!? じゃああの人クヨウのお母さん!? お母さんなの!?」


 ……マジか。

 いや、それこそなんだってこんなところに……。

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