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第24話 大げさな言葉じゃないんだろう

「――イルヴィス殿おおお!! 申し訳ございませんでしたああああ!!」


「うおっと!? ………………え?」


 ご家老と呼ばれていた爺さんがものすごい勢いで走ってきたかと思えば、さらにそのままの勢いで床に頭をこすりつける。


 ……いや状況が呑み込めん。

 『これが本場の土下座か……』なんてのんきなことを考えたりしていると、頭を起こしたご家老さんが、ぱんぱんと二度手を叩いた。


 するとそれに応えるように、どこからともなく現れる人影……って――。


「ささ、どうぞ遠慮などなさらず……! こちら、金色のお菓子となっておりますゆえ、何卒お納めくださいませ……!」


「「「「お納めくださいませ」」」」


「いや多い多い! 何人いんのこれ!?」


 ずらりと並んだその全員が、ずいっと重箱のようなものを差し出してくる。

 いやもう圧がすごい。


「先程の場では大変なご無礼を……! お詫び……という訳ではございませぬが、こんな時のためにいつも用意させていただいているのでございます」


「この量を!?」


 まぁ確かに、あれからもずっと嫌味なのか自慢なのか分からん話をただひたすらに聞かされると言う、ちょっとした地獄を体験したワケだが……。


「いやでも、確かミヤビで金色のお菓子(・・・・・・)っつーとあれっすよね、賄賂とかそういう……いくらなんでもコイツらの手前、そういうモンを受け取るわけには……」


「いえいえいえ、その辺りも問題ありませぬ……! ご心配なさらずとも今回のこちらは全て、黄金鶏こがねどりの卵を使ったカステラとなっておりますので……!」


「あぁ、本当にただの金色のお菓子なんすね……いやいや! だとしてもこんな大量に食えねぇよ!!」


 血糖値ブチ上がってぶっ倒れるわ!!



 ……

 …………

 ……………………


「もしゃもしゃもしゃ……。うーん! おいしー!」


「お前なぁ、一本まるまるそのままかじるってのは……それそういう食い方するもんじゃねぇだろうが、また太っちまうぞ?」


「まぁっ!!? またってなにさ!? ボク太ってなんかないもん!! ホンットおっちゃんのそういうところはもー!!」


 ぷりぷりと怒りながら、肩をぶつけて抗議してくるトリア。

 ……この状態でもカステラを手離さないあたり、説得力がなぁ。


「まったく、お前たちはこんなところでまで……。それで、ご家老どの」


「はい……。今から数か月ほど前のことです、殿の様子があの様におかしくなってしまわれたのは……。いえ、正確に申し上げますと、数年も前から殿は徐々に様子がおかしくなってしまわれまして……」


 俺たちを客室にエスコートしてくれたご家老さんが、そのまま例のおかしくなっちまったっつう殿様の様子を並べていく。 


「もちろん、何かご病気にかかっているのではとも思い、『混乱』などの状態異常も含めて検査も受けていただいたのですが……結果としては、『何一つ異常なところは無い』との結果が返ってくるのみでございまして……」


 異常なところは無い、か。

 ふーむ……。


「イルヴィス、昨日クレハが話してくれた内容とも一致するようだが……」


「だな……。なぁご家老さん、殿様がそうなっちまったきっかけ(・・・・)っつーか……何か前兆みたいなモンは無かったっすかね? 例えば……誰か妙な奴に会ってたりとか……」


 小さく耳打ちするクヨウの言葉に同意しつつ、ご家老サンにその辺りのことを尋ねてみる。


「妙な人物……? いえ、(わたくし)なぞは殿が幼き時から身の回りのお世話をさせていただいているのですが、特にそういったことは……」


 無かったか。

 ……いや、もし相手がフリゲイトなら、その辺りを判断するのは早計だな。


「……以前はあのように、人を見下すような方では無かったのです。実力もさることながら、その手腕もまさに『名君』と呼ばれるにふさわしいお方でした。しかしそれも、今となっては……」


「そうだな……。わたしも正直、面を食らってしまった」


 ご家老さんの言葉に同調するクヨウ。


「何せ『勇者級』の力を持つお方……もし癇癪を起されれば何をされるか分かりませぬ。いえそれどころか、下手に暴れますれば、我々には止める術すらもありません。それで……」


「ああして調子を合わせてご機嫌を取りをしていた、っつうことすか」


「はい……! そのための芝居とはいえ、イルヴィス殿には大変にご無礼を……! ささ、遠慮ならさらずどうぞもう一つ……!」


 いや食えん食えん。

 カステラはそんなシュラスコみたいなノリで出てくるモンじゃないんだよ。


「な、なぁおっちゃん……? や、やっぱり一度、ハクにもあのぞわぞわ(・・・・)を感じるか、か、確認をしてもらうのがいいんじゃないか……?」


「でもさ、その映像電話だっけ? それ越しにでもあのぞわぞわって感じられるのかな?」


「そこなんだよなぁ。となると……なぁご家老さん、何とかしてこう……直接殿様に会う方法なんてのは無いっすかね?」


「ちょ、直接でございまするか!? 流石にそれはわたくしめだけの判断では何とも……」


 まぁそうだよなぁ。

 むしろ一国の王に『会いたいんですけど』で『はいどうぞ』ときた方が、『警戒心ぶっ壊れてんの?』って話になってくるぜ。


 俺たちが昨日今日でああして接触できたのも、あの映像電話とやらがあったおかげだろうしな。


「あ、ですが……方法がまるで無い、という訳ではないやもしれませぬ」


「! 本当っすか!?」


「はい、実は――」


 ……………………

 …………

 ……



 ――翌日。


「悪いなハク、毎日大変じゃないか? こうやって向こう(アンリアット)とこっちを行ったり来たりすんのは……」


「いえそんなこと! それに……おじさまが迎えに来てくれるって思うと、むしろちょっと楽しいなって、えへへ……!」


 ……いや健気がすぎん?

 よしよししておこう。


「ほらネルネ、いつまでもそうしてつついて(・・・・)ないで……わらび餅は冷たいうちに食べたほうがおいしいのだぞ?」


「う、うんクヨウ、でも……。こ、これやっぱりスライムみたいでかわいくて、つ、つい……。ふふふ、ふふふふふ……!」


「……お前のそういうとこは相変わらずだねホント」


 昼を少し過ぎ、学校が終わったハクを迎えにいった後、俺たちはクレハがオススメだと言う甘味処へ立ち寄ってみた。

 まぁ当のクレハは同行できず、ニンニン言いながら残念がっていたんだが……。


「それでおじさま、今日も町の人たちにお話を聞きに行くんですか?」


「ああ。どうにもな、ひっかかってるっつーか……」


 昨日もあの後、ハクと合流してからは街での情報収集に専念していた。

 というのも……。


「……お、アンタ達かい? ここいらでいろいろと話を聞き回ってる冒険者ってのは?」


「え? ……あっと、すんません。迷惑でしたかね?」


「あぁいやいや、そういう訳じゃないのさ! 悪かったね、急に話に入り込んで……うちも最近はお客さんが少なくてついね」


 どうやら声をかけてきたのは、この店のおかみさんらしき女性のようだ。


「まぁ今はみんな余裕が無いからねぇ、仕方がないとは分かってるんだけど……」


「にゃ、余裕が無いっていうと……やっぱり、お殿サマがおかしくなっちゃったせいで?」


「そうだねぇ。税の引き上げに、他にも色々……特にここ数ヶ月は本当にひどいもんさ。ここいらでも店を畳んじまったところも少なくないし、このままオウカは……いいや、ミヤビはどうなっちまうのかねぇ」


 おかみさんがはぁ、と一つため息をつく。


「……ザンマ様にはね、私たちも随分と助けられたもんだよ。ヒュームで七十っていえばもう良い歳だってのに、いつも民のことを考えて行動してくれていてね」


「……」


「おかしくなっちまってもさ、原因さえわかれば元通りに……なんて風に、思ったりしちまうのさ、みんなね。……でもそれももう、限界なのかもしれないねぇ」


 ……限界、か。

 ともすれば、大げさな言葉じゃないんだろう。


「あっと、悪かったね、お客さんの前でこんな……来客は少なくなっちまったけど、味に手を抜くつもりはないからさ、まぁゆっくりしていっておくれよ」


 そう言い残すと、おかみさんは店の奥へ戻っていった。



「にゃーむ……。ねぇオジサン? ここでもやっぱり(・・・・・・・・)……」


「……あぁそうだな。となるともう少し情報が欲しいところだが……」


「しかしイルヴィス、あのクウカイという男の言葉が真実ならば、時間があるという訳ではないかもしれんぞ?」


「そうなんだよなぁ、そいつは俺も危惧してるとこなんだが……」


 だが、もし本当に殿様に直接会えたとしても……その後もまた同じように会える保証なんてモンはまるで無い。


 となりゃあ二度目の機会が無い可能性を踏まえ、準備は入念に行いたいとこではあるのもまた確かなエワケで……。

 ……ジレンマだね、どうにも。


「とりあえず……明日は土曜日で、ハクも昼前には学校が終わるよな?」


「あ、はい!」


「そんじゃあ一度潜ってみるか。例のダンジョン……『ザンマレジデンス』によ」

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