第23話 随分と可愛いもんだったんだなぁ
――翌日。
「ニョッホホホホ! 苦しゅうない、おもてをあげーい!」
金箔が張り巡らされた豪華な部屋と、大きな鏡のような魔導器具。
特注で技術大国フリーゼンから取り寄せたっつうその『映像電話』とやらに、一人の男が映し出される。
この男が『ザンマ・ハロウド』……。
『勇者級』の力を持つ、実質的なミヤビのトップか。
辺りには十数人の役人と思われる奴らと、映像電話の近くには『ご家老』と呼ばれていたじいさんが一人。
対してこっちは俺とクヨウの二人きりだ。
……ま、セキュリティの面から言っても当然だとは思うがね。
「殿、彼らが例の……」
「おぉ、話は聞いておるぞ! そち達が彼のリーズシャリオを救ったというパーティなのだな! ニョホホホホホ! して、今日はどのような趣で参ったのだ?」
……どうにも、想像していたより数倍は上を行くようだ。
あーあ、クヨウも面喰っちまってるよ。
さて……。
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「……つまりあれか? そのお偉い殿サマの言動なんかが、数ヵ月ほど前からおかしくなっていっちまったと」
「はい。さらに『勇者級』の力と実質的な権力をかさに、税の引き上げや無駄な設備への投資……他にも例えば、突然国中にザンマさまの肖像画を描いた看板を立てさせたりなどなど……」
「馬鹿な……! 以前の聡明で豪胆なザンマ様からは考えつかん……」
そう言われてみると宿へ来る途中も、そこら中で……ってのは言い過ぎだが、ちらほらと看板みたいなモンが立てられてるのを見たな。
あれ殿サマの肖像画だったのか。
「……より正確に言えば、その兆しがあったのはクヨウ様がミヤビを断ってから少し後……二、三年ほど前からなのです」
「き、兆し……?」
「はい。そのころから少しずつ、城の近くに巨大な池のある庭園を作らせたり、気に入った女性を住まわせる別邸を作らせたりと……どうせ作るならおしゃれな甘味処の方が有用なことは明白ですよ」
「たしかにそうだねぇ。……あ! 和風カフェとかはどう!? ウェイトレスさんも、着物とお洋服を合わせたような可愛い格好をしてもらってさ!」
「! 流石はトリアどの……! わたくしお魚ではありませんが、目から鱗がおちるおもいです」
「えへん!」
いやお魚だって目に鱗はねぇんだよ。
……なんの話これ?
「こほん、話を戻しますが……もちろん、現状における不満はあちこちから出ているのです。ですが……」
「にゃふふ、なるほどなるほどー! 不満が出てるっていうことはー、ひとまずはみーんな、お殿サマのご指示を受け入れてるってことだよねー?」
「はい、その通りです。先ほども言いましたがミヤビは未だ、王政時代の名残が強く残っています。ですから……」
「おかしくなっちまった殿様の鶴の一声だとしても、蹴っ飛ばして無視するわけにはいかねぇっつーことか……」
確かに、『俺は命令なんざつっぱねちまって従わねぇぜ!』……なんて選択肢をとれるんだったら、不満なんてモンも出てこねぇわな。
「でもさ、それってやっぱり変じゃない? だってお殿さまの他にも偉い人とかはいっぱいいるはずでしょ?」
「うむ。それに国政を取り仕切る役人達だけでは無い、国庫が不当に傾くようなことがあれば当然、民衆も黙ってはいまいとは思うが……」
「た、確かに……。そ、それはやっぱりお殿様の影響力が、お、大きいからってことなのかな……?」
「……それが、妙なのです」
「妙?」
「確かに皆……特に一般層は大きく現状に不満を持っています。……にもかかわらず、『目に見えて大きく反発する者』も出てこないのです。ふーむ不思議」
……反発、か。
「そいつは……あー、歯に衣着せずに言っちまえば、革命だとかクーデターだとか、そういった物騒な意味でってことか?」
「いいえ、もっと根本的に……例えばクヨウさまはこの件をご存知ではありませんでしたよね?」
「あぁ、確かに初耳だが……」
「はい、つまりはそういうことなのです。とっても不思議ですね」
…………いやどういうこと?
確かにクヨウもミヤビの出身だが……。
「……にゃっふっふ、なるほどなるほどー! 確かにこの異変の本質は、『お殿サマごらんしーん!』って部分だけじゃあなさそうってカンジ?」
「え? えっとぉ……」
「にゃふふ、トリニャー考えてみて? 仮にも一国のトップ的な立場の人がおかしくなったんだよ? だったら……クーよんだけじゃなくて、ウチらまで知らないのはおかしくないかなー?」
……!?
確かにそりゃあそうだ……!
全ての国が世界国家連合に加盟しているこのご時世、国家間レベルでの情報統制なんてのはとてもじゃないが現実的とは言えんからな。
こんな重要なニュースが流れない訳がない。
ただでさえ、ミヤビには旅行者だって多くいる筈だ。
そう考えると……こいつは随分と妙な話になってくるぞ……。
「わたくしも今回のように聞かれなければ、自らお話することもなかったかもしれません」
「にゃふ~む……。おかしくなったお殿サマ……ううん、おかしくなってるのはお殿サマだけじゃなくて……。――ねぇオジサン? これってなんだか似てるって思わない?」
「似てる? っつーと……」
「一つの出来事がきっかけになって、また別のおかしな出来事が起こる。まるでエンフォーレリアの――」
「そうか『フラグ』!! イルヴィス、ならばここにイヴェルトがいたのも……!」
「なるほどな……! ヤツの手が入ってるってことか……!」
クウカイの『ミヤビから離れることをお勧めします』っつうあの言葉。
丸きり信じちまうのはどうかとも思っていたが……どうやらこいつは信憑性を帯びてきたみたいだぜ。
「となると……何とかして殿サマに接触したいとこだな。そうなりゃもう少し、分かることもあるかもしれんが……」
「あ! ねぇねぇクレハ! ニンジャって忍術っていう特殊なスキルを使えるんだよね? こういう時に役に立つ忍術とかないのかな?」
「お前はニンジャをなんだと思ってんの? つーか忍術ってのは確か……」
「ありますよ、ニンニン」
「あんの!?」
「ゆ、有能……」
ホントになぁ。
ニンジャってすごい。
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――で、フゥリーン家はミヤビの上層部とも繋がりがあったらしく、その辺りをなんやかんやしてこの場を作ってもらい、今に至るってワケだ。
……いや忍術じゃなくて完全なるコネじゃねーか!
まぁいい、そんで……あーと、なんて言えって言われてたっけな?
確か……。
「いえ、例の一件で俺も不相応にも名が知られておりまして……であれば名君と名高いザンマ様には、こちらからご挨拶をするのが礼儀かと……」
「ニョホホ! うむうむ、あっぱれな心掛けであるな!」
ってな感じで、ひとまず露骨にご機嫌をとっていく。
ケインの時の芝居の練習が、まさかこんなところで役に立つとはね。
……ん? なんだ?
周りの役人たちがなんか言って……。
「しかし気楽なものですなぁ今の若い冒険者といえば……」
「いやまったく。何せ無名の冒険者の手によって討伐される程度の魔物が、『魔王』と呼ばれる時代ですぞ?」
「はっは、違いない。我々の時とは大違いだ」
……おいおい、おっさん最近もう若いなんてなかなか言われねぇぜ?
どうやら随分と気に入られちまってるみたいだねぇホント。
「イルヴィス殿にはわからんだろうが、我々が現役の時には今のように装備品やマジックアイテムなぞも洗練されていなくてねぇ……」
「この身一つで奮闘し、身を立てたものでしたな。いやはやまったく、羨ましいよ恵まれている君たちが」
「ですなぁ。しかしまぁ、今の軟弱な冒険者にそれを求めるのは酷と言うものですかな? はっはっは……!!」
………………いやあれよ?
おっさんだって、先人が頑張って今の時代を作ってくれたのはよーく分かってるつもりよ?
「ニョホホホ! いや皆もそう言ってやるでない、イルヴィス殿とて彼なりに、じゅーぶんがんばっておられるのだぞ?」
「やや、これは失礼いたしましたな」
「……だがおしいのう、リーズシャリオの『七大魔王』も、余がその場におったならば、刀をとってエイヤッと、一撃のもとに切り捨ててやったところだというのに……のう爺、そちもそう思うであろう?」
「さすがはザンマ様! いやはや、まったくもってその通りでございます! イルヴィス殿は実に運が悪うございましたなぁ? いいや……運が良うござましたのですかな? ……などと、なっはっはっは……!」
「ニョホホホッホッホッホ……!」
しかしなぁ、これは……。
………………
…………
……
「あ、おっちゃん! クヨウ! どうだった? なにか分かった?」
「……あぁ、なんつーか……。トリア、お前のロクデナシ具合なんざ、随分と可愛いもんだったんだなぁ」
そんなことを思ったりしつつ、くしくしと軽くトリアの頭を撫でてやる。
「わぷ……! え、なに? どしたの?」
「く、クヨウも……な、なんだかげんなりしてるけど……」
「あぁ、すこしな……。詳しくは後で……」
「にゃ? ねぇねぇオジサン、誰かこっち向かってきてるよ?」
ん? あれは……確か映像電話の隣に座ってた、ご家老とか爺とか呼ばれていたじいさんだな。
……なんだ? なんかものすごい勢いで走ってきて――。
「――イルヴィス殿おおお!! 申し訳ございませんでしたああああ!!」
「うおっと!? ………………え?」




