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第22話 なんという忠義者

 フリゲイトの三人が消えてからしばらくすると、辺りにも人が集まってきた。

 ……いや、集まってきたってのは違うか、ここが飛行船の発着場周辺と考えりゃあこれが普通なんだろう。


「えっと、これもフリゲイトさん達の『干渉』の力なんでしょうか……?」


「た、多分……。あ、あの『クウカイ』って人も、ひ、人払いをしてたって言ってたしな……」


 ――フリゲイトの一人、クウカイ。


 これで六人目……それと『ゼクセー』と『ジュジュニャン』だったか?

 名前を聞いただけだが、そいつらも含めるとなれば八人。

 エテリナの仮説が正しければ、あと一人ってところだが……。


 しかしまぁ、相変わらず意味深なことを言うだけ言って消えやがってなぁ。

 おっさんそろそろしびれを切らしそうってモンよホント。


「っと、そういや……悪かったな。『七大魔王の』出現条件、俺の判断で不意にしちまって……」


「にゃふふ! エテリナちゃんたちをみくびってもらってはこまりますなー! 前にトリニャーも言ってたでしょ、『楽』と『楽しい』は違うって!」


 頼もしいねまったく。

 ……ま、うちの子ならそう言ってくれるんじゃねぇかとは思ってたけどよ。


「にゃふふ、それにー……きょーみ深いお話も聞けたしねー?」


「……『魔王は何のために存在するのか』という、イヴェルトのあの言葉のことだな」


「クーよんそのとーり! その意味がわかっちゃえば、もしかしたら次の『七大魔王』の手がかり……ううん、それどころかフリゲイトの目的(・・)なんかもわかっちゃうかもねー?」


「フリゲイトの目的、か……。とりあえずは一度意見をすり合わせるか。……あのクウカイってヤツの言葉が確かなら、フリゲイトがミヤビで何をしでかすつもりなのか……ってのも含めてな」


 ……………………

 …………

 ……



 一度ハクをアンリアットへと送り届けた後、冒険者用の宿をとる。

 『夢幻の箱庭』を使ってもいいんだが……せっかく国外まで来てるんだ、こういう情緒も楽しんだって罰は当たらんってもんだろう。


「ほらほらおっちゃんみてみて! ボクってば新しいスキルが発現したんだよ!」


「ほぉ、『マナ回復+10』か。……ん? つってもお前、あの雲のダンジョンでの戦闘以降、特別なことはなんもしてないんじゃねぇか?」


「うん! だから多分あの時発現したと思うんだけど、ボクもさっき気付いたんだー!」


 『さっき気付いたんだー!』じゃねぇよ。

 相変わらずの怠け者具合をかましやがって……。


 戦闘毎にとは言わんが、せめて毎日冒険者カードは確認しろっての。

 ……まぁ俺もあんま人のことは言えねぇんだがね。


「あ、あの時っていえば……クヨウ、し、『玄涜(しづかのけがれ)』、だったっけ……? あ、あんなアイテムをいつの間に持ってたんだ……?」


「あぁそれは……以前バンダルガに向かった時、私とハクは後から合流しただろう?」


「えーっと、ハクはいつもどおり学校で、クヨウは確か……お客さんが来るって言ってたんだよね?」


 俺がするめ(・・・)をおすそ分けしてもらったあの時の話だな。


「うむ。その客というのがフゥリーン家の者でな。いらんと言うのに土産と共に押しつけられたのだが……まぁ結果として、役に立ったとも言えるのだろうな」


 若干苦い顔をしながら、例の腕輪をとりだすクヨウ。


「にゃふふ! それにしてもあーんなにバラバラだったのに、すっかり元通りになっちゃってますなー?」


「う、うん……。も、元に戻る時のあの時の動きは、す、素敵だったけど……」


「す、素敵か、その感覚は私にはわからんが……。『玄涜(しづかのけがれ)』は特殊な金属でできていて、それ自体が意思を持っている……と、言われているのだ。まぁ私もその話は眉唾物だとは思っているのだがな」


 意思を持つ金属、ねぇ。


「そういえばさ、鬼神装……だっけ? あの時クヨウってばすっごく暴れてたけど……結局おっちゃん、クヨウのどこをくすぐったらうまくいったの?」


「ん? ……あ、あーいや、そいつは……」


「……え? ……ねぇおっちゃん? なんで今お口もごもご(・・・・)したの? ひょっとして……」


「も、もごもごなんざしてねぇよ、ただなんつーか……」


 実際のところマジな話、俺自身に後ろめたいことはまるで無い。

 どこを撫でたらと聞かれたら、答えるのに抵抗は無い程度には、だ。


 ……トリア達の後ろで『言わないでくれ』と、潤んだ目で訴えてくるクヨウがいなかったらの話だがな。


「あーっと……あれだ、その……あん時は俺も必死でよ? どうにもよく覚えてねぇんだわこれが、うん」


「あ! おっちゃんウソついた! ボクおっちゃんのそういうヤツ分かっちゃうんだからね!」


 くそう! 相変わらず無駄なところで妙な勘の良さを発揮しやがって……。

 ……いやそこまで鋭いんだったらもう少しこっちの事情も察してくれよ!


「にゃふふ、ひょっとしてー……おクチじゃ言えないようなところなんかをさわさわしちゃったのかなー? にゃーん! オジサンってばきっちくー!」


「はわわわわわわわ……! そ、それって……!」


「もー! おっちゃんはまたそうやってー!! えっち! えーっち!!」


「違うっつの! つか、また(・・)ってなんだよ!? おっさん疑われるようなトコ触ったりしたことなんざ一度もないだろうが!!」


「あるもん! 飛行船が揺れた時、お顔(・・)でおしりとかその……さわられたもん!」


「いや、あれはお前……の、ノーカンにしてくれよ……」


 実際のとこ事故よあれは。

 火に油を注ぎそうなんで言わんけども。


「……クヨウさま、口には出せないような所を触られたのですか?」


「い、いや! そういう事では無いのだが……ん?」


 ……あれ?

 なんだ? なんか今一人多かったような……。



「――クレハ!? なぜここに!?」



 驚くクヨウの声とともに目を向ければ、そこには一人の少女が増えていた。


 どこか眠たそうに見える目と、対照的に目が覚めるほどの赤い髪。

 ……ん? どっかで会ったことがあるような気がするな……?

 クヨウの関係者っつーと……。


「……あっ! 思いだした! ひょっとしてあん時のニンジャの子か!?」


「お久しぶりですイルヴィスどの」


 五年前にフゥリーン家の屋敷にいった時、依頼主の爺さんの言葉で飛び出してしまったクヨウの居場所を教えてくれた女の子だ。


「ニンジャって……はふぅ~、おっちゃんはわかってないなぁ~。いい? ニンジャってのはそんなに簡単に姿を現したりはしないんだよ? 闇に生き、影に忍ぶ……それがニンジャってもので――」


「いえいえトリアどの。わたくしはイルヴィスどののおっしゃる通りニンジャですよ。ニンニン」


「うわぁ!! おっちゃんニンジャだよ! 絶対そうだよ! だってニンニンって言ってたもん!!」


 いや判断材料そこかよ!?



 ……

 …………

 ……………………


「しかし……改めてクレハ、なぜお前がオウカ(ここ)にいるのだ?」


「クヨウさまの乗った飛行船にトラブルがあったと連絡が入ったので、急ぎ足で駆けつけたのです。……なんという忠義者、これは褒められてもおかしくはありませんよ」


 そういうの自分で言っちゃう?


 どうやらまた癖のある子のようだ。

 ……そういや俺も、初めて玄涜(しづかのけがれ)を見た時――。


『興味がおありでしたら触っていただいても結構ですよ。……死にますけど』


 とか言われたなぁ。

 あん時はすぐ『冗談です』っつってたが……。


「ねぇねぇ、クレハはニンジャなんだよね?」


「はいそうですよ。ニンニン」


「おー」


 ……そのニンニンってヤツ、ほんとにニンジャはみんなやってんの?

 いや、おっさん他のニンジャに会ったことないんで知らんのだけども。


「だったらさ、ミヤビで何かおかしなことが起きてるとか、変な人がいるとか、あとはえーっと……なんだっけ?」


「にゃふふ! 『起こるべきではないことが起きてる』みたいな感じの、妙だなーっていう話とかね?」


「そうそうそういうの! そういうのって何か知らないかな?」


「そういう大事なとこふわっふわのままにしとくんじゃないよお前は……。だがまぁ俺も聞きたかったところだ。つっても、こんな曖昧な情報じゃあ難しいとは思うが……」


「いえ、ありますよ」


「あんの!?」


 こともなげに、さらっとそう答えるクレハ。

 ニンジャってすごい。


「まず……ミヤビは現在、王政ではないのですが、未だその時代の名残が根強く残っているのはご存知ですか?」


「う、うん……。け、結構有名な話だよな……?」


「今も一番偉いお殿様が力を持ってるーとか、そんなカンジのあれだよね?」


 ネルネ達の言う通り、その辺りは結構有名な話だ。

 確か……ミヤビが民主制になったのは、二、三十年前の話だったか?

 んでもって……。


「ミヤビの……実質、王のような立場にある『ザンマ・ハロウド』様は、イルヴィス、お前と同じく世界に数人しかいないと言われている『勇者級』の力を持つお方だからな」


「はい、その通りです。故にまつりごとにおいても、その影響力はいまだ健在だと言われています」


 まぁそういうことだ。

 『覇道の勇者』の称号を与えられ、名実ともに『勇者級』の力を持つ元冒険者。

 そりゃあ確かに、国民に与える影響力もデカいだろうな。

 


「そして……おかしな話というのはまさに、そのザンマさまのことなのです」

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