第21話 提供させてやる……!
「――『信念』と『世界』、ね」
突如として目の前に現れたイヴェルトと……そして、提示された交渉内容。
『七大魔王』の出現条件、か……。
『不落の難題』を追う身としては、避けては通れないものでもあるが……今イヴェルトのヤツが言っているのはそういうことじゃあないんだろう。
……なにが『あえて言葉にしようか』だよ、まだるっこしい言い方しやがって。
つまりはこう言いてぇってワケだ。
『世界中に大きな被害を出したくなければ、信念を捨てて我々に従え』
……てな。
確かに情報さえあれば俺たち自身が動かなくても……例えば冒険者ギルドなんかを経由して情報を共有すりゃあ、リーズシャリオのような被害を食い止めることはできるかもしれん。
だがそれは恐らく、今まで通りの冒険が終わることを意味するんだろう。
さて――。
「アンタらの元につくっつうなら……あれかい? 俺もガングリットやマッフィーノのように、『魔王候補』とやらの一人にされちまうっつうことなのかね? ……いや、そもそも『魔王候補』っつーのはなんなんだ?」
どっちにしろこの状態で即答するのは悪手だろう、ひとまず返事は保留で良い。
そんでもって……あれこれ考えるのも後回しにしておいて、とにかく会話を続けていく。
「なに、その名の通りだ。いずれ『真の魔王』へと至るであろう者たちを、便宜上そう呼称しているにすぎん」
「『真の魔王』ね……。『七大魔王』……あのエンデュケイトの出現を目の当たりにした後じゃあ、どうしたって物騒な単語に聞こえるんだがな?」
今俺がすることは、ほんの少しでも多く情報を引き出すことだ。
何せ――。
「――……」
――俺の後ろには、今もめざとく情報を収集しているであろうエテリナがいるからな!
どうせ肝心なトコロは口を割らねぇに決まってるんだ。
だったらとにかく一言でも多くしゃべらせて、エテリナに考えるための材料を提供させてやる……!
「物騒か、フッ、そうでもないさ。『七大魔王』も『魔王候補』も……これから生まれてくるであろう『真の魔王』ですらも、その役割は変わらないのだからな」
「役割……?」
「魔王とは何のために存在するのか……と、そういうことだ。きっと君が思うほど、凄惨な結末にはなるまいよ」
「……そいつを信用しろってか?」
「別に信用してくれずともかまわないが……いいのかな? それは君が、『七大魔王』の手がかりを失うことになるのと同義だと思うがね? ……さて、そろそろ返事をうかがおうかな?」
くっ……! まだだ、まだ足りねぇ……!
他にどんな言葉を使えばもっと情報を――!
「……――!」
「? おっちゃん……?」
「いや、大丈夫だ。……なぁイヴェルト。確かにアンタの言う通り、俺は『この世界がどうなろうが全然知ったこっちゃないぜ!』……と、割り切って思えるほど、図太く生きていける人間じゃあなさそうだ」
「賢明な判断だ。ならば……」
「しかしなぁ、俺としても今の生活は結構気に入ってんのよ。そいつを簡単に切り捨てるっつうのは……どうにも踏ん切りがつかなくてね? ――だからよ、ここはひとつ勝負といかねぇか?」
「ほう、勝負……」
「もちろん直接ケンカでもしようってワケじゃあ無いぜ? そっちにも事情があるみたいだしな? そうだな……」
……『世界を滅ぼそうとでもしているのか』という質問に、ジョーダインのヤツはこう答えた。
――『それだけはありえない』、と。
つまり奴らにとっても、『七大魔王』があちこちを……少なくとも、奴らの想定以上にめちゃくちゃに引っ掻き回すのは、なるべく避けたい事態の筈だ。
……だからこそ、俺たちがあの場に行き着くまで、エンデュケイトは出現しなかった。
マッフィーノの言葉が確かなら、『七大魔王』を使役するには一度討伐する必要があるはず……胸に埋め込まれていた『エンデュケイトを使役できる』っつうあの宝石は、討伐後のドロップアイテムだったみたいだからな。
そんでもって恐らく、フリゲイトには討伐ができない。
戦力的な問題じゃあなく、何か理由があるんだろう。
つまり――。
「――こういうのはどうだい? アンタがここで『出現条件』を全て提示して……そのうえで、『七大魔王』を俺たちが止められるかの勝負、ってのはよ?」
――奴らが『七大魔王』を出現させたとき……必ずそれを討伐する存在が必要なはずだ……!
その役目を、俺たちが自ら買って出る……!』
『信念』とも『世界』とも違う第三の選択肢……。
さぁ、どう来る……!?
「くくく、それはまた……。その勝負とやらに乗って、こちら側にメリットが有るとは思えないのだがね?」
……正直、むちゃくちゃなことを言っているのは自覚している。
なんせ向こうにとっちゃあ、元々の脅しで十分に事足りるんだからな。
だが……!
「そうかい? だが……お互いにある程度フラットな状態でやり合う方がほれ。――『楽しそうだ』と、そうは思わねぇか?」
「……!」
それほど接触の機会が多かったワケじゃあねぇが、フリゲイトのヤツらはこの言葉を……つまり、『娯楽』だと『楽しむ』だとか、そういった言葉を好んで使っていた。
……いいや、固執していると言ってもいいぐらいだ。
なんせ今まで出会ったフリゲイトたちは、ほぼ全員がその言葉を口にしていたぐらいだからな。
だとしたら――!
「ふ、ふふ……っ! ……フハハハハハッ!!」
……!
これは……!
「――くくく、なるほど、実に予想外な解答だ……! 流石に全てという訳にはいかないが……良いだろう、『七大魔王』の出現条件、提示しようではないか」
……ぃよし! 上手く釣り上げたか!
これで――!
「そうだな、まずは――」
「――いやいやイヴェルト何を言っているんですか。普通に駄目に決まってるでしょう」
「そうねぇ、おねぇさんもそれはちょっと乗せられすぎだって思っちゃうかしらぁ?」
……!
イヴェルトが口を開こうとしたその瞬間、また突如として現れた二人の人影。
片方に見覚えは無いが……。
「おじさま、あの人も……!」
「あぁ、そうだろうな……!」
相変わらず、神出鬼没な登場を演出してくれるもんだ。
ハクも例のぞわぞわを感じ取っているとなれば、コイツも恐らく……!
「えー、皆様初めまして。ワタシはフリゲイトの一人、クウカイと申します。どうぞよろしくお願いいたしますね」
静かにお辞儀をする、物腰の柔らかそうなその男。
そして……。
「マジューリカさん……」
「うふふ……。イルヴィスくん、また会えておねぇさんとっても嬉しいわぁ」
……俺もできりゃあ、そう言って再会したかったとこなんすけどね。
「クウカイ、マジューリカ……」
「まったく、イヴェルトあなたと言う人は……。ワタシに人払いをさせておいて、自分からそれを不意にするような真似をしてどうするんですか」
「フッ、そう言うなクウカイ。何よりも『楽しむ』ことを優先するのが、我々の目的の一つだろう?」
「限度があると言っているんです。彼ら『魔王候補』のことですら、まったく知らない様子じゃないみたいですし……」
「あ、ごめんなさいクウカイ、そっちはもともとおねぇさんのせいだわぁ。あの時つい興奮してぽろっと言っちゃったの、うふふふ……!」
「……な!? はぁ、まったく皆さんときたらこれだから……。過ぎたことはもう仕方がありませんが、これからはちゃんと気をつけてくださいよ」
「うふふ、はぁい」
「善処しよう」
……相変わらず、場に似合わねぇ軽口を叩きあう奴らだ。
侮られているのか、もしくは……侮る必要すらないとさえ思われてんのか。
ジョーダインのヤツは、『勇者級程度の力で』と言っていた。
となると……他のヤツらはそう思わねぇなんて、楽観的な考え方はしない方が懸命だろうね。
「さて……どうやら交渉は決裂したのでしょう? であればもう長居は無用だと思いますがね」
「……にゃふふ、まぁまぁ待ちたまえよう! 一度はオジサンの提案に乗っかったのにー、『やっぱりやーめた! はいサヨナラ~』なーんて、ずいぶんと冷たいって思うけどなー?」
「……ほらイヴェルト、アナタのせいですよまったく。……はぁ、仕方がありません、それでは一つだけ。――巻き込まれたくなければミヤビから……少なくとも、ここオウカからは離れることをお勧めします」
「! ……にゃふふ、か~ら~の~?」
「これ以上は勘弁してください。ワタシも余計な心労で倒れてしまいたくはないのですよ」
右手を額に当てながら、やれやれといった様子で頭をふるクウカイ。
どうにもこれ以上は――。
「――ねぇイルヴィス君? こちらにつかないかって提案、おねぇさんは結構本気なの。……きっとイルヴィス君たちにとっても、それほど悪い事にはならないと思うわぁ」
「……! マジューリカさん、俺は……」
「ふふ、返事は今すぐじゃなくてもいいわ。だから――もう少しだけ、考えてみてね?」
一度俺を殺そうとしたとは思えないその態度に、ほんの少しだけ面を喰らってしまう。
「……最後に一ついいっすかね?」
「うふふ、なぁに?」
「マジューリカさん、アンタは……今も『魔術干渉』の力を使えますか?」
「――! ……さぁて、どうかしらねぇ? うふふ……!」
答えをはぐらかしたマジューリカさんがそう言い残した瞬間……相変わらずなんの痕跡も残さずに、フリゲイトの三人はその場から姿を消してしまっていた。




