番外編 ワールズレコード030:結界
このお話は《第四章第十四話》の数日前の出来事です
トリア達をレベリングに送り出し、俺は金になりそうな魔物素材を狩り集めてを繰り返すこと数日。
この調子なら予定通り、土曜あたりにはミヤビに向けて出発ができそうだな。
「……リーズシャリオのあるアニマドに続いて、お次は東のミヤビときたか~。エエな~エテリナは。ウチかてな~……」
日も暮れてしばらくたった頃。
他の奴らより一足先に俺の部屋までやって来ていたフーが、飲む前から愚痴をこぼし始める。
「ほらふてくされんなってフー、最近は特に忙しいってのは分かってるけどよ」
エンデュケイトの出現からこっち、冒険者ギルドにも『不落の難題』の情報を求めるヤツらが絶えねぇらしいからなぁ。
どうやら相当にまいってるようだ。
「……ま、いろいろと落ち着いたらよ、そん時は一緒にどっか行こうぜ? 仕事は休みでも貰ってさ」
「一緒にって…………ふえぇっ!? そ……それはその、あれか……? ウ、ウチは別にかまへんのやけど、その……ウチとイルヴィスでっちゅうか――」
「あぁ、俺とお前とシーレ達に、エテリナたちも連れて皆でよ?」
「…………。……はぁ~~~……。せやなぁ、アンタがそんな気のきいたセリフ、言うワケないやんなぁ……」
「って、なんだよ露骨にため息つきやがって……。あっ! 金のこと気にしてんだな~? 心配すんなって、お前も知っての通り最近実入りは少なくねぇんだ。そりゃ、豪華客船で優雅にっつーワケにはいかんだろうが……」
「そういうこと言ってんのとちゃうんやこのあほー!!」
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ワールズレコード030:結界魔法
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「――ほっほ、それはイルヴィス、お主が悪いのう」
「せやろー? ほんとにこの男ときたらいつもいつも……」
「んだよ二人して人を悪モンみたいに……。まぁいいさ、ウリメイラとリィンさんはまだ少しかかるだろうし、先に始めてようぜ」
そう提案しながら、数本の酒と人数分のグラスを用意してやる。
以前に飲んだ時から、ねぇちゃんも飲み会に参加することが多くなったからな。
……もちろん例のあの口調は、『酔っぱらった時だけそうなっちまうらしい』ってことで押し通しているが。
「しかしガングリッドもあれやなぁ。今日も見舞いに行ってきたんやけど、まだしばらくはかかりそうやーって」
「ま、あれからまだ一ヶ月ちょっとってとこだからな。無理もねぇさ」
「レベル障害か。皮肉なものじゃ、街を守るための結界が、今のガングリッドにとっては毒にもなり得るのじゃからのう」
地下水路の『結界魔法発生装置』によって、街を覆うように展開されている『結界魔法』。
そいつのおかげで普段の俺たちが街中で魔物に出くわすことはそうそうない。
なんでも特殊な力場が魔素そのものに作用するってんで、魔素の多い強力な魔物ほど、その影響はデカいんだそうだ。
まぁ本当にごくまれに、ウィークスライムレベルの弱小魔物が出現しちまうことはあるそうだが……。
そう考えるとことさらエンデュケイトの異質さが浮き彫りになるってもんだぜ。
んで、『レベル障害』ってのはその名の通り、レベルやそれに応じたマナの力を上手くコントロールできなくなる病気だ。
冒険者カードなんかの数値もおかしな記号のようになっちまうらしく、そいつがまるで虫食いの様だっつうんで、バグ属の魔物になぞらえて『表記がバグる』なんて言われたりもするな。
大量の魔素を浴びた影響で起こるそいつは、魔素に影響を与える結界内だと特に顕著になってくる。例えば……ちょーっと体を動かそうとしただけで過剰な肉体強化を無意識に発動させまったり、といった具合にだ。
そうなれば自身だけじゃあなく周りの人間も危ないってんで、マナの薄い特殊な部屋での絶対安静を義務付けられているワケだな。
そりゃあ、結界の外なら影響も薄いんだろうが……。
「しかしまぁ賞金首でもあるまいし、ずっと結界の外で暮らすっつーワケにもいかんだろうしなぁ」
「アーカイブオブバンディット……いわゆる『アカバン』っちゅう連中やな。アイツらも普段はどこで寝泊まりしてんのやろねぇ」
「ほっほっほ、賞金首になるほどの悪辣な輩にはお似合いの処遇じゃて。各地の結界魔法発生装置はすべて『同期』しておるおかげで、子らも安心して眠ることができるのじゃからな」
まぁその意見にゃ概ね同意だ。
結界魔法は魔物だけじゃあなく、犯罪者の残したマナの痕跡なんかを登録しておけば、そいつらも判別してくれるらしいからな。
それでも賞金首にならんような小悪党や、ケインのように隠れてやってるヤツがいないわけじゃあ無いってのは嘆かわしいところではあるんだが……っと?
「電話? こんな時間にか、よっと……。もしもし……って、あぁウリメイラか」
二、三会話を交わした後、受話器を置いて電話を切る。
「ウリメイラなんて?」
「少し早く終わったんで、今からリィンさんと合流してくるってよ」
「ほっほ、相変わらず律儀な奴じゃのう」
ほんとになぁ。
わざわざ連絡してこなくても気にしねぇってのによ。
「そういや結界っちゅうたら、電話もその恩恵やんな? 『同期』の性質を利用してなんたらっちゅう感じで……」
「うむ、そうじゃな。当初は電気の性質を利用することで遠方の相手とも会話をと考えられていたそうじゃが……その電気自体にもマナの影響がある以上、一対一ならまだしも、不特定多数を相手にするのは難しかったようじゃからのう」
「ほー、そのなごりで電話ってワケか。そうなるとお前の『チャネリングチャット』も結構すごい魔法なんじゃねぇの?」
「ほっほ、そうじゃろうそうじゃろう! まぁアレは電話と違って、相手の声は拾えんのじゃが……ほれほれイルヴィス、愛するワシをもっと敬ってもよいのだぞ? ん?」
「わかったわかったって……」
ご機嫌な様子で俺の肩に乗ってくるシーレ。
まぁいつものことだ。……フーがジトッとした目線を俺に向けてくることも含めてな。
「そういやシーレ聞いたぜ? シズレッタとネーリャにいろいろ手ほどきしてやってるんだってな?」
あの後シズレッタたちに聞いた話じゃあ、どうやらそういうことらしい。
以前の飲み会に遅れて来た時も、それが理由だったってワケだ。
「なんじゃあの二人、もう話してしもうたのか。……ほほほ、まぁよい。サプライズは他にもあるからのう?」
サプライズねぇ。
気になるところではあるが、こういう時のコイツは頑なに口を割らんからなぁ、とか考えながら、つまみを一つ口に含む。
「……ん? え、なんやイルヴィスその乾いた触手みたいんは……?」
「あぁ、こいつミヤビじゃあ定番のつまみらしいんだよ。ワインなんかにゃすこぶる合わねぇんだが、冷えたラガーと一緒にやるとこれが結構なかなかのもんでな?」
「ほうスルメじゃな、ワシもミヤビで食したことがあるぞ。ラガーも良いが、ミヤビの地酒ともまた相性が抜群でのう」
「ほえー……しかしそないなもんよう手に入ったなぁ」
「以前にほれ、ケインのヤツに面会が来てバンダルガに出向いた時があったろ? そん時クヨウは来客があるってんで後から合流したんだが……その来客ってのがミヤビのヤツらしくてな、持参した手土産を少し分けてもらったんだよ」
クヨウの話じゃあ他にもいろいろと押しつけて帰っていったそうだ。
んで、一人じゃ消費しきれんってんで、こうしておすそ分けにありつけてるっつうワケだな。
……そういやクヨウのヤツ、その話をしてる時一瞬、なんつーか若干渋いような顔してた気がするんだよなぁ……。
土産の中に嫌いな食いモンとか……趣味の合わんアクセサリーでも入ってたりなんかしたのかね?
次回の更新は早ければ7月6日、
遅くとも7月13日ごろを目安に投稿できればと考えています




