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第20話 『信念』と『世界』

 わざわざ守る(・・)っつうことは、つまりはその必要があるってことだ。

 そう睨んだ通りあの腕輪……『玄涜(しづかのけがれ)』の破壊についちゃ、それほどマナを込めてやる必要はなかったのは幸いだったが……。


「え!? お、おじさま、これって……!」


「ん? どうしたハク……って、うぉ!? マジかよこれ……」


 ばらばらに砕けてちらばっていた腕輪の欠片。

 そいつがまるでスライムのようにうねうね動いて形を変えながら、一つの場所に集まっていく。


「にゃにゃにゃにゃ……どうやら、自己修復してるみたいだねー?」


「う、うん……こ、この動き、わたしはけっこう、き、きらいじゃないかも……」


「いやまぁ確かにお前はそうかもしれんが――」


「――イル……ヴィス……?」


「っと……よう、大丈夫か?」


 どうやら抱えてやっていたクヨウが目を覚ましたようだ。

 なんせあの後すぐ気を失っちまってたからな。


「先に言っとくが、腕は無事だから安心して良いぜ? ……まったく、相変わらず無茶な真似しやがってよ」


 まぁ今回はそれで助けられたのも確かだ。

 もっと強く言ってやれるように、俺自身がしっかりしねぇとなぁ……。


「そう……か……。よかった……」


「だろう? おっさん結構頑張って――」


「……お前が……気に病むことに……ならなくて……本当……に……」


 そこまで口にしたとこで、再びかくんと眠りについてしまう。

 ……まったく本当に、お前ってやつは――。




 ――翌日。


 俺たちはその後、ゲートを使って飛行船まで戻っていた。

 流石にあのまま探索を続けるってのは、無謀も良いとこだったからな。

 そんでもって……。


「……つまりなにか? 俺のやり方じゃあ古臭くて非効率なうえに、噂によるとどうにもロクでもない男だときている。んで、私財をなげうってでもでもコイツらを俺から引き離して、なんとか助け出そうとしていた、と……」


「ふむ、吾は初めからそう主張していたつもりだがなイルヴィス・スコード」


 いやよく言うぜ、ネチネチと嫌味もぶつけてきてたくせによ……。


 まぁそいつも、トリア達に『この男は危険だと気付かせるため』だったらしいが……もう少しこう、言い方っつーかやり方っつーかなぁ……。


「……アンタさぁ、よく言葉が足りないとか口が悪いとか、そんな感じのこと普段から言われてるだろ」


「ぬ……? ふん、有象無象の戯言など、いちいち気にしてなどおらぬ」


「そうです! 確かに先生は『口が悪い』とか『小説に出てくる悪人の様だ』とかよく言われていますが、そんなことなどは意にも介さず自らを貫く、強いお方なのです!」


「……リグ、やめないか」


「他にも『悪人面』だとか『話し方がねちっこい』だとか言われることもありますが……そんなもの、先生の素晴らしさに比べれば些細なもの……皆はそれをわかっていません!!」


「……リグもうよい、やめたまえ」


「その証拠に奥様も先生のことを溺愛されており、先生もよくおれ達に……」


「……リグ、もうよいと言っているのだ。……リグ、リグ……!」


 すげぇ全然とまんねぇんでやんの。

 ……ま、それだけ信頼してる証ってことなのかね。


「しかしなんつーか……はぁー、なんで俺の周りにはこうトガったヤツばっかり集まってくんのかねぇホント……」


「ふふん、おっちゃん知らないの? こういうの、『類は友を呼ぶ』っていうんだよ! つまり……おっちゃんも相当に変わり者ってことだね!」


「……その理論だとお前も同類だからな」


「あれぇ!? ち、違うよ? ボクはちょっと強ーいだけの普通のかわいい女の子だもん!」


 コイツはホントに……。

 そういうとこだぞ。




「改めて礼と……そして、詫びを入れさせてもらおう、イルヴィス・スコード。……どうやらクヨウ・フゥリーンの言う通り、曇っていたのは吾の目の方だったようだ」


 ヴァレリアスが丁寧に頭を下げる。


「……古いやり方で彼女たちの未来を狭めている、その元凶たる貴君は『悪』であるに違いないのだと、そう決めつけてしまっていた」


「よしてくれって。……ま、俺も似たようなもんだったしよ」


「……そうか。歳をとって、古き悪習に捕らわれぬようにと考えていたのだが……どうやら吾は、そう考えること自体(・・・・・・・・・)に捕らわれてしまっていたようだ。古さや新しさなどよりも、もっと目を向けるべきところがあると言うのにな」


 小さく細めた目を、トリア達に向けるヴァレリアス。


「貴君たちの信頼関係は見せてもらった。一見無謀にも見えるが、あれが貴君らなりのやり方であると言うのであれば、吾が口を出すことではないのだろう。……無論、吾も吾のやり方を変えるつもりは毛頭ないがな」


「先生……。その……先生の顔に泥を塗るような真似をしていまい申し訳ございませんでした! イルヴィスさん達にもご迷惑をおかけして……!」


「まったくもってその通りだ。……貴様らに経験が足りないことなどとうに把握している。だからこそ、未熟なままで余計なことをするなと言いつけておいたというのに……」


「ウ……。ごめんなサイ……」


「……(ぺこり)」


「…………足りぬ経験ならば、これから補っていけばよい。そのために吾がいるのだからな」


「……! 先生……はい!!」


 ……なんだよ、良いパーティじゃねぇか。

 うちも負けてられないねホント。



 ……

 …………

 ……………………


 ――それから数日後の早朝。


 俺達の乗っていた飛行船はミヤビの首都であるオウカへとやってきていた。

 ここから乗り換えてミヅハミまで向かうわけだが……。


「さて、ハクはいつも通りにまず学校だな。また終わるころ迎えに行くからよ」


「はいおじさま! お願いしますね!」


「ふぅむ……ダンジョンを脱出する際も目の当たりにしたが、随分と便利なものだな、そのゲートというものは」


「だろう? ……『夢幻の箱庭』のこと、他のヤツらには黙っといてくれよ?」


「無論、貴君がそれを悪用せぬ限りは……な」


 だったら問題ないね。

 おっさんほれ、普段から品行方正を心掛けてるから。



「それと……イルヴィス・スコード、『ミストルノ手記帖写本』がオークションにかけられていることは知っているな?」


「ん? あぁ、そいつは知っているが……」


 馬鹿みたいに値段が跳ね上がっているうえ、そもそもオークションに参加すること自体が会員制でどうしたもんかと思っていたところだ。


「これを渡しておこう。……紹介状だ、『英雄級』ともなればそこそこのコネクションは持っているのでな。金を用意できるかはさておき、参加するだけならそれで問題はないだろう。――貴君の旅の役には立ちそうかね?」


「……! あぁ、この上ない程だ! 有効に使わせてもらうぜ、ありがとうな!」


「ふむ、それは重畳。……さて、吾らはそろそろ行くとしよう」


「皆さん! 今度は是非、お手合わせを願います!!」


「ミンナの大事なヒトのこと、悪人だって決めつけててゴメン……。また会おうネ!」


「……(ぺこり)」


「またいずれ会いまみえることもあるだろう。さらばだ、イルヴィス・スコード」


 ……………………

 …………

 ……



「――古さや新しさよりも、もっと目を向けるべきもの、か……」


 クヨウがぽつりと、ヴァレリアスの言葉を繰り返す。


「……なぁイルヴィス。私の家のしきたり(・・・・)のことを覚えているか?」


「ん? ……あぁ、覚えてるよ」


「そうか……。イルヴィス、お前にもまだ話していなかったのだが――」






「――やぁ諸君。久方ぶり……と言うには、まだ少々時間が足りないかな?」


「!?」


 クヨウがなにかを言いかけたその瞬間。

 ……本当にその瞬間(・・)、どこからともなく現れた長髪の男。


「にゃ……!? あのヒトって確か……!」


 あぁ、間違いない……!

 こいつは……!


「イヴェルト……!!」


「どうやら、忘れられてはいなかったようだな?」


 忘れるワケがねぇ……!

 エンフォーレレリアの枯れたダンジョンで遭遇した、四人のフリゲイトの内の一人……!


「……そう構えてくれるな。私としても、ここで事を起こすつもりは無いのだ」


「……ほぉ、そいつはあれかい? ひょっとして――『直接俺達を傷つけることができねぇから』……なんて理由だったりすんのかね?」


「ふっ……さて、どうかな」


 ……はぐらかされたか。

 ま、すんなり応えてくれるとは思ってなかったがね。


「さて……君たちが空の上で活躍をしている間、我々も少し話し合い(・・・・)をしたのでね。今日は是非、君たちとも話し合いをと、そう考えているのだ」


「は、話し合い……?」


「ああそうだとも。――単刀直入に言おう。イルヴィス・スコード、我々の元へ来る気はないか?」


「……!?」


 どういうつもりかと思えば……なるほどな、そうきたか……!


「もちろん、彼女たちも一緒で構わない。むしろ……いいや、ここから先は『良い返事』を聞けた後でのお楽しみ……ということにでもしておこうか」


 ……?

 なんだ? なにを言いかけて……いや、その辺を考えるのは後でもできる。

 今は……!


「おいおいつれねぇじゃねぇか。これから一緒にやってこうっつーなら、もっと見返り(・・・)を提示してくれてもいいモンだとは思うがね?」


「なるほど、一理ある話だ。……ではこうしよう。もし我々に協力をすると言うのであれば――『七大魔王』の出現条件、その全てを開示しても良い」

 

 ――!!

 『七大魔王』の出現条件(・・・・)だと……!?

 そいつはつまり――!


「……察しは良いようだな? 残る『七大魔王』も近いうちに目覚めることになる……あのエンデュケイトのように」


「そいつは……アンタらの手によってってことかい……!?」


「そうとも言えるし、そうでないとも言える。……ともあれリーズシャリオのように、偶然(・・)君の様な『抑止力』がその場に存在していない時、それぞれの魔王によってもたらされる被害は、更に甚大なものになるだろう」


「……何が言いたい?」


「君なら分かっている(・・・・・・)はずだが……そうだな、ここはあえて言葉にしようか」





「――『信念』と『世界』、それらを天秤にかけられたとき……果たして君は、どちらを選ぶのだろうな?」

活用報告に今後の予定など載せていますので

よろしければ何卒何卒

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