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第19話 鬼神装

「――『鬼神装……顕現』!!!」


 クヨウがその言葉を口にした瞬間、突如その背後に巨大なオーガが現れた。

 ――いいや違う。あれは鎧……いや、甲冑か……!?


 クヨウの体を二回りは大きく覆うほどの、オーガを模した黒い甲冑。

 どこからともなく現れたそいつを、クヨウが全身に纏っていく。

 そして――。



「――オオオオオオオッ!!!!」



 仮面から覗く眼光と、それこそオーガのような雄叫びとともに、クヨウが魔物(モンスター)へ飛びかかっていく。


 そのまま次から次へと、怒涛の勢いで魔物(モンスター)を切り伏せていくクヨウ。

 これは『最上級』どころか、まるで『英雄級』の――!!


「クヨウすごい……!」


「う、うん……! で、でもこれって……」


 ……ネルネ達が不安になるのも無理はない。

 戦っているというよりもこいつは……暴れている(・・・・・)といったところか……!


 見境いもなく手あたり次第に、目に映る獲物に襲い掛かっていくクヨウ。

 ……恐らくあの様子から、俺たちが近づいても同じように敵視されちまうことだろうな。


 いつかのエータ達やガングリッドの『暴走』を思いだすところだが……。


「場を乱すことで時間稼ぎにはなっている、か……。イルヴィス・スコード!」


「……っ! あぁわかってるさ! 全員、クヨウには迂闊に近づくな!」


 ……まったくもって情けない話だ。

 ここで偉そうに指示を出すぐれぇしか出来ねぇってんだからよ。


 だがそんな俺を信じて、命を預けて戦ってくれてる奴らがいる。

 だからこそクヨウも……。


 となりゃあもう少し……!

 あともう少しの間は、ここで自分の不甲斐なさを噛みしめていてやるさ……!


 ……そうだ、あと少しで――。




「――っ!! ……やっと来たぜ! 『戦闘力解放ステータスオープン』!! ネルネ!!」


「! わ、わかった……!」


 今まさに、インターバルが終わった……!

 俺は瞬時にリミッターを解放し、そのままネルネを呼びよせる。


「ネルネはマナポーションを……戦闘前と、戦闘中にも一本か。ここまでの道中でも使ったことを考えると、これ以上は中毒を起こしかねんな……」


 魔法薬やポーションなんかは、短時間の間に使いすぎると中毒症状をおこしちまうからな。

 『バッドステータス無効』状態の俺ですら、パニティンサイドでばかすか(・・・・)飲んだ後はぶっ倒れちまったぐらいだ。


「う、うん……。け、けど……ぼ、防御に専念して、ある程度温存はしておいた……! た、多分二、三分ぐらいはもつと思う……!」


「流石、そんだけあれば十分だ!!」


 『背中の一坪(リビングパック)』を背中からおろし、入れ替わるようにネルネを背負う。

 ここの魔物(モンスター)ルームがひらけた(・・・・)場所にあったのは幸いだった。


 ――おかげでコイツ(・・・)が使えるからな!!




「――『ミックス』……! ぶ、『ブレイブスライムΑΩ』……ッ!!」




 バラバラになった二体の鎧が、あふれ出したスライムと共に一つになり、翠の巨体を形作っていく。

 

「アレが噂の……!」


「リーズシャリオを救ったと言われている、翠の巨人……!」


 『ブレイブスライムΑΩ』。

 七大魔王であるエンデュケイトさえも退けた、今の俺達の最高戦力だ……!


「まずは周りにいる魔物(モンスター)から蹴散らすぞ! ハクとエテリナはクヨウの牽制を頼む!! 十分に距離をとるのを忘れるな!」


「はい!」

「にゃふふ!! りょーかい!」

 

 そんでもって……流石にこの巨体を警戒してか、周りの魔物(モンスター)はこっちを優先しているようだ。


「いいね、好都合だぜ……! ネルネ、防御は考えなくていい! 攻撃に全振り(・・・)でいくぞ!」


「……え!? で、でも……『ブレイブスライム』へのダメージは、ちょ、直接おっちゃんに影響が……!」


「なぁに、かまやしねぇさ……!」


 なんせレガリア級の『超防御力』を持つこの巨体に、おもっくそマナを乗っけてるんだ。そこいらの魔物(モンスター)じゃ相手にもならん。

 いいや、例えそうじゃなくても――!


 俺の意思と連動するように、襲い掛かってくる魔物(モンスター)を次々と薙ぎ払っていくブレイブスライム。

 そうだ、警戒するべきはただ一体……!


「――キキャアアアーッ!!」


「……はっ、ずいぶんご機嫌斜めじゃねぇか……! 空の上で悠々と仕事をしてるとこ悪いんだが、こっちも時間が有り余ってるワケでもないんでね……!」


 辺りの魔物(モンスター)を蹴散らしつつ、ずしんずしんと雲を揺らしながら、一目散にヘブンリーフェニクスの元へと突き進む。


 向こうも負けじと距離をとって魔物(モンスター)の蘇生を計ろうとするが……!


「――させるかよ!! ネルネ!!」


「う、うん……!! ――『スライミングセル』臨界増殖……!!」


 ネルネの操作により、肥大化していくブレイブスライムの右腕。

 その巨大な塊にマナをつぎ込んで、力任せに叩き込む!!


「悪いが一撃でカタをつけさせてもらうぜ!! ――『ギガンティックマテリアァッ!!』」


「ギキャアアァア!! ア……ァ…………!!」




「はぁ……、はぁ……! 魔物(モンスター)の蘇生が止まった! 先生、これなら……!!」


「あぁそうだな。……魔王級を一撃とは、なんという出鱈目な力だ。イルヴィス・スコード、貴君は本当に――」


「――オジサンッ!!」


「……っ!?」


 状況が好転したのも束の間、エテリナの叫び声とともに、ブレイブスライムの体に衝撃が走る。

 その衝撃の正体はといえば――。


「アアアァアァアアァッ!!!!」


「クヨウ……!」


 ……辺りにはもう、ほとんど魔物(モンスター)の姿は無い。

 そうなりゃあ必然、次のターゲットはこっちに映ってくるってワケだ。


「お、おっちゃん……! さっきの一撃ギガンティックマテリアでもう、ぶ、ブレイブスライムは……」


「あぁ大丈夫だ、ここからは俺一人で行く……! トリア、ネルネを頼む! ヴァレリアス、そっちのパーティで……」


「言われずとも承知しているとも……! リグ、ナッティ、ムゥリ、残りの魔物(モンスター)の討伐と退路の確保が吾らの仕事だ。……責を感じると言うのであれば、もうひと頑張りしてもらうぞ」


「……! はい先生!」


 目まぐるしく変わっていく戦況、どうやらここまではこぎつけた。

 あとは……。



 ブレイブスライムから抜け出し、単身、クヨウと対峙する。


 ……明らかに、クヨウのマナは普段の比じゃあない。

 どういうからくりかは知らねぇが、これが『鬼神装』とやらの力なのか。


「ウウゥウゥウ……!! アアアァァア!!」


「っ!!」


 雄叫びをあげながら、こちらへと襲い掛かってくるクヨウ。

 『オーヴァクラック』を使えねぇ今、こっちも近距離戦闘を仕掛けるしかない。

 そうやって何とか、例の『玄涜しづかのけがれ』とやらに的を絞ろうとするが……。


「アアァアァアァアッ!!!!」


「――っちぃ!!」


 怒涛の連撃の最中、クヨウは甲冑の一部を自在に操り、腕輪を狙うこっちの攻撃を的確に防いでくる。


 さらにこの甲冑……ネルネのアルファスライムやオメガスライムほどじゃあないが、相当な防御力を持ってやがるときたもんだ。

 『マナ対マナ』のこの状況じゃ、特にそれが顕著になってくるか……!


「なるほどな……! 腕を斬り飛ばしてでも(・・・・・・・・・・)ってのはそういうことかよ……!」


 俺の『勇者級』の力で、残りのマナを全てつぎ込めば、この甲冑を抜けるほどのバッシュクラックを叩きこむことは可能だろう。


 だがそうなれば必然、クヨウ自身も無事では済まない。

 腕だけで済むどころか最悪の場合……。


 (オーガ)の様な仮面のせいで、クヨウの表情はほとんど見えない。

 ……その仮面の下で、今もお前はそれを望んでんのかよ?

 だとしたら――。




「……悪ぃなクヨウ。――どうやらその望みは答えてはやれなさそうだ!」




 俺はバッシュクラックには頼らず、再びクヨウと肉迫する。


「……っ! 愚かな……彼女の覚悟を無駄にするつもりかイルヴィス・スコード……っ!!」


「はっ、無駄にするつもりなんざさらさら無いね! ……俺は俺のやり方で、必ずクヨウの想いに報いてみせる!」


「……!」


 そうだ、無駄になんざさせてやるもんかよ……!

 お前の覚悟も、お前自身(・・・・)も……! だから――!


「おじさま……クヨウさん……!」


「…………にゃ? ……あれ? クーよんの様子がなんか……」


「……え?」


 ……どうやら、エテリナは気が付いたようだな?

 俺が攻撃以外にも、とある仕掛け(・・・)を始めたことにだ!


「ウウゥウゥウ……!!」


「忘れたかクヨウ……! 今の俺には『オーヴァクラック』も『オーヴァボルド』も使えないが……それでも『バッシュクラック』の他にもう一つ、別のスキル(・・・)があるってことをよ!!」


 バッシュクラックよりも先に(・・)プログラムした、俺のもう一つのスキル……!

 それは――!


「え、えと……あ、あれってひょっとして……!」


「――うえ!? もしかして……『くすぐりスイッチ』!?」


 そのとおりだ!

 俺は攻撃の合間にマナを指先に集中して、脇腹やらなんやらを瞬間的にくすぐり倒してやっていたってワケだ。


 俺はやりたいことは全部やると決めたからな!

 その為に……やれることも全部やっていかねぇとって話だ!


「でもそんなので……」


「――いいやあの時……その『鬼神装』とやらを身にまとった瞬間、一番近くにいたのは俺だったんだ。そうだってのにクヨウは俺には目もくれず、真っ先に魔物(モンスター)へと向かっていったのさ……!」


 例えばあれが、僅かに残ったクヨウの理性だっつうのなら……。

 理性意外(・・)の部分も残っているかもしれんと考えたワケだ。


 そいつを裏付けるように、クヨウはくすぐってやるたびに、ほんの少しだけ反応をみせる。


 だが……腕輪を狙える隙が生まれるほどじゃあ無い。

 それでも攻撃をさばきながら、あちこちに指を這わせていく。


 そして俺の掌が、とある箇所(・・・・・)撫でた(・・・)瞬間――。


「――ァ……」


 ほんの一瞬、ぴくんと反応したクヨウが見せた、本当にわずかな一瞬の()

 ――その一瞬の隙を狙って、俺は腕輪にバッシュクラックを叩き込んだ。

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