第18話 気に食わねぇかい?
「ガアァアァアッ!!」
「ギャオオォオォオン!!」
倒れたはずの魔物たちが復活し、次々と立ち上がってくる。
全快した状態のうえ明らかに統率された動きで、俺達を分断するようにトリア達を取り囲む魔物達。
さらに――。
「魔物ルームの外からも集まってきイル……!? これハ……!」
「……『エリアボス』、退路を塞いだつもりか。ならば……『ワームエクスプロード』!!」
囲いの外からヴァレリアスが指輪を向けると、ヘブンリーフェニクスの首元で爆発が起こる。
だが……。
「!? ……先生の攻撃が通じていない!?」
「この防御力、まさか……『魔王級』か……!?」
おいおい嘘だろ、まだ二桁も階層を進んでねぇんだぞ……!?
このダンジョンが未踏破だってのがうなずける話だが、こんなことでそいつを実感したくはなかったところだね……!
周囲を警戒するのに『戦闘力解放』の力を当てていたのは悪手だった……!
おかげで残り時間もほとんど無いときている。
ネルネの力を借りればヘブンリーフェニクスは討伐できるだろうが……トリア達が消耗しているこの現状、その後の退路を確保するのは難しいか……!
回復をアイテムに頼るのにも限度があるしな。
ヴァレリアスのヤツも涼しい顔に見えて相当消耗しているようだ。
『英雄級』とはいえ、ここまで一人で来たってことを考えれば無理もない。
かといって先に退路を確保したたとしても、奴の能力で蘇生されちまう。
となれば優先するのは……!
「ひとまず全員下がれ! ……ハク、ネルネ、アイテムもいくつか置いておく。俺が時間を稼ぐ間トリア達と……ヴァレリアスやリグたちも回復してやってくれ。それと――」
……
…………
……………………
リミッターを上級……よりもさらに下。
つまり普段よりほんの少しだけ上にした状態から、攻撃や防御の瞬間のみ、大幅に引き上げて力を使う。
最近は金策に加え、この使い方の訓練もしていたからな。
振れ幅が大きい分、繊細な使い方はできないが、エンデュケイトと戦った時よりももう少し時間を稼げるようになったってワケだ。
だが……。
「っ……! 今ので使い切っちまったか……!」
どうやらソイツも限界が来ちまったらしい。
力が抜けるような感覚を感じながら、そのままちらりとトリア達の様子を確認すれば……。
「おっちゃん!」
「! 無事回復は済んだか、さて……!」
状況は最悪、少しでも気を抜けばあっという間に全滅だ。
もちろん、考えがないワケじゃあ無いんだが……。
「――おれのせいです……!! おれがあんな行動に出なければこんなことには……」
「リグ……。リグのせいだけじゃナイ、ワタシ達も……」
「……(こくり)」
「いや、二人こそおれに協力したせいでこんな……先生! おれが囮になります!! その間に全員でこの場から脱出してください!
「……そうだな。今回の責は確かに貴様にある。そして……囮というのも悪い手では無いようだ」
「おい! 何もこんな時に……!」
「――だが……囮になるのは吾の役目だ。貴様程度の実力では、囮としても話にならんからな。……イルヴィス・スコード、こんなことを言える義理ではないが、三人を頼めるか?」
「! ヴァレリアス、アンタ……」
「先生!? 駄目ですそんな……先生は世界に数千人しかいないとされる『英雄級』の冒険者なのですよ!?」
「ふむ、ならばことさら、この場に残るのは吾しかいないだろう」
「そんな……おれがここで失ってしまう半年分の『記録』は、先生の元で必ず取り戻してみせます! ですが、先生がそうなってしまっては、それこそ世界の損失に他なりません!! だから……!!」
「そんなことは関係無い……っ!!!」
「……!」
リグの言葉を遮るように、大声を張り上げるヴァレリアス。
「――リグ、貴様は……いいや、ナッティも、ムゥリも、貴様たちは吾の夢なのだ……! たとえこの命が尽きようとも、こんなところで潰えたりなどさせるものか……!!」
そうして再び指輪を構えるヴァレリアス。
……夢。夢、か。
……っはは、なんだよ、似た者同士って言葉も、あながち間違っちゃいねぇじゃねぇか。
アイツにとって、リグたちの『半年』はかけがえのないものなんだろう。
その気持ちだけは俺にもわかる。
……いやまてよ? ひょっとして今までのも全部――。
「……聞いての通りだ、イルヴィス・スコード。先の通り、頼める義理では無いことは分かっている。だが……」
「っと、……悪いがソイツは聞けねぇな」
「……っ!」
そうだ、聞いてやるわけにはいかねぇ。
なぜなら――!
「リグ、ナッティ、ムゥリだったな。悪かった、大人の喧嘩に巻き込むような形になっちまってよ。そんでもって――ここから逃げるっつうなら全員でだ。……もちろんヴァレリアス、アンタも含めてな」
「全員だと……!? 馬鹿な、この状況でそんな方法など……」
「ある……と、大見得を切って言いたいところではあるんだがね。確かに今回はどうしたって賭けにはなっちまうさ。……ま、いつもはそうじゃないなんてことはねぇんだけどよ?」
本当に、いつもギリギリの綱渡りなんだよなぁ。
さて……。
「今の俺は中級上位程度で、武器も万全じゃねぇときている。役に立つとは逆立ちしても言えねぇからよ。……――だから、頼めるか?」
「――うん! まっかせて!」
「にゃふー! せんしゅこーたいってカンジ?」
「お、おっちゃんは、わたし達がいないとダメだからな……!」
「傷やマナも回復した。インターバルが終わるまでの45分……」
「ハク達がぜったい、おじさまを守りますから!」
「な!? 貴様イルヴィス・スコード……!! このような状況で彼女たちをけしかけるとは――!」
ロクな人間じゃねぇと思うかい?
……何度も言われてきたよそんなセリフはな、だが……!!
「――倒しても蘇生しちゃうなら……倒さずに動きを止めちゃえばいいよね! マナを集中させて、『力をぶつける対象』と『それ以外』とを区別する……うん! 大丈夫!」
いつかと同じセリフとともに、トリアが拳に力を込める。
「ボクだって、あれから強くなってるんだから!! ――『キ! ラ! メ! テ! オ! バンキッシュ!!』」
拳から放たれた煌めく衝撃が、魔物を吹き飛ばしていく。
だがどの魔物も討伐には至っていない。
トリアによって体内の魔素を乱されて、身動きがとれなくなってるってとこか。
……使えないっつってぼやいてた『キラメテオバンキッシュ』を、しかもいつの間にかあんな使い方までできるようになりやがって。
ここ最近、リーズシャリオでのネルネに触発されていたみたいだからな。
――もちろん、成長しているのはトリアだけじゃあない。
「お、おっちゃん……! 」
「あぁ頼むぜ! それと……!」
ネルネの合図と共に俺は『背中の一坪』を操作し、そこから二体の鎧を取り出して放り投げる。
「う、うん、そ、そっちもわかってる……! それまでは……い、いくぞ、『アルファスライム』……! 『オメガスライム』……!」
袖からあふれ出たスライムと合流し、動き出した二体の鎧。
それが的確な位置取りと共に、パーティへの攻撃を確実に防いでいく。
相変わらずの防御力に加え、ネルネのマナ操作も格段に腕をあげているからな。
あの鉄壁の防御を突破できる魔物なんざ……ま、そうそういないだろうって話だ。
「ふふ……っ! こうして重要なお仕事も任されて、ハクはとっても幸せです……! だってそれだけ、おじさまがハクのことを信じてくれてる証ですから……!」
小さなハクが巨大な魔物に対峙する。
傍から見れば、随分無謀な光景にも見えるだろう。
「ハクはおじさまのモノだから……おじさまのためにできることだったら何でもします……! ううん、魔素の濃いこの場所でなら、もっと、もっと、さらにもっと……!!」
ハクの頭から大きな角が伸び、体のあちこちが変異していく。
「……!」
「あれってもしかしテ……!」
「先祖返りか……!」
そうだぜハク、心の底から信じてるとも。
……だからちょっと、大きな声でモノとか言うのはやめような?
「にゃふふ! 足止めが必要だっていうならー、こういうのはどう?」
相変わらず凶悪そうな杖を構え、エテリナが魔法陣を展開する。
するとエテリナの周りに冷気が集まっていき……『コキュートスサークス』か?
いや、これは……!
「最近ウチってばとーっても調子が良いんだよねー? だから……コレはそのおすそ分けってカンジ? ――『グレシャリオン……ゼロ』!!」
杖を地面につきたてた瞬間、『コキュートスサークス』をゆうに超える冷気の衝撃が、魔物達を包み込む。
そしてそのまま、ビキビキと音を立てて凍っていく魔物達。
ついこの間『ジェネシオンキャリバー』なんていう新しい魔法を作り出したばっかだってのに、もう新作ときたもんだ。
頼もしい限りだねまったく。
「……これが。このように無謀な手段が、貴君のやり方かイルヴィス・スコード」
「まぁな。……気に食わねぇかい?」
「無論だとも。だが…………時間を稼げばよいのだな」
「! ヴァレリアス……」
「リグ! ナッティ! ムゥリ! 吾らも戦闘に参加する! ……大口を叩いたのだ、その責は必ずとってもらうぞイルヴィス・スコード」
……
…………
……………………
「今のトコロ、何とか凌げてはいるケド……!!」
「……!」
「くっ……! だがいずれ、このままでは……!!」
ヘブンリーフェニクスの能力のせいで、どれだけ戦おうと魔物は一向に減っていかない。
それどころか、トリアやエテリナによって動きを止められた魔物達も、また別の魔物が攻撃することによって、再び蘇生を繰り返してきやがる……!
「……イルヴィス、『戦闘力解放』を使えるまで、あとどのくらいかかるかは分かるか?」
「クヨウ……! そうだな、体感的にはあと15分ってところだが……」
「そうか、ならば……!」
かしゃりと音を立てて、アクセサリーの様なアイテムを取り出すクヨウ。
あれは確か……。
「――鬼神装具『玄涜』……。たとえどんなことがあろうとも、決して使うことは無い。そう心に決めていたのだがな……」
そうだ思いだした……!
クヨウの実家に飾られていた、ぞんざいに扱われてるっつう家宝の一つか……!
「イルヴィス、これを使っている間は恐らく、私は私ではなくなってしまうだろう。その時は……――例えこの腕を斬り飛ばしてでも、お前が私を止めてくれ」
「クヨウ……!? なにを――」
俺の言葉を待つことなく、『玄涜』を腕へあてがうクヨウ。
するとぎしりと音を立て、まるで食い込むように腕に巻き付いていく。
そして……。
「――『鬼神装……顕現』!!!」




