第15話 好きなものをくれてやろう
「悪辣って……おじさまはそんなヒトじゃありません! さっきハクがお顔におしりをのせてしまったときだって、怒ったりするどころか喜んでくれたぐらいなんですよ!」
「怪我がなかったからねー! いやホント、ハクに怪我がなくて喜ばしい限りだったわ!」
悪気が無い分対応に困るんだってホント……。
……しかしなんだ、この男、こんだけ嫌味を並べといて良い関係ときたか。
さて……。
「ふむ……何はともあれ、こうして幼子に擁護されるとは程度が知れるというものだ。普段からこうでは、貴君のパーティメンバーもさぞかし苦労を強いられていることだろうな? 実に嘆かわしい限りだ」
「……にゃー? もし間違ってたら申し訳ないんだけどー……ひょっとしてウチらってば今、ケンカなんてぶっそーなものを売られちゃってるカンジ?」
「そう思われるのは心外だぞエテリナ・クルカルカ。吾はただ客観的な事実を述べているだけに過ぎん」
「……ほう、そうか。ならば貴殿の両眼は随分と曇っているようだな……!」
「……あぁもうほれ、そんなピリピリすんなっての」
「にゃぷっ!?」
「ひゃん!?」
二人の脇腹を軽くつついて落ち着かせてやる。
エテリナのヤツなんざ普段はあんな感じだが、これで結構血の気が多い方だからなぁ。
初めて会った時もごろつきの腕をこう……ぱきっといっちまいそうだったしよ。
「……とりあえずだ。その『英雄級』であらせられるところのヴァレリアスさまが何のようで?」
まさか本当に嫌味を言いに来ただけっつうわけでもねぇだろうに。
「なに、似た者同士、少々挨拶でもと思っただけにすぎぬ。無論、先程の騒々しさに対する忠告は、随意に聞き入れてもらってもかまわないがね」
「似た者同士……?」
その意味を測りあぐねていると、ヴァレリアスの後ろから人影が近づいてくるのが目に入る。
こいつは……。
「紹介しよう。彼らが今、吾が所属しているパーティのメンバーだ」
そこには十代後半ほど……つまり言えばトリア達とそれほど歳の変わらん少年少女が三人、肩を並べて整列していた。
……なるほどな、それで似た者同士ってワケだ。
「経緯は省くが、吾も今は後進を育てるために注力しておるのだ。奇しくもイルヴィス・スコード、貴君と同じくな」
「そうかい。そいつはぜひとも仲良くしてもらいたいもんだね」
「無論だとも。しかしながら……ふむ、実に、実に不可解なことだが、どうにもそちらの彼女達は、満足のいく指導を受けているようにはに見えぬようだが?」
目を細め、まるで見定めるような視線をトリア達に向けるヴァレリアス。
「いや失敬。街を救った、などという眉唾な真偽は捨て置くとしても、少なくとも貴君が『最上級』の力を持っていることは聞き及んでいる。ともすれば……彼女たちの力を一層に引き上げることも可能であるはずだと思ってな」
……はっ、なーにが『似た者同士で挨拶でも』だ、白々しい。
だいたい同じように後進を育ててるっつう話からしておかしいんだ。
なんせ、俺がトリア達とパーティを組んでいることすら、『悪い大人がいたいけな少女達の力を利用してる』なんて噂が立ってるぐらいなんだからな。
……いや自分で考えてても辛くなってくるもんがあるが、ま、有り体に言っちまえば向こうさんは皮肉としてその言葉を吐いたんだろうよ。
となりゃあ、その辺りを承知の上でこっちに接触してきたと考えるべきか。
さてどうしたもんか……。
「無論、貴君にも考えがあってのことだとは思うのだが……この世界は結果こそが全てだ。故に、『必要のない努力の過程』に注力させることなど無駄の極みに他ならん」
「……ほぉそうかい? 俺個人としちゃあ、そういう根性論は嫌いじゃないんだがね」
「ふぅむ、随分と古い考えだなイルヴィス・スコード? いずれぶつかる壁があるのだとしても、力を引き上げたそのうえで相応の物をあてがってやれば良い。例えば……リグ、どのような方法があるかね?」
ヴァレリアスが首をひねり、仲間だと言う冒険者の少年に答えを促す。
おいまてまて、なんだか嫌な予感が……
「はい! クラスの高い実力者が矢面に立ち、より高ランクの魔物を討伐することによって、パーティ全体のレベルの底上げを図ることができます!」
「ふむ、そうだな。実にその通りだ」
げっ、やっぱりっつーかなんつーか、よりにもよってその方法を提示してくんのかよ……。
ほらトリア反応すんなっての。うちはやんねーぞそういうの。
「程度の低い困難なぞは、そのレベルに見あった者に任せておく……それが適材適所というものだ。分かるかね? イルヴィス・スコード」
……ま、コイツの言いたいことがまったく分からんってワケでもない。
別に否定はしねぇさ、そういう考えもな。
「もしレベル障害を恐れているのであれば、それも指導者である貴君が気を向けていてやれば良い。どちらにせよ本当に彼女たちのことを考えるのであれば、古い考えを捨て、より効率的な手段をとるべきだと思うがね」
「あー……まぁあれだ、ご忠告同はどうもと受け取っておくが、うちにはうちのやり方ってもんがあってな。じっくりやってくつもりなんで――」
「――もしくはやはり……自身が利用できぬほど彼女たちが力をつけるのを恐れている、という訳ではあるまいな?」
えぇ……?
コイツちゃんと人の話聞いてんの?
じっくりやってくっつってんだろうがこっちはよ。
そもそも俺は自分が指導者なんて大層なモンを自称したつもりはねぇっての。
あくまでも後見人として見守ってくっつーか……。
……どうにも、コイツの目的が見えん。
わざわざトリア達の前で俺を蔑むことで、自尊心でも満たそうって魂胆か?
……いや違うな、トリア達の俺に対する信用を落とそうとしてる……ってのがしっくりくるか。
しかし何のためにそんな……。
「もちろん、噂を鵜呑みにしている訳では無いが……ふむ、ここはひとつ未来ある若人のため、彼女たちの前で疑惑を否定する根拠を提示してもらいたいものだな?」
「疑惑、ねぇ……。アンタが求めてるのは理由じゃなくて理屈だろ? たとえ俺がどんな理由をならべたとしても、それがそっちの理屈にそぐわないもんだとしたら納得なんざしないんじゃねぇのかい?」
「……そうやって煙に巻き、明確な理由を話すこともできん、か。……ふぅむ、やはりこれは、いささか見過ごせぬ事態の様だなイルヴィス・スコード」
そう口にしながら、一枚の紙きれを差し出してくる。
……なんだこれは? 小切手ってやつか?
「さぁ言いたまえ、望みはなんだ? 金でもそれ以外でも、好きなものをくれてやろう」
「…………は?」
「彼女たちを引き取ろうと言っているのだ。彼女たちのように未来ある若者を、貴君のような者のそばに置いておくのは世界の損失に他ならぬからな」
……あーなるほど、目的は最初からそっちだったってワケか。
なーにが世界の損失だよ、有能なコイツらを理由を付けて引き抜きたかっただけだろうが。
なるほどなぁ……なるほど、なるほど……。
「――随分と、ふざけたことを言ってくれるじゃねぇか、なぁおい……!!」
よりによって……よりにもよって『金でコイツらを売れ』ときたもんだ……!!
本当に、まったくもってふざけたおしてる話だぜ……!
「お、おっちゃん……? お、落ち着いて……」
「あぁネルネ大丈夫だ落ち着いてるさ……! ただ少し、頭に血がのぼりまくっちまってるぐらいなだけだよ……!」
「それ落ち着いてるって言わないよ!? ほ、ほらおっちゃん、ボク達どこにもいかないから……ね?」
悪いなトリア、そういうことじゃねぇのさ……!
これは……!
「……野蛮な反応だな。尚のこと、彼女らを貴君の元に置いておくのは心が痛む」
「はっ……! 俺のことならどんだけでも馬鹿にすりゃあいい……! だがな、うちの大事なコイツらを物扱いされて黙ってられるほど、こっちは良い教育を受けてきて無いもんでね……!」
「物扱い? 人聞きの悪いことを言ってもらっては困るなイルヴィス・スコード……。むしろそうしているのは貴様の方ではないのかね?」
「んだと……!」
「私欲のために彼女たちの未来を食いつぶそうとするそのエゴイズム……吾はそれを見過ごせぬと、そう言っておるだけにすぎん」
「そうかい、だったら――!」
――ゴガアァアアンッ!!!!
「――うおおぉっ!?」
俺が二の句を継ごうとするその直前、突如として、さっきとは比べ物にならんほどの衝撃が船内に走る。
こいつは一体――!?
次回の更新は月曜日の予定です!




