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第14話 良い関係

 ――突然襲い来る、体を揺さぶるほどのがくんという大きな衝撃とともに、視界が暗闇に閉ざされる。


 そして体に……いや、眼前に何かがのしかかっているような感覚。

 やがて聞こえてくるのは……。


『ただいま大気中のマナの乱れにより、船内に大きな揺れが発生しております。運航に支障はございませんので、お客様におかれましてはご安心して――』


「ふへーびっくりしたねー? ……あれ? おっちゃんは?」


「……むがむが」


「ひゃあん! ……あ! ご、ごめんなさいおじさま! ハクのおしりがおじさまのお顔のうえに……!」


「っぷは! あーいや大丈夫だ、むしろハクに怪我がなくてよかったよ」


 どうやらさっきの衝撃で倒れ込んだ拍子に、ハクが俺の顔にしりもち(・・・・)をついちまったようだ。


 ……完全に事故だっての。

 だから三人ともそんな目でおっさんを見るんじゃないよ。



 ――俺達は現在、ミヅハミ行きの飛行船の中の、ちょっとしたラウンジのような展望室に集まっている。


 一番グレードの低いチケットっつうことで、用意された部屋には簡易ベッドしかないからな。

 俺達だけじゃあなく、同じような他の利用者も普段はこのスペースでくつろいでいるってワケだ。


 マッフィーノに招待してもらった時は個室をあてがってもらったもんだが……流石にそっちは簡単に手が出せるほどお安くはねぇからなぁ。


 ……マッフィーノか。

 アイツは今、どこで何をしてるんだろうね。


 せめて居場所の手がかりだけでもつかめりゃ……いや、今はひとまずできることからコツコツとやっていかねぇと。

 とりあえず……。


==================

「……消去法、ですか?」


「あぁ。今や世界中の冒険者……とまではいかねぇだろうが、相当数の冒険者が『不落の難題』を意識して動いてるだろ? となりゃあ、俺達も闇雲に行動するのは旨みが無いからな」


 ふわふわのトルティージャと魚介をふんだんに使ったアヒージョを囲みながら、今後の予定を組み立てる。


「まず……『新種族』と『大陸の楔』の二つについては、ひとまずこっちからのアプローチは控えとこうと思う」


「にゃふふ! もしもウチの仮説が正しかったら、その二つはフリゲイトに直接関係してるからねー? フリゲイトが『不落の難題』を重視してる以上……」


「むぐむぐ……ごくん。あそっか、他のを追いかけてれば、どうせいつかは遭遇するかもしれないもんね?」


「ま、そういうことだ」


 ガルダーラの『消えちまった大陸の楔』跡地も気になるところではあるんだが、同じ理由でそっちも後回しだな。


「それと……『ジレンマの鍵』、『過干渉の炉心』、『入口の無いダンジョン』の三つについてだが……」


 『ジレンマの鍵』が保管されてるのは、確かどっかの博物館……だったかね?

 『過干渉の炉心』はリッヒベルンの魔導研究施設、『入口の無いダンジョン』はアンタルクティア大陸の南極点と、それぞれの所在はわかっている。


 しかし……。


「ふむ……その三つもひとまずは後回しになるだろうな。先の記事を見て、すでに他の冒険者達も殺到しているのは想像に難くない」


「そ、そうじゃなくても、か、『過干渉の炉心』と『ジレンマの鍵』は、この状況じゃあ簡単には調べさせてはくれないだろうしな……」


 二人の言う通りだ。

 ま、専門家ですら今まで何も分からなかったってんなら、今さら素人がただ急いで駆けつけたところですぐにどうこうってことにはならんだろう。


「んで、手がかりがなさすぎる『最期の函』と、俺達がすでに手に入れている『夢幻の箱庭』を除けば、残る『不落の難題』は三つ……」


「えと……『天壌の恩恵ギフト』、『ミストルノ手記帖原本』、それと『七大魔王』……ですよねおじさま?」


「あぁそうだな。――当分の間はひとまず、その三つに的を絞ってやっていこうと思う」

==================


 ――と、そんな感じで、今後の動き方は見えてきている。

 ミヤビでも『オーヴァナイフ』を見てもらうついでに、何か情報が手に入ると良いんだがね。


 そうやって不落の難題を追っていれば、恐らくマッフィーノも……。

 ……ん?


「ねぇあれって……」「ひょっとしてあのリーズシャリオの……?」「間違いないでヤンスね……」


「……にゃふふ! オジサンってばもう人気者ってカンジ?」


「だなぁ、こいつはサインひとつでも練習しとかなきゃならんかね」


 なんせおっさんの顔はもう、あちこちの新聞で取り上げられちまってるみたいだからねホント。


 いやまぁ普通ならどんだけ話題になろうが、新聞に載った程度の顔なんざしっかり覚えてないってヤツも多いんだろうが……。


「あの眼帯は……」「眼帯が……」「眼帯の……」


 ……記者に写真をとられちまったときは、もうすでに眼帯(こいつ)をつけるようになった後だったからなぁ。

 珍しい、とまではいかんでも流石に目立つっつーか……。


「ほらイルヴィス、向こうを出る前に言った通りだろうが。お前がそれを気に入っているのは分かるが……」


「……やだね」


「あ! もーおっちゃんわがまま言ってー! どうせ『今はずしたら周りの目を意識してるみたいでカッコ悪い』とか思ってるんでしょー!」


 うるせいうるせい!

 というか、あっさりとおっさんの心を読んでくるんじゃねーよくそう!


「だいたい今はずしたところでもう気付かれちまってるだろ!? それにほれ、左目を失くしちまってるのは確かなんだし、特段勘の良いヤツじゃなくても気付くヤツは気付いてもおかしくねぇっつーか……」





「――静かにしたまえよイルヴィス・スコード……」


 そんなやり取りをしていると、不意に一人の男から声をかけられる。

 俺より10かそこら年上の……45歳ぐらいってところか?


「あーと……いやどうもすいませんね騒がしくて……」


「ふむ、その自覚があるのは多いに結構だが……少々頭を下げたところで帳消しになるとでも考えているのならば、それは浅慮に他ならんというものだ。勇者候補や他の若い冒険者を導くとしては、いささか意識が足りぬようだな」


 えぇ……すげぇネチネチつついてくんなぁ……。

 飛行船の展望室なんてそこそこ賑わしいもんだし、そこまで言われるほど騒がしくしたつもりは無いんだが……。

 っつーか……。


「お、おっちゃんだけじゃなく、わ、わたし達のことも知ってるのか……」


「ふふん! まぁボクってばもう結構な有名人だからねー?」


 ……その真偽はどうあれ、そいつを自分で言っちまえるのがコイツの恐ろしいところだねホント。


「もちろん知っているとも、グリネルネ・ポットポッドにトリア・ラムネーヌ。情報は財産にも武器にも、時には手札にもなり得る。それぞれの出身や冒険者としての実績、体格やスキルに戦闘スタイル、はてまた最近その男とパーティを組んだということも含めて……」


 ……そりゃあ確かに、情報が重要だってのは俺にも理解はできる。

 しかしあれだな、こう言っちゃあなんだが……。


「ふへー……、でもなんだかそこまで知られてるとちょっと気持ち悪いね!」


 いや言っちゃったよ。

 コイツホントそういうとこは無敵なんだよなぁ……。


「トリアお前、気持ちは分かるがもうちょい歯に衣を巻き付けるようにっつーかね……?」


「あ! え、えっと……ゴメンね黒い服のおじさん? 怒らせちゃった?」


「……いいや、そんなことは無いぞトリア・ラムネーヌ」


「ふぅ、それならよかったー。おっちゃん大丈夫! 気にしてないってさ!」


 いやここで『気にしてるぞ』って言えるヤツいる?

 そりゃ動じてないように見えるっちゃ見えるが……まぁいいか、本人がそう言ってんならおっさんとしては――。




「――そう、仕方のないことなのだ。本来手本となるべき指導者が、かように軽薄で悪辣な男だというのではな」


「――!」


 ……どうにも、初対面だってのに随分と嫌われちまってるもんだねホント。

 ま、それ自体には慣れちゃいるんだが……どうやらただ注意を促しに来たってワケでも無いらしい。


 嫌味を言いに来ただけってんなら聞き流してやるだけで済むんだが……。


「おいあれ……!」「あの冒険者って……」「……ヴァレリアスでゴンスね、元勇者候補の……」


「……ヴァレリアス? っつーと……」


 俺も耳にしたことがある。

 確か『英雄級』の――。


「いかにも、(われ)はヴァレリアス・ブランジェム。――同じ冒険者として、良い関係を結びたいものだとは思わんかね、イルヴィス・スコード……?」

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