第13話 こいつを見ても言えるかな!
『……なるほど、それでアタシにお声がかかった、ってわけっすね?』
受話器の向こうから聞こえてくる聞き覚えのある声。
やはりと言うかなんというか、俺とネルネの頭に浮かび上がったのは同じ人物だったようだ。
他の四人はいまいちピンときていない様子だったが……まぁそいつもそのはず、俺とネルネ以外は会ったことも無いからな。
その相手っつーのが……。
「あぁ、いきなりこんな連絡して困らせちまうとは思ったんだが……ここは是非、優秀なメイドさんの力を何とか借りれないかと、そう思った次第でな?」
『ふふん、そこまで言われると悪い気はしないっすね~』
マクラード家に勤めていて、ケインのやつの面会に現れたっつうあの時のメイドさんってワケだ。
念のためにと、電話の振動番号を交換しておいたのは正解だったねホント。
「そんで……今の話、考えてもらえそうかい? あぁ、もちろん次の仕事なんかが決まっちまってるんなら、そっちを優先してくれて全然かまわねぇんだが……」
『いえ、例の資料を公開する前にと準備の時間をいただいてるおかげで、身辺整理なんかは終わってるんすけど……しばらくは休暇でもと思ってたところっす。――ま、どうやら早々に次の仕事が決まっちまいそうっすけどね?』
「そんじゃあ……!」
『ええ、お引き受けをさせていただくっすよ』
メイドさんを始め、現状マクラード家に仕えている使用人たちには水面下でその辺りの話が伝わっているらしく、例の資料をどうこうするのはその辺が済んでからと考えている。
とはいえ流石に即決で返事をもらえるとは思ってなかったな。
嬉しい誤算てヤツだねホント、っと……。
「……あっと悪い、先にこいつを話しとくのを忘れてた……。あー、後出しみたいな形でなんなんだが、実はこっちは結構に騒々しいことになっててよ……」
『わかってるっすよ、エンフォーレリアにもあのニュースは届いてるっすからね?』
あー、考えてみればそりゃそうか。
『大方、まだしつこい記者サンにでも追いかけられたりしてるんでしょう? そういった対応にも慣れてるっすから問題ないっす。……ま、その分お給金は弾んでもらいますから、覚悟しててくださいね?』
「あぁ、そっちの方は期待してもらってもいいぜ? そんじゃあ詳しくは――」
二、三、今後の予定を話し合ってから電話を切る。
とりあえず詳しい話なんかは、今度顔を合わせた時にでもすり合わせていくとして……。
「イルヴィスいいのか? ……あ、彼女が信用できる人物かどうかという話ではなく、単純に雇うというのであれば資金の方も……」
「た、ただでさえミヅハミまで行くなら、そ、それなりのまとまったお金が必要だし……」
「『夢幻の箱庭』を経由するとしても、一度は普通に足を運ばなきゃいけないんですよね? ……あのおじさま? もしよかったらハクがじいやにお金を工面できないか頼んでみましょうか?」
「あ! またおっちゃんそんなヒモみたいなことしてー!」
「いやしねぇっつの。ハクも、気持ちだけは受け取っとくからな?」
というかまたってなんだよまたって。
おっさんいままでもそんなヒモ呼ばわりをされるような行為をした覚えは……無いはずだ、うん、多分。……無いはずだよな?
「で、でもそれならやっぱり、み、ミヅハミへ行けるのは結構先になっちゃうかもな……」
確かにネルネの言う通り、このままじゃあオーヴァナイフを見てもらうのも数か月は先になっちまうことだろう。
しかし――そいつはあくまでも、このままならの話だ。
「……ふっふっふ! そのセリフ……こいつを見ても言えるかな!」
バーンと効果音でもつけてやりそうな勢いで、俺は机の上にこれ見よがしと札束を並べてやる。
それも結構な額の札束をだ!
「ふわー!? お金!? どしたのこれ!?」
「確かにこれだけあれば随分と足しにはなりそうだが……しかしいつの間にこんなにも……」
「ふっふっふ、実はな――」
「ま、まさかおっちゃん……とうとう悪い人からお金を借りちゃったの!? だ、ダメだよそういうのってただ返すだけよりも大変なことになっちゃうんだよ!? おししょーが『絶対するな』って言ってたもん!」
「ちげーよ!! さっきからなんでそんな信用ねぇんだ俺は!」
つーかシーレにがっつり釘を刺されてるってことはお前の方が似たようなこと口走ったんだろうがどーせよ!
最近は多少マシになってきたが、こいつの根本にあるロクデナシな部分はちょくちょく隠しきれてねぇんだよなぁ……。
「……ったく。さっきも話したが、不落の難題を解き明かすっつーならあちこちの国やダンジョンへ出向く必要があるだろ? となりゃあ必然、先立つもんが必要になってくるワケだ。んで――」
俺はここ最近、一人でもある程度安全に探索できる深度のダンジョンへと、『ゲート』を使って潜っていた。
『スーパー大器晩成』の力と『背中の一坪』、それとなにより『夢幻の箱庭』の恩恵を利用して、高ランク魔物の素材なんかを狩り集め、そいつをギルドに持ち込むためだ。
瞬間的に引き上げる力のリミッターを『英雄級』程度にまで調節してやれば、今の俺ならそこそこの時間を立ちまわれるからな。
いざとなれば、『勇者級』の力で安全な場所まで一目散に逃げ回ればいい。
後はその繰り返し……と、俺がこの金を用意できた経緯を、全員に向かって説明してやる。
「ま、流石にまだ全員分のってワケにはいかねぇが……もうあと一週間もおんなじことを繰り替えしゃ、ギリギリ飛行船の片道代ぐらいにはなるだろうよ」
「にゃふー! 最近ウチらのレベリングに同行しないことも多かったけどー、そういうことだったってカンジ?」
「うんうん、ボク達のためにがんばってくれてたワケだね! おっちゃんえらい!」
「……よく言うぜ。ついさっき妙な疑惑を吐いたその口でよ」
「むい〰……」
と、軽くほっぺたをひっぱってやりながら鬱憤をぶつけてやる。
「今まではこのやり方は避けざるを得なかったっつーか……まぁ『力を隠してる』とか言いながらバンバン高ランクの魔物素材を狩りとってくるワケにもいかなかったからなぁ」
「にゃふふ、だねー? でもでもー、オジサンが少なくとも『街を救っちゃうぐらいの力を持ってるかも?』って広まっちゃった今となっては、隠しておく必要もないってカンジ?」
ま、そういうことだ。
そう考えると、ある意味じゃあいいタイミングだったのかもしれんな。
「で、でも……だ、だいじょうぶかな……? さ、さっきのトリアじゃないけど、な、なにか悪い方法でお金を稼いでるなんて思う人もいるんじゃ……」
「あぁ、そいつもあってそこそこの節度は守るつもりなんだよ。そうだな……具体的に言や、『金にものを言わせて高級な装備品を買いあさる』、なんて真似なんかはするつもりは無い」
あくまでも必要な分を必要なだけ。
もちろん何かあった時のために、ある程度の貯蓄も視野に入れるがね。
というか、たとえ実力以上の装備品を買いあさったとしても、それがそのまま実力の向上に繋がるワケじゃあないからな。
もしそうなら……俺ももうちょいはしんどい思いをせずに済んでるって話だ。
「なるほどー。まぁ装備品は今のままでも、おっちゃんがばんばん高ランクの魔物を倒してくれれば、一緒に居るボク達も楽してEXPを稼げるし問題ないよね! ね、おっちゃん!」
いやだからさせねぇっつってんだろうが。
きりきり働け働けい。




