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第12話 しっかり活用させてもらわねぇとな

 ――『夢幻の箱庭』。

 『不落の難題』の内、現在俺達が手に入れている唯一の力だ。


 ……つっても、『この世のどこよりも楽園に近い場所』とか言われてるのがなんでかって部分に関して言えば、そいつは未だに分からんままなんだがね。

 だが……。


「確かに『ゲート』と『ポート』を併用すれば、飛行船の料金なども片道ですむだろうが……」


「で、でもおっちゃん、む、『夢幻の箱庭』は、だ、ダンジョンの外では使わないようにしてたんじゃ……?」


「いやまぁそうだったんだがな」


 まくり上げた左袖を直しながら、返ってきた疑問に答えてやる。


「『不落の難題』を解き明かすっつーならほれ、どうしたってあちこちの国やダンジョンへ出向く必要があるだろ? 俺としちゃあ、それでもある程度のんびりとやっていくつもりだったんだが……」


「にゃふふ! これだけ真実味のある噂が広まっちゃったらー、いそがないと先を越されちゃうかもしれませぬなー?」


 ま、そういうことだな。


 他の冒険者(ヤツら)には悪いが、やりたいことは全部やると決めたんだ。

 こっちもコイツを手に入れるのには結構な修羅場を乗り越えてきたんだし、頭一つリードしてる分のアドバンテージはしっかり活用させてもらわねぇとな。


 そもそもの話、俺が『夢幻の箱庭』をダンジョン外で使い渋っていた理由は二つある。


 まず一つはメイズ……いや、ジエムに『夢幻の箱庭』を手に入れたことを何故か知られていて、そいつを警戒していたってことなんだが……。


 そいつは『全てを見通す女神の目』とやらの効果だと発覚したしな。


 どうやらジエムも、メイズ(・・・)としてギルドに俺達のことを報告するつもりもないらしく、そっちはもう気にしなくてもいいだろう。


 ……今思えば、この国の冒険者ギルドのトップが、護衛なんかもつけずに一人でうちまで出向いてきたってのも、その辺りが関係していたのかもしれん。


 つまり……『全てを見通せるゆえに何も話すことはできない』ってのは、なにも俺達だけに向けた言葉じゃあないってことなんだろうね。


 そんでもってもう一つの理由はといえば……『一度行った場所ならどこにでも行ける』なんて割とヤバめ(・・・)の力を持っていることで、またあらぬ疑いをかけられちまうのを防ぐためだ。


 ……冤罪でぶち込まれるなんて体験は、もう二度とごめんだからなぁ。


 まぁそうでなくても、もしこの力が知れ渡っちまったとしたら、『何とかして奪ってやろう』なんて考えのヤツらも出てきかねん。

 そんなワケで……。


「もちろん、『夢幻の箱庭をもってるぞ!』だの『一度行った場所ならどこへでも行けるぜ!』だのと、こっちからわざわざふれまわってやるつもりはさらさらない。ある程度、この力は隠したまま使っていくつもりだ」


「うむ、それが良いだろうな」


「となるとー……にゃふふ! 各地にポート作った時、近くにはお口の堅ーい信頼できるヒトがいると助かっちゃうかな?」


「う、うん……。そ、そのあたりは、も、もう少し考えないといけないな……」


 ……実はといえば、もう一つ懸念材料があるにはある。

 例えばマッフィーノのように、フリゲイトと関わっている奴らには情報が流れているかもしれないっつうことだ。


 だが正直、これに関しては防ぎようがないからな。

 冒険者を名乗る以上、ある程度のリスクは覚悟していかねぇと……。



「まぁそんなワケでだ。ほれ、この部屋は記者なんかにも割れちまってて、今後もなにかと動きづらくなっちまっただろ?」


「えと……確かにたくさんの男の人たちがおっきくて黒いモノで、いつもおじさまの後ろ(・・)をねらってたりしてましたもんね?」


「えええぇえぇ!!!? お、おっちゃん!? だ、だいじょうぶなの、その、えっと……」


「いや写真機ね? 記者たちが持ってる写真機の話ね?」


 だからうすら寒くなるような想像をしてくれるなって頼むから……。


「にゃっふっふ、ハクちーも相変わらずですなー? んじゃんじゃしばらくの間はー、『夢幻の箱庭』を拠点にして行動するーってカンジになるのかな?」


「ま、そういうことになるかね」


 しかしそうなると、もう少し住み心地のいいあれこれを整える必要があるな。

 あそこは環境こそ悪くないんだが、いかんせん四六時中明るいままってのは良いのやら悪いのやらで……。


「……あ、あのおじさま? それじゃあやっぱり、このお部屋は引き払ってしまうんでしょうか? ハクはその……」


「……っと、いや悪かった大丈夫だ。そのへんは一応考えちゃあいるから安心してくれていい」


 心配そうに口ごもるハクを軽く撫でてやる。

 俺やハクだけじゃあなく、うちの子らは全員、ここには思い入れもあるみたいだからな。


「この間ほれ、アカリのヤツが何度かうちに来てただろ?」


「えっと、鋼豚を持ってきてくれた時と……確かその後にも、もう二、三回ぐらい来てたよね?」


「あぁ、そん時にな、少し頼んどいたんだ。『金はいつも通り支払い続けるから、部屋を借りたままにできないか大家さんに聞いておいてほしい』っつってよ?」


 俺が直接大家さんに交渉をしても良かったんだが……『孫を助けてもらった』なんて律儀に恩を感じたりして、面と向かっては断りづらいかもしれんからな。


 ま、そいつも杞憂みたいだったが。


「じゃ、じゃあ……こ、この部屋はこれからも、こ、このまま使えるってことなのか……?」


「あぁそうだ。けどまぁ一応条件っつーか……『できれば普段、部屋の管理を任せられる人を探してほしい』って言われててなぁ。さて、どうしたもんか……」


 とはいえ実は、俺ももともとそういった誰かを探すつもりではあった。

 何せここの部屋には電話もついているからな、この家賃帯での冒険者用の貸し部屋としちゃあ珍しいぐらいだ。


 世界中をあちこち動き回っていても、固定的な連絡手段があるってのはやっぱりありがたい。

 ってなわけで、ついでに電話番でもしてくれるようなヤツだと助かるんだが……。


「にゃふふ! そうなるとー、誰かを雇うにしても、ある程度ながーい時間をお部屋ですごしてもらう必要があるよねー?」


「口が堅くて信頼出来てー、お部屋の管理も任せられて……そんでもってそこそこヒマな人ってことかー。うーん……」


 いやヒマな人って言っちまうと身も蓋もねぇが……。

 しかしまぁそんな都合の良い人材なんてのがそこいらをほっつき歩いているわけもねぇし……。


 …………ん?

 いやまてよ……?



「「……あ!」」



 俺がとある(・・・)人物を思い浮かべたのとまったく同時に、ネルネも思いついたように小さく声をあげる。


「? 二人とも、誰か心当たりでもあるのか?」


「う、うん、ひ、引き受けてくれるかどうかは、ま、まだわからないけど……。お、おっちゃん、もしかして……」


「あぁ。どうにも、同じ人物(・・・・)に思い当たったみたいだな?」

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