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番外編 ワールズレコード027:スペル

このお話は《第四章プロローグ》の二日ほど前の出来事です


 朝、目が覚めてすぐ、体にこびりついていた嫌な汗をシャワーで洗い流す。

 どうにも、最近は色々考えちまって寝つきが悪いっつーか……。


「お、おっちゃん入ってるか……? よ、呼び鈴を鳴らしても返事が無かったから、わ、わたしとトリアが来てることを伝えとこうと思って……」


「っと、ネルネか? あぁ、少し汗を流したらすぐに出るからよ、適当にくつろいで待っててくれ」


 ふーむそうか、こういうこともあるのか……。

 となると……呼び鈴の音を、もう少し大きくしてもいいかもしれんなぁ。


「う、うん……。えと、そ、それじゃあ……」


 ……ん?



「お、おじゃまします……」


「なんでー?」



 ……いやホントになんでだよ!?


「ほ、ほら……! お、お、おっちゃんはいま、か、片目が見えないから……! こ、転んでけがをしちゃったらあぶないし、わ、わたしがその……背中を流してあげようかなって……!」


「いやいい、いやいい! おっさん一人でぜーんぶできるから! おっさんほれ、風呂入るのとか超得意だから!」


「で、でも……さ、支えてあげるって約束したし……! そ、それにちゃんと、み、水着も着てる……な、何も問題ない……! 何も……!」


 むしろ問題しかないっ……!

 下手をすりゃ、よりアブノーマル度が増してる感すらあるからね? 

 ……流石にそいつは口には出さんけども。


「つかお前、ただでさえ水着も恥ずかしがってたっつーのに……あーもうほれ、よく見んでも今だって顔真っ赤じゃねぇか……無理すんなって、な?」


 俺が半裸で筋トレして時ですら、声をあげて困ってたぐらいなんだしよ。

 これで諦めてくれりゃあ……。


「う、うう……で、でも、でもぉ……! ……あ、そ、そうだ……!」


 ……ん?

 なんだ? なんだか急に目が座って……


「ふ、ふふ……み、み、水着を脱いじゃえばいいんだ……! そ、そうすれば少なくとも、み、水着姿(・・・)を見られることはなくなる……! だから……だから……!」


「そしたらもっとやばいもん見えちまうだろうが! ……いやストップストップ! ちょ……だれかーっ!! だれかきてーっ!! トリアーっ!!」


 肩ひもに手をかけようとするネルネを必死で止め……たいのは山々なんだが、俺は俺で死守(・・)しなけりゃらならん場所がある。


 頼むから、テンパって変な方向にスイッチ振り切るのは勘弁してくれ……!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード027: スペル

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……もーもー!! おっちゃんのえっち! えーっち!!」


「ええい、エッチエッチ言うんじゃないよ……。っつーかお前も、事前にネルネを止めてやるなりしてくれりゃあよかったじゃねぇか」


「……だって『様子を見てくる』っていうから、ちょっとお話してすぐ戻ってくると思ったんだもん……。……むー! もーばか! セクハラおじさん!!」


 いやだったら俺にもそんなに落ち度はなくない? ねぇ?

 ……それにしても、なんだか今日は特につっかかってくるっつーか……。


「っと、悪いなアカリ、せっかく来てくれたってのに、こんなごたごたに巻き込ん

じまってよ」


「ふえっ!? えっと! その! だ、大丈夫です! いえほんと! はい!」


 アカリはケインのヤツが作った『首輪』によって、クヨウと一緒に捕らえられていた被害者の一人だ。

 そんでもって、俺が借りているこの部屋の大家さんの孫でもある。


 今はあの時の七人でパーティを組んでいて、冒険者じゃないアカリともう一人は、そこでサポーターとしてパーティを支えているんだったな。


 ……しかしなんだ?

 なんつーか、アカリの反応もこう……様子がおかしいんだよなぁ。

 まるで……。


 ――おい待てまさか……!?

 い、いやいやいや、そんな……そんなはずはないって。

 大丈夫だ、俺はしっかりとタオルを使って隠して(・・・)いたはずだ……!!


 だから……あれだ、この話題はここいらで打ち切ってしまおう、うん。



「そんであー……アカリは何か用事があってきたんじゃねぇのか?」


「あ、そ、そうでした! ……こほん、えっと、父方の実家から……あ、そっちはキメラ農業をやってるんですけど、今朝、鋼豚が送られてきまして……それでおすそ分けをと……」


「お! なんだよ悪いなぁホント……!」


「いえ、そんな! それで勝手に冷蔵庫を開けていいのかなって思ったんですけど……」


「ボクが良いよって言っといてあげたよ、せっかくのお肉が悪くなっちゃったら悲しいしね! それでついでにお部屋に上がってもらったの!」


 いや確かにファインプレーっちゃあそうなんだが……。

 こいつ完全に我が物顔……いや、我が部屋(・・・・)顔で対応しとるな。


「しかし鋼豚か、いいねぇ。となると、なんか礼でもできりゃあいいんだが……」


「あ! 気にしないでください! 本当は、下処理済みのものを持ってこられると良かったんですけど……」


 鋼豚は下処理に時間やらなんやらがかかるのは俺も知っている。

 それこそむしろ、気にしてくれるなって話だ。



「ん……あ、あれ……? ここは……」


「お、気が付いたかネルネ? お前あの後気絶しちまって大変だったんだぞ?」


「え、えっと……、あ……! ち、違うんだおっちゃん……!! わ、わたしは自分からそんな……ぬ、脱いじゃうような、え、え、えっちな子じゃなくて……! さ、さっきは少しとりみだして、そ、それで……!」


「わかってるわかってるって……。ほれ、風邪なんかひかねぇように、ちゃんと濡れちまった髪も乾かしとけよ?」


「う、うん……。か、風邪で喉を痛めちゃったらりしたら……す、スキルもつかえなくなっちゃうしな……」


「そういうことを言ってんじゃねぇっての、ったく」


 体の方を心配してんのよおっさんは。


「あの……イルヴィスさん? 風邪をひいちゃうと、スキルって使えなくなっちゃうんですか?」


「ん? あぁいや、そういうワケでもねぇんだが……そうか、アカリはもしかしてスキル学なんかは……」


「あ、はい。元々は家業を継ぐつもりでしたから、第二学校もそっちの授業を専攻してたんです。今のパーティで初めてサポーターになってからは、いろいろと勉強もしてるんですけど……」


「うんうん、わかるよー。冒険者って覚えなきゃいけないこと多くて困っちゃうよねー?」


「お前は現役の先輩としてもう少しなぁ……」


 つーか、それは冒険者に限った話じゃないっての。




「風邪をひくとどうの、てのは少し違っててな、正確には喉……声を出せなくなっちまうと、スキルが使えなくなっちまうんだ。『スペル』を唱えられなくなっちまうからな」


「『スペル』?」


「ぷ、プログラムや術式なんかがある程度複雑になってくると……と、途中で間違って暴発しちゃわないように、は、発動のための合図を組み込むんだ……」


「そいつを『スペル』っつってな? だいたいは、スキル名をそのまま叫ぶってのが多いかね?」


 まぁ中には肉体強化なんかの例外もある。

 俺の『戦闘力解放ステータスオープン』も実はスペルなんて必要ないんだが……ああいうのは声に出した方がテンションも上がるし、かっこいいからな。


「だから例えば……衝動系の異常状態のなかに『沈黙』ってのがあってよ、そいつにかかっちまった場合でも……」


「あ、声が出せないからスペルを唱えられなくて……ってことですね?」


「まぁそういうことだな」


「も、もっと言えば、ぷ、プログラムはあたま(・・・)に、術式なんかは終わり(・・・)にスペルを組み込むって違いもあるんだけど……そ、そのへんは難しいからな……。ひ、必要なら、今度詳しい本を貸すけど……」


「あ、良いんですか! ぜひお願いします!」


 うんうん、いいねぇ。

 これぞ、冒険者同士の繋がりって感じだな。



「でもさ、冷蔵庫やコンロなんかの魔導器具はスペルが無くても動いてるよね? あれはなんでなんだろ?」


「ん? そいつはお前、あれだよ。……なんでなんだネルネ?」


「え……? い、いや、ぜ、全然説明するのはいいんだけど……」


「おっちゃんもネルネに丸投げじゃん! なんで一瞬『知ってますけど?』みたいな雰囲気だしたの!」


「あはは……」


 丸投げ?

 いいや違うね、適材適所っつーんだこういうのは。


「ま、まず前提として……マナっていうのは良くも悪くも、ひ、人の『感情』の影響を受けやすいんだ……。げ、現にバフ系の魔法の中には、わざと『狂化』の異常状態を付与して、い、怒りの感情でステータスを底上げするものもある……」


 そういや……エータ達がマジューリカさんの魔術干渉で『暴走』していたのも、もとは『狂化』が原因だったな。


「そ、それで……人の声や言葉には、か、『感情』をのせやすいからな……。た、多少のデメリットはあっても、マナや魔力を使うスキル発動の合図としては、う、うってつけなんだ……」


「そっか、『メテオパンチ』ってただ口にしただけで発動しちゃったら、困っちゃうもんね?」


 逆に言や、『使うぞ』って思いながらスペルを唱えるだけでいいってのは、安全面でも戦闘面でも重要になってくる……ってことか。


「た、対して魔導器具は、つ、常に一定の効果を保証しなくちゃいけないからな……。ひ、人の感情に影響されないよう……」


「あ! それでつまみ(・・・)スイッチ(・・・・)を使うから、スペルを組み込む必要が無いんですね!」


「ふふ……! う、うん、そ、そういうことだ……」


 なるほどなぁ。

 確かに使うたびに火の勢いが違うコンロなんざ、おっさんとしても勘弁してほしいところだね。



「そ、そういえばフリーゼンじゃ、ひ、人の言葉でも上手く反応する魔導器具なんかも作られてるって、う、噂があるけど……」


「あ! ボクそれ知ってる! 『ねぇマギ、お部屋のランプをつけて』ってやつだよね!」


「ほぉ、そいつはまた、便利な世の中になってくもんだなぁ」


 まぁ本当にそんなもんができたとして、加速度的にトリアのやつがだめになっていっちまう気もするが……。


「む! またなんか失礼なこと考えたでしょ! もー、お詫びとして……『ねぇおっちゃん! 今日もおいしいおひるごはんを作って!』」


「お前ねぇ……はぁ、まあいいか。せっかくだ、アカリも食ってくだろ?」


「いいんですか? それじゃあ……お言葉に甘えさせていただきますね!」

番外編がばらばらに入って読みづらいとの意見をいただいたので

前書きに簡単な時系列を入れるようにしてみました!

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