第10話 俺はもっと
「――『いずれ、貴方がたならたどり着くことでしょう。その力が持つ、本当の意味へと』……って言われてもなぁ……」
結局ジエムは、それ以上の情報を提供してくれることは無かった。
『全てを見通せるゆえに、何も話すことはできない』ってなことを言ってたか?
まぁ確かに、女神さまが一人の人間に肩入れしちゃあ、色々とマズいことになっちまうだろうしなぁ……。
……しかし、そんならなんで俺に『アルティメット一致団結』を? って疑問は残るがね。
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「イルヴィスさん、貴方がたに何があったのか……私は全て知っています。もちろん、『七大魔王』を意図的に出現させた彼女のことも……」
……!
彼女……マッフィーノのことだな。
「人は皆、すべからく『欲』というものを持っています。そして……その『欲』が大きく偏ってしまった時、それはやがて『悪』を産んでしまう事も少なくありません」
「え、えっとじゃあ……欲をもっちゃうのは悪いことなんですか……?」
「いいえハクさん、それ自体が『悪』ということではないのですよ? 『欲』があるからこそ、人は生きていける……大切なのはそのバランスなのです」
「バランス……」
「ですが皆が皆、そのバランスを保っていられるわけでは無いのもまた事実……。それを嘆いている訳ではありません。清濁あわせ持ってこその人間……だからこそ、愛おしく思うのも確かなので」
「あ……そ、その言葉……ほ、本当に、じ、ジエムさまが言ってたんだな……」
ホントだなぁ。
「イルヴィスさん。今あなたの心には、どんな想いが根差していますか?」
「……俺の?」
「そうです。……自分の正しさを貫くだけなら、自分が力をつけるだけでもいい。ですが人にもその正しさを求めるのであれば……もっと強くなりなさい。人の心も揺り動かすぐらいの、強く、偉大な存在に」
……!
「強く、か――。そいつは例えば……勇者サマとかか?」
「ふふ、いいえ。……私はそれが、勇者でもそうでなくてもどちらでも構わないと思っています。そして……イルヴィスさん、貴方ならそういう存在になれるのではないか、とも――」
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「……随分と買いかぶってくれるもんだよホント」
帰り際、ジエムが言っていた言葉を思いだす。
……俺の中にある想い、か。
そいつはもちろん決まっている。
俺はあの時夢にみた光景を……トリア、ネルネ、ハク、エテリナ、クヨウの五人が全員勇者として並び立つあの光景を、今もずっと目指している。
そうなったトリア達はそりゃあもう格好よくて強くって……俺はその姿を見て『あぁ、感慨深い光景だな』なんて風に思ったりするんだ。
もしそんな瞬間を仲間として……しかも一緒に冒険をする中、一番近くの特等席で迎えられたとしたら、もうこれ以上言うことはない。
……ちょっといい酒ぐらいは、奮発してもいいかもしれんがね。
「あれ? どしたのおっちゃん、なんかぼーっとしてるけど……」
「ん? あぁ、いや悪ぃ。なんでもねぇんだ。なんでも――」
そうだ、俺の想いは変わらない。
そのために俺は――。
『イルヴィスさん……わたくし、わたくしは――』
「――……あーくそ! 違う! 違うぞトリア!! なんでもなくない!! なんでもないワケがあるはずねぇんだよ!!! そうだろ!!?」
「ええええぇ!!? 別にボクなんも言ってないでしょ!? ホントにどうしたの!?」
あーもういい!
もうごちゃごちゃと考えるのはやめだ!
「よっと……よーしトリア!! こい!!」
俺は勢いよく立ち上がると、少しソファをずらしスペースを作り、腕を広げてトリアに抱き着いてこいと呼びかける。
「え、お、おっちゃん……? ちょ、ちょっと色々あったせいで、じょ、情緒不安定になっちゃってるのかな……?」
「え、えーと、よくわかんないけど……んーまぁいいや! とりあえずー……とぉ!!」
いつものように、勢いよく飛びついてくるトリア。
……を、真正面からしっかり受け止める。
「っと、よーしよし、捕まってろよ! ……さぁ次はネルネとハクだ!!」
「え……!? わ、わたしたちもか……!?」
「えへへ、いきましょうネルネさん! ん~……えい!」
続いてぴょんと腰にしがみつくハクと、おずおずといった様子で背中におぶさってくるネルネ。
「にゃふー! オジサンオジサン! もちろん次はウチらの番だよねー?」
「当たり前だろ? ほらクヨウもこい!」
「わ、私もか……!? ……ええい、ままよ!」
最後にエテリナとクヨウが両腕にぶら下がる。
流石にちょっと無理があるか……! だが……!
「ぬううぅうう……『戦闘力解放』!!」
「あはは!! おっちゃんなにこれ! なにこれー!!」
「どうだ! 今の俺の力がありゃあ、お前達全員を一度に持ち上げることも余裕だって話だ!!」
「いや、それは確かにそうだろうが……! なぜ急にこんな……その、こうやってくっつくのが嫌な訳では無いが……」
「こんだけ余裕があったらよ! ……もう少しぐらい、人やらなんやらが増えても、全然いけると思うんだよ! なぁ!」
「……! お、おっちゃん……ふふ、そ、そうだな……! うん、お、おっちゃんなら、もっと、た、たくさんの人を持ち上げられちゃうかも、し、しれないな……」
だろう?
だったら――!
「決めた! 俺はやりたいことをもう全部やるぞ! 『不落の難題』だって、残りは全部俺達が解き明かす!! そんでもって……マッフィーノのこともなんとかする! 方法は……あれだ、これから考えるけども!!」
「おじさま……! はい! ハクも! ハクも一生懸命考えます! 一緒に頑張りましょうねおじさま!」
「あぁ! ……マッフィーノのことだけじゃねぇ、これからも『不落の難題』を追ってりゃあいろんなことが降りかかるだろうが……。全部あれだ、上手い事こう……なんとかしてやる! その為に……俺はもっと強くなるぞ!」
「にゃっふー!! そうだねそうこなっくっちゃ!! ウチってば、やっぱりオジサンについてきて大正解ってカンジ! にゃふふふ!」
そうだよ! どうせ自分が勇者なんてもんの器じゃあないなんて、ついこの間あらためて感じたばっかりだ!
だったら体裁なんざ気にせずに、欲張っていこうじゃねぇか!
……ジエムの言う、バランスのとれている範囲でな!
「そうと決まりゃあ、早速先のことを考えねぇとな! ……よし! 怪我をしねぇように静かに分離!」
「あはは! あー面白かった! でも先のことかー。ねぇねぇ! やっぱりガルダーラに行くとかは?」
「にゃふふ! それもモチロンいいんだけどー……ウチとしてはなーんか引っかかってることがあるんだよねー?」
「ひ、ひっかかってること……?」
「にゃー、それが何なのかが自分でもわかんないんだけど……。ん~『ウルトラ相思相愛』、『アルティメット一致団結』、それと……多分オジサンの『スーパー大器晩成』も……」
なにやら深く考えだすエテリナ。
……っと、そういやナイフを使ったままだったな。
コイツにも随分世話になってるし、ちゃんと手入れしてしまっとかねぇと……。
――ぱきん。ごとん。
……ん?
あれ、なんか……。
「……? どうしたんですかおじさま?」
「お……」
「お……?」
「折れたーーーー!!!?」
「えぇーーーーー!!!?」
「お、折れたというと……まさか『オーヴァナイフ』がか!? 星七の代物だぞ!? なぜこんな唐突に……」
「わからん、わからんが……刃とグリップを繋ぐ根元部分からぽっきりといっちまったみたいだ……! しかし心当たりなんぞ……」
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『――壁への衝撃は、すべてそのまま貴方の元へと還っていきます』
『――衝撃は、すべてそのまま……』
『――すべてそのまま……』
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「俺だーーーー!!!?」
心当たりバリバリあったわ!!
原因は俺の無茶な使いかたじゃねぇか!!
いやどうするこれ!? どうやって――。
「にゃにゃ……刃とグリップが真っ二つ……? ……頭と、おしりが、別々に……。ウルトラ……スーパー……アルティメット……。…………にゃーーーーーー!!!」
「わーーーー!!? な、なに!? 今度はなに!?」
「にゃふー!! なにが引っかかってたか分かっちゃった!! ねぇハクちー! ハクちーの魔物血統ってなんだったっけ!」
「え、は、ハクの魔物血統ですか……? えっと……ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴンで……あぁっ!!」
「お、おっちゃんの恩恵と同じ……!」
「そういえばハク、初めてメイズさんに会った時……あ、えっとジエムさまだった、まぁいいや! とにかくその時さ、そわそわするって言ってたよね!? あれってもしかして……」
「フリゲイトの時のように、戦女神様の気配を感じていたということか! 確かに私の祖国ミヤビでは『導きの龍』とも呼ばれているが、それももしかして……! ん……?」
おいおい、流石はエテリナと言いたいとこなんだが……もう今おっさん、感情をどっちに持っていっていいのか分からんようになってるよ? ねぇ?
「――イルヴィス!? ちょ、ちょっと窓を! 窓の外を見てみろ!」
「……って、今度はなんだ!?」
クヨウの言葉に従って、窓から少し身を乗り出しながら下を見下ろしてみると……。
「あ! いたぞー!」「今顔を出した! イルヴィス・スコードだ!」「すみません、少しお話を――!」
……おいまてまて、なんだよこの人ごみは!?
「あれって……新聞の記者さん達!? ひょっとして……」
「お、おっちゃんがエンデュケイトを退治したってことが、ひ、ひろがりはじめちゃったのかな……?」
このタイミングで!?
……あーもう! フリゲイトやら不落の難題やら女神サマやらナイフのことやらウルトラ以下略ドラゴンのことやら……!
「じょ……じょ……状況の整理が追いつかん!!」




