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第8話 最大の敵は自分自身

「ぐぎぎ……! こんのー!!」


「……っ! だ、だめだ……! う、動けない……!」


 見えない壁に阻まれた向こう側で、まるではりつけの様に宙に浮かぶトリアたち。

 そしてその前には……。


「どういうつもりだ、メイズ……!!」


「おや、聞き逃してしまわれましたか? 貴方自ら(・・・・)管理下に入りたいと思えるようにしてさしあげます……と、そう申し上げたはずですが」


「てめぇ……!」


 ……っ! いかん、落ち着け……!

 熱くなって向こうのペースに絡めとられれば損しかないってのは、今までの人生の中でも十分学んできたはずだ……!


 もしトリア達を傷つけることが目的なら、とっくにそうしているはず……!

 交渉の材料……すなわち、向こうが求めてるもんが『俺の力』だってんなら、そいつはつまり、今後も俺の手綱を握り続ける必要があるワケだ。


 となれば金や物と違って、『手渡ししてお終い』ってワケにはいかん以上、取引後もトリア達の無事は保証される。

 だが……。


「随分と考え込んでいますね? ……もっとも、彼女たちを案ずるのであれば、答えは決まっているようなものだとは思いますが……かまいませんよ、大事な選択ですのでじっくりとお考え下さい」


「はっ、そいつはまた随分とお優しいことで。 ……そっち(・・・)がお前の本性かよ?」


「さて、どうでしょう。こう見えて私、演技は得意な方ですから」


「ほぉそうかい。……はぁ、どうしてこう俺の周りの女の子らは、したたかな(・・・・・)やつが多いのかねホント。――『戦闘力解放ステータスオープン』……!」


 仕込んでいたナイフを取り出しながら、リミッターを調整していく。


「なるほど、それが貴方の……。ですが、やめておいた方が賢明ですよ。どう足掻こうとも、あなたの力ではこの障壁は破れません」


「そいつはご丁寧な忠告どうも。けどな、それで『ハイそうですか』って引き下がるぐらいなら……とっくにお前の提案を受け入れてるって話だ……!」


 ひとまず一撃、『英雄級』でバッシュクラックを叩き込む……!

 それでだめなら――!




「――ぐがあぁぁぁっ!!!??」


 瞬間、ナイフを振り切った俺の体に、衝撃と激痛が走った。

 コイツは……!!?


「――っ!? おじさま!!?」


「ぐぅ……! っつ、大丈夫だ、何も心配いらねぇさ……!」


 狼狽えるハク達に向かって返事をしつつ、今起きたことを振り返る。


 確かに俺は、この見えない壁に向かってバッシュクラックを叩きこんだはずだ……! だがあの衝撃は間違いなく俺の(・・)……!!



「――契約魔法『リフレクトペイン』……。壁への衝撃は、すべてそのまま貴方の元へと還っていきます。……忠告はしたはずですよ、無駄な足掻きはしない方が身のためだと」



 ……なるほどな。

 コイツは随分と骨が折れそうな魔法だねホント……!


「にゃ、契約魔法……!? 紋章もスペルも無しに……!?」


「……確かに契約魔法は戦女神との契約の証(・・・・)として、術式にそれぞれの女神に応じた紋章を組み込む必要がありますが……とある事情がありましてね、私にはその必要がないのです」


 おいおいまてまて……!

 エテリナは簡単な魔法程度なら、頭の中で術式なんかを組み立てられるっつってたが……それだって後で調べてみりゃ相当高度な技術だって話だぞ……!?


 ……いや、『とある事情』か……。

 唐突に飛ばされてきたこの白い部屋といい、メイズの言っていた『特殊な力を持つ友人』ってのがどんな奴なのか……気にならないと言えば嘘になるね。


 例えば……『不落の難題に関係する誰かさん達』、とかな。


「さぁどうされますか……? こちらとしても、貴方を縛り付けようなどと言うつもりはありません。大人しく我々の管理を受け入れていただければ、そう悪いようにはしませんよ」


「はっ、有事の際(・・・・)以外は……だろ?」


「ええそうです。……繰り返すようですがイルヴィスさん、このように特例として『勇者』の称号を与えるということは、それだけ貴方を評価しているということに他なりません。ですから――」



 ――ガキィィン!!

 ……と、メイズが何か言い終わらないうちから、もう一度バッシュクラックを叩き込む。

 だが……。


「――おっちゃん!?」


「ぐうぅっ!!? ……っつはぁ!! ……悪いな五人とも。窮屈だろうが、もうちょっとだけ待っててくれよ……!!」


 ……しゃべってる隙に不意を突いてみてもダメか。

 それなら次は――と、体制を整えつつ、再び次の一撃のためにマナを練り直す。


「……わかりませんね。『勇者』としての報酬も、権限も、そして『名声』も……そのために人生をかける者とて少なくはないというのに……それほどまでに、我々は信用(・・)できませんか?」


「はっ、分かってて意地の悪い聞き方をするんだからなぁホント。……けどま、実際んところそこ(・・)はそんなに重要じゃあねぇのさ」


「……! ではなぜ……」


「――『有事の際はギルドの指示を優先してもらう』だったか? ……つい最近な、似たようなことを言われたよ。『たった二人より、ここに居る数百人を優先するべきだ』……てな感じでな」


 それが間違ってるなんていうつもりはないんだぜ?

 だが……俺はその判断をしたことを後悔しちゃあいないのも確かだ。


 ……いや、逆か。

 そう判断しなけりゃ、俺は確実に後悔をしていたはずだ。

 だからこそ――。


「俺ん中じゃあよ、大事なモンってのはけっこう決まっちまってんのさ。たとえ数百人のためだろうが数千人のためだろうが……仮に世界のためなんて言われたとしても、そいつは変わることはねぇ」


 ……そうだ。

 たとえわずかな可能性でも、そいつらよりも『別の何か』を優先しなけりゃならんってんなら……。


 ま、どれだけおいしい(・・・・)条件をぶら下げられたとしても、突っぱねてやる自信があるところだね。


「それにだぜ? 俺がここで簡単に折れて勇者になったとしたら……あいつらが初めて直接目にする『勇者』ってのがその程度のもん(・・・・・・・)ってことになっちまうだろ? ……そいつはほれ、なんつーか興ざめじゃねぇか、なぁ?」


「……なるほど。すべては彼女達のため、と」


「おいおい、わかってないねぇ」


「……?」


俺が(・・)、コイツらにそうしてやりたいって言ってんだ。つまり……まごうことなく自分のため(・・・・・)ってことだよ!!」


 だから――!


 ……………………

 …………

 ……




「――はぁっ……! はぁっ……!!」


 もう何発撃っただろうか……体が軋み、目がかすみ始める。

 ……『最大の敵は自分自身だ』なんて言葉を聞いたことはあるが、まさかこんな形で体感することになるとはなぁ。


 だがまだだ……!

 攻撃と防御にまわすマナを調整しつつ、打ち込む角度も一撃ごとに変えていく……!


 仮にそれが無駄だとしても……後ろにどんな奴がついていようが、魔法を使っているのがメイズっつう人間である以上、どこかで限界もあるはずだ……!

 そいつを探り出せば……!!


「……っ! イルヴィスもう……もうそれ以上は……!」


「大丈夫だっての。ほれ、おっさんまだまだ余裕だぜ?」


 わざとらしくならないよう軽口で答えながら、ひらひらと手首を振ってやる

 ……だからそう思い詰めたような顔をしてくれるなって、頼むからよ。

 おっさんそっちの方がしんどいんだっての。


「そんな強がり……!! 私達が分からないとでも思っているのか!? 私達のためにしてくれているのは分かったから、もう……!」





「――ううん、ちがうよ……!」


「……!? トリア……? なにを――」


「だってあの時……ガングリッドさんとケンカする時もおっちゃん言ってたもん! 『苦しくても辛くても耐えてみせろ』って! 『いくらでも付き合うから』って! それってさ、今のボクたちも一緒でしょ!? だから――」


 視界の端に、きゅっと唇を結ぶトリアの姿が映る。

 そして――。


「すぅ……おっちゃん負けるなぁ!! ボクたちのためにがんばってぇ!!!」


 そんな激励の言葉が、不意に鼓膜を震わせる。

 ……いいね、そうこなくっちゃよ。


「トリア!? しかしイルヴィスは――!」


「――おじさまぁっ!! ハクも……ハクも応援しています!! ハクもなにがあっても、おじさまのそばに居たいです!!」


「ど、どれだけ傷ついても……ぜ、ぜったいわたしが治してやる……! だ、だから……が、がんばれ……! がんばれおっちゃん……!!」


「ハク……ネルネまで……」


「ほらほらクーよんも!」


「だ、だが私……私は……」


「にゃふふ! ――オジサンはさ、『自分のためにウチらと一緒に居たい』って、そう言ってくれてるんだよ? もちろん、ウチらもそう思ってるけど……クーよんは違っちゃう?」


「そんなの……そんなの私だって……! ……っ、私だって! 本当はずっと一緒に居たいに決まっている!! だから……だからイルヴィス!! 負けないで!!」


「にゃふー!! これでまんじょーいっちってカンジ? それじゃーウチも……がんばれオジサーン!! ウチらのために頑張ってくれたらぁ、あとですーっごいサービスしてあげちゃうよー!!」


「あ! じゃあボクもぱんつぐらいならみせたげるからぁ!!」




「――はっ、だからそれやめろってのによ……!」


 このタイミングではりきっちまったら、おっさんパンツやらなんやらにつられた、ただの変態みたいじゃねえか。

 本当に、勘弁してほしいもんだねまったく……! 


「……彼女達も、随分と酷なことを言うのですね」


「はっ、そう見えるかい? だとしたら……お前の目は節穴ってやつだ。――俺の左目よりもよっぽどな!」


 ボロボロの体に力が湧いて来る。

 月並みな表現だが……あいつらの想いや力や流れ込んでくるような、そんな感覚。

 そして――!


「にゃ!? あれ(・・)って……!」


「まさか……!」




「――おおおおぉぉぉぉっ!!!」


 振りぬいた一撃とともに、見えない壁は音を立てて砕け散っていった――。

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