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第7話 好条件

「……なるほどな。確かに憶測を重ねているだけだといえばそれまでだが……しかし、まるで説得力がないと言えば嘘になると私は思う」


「俺も同感だ。……しかしフリゲイトのヤツら、『不落の難題』と関わりがあるとは思っちゃいたが……どうにも、思った以上に密接な関係みたいだな」


 不落の難題を追いかけてるこっちとしちゃ、随分と妬ける話だぜホント。

 だが――。




「――でも、それじゃあやっぱりマッフィーノさんがエンデュケイトさんのことを色々知ってたのも、ジョーダインさんにお話を聞いたからなんでしょうか……?」


「! ハク……」


 ……ハクの言う通り、恐らくそう言うことなんだろう。

 

 さらに言えば、マッフィーノはベレテスの存在を知っていた。

 となると……孤児院をおそったごろつきどもが持っていた、『最上級』の力を得られるっつう妙な薬……。


 いつかの暴走したエータ達に様子が似ているなんて感じていたが、そいつもフリゲイトと関係があると考えれば、納得できない話じゃない、か……。

 あとは……。


「……あの小説家の爺さんも、『ミストルノ手記帖』の写本を持ってることで、誰かに狙われてるっつってたな」


「あ……。そ、それじゃあマッフィーノがバンダルガにいたのも……」


 あくまでも推測だ……いや、邪推とでもいうべきか。

 ……あんまりいい気分はしないもんだがね。



「……我々はマッフィーノに利用されていた……と、本来は割り切って、そう考えるべきなのだろうがな……」


「ま、さんざん世話になったんだ、少しぐらい利用されてやっても文句は言わんつもりなんだぜ? ……本来ならよ」


「マッフィーノ、あんなやり方しかできなかったのかなぁ……」


 あんなやり方、か……。

 確かにあの事件じゃあエンデュケイトの出現によって、関係のない町のヤツらまで巻き込まれちまっていたからな。


 『黒い金』の隠し場所を移すなり、事前に人を避難させるなり、それこそ、事前に俺達に話をしてくれるだけでもいい。……被害を抑えるためにとれる手段なんてのは、いくらでもあったはずだってのによ。


 だがそいつをしなかったのは……マッフィーノ自身が『特にその必要がない』と考えていたからだろう。


 それどころか最悪、エンデュケイトが討伐される確率を少しでも上げるよう、一般人を使ってエンデュケイトの特性や情報を引き出し、俺達に見せていた……なんてことも考えられる。


 ……まぁその辺、クヨウとエテリナはなんとなく気付いてるみたいだが。

 それでも……。


「……多分マッフィーノの中じゃあ、あれが精一杯に気を配った……少なくとも、あいつ自身はそう思ってるやり方だったんだろう」


「にゃふふ、そうかもねー? ……そうじゃなきゃ、あれだけの蘇生屋の手配なんてしないはずってカンジ?」


「ま、そういうことだ」


 だからと言って、アイツがやったことをまるまる肯定するつもりは無いけどよ。


「……マッフィーノは多分、アイツの言う『弱肉強食』でいうところの『弱者側』にいたんだろうな。そんでもって、もしかしたらそれで虐げられていた……とまでは分からんが、あんまりいい思いをしてなかったのかもしれん」


「じゃ、弱者側……そ、そういえばおっちゃん、さ、さっきもそんなこと言ってたけど……」


 さっきの、洗面台の前での話だな。


「ここでいう『弱者』っつーのは、何も『単純に力が弱いヤツ』ってわけじゃねぇ。状況や条件しだいじゃあ、誰だって相対的に弱者側に立つこともある。……たとえ周りから見たら、どれだけ恵まれてるように見えても……だ」


「あ……。ハクちょっとだけ……ほんの少しだけわかるかもしれません……」


「……あぁ、そうだな。……よーしハク! おっさんの膝の上に来るか? よっと……!」


「はわわ! あ、あのおじさま……!? ……ううん、えへへ! ハク、おじさまのお膝の上大好きです……!」


「そうかい? そいつは膝を提供する甲斐があるってもんだね」


 ハクも父親に……シャグヤス家には疎まれちまっているみたいだからな。

 そんなことを考えながら、ハクの頭を撫でてやる。


「……確かに弱肉強食ってのは世の常だけどよ、人との関わりってのはそれだけってワケじゃねぇだろ? ――アイツの周りにはいなかったんじゃねぇかな、そういうことを教えてくれるようなヤツがさ」


 弱者が受ける不条理も、強者がかざす理不尽も、それが当たり前のことだと受け入れなけりゃあならん環境。


 もしマッフィーノがそんな環境にいたんだとしたら……罪悪感よりも、『だからしょうがない』なんて、そんな風に思うことすら(・・・・・・)なくなっていっちまうのかもしれん。

 アイツが元々弱者側にいたとすれば尚更だ。


 ……俺にもなんとなくわかる。


 両親が理不尽に殺されて、あてもなくふさぎ込んでた俺を受け入れてくれたばーさん。

 それとガングリッドや、マーテットたちといった孤児院の皆。


 それだけじゃない、リィンねぇちゃんやウリメイラ、フーやシーレや神父さんなんかにも、俺は随分と助けられてきた。


 冒険者になって……文字通り泥水をすすり、下げた頭すら笑いながら踏みつけられることなんざ珍しくないほどに弱かった俺を、それでもパーティに誘ってくれたアルティラ、ミルティーヌ、レン、ラフィア。


 そして――。


 ……誰一人として欠けていても、今の俺はいなかっただろう。

 いや……それどころかもしかしたら俺もマッフィーノや……あのケインのように――。


 ――ジリリリリ!!


「うわぁっ!? ……び、びっくりしたぁ。……呼び鈴? お客さんかな?」


「みたいだな? よっと……」


 膝の上のハクをそっと下ろし、玄関へと向かう。

 すると――。




 ……

 …………

 ……………………


「――お聞きしましたよ、リーズシャリオでのご活躍のこと。私も冒険者ギルドの一員として、心から強く誇りに思います」


「あーっと……そいつはどうも」


 突如として俺の部屋へとやって来た一人の客人。


 ――メイズ・マナージマン。

 トリア達とさほど年も変わらんように見えるこの少女が、俺達の国(シルヴァーネ)の冒険者ギルドトップってんだからなぁ。


 ……正直、フーの助言もあり、俺は冒険者ギルドを……ひいてはメイズのことを心から信用しているワケじゃあ無い。

 ってなわけで、場所を移そうかと提案もしたんだが……。


『もちろんかまいませんよ。貴方がたが、どこの誰にどんな話を聞かれても良いと言うならの話……ですが。――それとも‥‥私も箱庭(・・)へと招待していただけますか?』


 ……ときたもんだ。

 どうにもそのあたりを見透かされてるとなると……念のためにナイフは仕込んであるが、下手な行動はしない方が良いかもしれんからな。


「……さて、早速ですが――」


「あの時のお返事を……だろ? 俺を……いや、正確には俺の持ってる『スーパー大器晩成』と『夢幻の箱庭』を、冒険者ギルドの管理下に置く。その見返りとして『勇者』の称号を……だったよな?」


 それが以前、ここをたずねて来たメイズが俺に出してきた条件だ。


「ええ、その通りです。もちろん、形式だけのものではありません。『勇者』としての権限や報酬も含め、貴方にはこれからもより良き世界のためにご活躍をしていただきたいと考えていますので……」


「より良き世界のため、ね……。一応聞いときたいんだがよ、そっちが持ってる『不落の難題』の情報や……そうだな、手の内(・・・)を先に見て考えたいっつったら……」


「……残念ながらそれはできません。代わりに最大限の誠意として、ギルド並びに世界連合(ワールドユニオン)においての最高資格である、『勇者』の称号をと、ご提案しているのです」


「ま、そうだよな」


 となると……いや、元々俺自身が『勇者』になる気はねぇんだ。

 だとしたら、答えは決まっている。

 つまり――。



「……そうですか。残念ですが……仕方がありませんね」


「悪いな、魅力的な提案だとは思ったんだがよ……こっちにもいろいろ事情があるもんでね?」


「いえ、お気になさらないでください。以前も申しましたが、強制的にと考えているわけではありませんので。イルヴィスさん、私は貴方の意思を尊重しますよ」


「そうかい?そう言ってもらえると――」




「ですから――自ら我々の管理下に入りたいと、そう思うようにしてさしあげますね?」




「――っ!?」


 メイズが一言そう呟いたかと思えばその瞬間……。

 本当に一瞬のうちに、俺達は全員、眩しいぐらいに真っ白な部屋へと飛ばされていた。


「痛った!? ……ふぇえおしりうった……って? ……うぇ!? なにここ!?」


「イルヴィス!? これは一体……!」


「分からん……! だが……!!」



「――私の友人には、少々特殊な力(・・・・)を持った者もいましてね。彼女に無理を言って、特別に『この空間』を作ってもらったのです」


「特殊な力、だと……!? まさか――ぐあっ!!」


 最後まで言葉を言いきる前に、目の前にかざされただけ(・・・・・・・)のメイズの手によって、後ろへと吹き飛ばされる俺の体。

 そして――。


「おじさま!? ――きゃあっ!?」


「……っ!? ハク!!」


 すぐさま体勢を立て直した俺の目に入ってきたのはハクの……いや、ハクだけじゃねぇ……!

 俺を除く五人全員が、まるで見えない手にでも掴まれているかのように、ふわふわとメイズの背後へ浮かび上がっていく。


 慌てて手を伸ばそうとするが――。


「いっつ!? ……なんだよこれ!? 見えない……壁……!?」


 突如として現れた見えない壁が、トリア達に駆け寄ろうとする俺の邪魔をする。



「――……本当に残念です。良いお返事さえいただければ、こんな手荒な真似をせずとも済んだのですが」



 エテリナの『ショータイムウインドウ』のような魔法なのか……!?

 いやしかし、さっきもそうだったが、メイズは呪文や魔法陣どころかスペルすら口にしていなかったぞ……!!



「さて、それではもう一度お伺いしましょう……。『勇者の称号』と『彼女たちの無事』……その二つと引き換えにイルヴィスさん、冒険者ギルドの管理下に入るつもりはありませんか、と」



 こいつは……!!




「――先程よりも好条件となってしまいましたが……ふふ、そこはおまけ(・・・)をしてさしあげます」

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