第6話 ちょっとした暴論
ひとまずは昼食を済ませ、再びエテリナの言葉に耳を傾ける。
腹が減ってちゃあ、まとまる考えもまとまらんからな。
――不落の難題『新種族』。
俺達ヒュームを含む七種族、そのどれにも当てはまらないまったく別の人間達。
その存在を示すような記述なんかが、各地の古代文明の遺跡なんかで見つかっている……つっても、俺は実物を見たことは無いんだがね。
そんでもって『記述が残ってる』っつうことはすなわち、『新種族』の周りでは必ずと言って良い程『記述に残すほどの出来事』が起きていたってことになる。
単なる偶然なのか、それとも……。
聞いた話じゃあ、今の俺達の世界にも関わってくるような出来事も少なくないらしく、そんな背景もあって『人類を導く存在だ』なんて言うヤツらもいるそうだ。
しかし……導く云々は置いておいて、本当にフリゲイトが『新種族』なのだとしたら、奴らは古代文明の時代……それこそ数千年前から存在していることになるのか……?
確かにマジューリカさんは『少なくとも俺よりは歳上』だっつってたが……。
果たしてどのぐらいの歳の差があったのか、どうせトリアには『デリカシーが無い』だのなんだのと普段から言われてるんだ。
この際、思い切って聞いておくべきだったかもしれんね。
「……『新種族』か。もし本当にそうだというのであれば……奴らの使う『干渉』も、あの一瞬でその場から消えてしまう妙な術も、『新種族』のみが使える特別な力ということになるのだろうか?」
「にゃふふ、ソコについてはもひとつ思うところがあるんだよねー? こっちはもう完全にうちの憶測になっちゃうんだけど……」
と、両方の掌を胸の前で広げてみせるエテリナ。
……ん? いや、親指を片方折り曲げてるっつーことは……。
「……9?」
「そう9! うちの仮説ではー、――フリゲイトは多分、全員で『9人』いるんじゃないかなーって、にゃふふ……!」
「! そうなのか!?」
それが本当なら、また一歩ヤツらの実態に近づくことになるが……。
「にゃにゃにゃ、あくまでも仮説だって思って聞いてね? ウチはフリゲイトの『干渉』と、あの『一瞬で姿を消しちゃう移動手段』は、それぞれ『別の力』に起因する能力だと考えてるんだー」
「別の力……ですか?」
「そうそう! もちろん根拠がない訳じゃないよ? チャラ男くんたちの時もガンさんの時も、フリゲイトは間接的なものも含めて、人に対しても『干渉』の力を使ってたでしょ?」
確かにそれは間違いない。
エンフォーレリアじゃあ、人が魔物になる、なんて現象まで起きてたぐらいだからな。
「でね? あの時ジョーだんは、わざわざダンジョンを経由してウチらからマッフィーを遠ざけたんだよねー? ――あのしゅん! って消えちゃうヤツで、一緒に逃げちゃえばいいのにさ?」
「! ……確かにそうだな。つまり、そいつをしなかったってのは――」
「『干渉』と違って、あの移動方法は他人には使えない……っていうことなんじゃないかなーって?」
なるほど、それで『別の力』か……。
あくまでもエテリナの仮定の話で、他にも原因は考えらえるかもしれんが……俺にはあながち、間違っちゃいないように感じるね。
「でもさ、それでなんで人数までわかっちゃうの?」
「にゃふふ! エンフォーレリアでマジュりんが、『自分の存在まで消えてしまうかも知れなかった』って言ってたの覚えてる? どういう経緯でそうなっちゃうのかって部分は今は置いておくとしてー、つまりそれは――」
「……他にも消えちまった、あるいは消えちまう予定の『何か』があったってことだよな?」
俺も気にはなっていたんだそこについては。
そんな訳で、そのセリフも良く覚えている。
「にゃふー! さーすがオジサーン! ……では唐突ですがここで問題です! ウチらの国に他の国の大ニュースが届くまで、どれぐらいの時間がかかるでしょうか!」
「え? えーっと……どんくらいなのおっちゃん?」
「お前はもう少し自分で考えるとかだな……」
しかしなんだ?
この社会科の授業で出てくるような問題は……。
「ど、どれだけっていうと……く、国を跨ぐとなれば、で、伝達の手段も限られちゃうだろうし……ちゃ、ちゃんとした新聞なんかになるまでのことも考えると、さ、三、四日はかかるんじゃないかな……?」
まぁ実際そんなもんだろう。
今回のリーズシャリオの事件についても、翌日からすぐに騒がれ始めたってワケでもないしな。
「そう! それぐらいはかかっちゃうんですなー! んでんでそこから逆算するとー……あのエンフォーレリアの事件からちょうど一週間後に『消えちゃった』ってことになるんだよねー?」
一週間後?
それぐらいにあったことっつったら――。
「……あ! ひょっとして『大陸の楔』ですか!?」
……は!?
おいおい待て待て、ここに来て『大陸の楔』まで関わってくるのかよ……!
ちょっと欲張りすぎなんじゃあないかねフリゲイトさんよ。
「にゃふー! ごめいさーつ! ……さてさて! ここからはさらに憶測と推測と仮説を重ねあわせて、ちょっとした暴論レベルになっちゃうかもしれないんだけどー……」
エテリナはぴょんと椅子から立ち上がると、大手を振るように再び説明を続けていく。
「フリゲイトはさ、いっつも『事情がある』なんて言って、直接ウチらに攻撃しようとはしないよね? ジョーだんなんて、マッフィーを追いかけようとしたオジサンの『勇者級』の動きを防ぐほどの力をもってるのにさ?」
「た、たしかに……あ、あのアーデムって人も、そ、そんなことを言ってたな……」
「つまりそれは、何か戦えない理由……正確には、直接私たちを『傷つけられない』理由があったということか……?」
「クーよんまさしくそのとーり! でもでもー、そう考えると一つ矛盾する行動があったんだー。……ウチとしても、あんまり思いだしたくはないんだけどさ?」
「あ……、おじさまの……」
隣に座るハクが、小さく身を寄せてくる。
……思い出しちまったんだろう。
俺が、マジューリカさん刺されちまったあの時のことを。
そしてつまり――。
「ウチはね、あれがトリガーなんじゃないかって思ってるの。――『大陸の楔』が消えちゃった、その原因だってね?」
『大陸の楔』が消えた原因……か。
荒唐無稽にも聞こえるが、もしそれが本当に正しいとすれば……。
あれだ、おっさんとうとう世界にまで影響を及ぼすようになっちまったってことになるのか……?
なにそれこわい。
「にゃふふ! 消えっちゃったのは一時的なものなのかそうじゃないのか……もちろん、ウチの仮説自体が正しいのかどうかも含めて、一度トリニャーの言う通り、ガルダーラへも足を伸ばす必要がありますなー?」
「あ! ねーそうだよねー! ふふん、ほらおっちゃん、エテリナもこう言ってるよ! ねーねーってば!」
「わーかった、わかったからベッドの上でぼよんぼよんすんなっての。バネ悪くなっちまうだろうがよ」
それとまたいつかみたくパンツも見えちまうぞ。
そのくせ自分の迂闊さは棚に上げて、おっさんに向かってエッチだのどうだのと言ってくるんだコイツは。勘弁してほしいねホント。
……いやまぁそんなことはいい。
今は――。
「り、リーズシャリオのやりとりで、フリゲイトが『不落の難題』を重要視しているのもはっきりしたし……。も、もしおっちゃんを……ううん、『人を直接傷つける』ことのペナルティが、た、『大陸の楔の消失』なんだとしたら……」
「あぁ、戦えないことの理由としちゃあ、十分考えられる話だ」
「確か『大陸の楔』は、南極の大陸アンタルクティアを除くそれぞれの大陸に一本ずつ……今は八本だが、元々は九本あったはずだな」
「にゃふふ! それがもし、フリゲイト一人につき一本あてがわれていたと考えるとー……?」
「あ! だから『9人』なんですね!」
「にゃっふっふ! そのとーり!」
……エテリナの言う、憶測と推測と仮説とを重ねあわせた『ちょっとした暴論』。
だが妄想として切り捨てちまうには結構な現実味を帯びていると、俺には思えてしまう。
保護者のひいき目ってヤツなのか、いや――。
「んでもってそうなってくるとー? フリゲイトの異なる二つの力、片方が『新種族』に由来するものだとして……それならもう片方は何に由来するのかなーって?」
ひょっとすると、これは暴論どころか――。
「にゃふふ……! 『大陸の楔』の力を手に入れた『新種族』。――それが恐らく、フリゲイトの正体……なのかもしれないね?」




