第5話 人対人
数時間煮込んでやわらかくなった鋼豚は、一部を切り落としてソテーした後、ペッパーベリーのソースとともにサンドイッチへ。
あとは……自家製のピクルスなんかをオリーブオイルと黒コショウでマリネ風に仕立てあげ、横には作り置きのポテトサラダを置いて……と。
……ま、こんなもんだろう。
もちろん鋼豚の残りは夜に使うつもりだ。
カレーにするかシチューにするか……そこはまぁ多数決ってところだな。
「それじゃあおじさま! こっちとこっちのお皿はハクが運びますね!」
「お、ありがとなー? ハクがいてくれると助かるねホント」
学校を終えてやってきたハクも、かいがいしく手伝いを申し出てくれる。
ホントに良い子だよ。まぁ一つ問題があるとすれば……。
「えへへ……! だってハクはおじさまのモノですから……おじさまのシてほしいこと、ぜーんぶハクに言ってくださいね! ……ハク、おじさまが望むことならならなんだって……ふふっ……!」
……例の小説のブームが、ハクの中でまだ健在だってことなんだよなぁ。
おっさんこう見えて良心ってもんは有り余るほど持ってるからね。
本人の望みとはいえ、ハクみたいな子を自分のモノ扱いってのは不本意この上ないって話だぜホント。
……だからクヨウ、そんな目でおっさんを睨むんじゃあない。
すこぶる冤罪だぞ。
そんな感じで、視線に刺すような痛みを感じながら料理の皿をリビングに運び込むと……。
「んでね! おっちゃんてば『義眼を入れるのは怖いー』って言っててさ! だから結局眼帯の方にしたみたいだよ?」
「にゃふふ! 技術大国のフリーゼンやリッヒベルンじゃ、おめめに直接入れちゃうようなちーさな眼鏡なんかも開発されてるらしいけど……オジサンには使いこなせそうにありませんなー?」
言ってねぇっつうの、コイツまたおっさんに関する記憶を捏造しやがって……。
だいたいそんな得体の知れん眼鏡なんぞ必要ないね。
おっさんあれだから、ブルーベリーとかもうむしゃむしゃ食べるから。
……ん?
「……いやエテリナ、お前なんでもう部屋に居んの?」
玄関から迎え入れた記憶無いんすけど?
「にゃ? えっとー、そこの前の道まで来たらお部屋の窓が開いてるのが見えましてー、そのまま肉体強化でぴょーんて……」
「お前それ見つかったらちょっと怒られるヤツだからな」
もちろん俺もね。
……保護者って辛い。
「リッヒベルン公国といえば……確か『過干渉の炉心』が保管、研究されている国だったのではないか?」
そんな中、同じように皿を運んでくれているクヨウが、思い出したように情報を口にする。
『過干渉の炉心』か、そういやそうだったな。
「にゃふふ、今は言うほど『研究!』って感じでもないらしいけどねー? でもでもー、不落の難題を追い求めるウチらとしては、いずれ足を運ばなければなりませんなー?」
「あ! 『大陸の楔』が消えちゃったっていうガルダーラに行くのもいいよね! またみんなで飛行船にのってさ!」
「その金がどこから出てくるんだよ……。つーか最近ずっと言ってるだろ? 少しの間はレベリングと資金繰りに専念するつもりだってよ」
「むー、そうだけどさー」
とはいえ、確かにリーズシャリオじゃ息抜きどころか大仕事になっちまったからなぁ……。
その辺はもうちょっと考えてやりたいところだ。
「まぁでも、おっちゃんの『戦闘力解放』も長時間使えるようになったしー、なんたってこっちには『ブレイブスライム』もあるからね! レベリングなんてよゆーよゆー!」
「レベル上がらなくなっちまってる俺が出しゃばったら意味ねぇだろうが。きっちり自分でも頑張らせるからな」
だいたいあの時は防御に徹したうえであの時間だったんだ。攻撃の分の時間を考えると……もう少し短くなっちまうのは否めないだろうね。
……ま、その辺りはちょっとばかり考えていることはあるんだが。
「そ、それに……ブ、ブレイブスライムを動かすには、勇者級の力が不可欠だからな……。そ、そう考えるとやっぱり五分しか持たないし……れ、レベリングのためにダンジョンに潜るには、他にも一つ問題がある……」
「えっと、ブレイブスライムさんは、元はアルファスライムさんとオメガスライムさんですから……一度使ったらしばらく他のスライムさんも使えなくなっちゃうんでしたよね?」
「う、うん。も、もちろんそれもそうだ……。け、けど……もっと根本的な問題がもう一つあるんだ……」
「根本的? ……まさか、二人の何か体に悪影響が……!?」
少し身を乗り出しながら、心配そうな表情を見せるクヨウ達だが……。
「いや単純にデカいんだよあれ」
「「「あー……」」」
と、俺の言葉に安堵と納得の様子を見せる。
まぁそういうわけだ。
なんせ少なく見積もっても10メートルはかたいからなぁ……。
「で、デルフォレストなんかのひらけてるダンジョンならまだしも……例えばビジレスハイヴの通路なんかで使った日には、み、身動きが取れなくなっちゃう……。じゅ、柔軟性があるとはいえ、ある程度の限度はあるからな……」
「あ、じゃあさじゃあさ! それをボク達が後ろからぎゅっぎゅって押してって、魔物を倒しながら進んでくってのはどう!?」
「んなお前、トコロテンみたいな……」
「えと、トコロテン……ですか?」
「あんのよ、ミヤビにそういう料理がな」
「うむ、私は黒蜜をかけて食べる方が好みだな」
というか どっちにしろ五分しかもたねぇんだから非効率極まりないっつの。
少し進んだところで『はい時間切れ』ってのが目に見えている。
「まぁともかく。……今回は色々と思い知らされたからな。ただでさえ、今回のことで『不落の難題』に手を出そうとするやつも増えるだろうし、準備をするに越したことはないってヤツだ」
「にゃふふ! まさかフリゲイトがあんなふうに直接的な形で関わってくるとはねー? ……してやられたりってカンジ?」
本当になぁ。
今後はそういった部分にも気をつけなきゃならんと思うと、改めて憂鬱だねホント。
……ま、以前のトリアの言葉を借りりゃあ、『不落の難題への手がかりが増えた』とも言えるか。
どうせなら見習って、プラス思考にいきたいところだね。
「フリゲイトの『干渉』か……。エンフォーレリアでのことといい、相も変わらず油断のならない力だな……」
「あとさ、あの『しゅん!』って感じで消えちゃうのもずっこいよね? エテリナの『ショータイムウインドウ』でも防げなかったみたいだし……」
「にゃ? ……にゃふふトリニャー、見くびってもらっては困りますなー? あれはそのために使ったわけじゃーなかったりしましてー?」
「あれ、そうなの?」
ん、そうなのか?
頭に疑問符を浮かべる俺達に対し、エテリナがくるくると指を回しながら答え始める。
「ウチの『ショータイムウインドウ』はねー、ウチ一人の意思だけで発動できる魔法ってワケじゃないんだよねー?」
「え、えっとたしかPvP……ひ、『人対人』の状況じゃないと、つ、使えないんだったよな……」
「にゃふー! ネルネルそのとーりー! 戦女神ジエムさまとの、そういう『契約魔法』だからねー? つまりー……?」
くるくる回していた指をぴっと唇の前へと持っていきながら、思わせぶりに口を開く。
「――フリゲイトは得体の知れない謎の存在なんかじゃなくて、れっきとした人間だってこと! ……あーんな不思議な力を持っててもね?」
……!
なるほどな、そういうことか……!
「で、でも……おじさまの話では、マジューリカさんはヒュームじゃなさそうだって言ってましたよね? ハク、他の種族の特徴は見当たらなかったようにおもいますけど……」
「にゃふふ、ハクちーそれがあるんだよねー! 『ヒューム』『エルフ』『ハーフリング』『ドワーフ』『フェアリー』『オーク』『ジャイアント』……そのどれにも当てはまらない、もう一つの種族が……!」
「! まさか……!」
……俺もついさっき考えていたところだ。
フリゲイトの『干渉』……今まで見たことも無いような、常識を外れたその力。
だが同じようにもう一つ、俺達は常識を覆すような体験をしている。
……この『左腕の紋章』でな。
つまり――。
「不落の難題――『新種族』か……!」




