第4話 まさかこんなダイレクトな手段でくるとは
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結局あの後すぐ、念のため傾向限界突破まで使ってダンジョンの入り口だった壁を調べてみたが、本当にただの壁になっちまっていた。
ジョーダインの……フリゲイトの『干渉』、相変わらず常識外れの力だ。
……そう、改めて目の当たりにしても、常識を外れちまってるんだ。
あれはもしかして――。
「……『力を手に入れるため』かぁ。マッフィーノは何のためにあんな力を手に入れたかったのかなぁ?」
「どうだろうね。……ま、単純な力の大きさだけで全ての物事が決まるわけじゃあないが……逆にそういうモンの影響をまるっと無視できるかって言われりゃあ、そいつも難しい話だからなぁ」
そうでなけりゃあこの世の中、力を求めて悪いことに手を出すヤツなんざいないはずだってな。
マッフィーノだけの話じゃない。
いつかのビジレスハイヴでごろつきどもがやっていた『ハイエナ行為』や、広い意味で言やぁ、今問題になってる『偽造冒険者カード』だってそうだろう。
「でもさ、マッフィーノはお金持ちだし、しかも自分で稼いでるみたいなことも言ってたよね? それだって十分にすごい力だって思うけど……」
「そりゃお前、あいつにとっちゃそれが望んでる力じゃなかったってだけの話だろ? 冒険者か、その先の『何か』か……目的はまだわからんが、とにかく、金はそのための『手段』でしかなかったってことだ」
そうトリアに答えながら、俺はマッフィーノの言葉を思い出す。
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『――弱いものが虐げられるのは世の常ですもの、悲しいことですけれど仕方ありませんわ……。わたくしも――イルヴィスさん、あなただってそうでしょう?』
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「……んでもって恐らくマッフィーノは、アイツが望むその『何か』の括りの中じゃあ弱者だったんだろうよ。まぁこいつは、俺の勘みたいなもんだけどな」
「じゃ、弱者……? そ、そういえばマッフィーノ、よく『弱肉強食』とか言ってたけど……、お、おっちゃんには何か、お、思い当たることがあったりするのか……?」
「……ま、そのへんの話は全員がそろってからだな。とりあえずほれ、俺は昼飯の仕込みを始めるからよ」
「あ、じゃあボクはベッドでごろんってしてよーっと。ボクってば優しいから、ちょっとぐらいおっちゃんくさいのは我慢してあげれるしね!」
「……本当に優しいヤツは人んちのベッドのこと臭いなんて言わねぇよ」
「ふふ……じゃ、じゃあわたしはいつも通り――」
『リンガーアルラウネ』。
振るとリンリンと不思議な音がなる果実をエサに、冒険者をおびき出して捕獲する、ネイチャー属の魔物だ。
果実は誕生際の時、孤児院でふるまっちまったからもう無いが……アルラウネ系のモンスターの葉は、獲物を密封してとらえるための特殊な構造をしているからな。そっちにもちゃんと使い道があったりする。
葉の表皮を上手く剥いだものを軽く乾燥させ、そのあと押し花のように処理してやると、半透明な薄いシート状の物が出来上がる。
肉なんかに巻き付けてやれば、長時間煮込んでも煮崩れせず、さらに旨味も逃がさないなんて良いことづくめの代物だ。
鋼豚の肉は、ガンガンに煮込んでから調理しねぇと『いやアホなの?』ってぐらいに固いからなぁ。
お陰で下処理の問題はないっと。
そういや、コンロ用の魔石もそろそろ買い替え時か?
最近……っつーにはもう三ヶ月以上経つが、大所帯になっていろんなモンの消費も激しくなってるからな。
とはいえその分実入りも増えるし、食費や生活費もある程度まとめて管理できるってんで、十分黒字でおつりがくる。
……まぁそいつを声にだしちまうと、エテリナあたりが『じゃあ一緒に住んじゃえば、ウチが今借りてるお部屋の宿代もいらないし一石二鳥だよねー? にゃふー!』とかなんとか言ってきそうで黙っているがね。
と、そんなことを考えていると玄関から呼び鈴が鳴り響く。
どうやらクヨウもやってきたようだ。
「ただいまイルヴィス。……む? 結局、眼帯にしたのだな?」
「あぁ、良い感じだろ? 惚れ直してくれてもいいんだぜ?」
「ほ、惚れ……!? ま、まったく、お前はまたそうやって……! ほらこれ! 頼まれていた食材や日用品と、他に良さそうな物も見繕ってきたぞ! ……それとこっちがコンロ用の魔石、そろそろ切れる頃だっただろ?」
「お、さすが気が利くねぇ。……しかしいつも悪いなホント。どうしてもほれ、食材なんかの目利きではクヨウにかなわねぇからよ」
食費用の財布を受け取りながら、頼んでおいた食材なんかを確認しつつ、冷蔵庫やストッカーへ放り込んでいく。
俺には同じように見える食材でも、クヨウが選んできてくれる奴の方が明らかに味が良いんだよなぁ。
なーにが違うんだろ?
「気にするな。私だって色々と世話になっているからな、これも好きでやっている。…………あ! す、好きっていっても変な意味じゃないぞ!? あくまでも買い出しがという意味であってだな! いや決してお前のことが嫌いだとか言っているのではなくむしろ……あああ、そうじゃなくて……!」
「わかった、わかってるからな? だから落ち着けって……」
肩をポンポンと撫でてやれば、少しずつ落ち着きを取り戻すクヨウ。
以前の望み通り頭を撫でてやってもいいんだが……。
「こほん、な、ならいいんだが……。ふぅ、それで……ふふっ、ネルネは相変わらず、そこでイルヴィスのお目付け役をしているのか?」
「う、うん……。も、もしかしたらおっちゃん、片目が見えなくて、け、怪我をしちゃうかもしれないからな……。そ、そうなったらすぐ傷口にスライムを流し込めるように、ちゃ、ちゃんと見守ってるんだ……」
いや流し込むってなんだよ怖い怖い。
もうちょっと良い表現あったろ、せめて包み込むとかそんな感じでよ。
……まぁそんなワケで、ここんとこのネルネはずっとこの調子だ。
自分の部屋に帰るとき以外はこうしてちょこちょこ後ろをついてきて、常に俺を見張って……いや、見守っている。
この状態でクヨウの頭を撫でてやった場合、また真っ赤になってぶっ倒れかねんからな……。
しかしネルネのヤツ、左目を生贄にした時、『大変なことは全部支えてあげる』的なことを言ってたが……まさかこんなダイレクトな手段でくるとは。
本当に風呂にまでついてこようとするし……おっさんまた衛兵さんに捕まるのだけは勘弁よホント。
……ん?
「あ、でも……わ、わたしもそろそろ、と、トリアのいる向こうの部屋に行こうかな……」
かと思えばなぜか唐突に席を立ち、リビングの方へ行ってしまうネルネ。
何かあったのかと思案していると……不意に、くいと裾を引っ張られる。
「……い、イルヴィスその、今ならだれも見てないし……。わ、私も買い出しとか、訓練とか頑張ってるから……! も、もう少しその……ね、ねぎらってくれてもいいのだが……?」
ぽそぽそと尻すぼみになっていく言葉とともに、真っ赤な顔でそんな言葉を口にするクヨウ。
……なるほどな。
ネルネも相変わらず気が利くやつだね、なんて思いながら、俺はクヨウの頭に手を伸ばした。




