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第3話 そうなったら今度こそ

「――…………だから言ったろうお嬢。そいつらでは、お嬢の望む存在にはなり得ない、と」


 マッフィーノに駆け寄ろうとする俺を遮るように、突如目の前に現れた背の高い一人の男。

 知らない奴じゃあない。名前も、顔も、何なら会話をしたことすらあるからな。


 ――ジョーダイン。

 確かマッフィーノは『付き人』だと言っていたか。

 だが、この現れ方(・・・)は……!


「おじさま! あの男の人から……そこのダンジョン(・・・・・・・・)同じ(・・)ぞわぞわを感じます! もしかして……」


「……はっ、だとしたら突然この場に現れたってのもまぁ納得できない話じゃあねぇな。――なんせ俺達は、その光景を一度見たことがあるときたもんだ……!」


「! そっかあの時……おっちゃんが刺されちゃった時の……! じゃ、じゃあジョーダインさんもフリゲイトだったってこと……!?」


 迂闊だった……いや、運がなかった(・・・・・・)と言うべきか。

 さっきのマッフィーノの口ぶりからして、恐らく俺達とマッフィーノが最初に出会ったのは本当に偶然なんだろう。

 そんでもってこれまた偶然、たまたまその場にハクがいなかった。


 おまけにリーズシャリオに来てからも……恐らくこっちは偶然じゃあないだろうが、ヤツの姿はマッフィーノの近くにはなかったからな。

 ハクとクヨウの二人からすれば、これが初顔合わせになるってワケだ。


 それともう一つ……。


「フリゲイト……? …………ああそうか、イヴェルトがそう名乗ったんだったな。奴らしいセンスというか……まぁ、俺は呼称などどうでもいいが」


 ……こいつは明らかに他のフリゲイトとは動き方(・・・)が違う。

 ガングリッドたちの話じゃあ、フリゲイト(ヤツら)との接触は一時的なもの……多くても数回ぐらいだったと聞いている。


 だがジョーダイン、こいつはどうにも普段からして、マッフィーノと行動を共にしているようだった。


 ……まいったねホント、常日頃から『こいつはフリゲイトか?』なんて人を疑いながら生活を送る羽目になるのは勘弁してほしいところだぜ?

 ハクをずっと抱っこしたまま過ごすわけにもいかんしな。



「…………そもそもお嬢、俺は今回のこともまだ反対だと言っていたはずだ。結果的には上手くいったが……いくら覚醒前(・・・)だったとはいえ、『レイドボス』である七大魔王をぶつけるのは時期尚早だと」


「……お説教はよしてくださいまし。わたくし、今はそういう気分ではありませんの」


「…………わかった、お嬢がそう言うのであればそうしよう」


 ジョーダインはそんなやりとりと共に、マッフィーノをダンジョンへと(いざな)うようにエスコートする。


 まずい……!

 『覚醒前』だの『レイドボス』だの……気になる単語は多々あるが、今はとにかく――!


「ま、待ってよマッフィーノ! もっとちゃんと……ちゃんとおっちゃんの話を聞いてあげてよ!」


「! トリアさん……。――っ、大方あなた方も、わたくしのやり方が間違っていると思ってらっしゃるんでしょう……!」


「そりゃ思ってるよ!! でも、それとお話をしないこととは違うもん!! まだ短い間だけど……ボク、マッフィーノと水着を選びに行ったり、海で遊んだりするの楽しかったよ! マッフィーノは違うの!?」


「……!」


 トリアの裏表のない言葉に、マッフィーノの足がぴたりと止まる。


「あの、ハクもそうです! まだ出会ったばかりですけれど……こんな風にマッフィーノさんにみんなで招待してもらって、とっても楽しかったです!」


「し、シズレッタとネーリャのことは、しょ、正直複雑だ……。で、でも、だからこそなんでマッフィーノがあんなことをしたのか、ちゃ、ちゃんと話を聞きたい……! と、友達として、ちゃんと……!!」


「ハクさん……。ネルネさん……」


「……なぁマッフィーノ、さっきは悪かった。俺も感情が先行しすぎてよ、言葉が足りなかったっつーかデリカシーが無かったっつーか……どうにもそれでよく、コイツらに苦い顔をされるんだよなぁ……」


 ぽりぽりと頭を描きながら、改めてマッフィーノへと向き直る。


「だが確かによ、結果としちゃあ犠牲は無かったかもしれねぇが……それでも俺には、お前のやり方が正しいとは思えん。そいつは、『お前にはお前なりの想いがある』とわかったうえでもだ。……だから今は(・・)まだ、お前をパーティに迎え入れることはできないと俺は思ってる」


()、は……?」


 俺たちと一緒に行きたいと言ったあの言葉。

 そいつが打算だけからくるようなもんじゃないことぐらい、俺にもなんとなく分かる。

 本当に心の底から、俺達と一緒に冒険することを望んでくれてるんだろう。


 だがだからこそ、そいつを受け入れるわけにはいかなかった。

 それは……マッフィーノのやったことと、やってきたことをまるっと肯定することになるからだ。

 ……俺だけならまだしも、トリア達にその(・・)道を歩かせるわけにはいかんからな。


 そして俺には……マッフィーノがそう(・・)なっちまった理由もなんとなくわかる。

 だから――。


「『足手まといにはならない』っつってたけどよ、そんなことはどうでもいいんだよ。そんな力(エンデュケイト)も、なんなら俺達の役に立とうとする必要もない。……必要なのは、今までやってきたことに精算をつける『責任』と『覚悟』だ」


「責任と、覚悟……」


 結界内への意図的な魔物(モンスター)の誘導は重罪で、巻き込まれちまった奴らも多い。

 いや、恐らく問われるのはそれだけじゃねぇだろうが、それでも……。


「楽な道じゃあねぇし、時間はどうしてもかかっちまうが……それでももし、本当に俺達と一緒の道を進みたいっつってくれるならよ。償って、全部にカタをつけて、そうなったら今度こそ――」


「イルヴィスさん……わたくし、わたくしは――」






「…………お嬢、いいのか? また繰り返す(・・・・・・)ことに(・・・)なるぞ?(・・・・)


「……!! ――そう……ですわね。……ジョーダイン、あとはまかせますわ」


 一瞬、ほころんだような表情を見せたが、それを振り払うようにダンジョンへ姿を消していくマッフィーノ。


 このまま行かせるわけにはいかねぇと、瞬時に『戦闘力解放(ステータスオープン)』で肉体を強化し、ジョーダインをかいくぐってダンジョンへ向かおうとするが……。


「…………イルヴィス・スコード、あんたの力は知っている。だが……勇者級程度の力で、俺を抜けると思わない方がいい……!」


 ……がっしりと腕を捕まれ、それを阻まれる。

 だが……!!


「……にゃふふ、手を出したね(・・・・・・)! ――『ショータイムウインドウ』!!」


 その瞬間、エテリナの魔法が発動し、見えない壁が辺り一面に張り巡らされた。

 『ショータイムウインドウ』……PvPの時だけ使えるっつぅエテリナの……。


「…………『契約魔法』か。無駄なことを……」


「さーてさて、それはどうですかなー? ……それにしてもー、随分とマッフィーをひいきにしてるってカンジ? 他のフリゲイトの人(・・・・・・・・・)は『不落の難題を解き明かされるのは不都合だ』って言ってたけどー、……どうやらジョーだんは違うのかな?」


 ……?

 そんな話……いや、これは……!


「誰だそんな迂闊なことをべらべらと……っと。…………あぁくそ、迂闊なのは俺の方だったか。どうにもこういった駆け引きじみたやりとりは苦手なんだ……。またモンステリュウスやジュジュニャンあたりに嫌味を言われるな……」


 ジョーダインもエテリナの意図に気づいたようだが……一歩遅かったようだな。

 これで……情報が一つ確定(・・)した。


 あくまでも、今までは予測・・の域を出なかったからな。

 やはりフリゲイトのヤツらは基本的に……少なくとも、自分の息がかかっている相手以外に『不落の難題』を解き明かされるのを良しとしてないってことだ。


「…………ふぅ、まぁいい。どうせどのみち、俺のやることは変わらん」


「ほぉそうかい。それならこの際だ、迂闊ついでにもっといろいろと話してくれても良いんだぜ? お前らの目的とか……そうだな『魔王候補』とやらについてもよ。……おとぎ話のわるーい魔王みたいに、世界を滅ぼそうとでもしてんのかい?」


「あの時……マジューリカどのは、異質な姿へと変わっていくガングリッドどのを指して『新たな魔王候補』と呼んでいた。……貴様にとってマッフィーノがそう(・・)なのだとしたら、このまま見過ごすわけにはいかぬ!」


 クヨウが刀に手をかけると同時に、全員が戦闘態勢に入る。

 流石に素直に話してくれるとは思わんが……。


「…………ふっ、俺達がこの世界を破滅させる……か。…………それは、それだけはありえん、なぜなら……そうなってしまえば『楽しく』ないからな」


 まるで自嘲でもするかのように、僅かに口角をあげるジョーダイン。

 『楽しく』、か……。どうにもずっと、俺はその部分がひっかかっている。

 まるで――。


「……さて、そろそろ俺も失礼するとしよう。戦って負けるとは思わんが……こちらにも事情があるからな」


「っと、おいおい良いのかよ? アンタがここからいなくなった瞬間、俺達はマッフィーノを追ってそこのダンジョンへ突入するぜ?」


「…………別にかまわん。もっとも……そうできれば(・・・・・・)の話だが」


「……にゃ!? まさか『ダンジョン干渉』!? ――オジサン!!」


「ちぃッ!!」


 瞬間的に、掴まれていた腕を振り払って逆に掴み返そうとする。

 が……すでにもうジョーダインの姿はそこには無く、影も形も消えてしまっていた――。

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