第2話 形作るもの
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「――エンデュケイト……だと……?」
例の、大量の汚れた金が保管されていた一部屋だけのダンジョン。
その入り口がある袋小路で、俺たち六人のもとへやってきたマッフィーノ。
――『エンデュケイトを手に入れた』と、間違いなくそう言っていた。
もちろん、俺の耳がおかしくなってなけりゃの話だ。
そいつはつまり……。
「な、何を言っているのだマッフィーノ……! まさか……その真っ黒な宝石のようなそれが、あのエンデュケイトだとでも言うつもりなのか!?」
「ええと、厳密には少し違うらしいのですが……まぁおおむねその通りですわ! もっとも、力を失ってまだ間もないため、今は眠ってしまっていますけど……」
開いた胸元をなおしながら、クヨウの言葉に応えるマッフィーノ。
「か、仮にそれが本当だとして……、ま、マッフィーノは一体、ど、どこでそれを……?」
「ふふ! わたくしの恩恵は『おぉそれ見ぃよ!』……ドロップアイテムや魔物素材などの感知能力が高まることによって、その取得率を引き上げてくれますの!」
……!?
おい待て待て、ダンジョンの外で討伐した魔物は、その瞬間から魔素に還っていくはずだ……!
もともと冒険者のものであるドロップアイテムならまだしも、あんな特殊な素材なんかの収集はできんはずだぞ……!?
……いや、常識外れっつうならエンデュケイトの存在自体がすでにそうか……!
シズレッタやネーリャたちのことを優先していたとはいえ、もう少し気を配るべきだった……!
「ふぅ……そいつが目的だったっつってたな。……この一連の騒動、お前はどこから関わってるんだ?」
ともかく落ち着け、今は過ぎたことを考えてても仕方ねぇ。
まだ『意図』は読めんが、少しでも情報を――。
「どこからと申しますとええと……最初から、というのが正しいのでしょうか? ……あ、もちろん黙っていたことは謝りますわ! ですが……うふふ、冒険者の世界は弱肉強食ですもの! 今回はわたくしの方が一枚上手だったということですわね?」
……なんだこれは。
探りを入れようとするこっちが拍子抜けするほどに、まったく悪意のない……例えるなら『可愛いイタズラを成功させた子供』のように、自慢げな笑顔を見せるマッフィーノ。
いや、例えるならっつーよりもこれは――。
「最初からってそんな……! だって、それじゃあまるでマッフィーノさんが……!」
「……にゃふふ、そうだよねハクちー? それじゃあまるで――この場所に黒いお金を集めていたのも、今回の騒動を『意図的に』起こしたのも……ぜーんぶマッフィーだったって、そう聞こえちゃうってカンジ?」
……!
エテリナ、お前はひょっとして……。
「ふふん! そうですのよ! わたくしとーってもがんばりましたの! いわゆるところの闇クエストなんかもお願いして……そうやってここに『黒いお金』を集めていたのですわ!」
「闇クエストだと……!?」
ダンジョンの入口へてくてくと近づいていき、びしっと指をさすマッフィーノ。
相変わらずなその態度を尻目に、俺の脳裏にはいつかの言葉がよぎっていく。
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「――わたくしこれでも、ちゃあんと『今やれること』もやっておりますのよ!」
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……間違いであってくれと、そう思う。
だが……。
「――なぁマッフィーノ。『ベレテス・ヘングリア』っつー名前に覚えはあるか?」
「!? おっちゃん……!?」
ベレテス・ヘングリア。
俺の育った孤児院につまらねぇちょっかいをかけてきた男の名だ。
「ベレテスさん、ですか? ええと……あぁ存じておりますわ! 確か家の者を通して、別の仕事を任せてありますの! ひょっとしてお知り合いでしたの?」
「! そんな……」
……間違いであってくれと、そう思っていた。
だがどうにも、そいつは叶わなかったようだな。
「……にゃふふ! んじゃんじゃ、マッフィーは今回のこと以外にもー、いろーんなことを手がけてたりするのですかなー?」
「ええそうですわ! 詳しくはナイショですけど、すべては『力』を手に入れるため……『七大魔王』だけではありません! いずれ全ての『不落の難題』を解き明かし、その力をこの手にしてみせますの!」
困惑する俺達を置いてきぼりにしたまま、声高らかにそう宣言するマッフィーノ。
……思いだした。
あの時……避難場所で合流したマッフィーノが真剣な目でエンデュケイトを見据えていて、俺はそれを、最初は戦慄によるものだと思ったんだ。
だがすぐにそれは違うと感じていた。
あれはそう……きっと俺たちが不落の難題へ向けている目と、根底の部分では同じものだったんだろう。
だが……。
「……そのために、無関係な街の人まで巻き込んでこんな騒動を起こしたのかよ」
「うぅ……そこにつきましてはわたくしもちょっと心が痛みましたの……。ですが弱いものが虐げられるのは世の常ですもの、悲しいことですけれど仕方ありませんわ……。わたくしも――イルヴィスさん、あなただってそうでしょう?」
「……世の常だから仕方がない、か……」
そうかマッフィーノ、だからお前は――。
「ふふ……! ですが今はこうして上手くいったんですもの! きっとあの時偶然わたくしたちが出会えたのも、女神様のお導きだったのかもしれませんわね?」
心底からといった様子をみせる、マッフィーノその笑顔。
……例えばの話じゃあ無い。
マッフィーノは本当に、昨日のことも『可愛いいたずらを成功させた』程度と同様ぐらいにしか思っていないんだろう。
だとすれば俺は――。
「あの……そ、それでですね? その……い、イルヴィスさん達さえよろしければの話なのですが……わたくしも、パーティの一員として加えてくださりませんか……?」
「え……?」
一転してしおらしく、照れくさそうにそんな言葉を口にする。
その姿だけを見るなら、いじらしさや可愛らさを感じられるところだが……。
「まだしばらく時間が必要ですが……このままエンデュケイトにマナを与えつづければ少しずつ『使役』だってできるようになるはずですの! そうなれば足手まといにはなりませんわ! ですからその、これからも一緒に――」
「……なぁマッフィーノ。お前が俺達と一緒にやってきたいと、そう思ってくれるのは素直に嬉しく思うよ」
「……! それじゃあ……!!」
「だがな。――悪いがその申し出には答えられない」
「………………え?」
俺の言葉に、マッフィーノが目を丸くする。
「あ、あの、わたくしなにか……あ! ひょ、ひょっとして内緒にしていたことにおへそをまげてらっしゃるのですわね! ふふ、もう、トリアさんに聞いたとおり、イルヴィスさんってば子供っぽいところがありますのね!」
「……いいや、そうじゃないさ」
「じゃ、じゃあさっきの……町の人たちを巻き込んでしまったことですの……? で、でも、その辺もぬかりはありませんわ! あくまでもエンデュケイトは魔物……亡くなった方も『理不尽な死』として、蘇生も復活も可能ですの!」
「……っ」
「げ、現にほら、結果的には誰も犠牲にならずに済みましたわ! わたくし、ちゃあんと考えていましたのよ! ですから蘇生屋さんもたくさん用意して――」
「マッフィーノ……!」
「――!!」
「違う、そうじゃない。……そういうことじゃねぇんだ」
「イル……ヴィスさん……? 何故……何故そんな顔をなさいますの……? だって、わたくし……わたくしは――」
……なぁマッフィーノ。
今のお前を形作るものがなんなのか、俺にはなんとなくわかる気がするよ。
だが、だからこそ――。
「――そうですか。結局貴方も他の方たちと同じ……わたくしのことを否定しますのね……!!」
「……! マッフィーノ聞いてくれ、俺は――」
「……っ!! うるさいうるさい!! 聞きたく……聞きたくありませんわ!! せっかく……せっかくお友達になれたと、そう思いましたのに!!!」
耳を塞ぎ、ぶんぶんと頭を振り回しながら叫ぶように声をあげるマッフィーノ。
そして、俺が駆け寄ろうとしたその瞬間――。
「――ジョーダイン!!!」
「…………ああ、ここに居る」
――マッフィーノの呼びかけとともに、一人の男が突如として姿を現した。




