第1話 色々とあったからなぁ
エンデュケイトとの戦いから一週間。
俺たちの住むアンリアットでも……っつーか、下手をすれば世界規模で、今回のことは結構な騒ぎになっている。
まぁ端的に言や『七大魔王出現か!?』……ってな感じでな。
たぶん、俺達とマッフィーノの会話を聞いていた奴でもいたんだろう。
リーズシャリオに出現し、街の一部を壊滅に追い込んだあれは、七大魔王の一角である『エンデュケイト』だと、どうにもそう噂になっているようだ。
実際、新聞やギルドの情報掲示板もその話題で一色……まぁそいつも無理はないとは思うがね。
なんせ『邪君エンデュケイト』が本当に存在したとなれば、他の『七大魔王』も……それどころか、残りの『不落の難題』すらもひょっとしたら、なんて考える奴らは少なくないだろうしな。
現にフーやウリメイラの話じゃあ、ひっきりなしに情報をもとめる奴らの来訪が後を絶たないらしい。
いやー大変だねホント。……今度なんかおごってやるか。
ま、おかげでと言っちゃあなんだが、今んとこエンデュケイトを討伐した俺達の素性みたいなモンには、大衆の興味はあまり向いちゃいないようだ。
ありがたい話だが、さてそれもいつまで続くもんかね。
……と、そんなことを考えながら、洗面台の鏡の前に立ち、とある物をぐっと握りしめる。
「ふぅ……。とうとう俺も、コイツを身に着ける時が来ちまったようだな――」
昨日届いた小包の中身。
別に特別レアなアイテムってワケじゃあない。
だが恐らく男なら、だれもが一度ぐらいは憧れたことがあるはずだ。
……いやまぁ男だけってことはないかもしれんが、おっさん女の子になったことは今んとこ一度もないからね。
乙女心ってモンに対する疎さは関しては、大目に見てほしいところだ。
「さて、とりあえず早速――」
「おっちゃん、なに鏡の前でぶつぶつ言ってんの?」
「おわー!!? と、トリアか……。んだよ驚かすんじゃないってのまったく……」
前触れなくかけられた言葉に、つい声をあげちまいながら振り向けば……トリアと、どうやらネルネも一緒みたいだな。
「つーかお前、相変わらず呼び鈴も鳴らさずに上がりこんできやがって……」
「えー? そんなのいつものことじゃん!」
「だーから、なおさら問題だっつってんの」
まぁ実際のとこ、もうそれほど気にしてるワケでも無いんだが……。
定期的に小言でも言っとかんと、ますます増長する恐れがあるからなコイツは……。
「ご、ごめんおっちゃん……。わ、わたしも本当は、よ、呼び鈴を鳴らすべきだと思ったんだけど……。た、たまにはわたしも、おっちゃんを驚かせてみようかなって……。え、えへへ……」
と、こっちはこっちで少しはにかむように反応するネルネ。
やれやれ、とんだいたずらっ子になったもんだよまったく……。
隣にいる悪いお友達の影響かね?
「む! またなんか失礼なコト考えてるでしょ! ……ってあれ? その手に持ってるのって……結局そっちにしたんだね?」
「ん? ああ、まぁな」
相変わらず謎の鋭さを見せるトリアが、ふと俺の手元に視線を移す。
そう、男ならだれもが一度は憧れるであろう謎の魅力を持つアイテム……。
――この『眼帯』にだ!
エンデュケイトとの戦いで、失くしちまったからなぁ左目。
そのままっつーのもアレだし、リィンねぇちゃんところでイイのを取り寄せてもらっていた。
で、そいつが昨日届いたってワケだ。
……しかし本来なら医療用具やそこらのコイツが、なーんでこんなに心をくすぐってくるんだろうねホント。
永遠の謎と言ってもいいだろう。
「こ、この一週間、おっちゃんずっと悩んでたからな……。が、眼帯にするべきか、義眼にするべきかって……」
「ねー? しかもその理由が『どっちの方がカッコイイか』だよ? まったくおっちゃんはさぁ……」
「……んだよ、良いだろ別に」
「ふふ……。で、でも、け、結局何が決め手になったんだ……? どっちも捨てがたいって、け、結構葛藤してたと思ったけど……」
……確かにネルネの言う通り、正直『義眼』という響きも捨てがたいとは思っちゃいた。
いたんだが――。
「あー……そのほれ、なんつーか……義眼っつーとなにかと管理なんかも大変そうだろ? その点、眼帯なら清潔にさえしてりゃあ大きな問題もなさそうだし、そいつも自浄魔法があれば――」
「あーわかったー!! おっちゃん義眼を目に入れるのがこわいんでしょー!」
「なっ!?」
まるで新しいおもちゃでも見つけたような……いや、それよりはもう少し意地の悪そうな笑顔で、ニヤニヤとそんな指摘をしてくるトリア。
……いやホント、毎度コイツのこういう鋭さはなんなんだよ割とマジで。
だが落ち着けイルヴィス。
まだ、まだ巻き返せるはずだ……!!
ここらでいっちょ大人の余裕ってのを見せつけてやれば――!!
「はふぅ~、まぁしょうがないよね~? おっちゃんってばメンタルよわよわさんだし……ぷふーっ!!」
「はぁ!!? だ、誰がお前……っ、別に怖くなんてないんですけどォ!? なんなら十個でも二十個でもまとめて身に着けてやるわって話なんですけどォ!?」
「い、いやいやいや……い、いつの間に人間やめたんだおっちゃん……。お、おっちゃんにはそんなにたくさん、め、目は無いだろ……?」
「ぐ……!? だ、だってよぅネルネ、トリアのヤツが……」
つい熱くなっちまった俺とは対照的に、冷静なツッコミを入れるネルネ。
「よ、よしよし、大丈夫だからな……? ほ、ほらトリアも、あ、あんまりおっちゃんのこといじめちゃだめだぞ……」
「えへへ、はーい」
……うん、まぁなんだ、やっぱ大人の余裕ってのは効果的だったな。
ただこの場で一番そいつを持っていたのが15歳の少女だったってだけで……。
いやいやいや、15ともなればもう立派な大人のレディってヤツだろ?
つまり断じて俺の精神の方が未熟だったとかそういう話では無い、断じてだ。
……俺は誰に言い訳してるんだろうねホント。
「……っと、どしたよネルネ? おっさんの顔になんかついてるか?」
「え……? あ、ううん……えっと、お、おっちゃんもあの後、ちょっとだけ元気がなかったようにみえたから……。で、でも最近は元気になってきて、よ、良かったって思って……」
「……そうかい? ま、リーズシャリオじゃあ色々とあったからなぁ」
心配してくれてありがとうよ、なんて気持ちを込めながら、軽く頭を撫でてやる。
……色々、か。
俺とコイツらの……なんつーか『違い』みたいなもんにちょっとばかり考えるとこがあった、なんて個人的な事情も勿論あるが……。
「ボクもちょっとびっくりしたけどさぁ……あれが全部マッフィーノのしわざだったなんて、なんだかまだ実感がわかないね……?」
「まぁ、そうだなぁ」
トリアが言うように、俺もそのへん全部を割り切って飲み込めてるワケじゃあない。
付き合いは短いとはいえ、良い関係を築けていたと、そう思っていたからな。
だがそいつはトリアたちだって同じはずだ。
となりゃ……いつまでもおっさんがうじうじしてるワケにもいかねぇってもんだ。
……そう、そいつはわかっちゃいる。
だがそれでも――。
「……あん時、俺は何て言ってやるのが正解だったのかねぇ」
なんて、つい誰に問うでもなくついこぼしてしまった心情とともに、俺は当時のことを思い出していた――。




