第39話 邪君エンデュケイト
「――…………!!」
頭の輪っかにダメージを受けたエンデュケイトが、再び俺達に向かって直接攻撃を始めだす。
まぁここいらにはもう、他にターゲットもいないだろうしな。
当然と言えば当然なんだが……。
「く……!! さ、さっきよりもまた、こ、攻撃がはげしくなってる……!!」
まぁネルネの言う通りってワケだ。
一本一本の触手の形も歪で……まるで駄々をこねる子供のように、とにかくがむしゃらに攻撃を繰り出すことを優先している。
が……!
「なぁに、なにも悪い話ってだけじゃねぇさ……!! 逆に言や、『このままじゃあヤバい』と、そう思わせてるってことだからな!!」
あの『引力』の力も失って、恐らく向こうももう後がない……。
なりふり構わん攻撃は、その表れってやつなんだろう。
つまりここを乗り切ればこっちの勝ち……そいつが分かっているからこそ、ヤツも必なんだろうね。
だが……!
「……はっ! ついさっきのことをもう忘れちまったのか? ――俺は『触手の攻撃』と『引力』の、両方にさらされる中でも足を止めない……そんな男だったろうがよ!!」
触手の嵐の中を、それでも悠然と進んでいくブレイブスライム。
確かに荒々しくなった分、一撃一撃の威力は増してるが……雑多な攻撃は外れ方もデカいってな。
こっちには今までの戦闘分の経験値もある……覚悟を決めた今の俺達なら、触手を弾きながら十分にかいくぐって行けるはずだ……!
そうしてまた一歩ヤツに近づいていく。すると……。
「――…………!!」
突如地面に広がるドロドロが、うぞうぞと波打つように蠢きだした。
恐らく……自身の危険を察知した奴が、ブレイブスライムごと俺達を飲み込もうとでもしてるんだろう。
「……流石にこの土壇場じゃあ『好き嫌い』なんて言ってる場合じゃねぇってか? 偏食を克服したっつうならそいつは殊勝なことだがよ……」
それを意に介さずにまた一歩、ヤツの元へと踏み出してやれば……まさにその足元を絡めとろうと、ドロドロがじわりと伸びてくる。
ゆっくりと近づくそいつらが、次第に両足へと巻き付いていくが……。
「――うちのトリアだって上手く調理してやりゃあ、ピーマンだって食べれるんだぜ? ご褒美に足を止めてほしいってんなら、もう少し努力が足りねぇな!! ――ネルネ!!」
「うん……!! ま、任せてくれ……!!」
ネルネが目を閉じて集中を始める。
と同時に、足元を狙って伸びて来ていたドロドロたちが、まるで水でも掴むかのようにするりと、そのままブレイブスライムの体を通り抜けていった。
それだけじゃあない。
表面も、内側も、もちろん足以外も……ドロドロがブレイブスライムの体を掴もうとする度、滑るように、すり抜けるように、その全てが徒労に終わっていく。
「――…………!?」
「ぶ、ブレイブスライムの能力は『頑丈さ』だけじゃない……!! う、上手く操作してやればこういうこともできる……!!」
ネルネの言葉を理解していないのか、何度も挑戦を続けるエンデュケイト。
その諦めないチャレンジ精神は立派なもんだが……。
「そ、想定外のことはあったけど……こうしてくるかもっていうのは想定済みだった……!! だから……!!」
そういうことだ……!!
高速で攻撃を仕掛けてくる触手相手じゃあ、逆にスライムを散らされちまって使えない手段だが……動きの遅いドロドロ相手ならこれほど効果的な手段も――。
「――!? ……おいおい、お次はそうきたか……!!」
ヤツの背中の触手が、ずるずると頭の輪っかへと伸びていく。
そしてそのまま再生……っつーには相当に歪な形だが、輪っかを無理矢理修復しているようだ。
そして……。
「……っ!! お、おっちゃん、また……!!」
「……ぐぅっ!? っクソ、こいつは腰にクるってのによ……!!」
再び発生した『引力』の檻が俺達をとらえる。
そいつを見届けたかと思えば、そのままゆっくりと後退していくエンデュケイト。
元々……あの避難場所に近づくときも同じような速度だった。
そいつを考えりゃ、これがコイツの最高速度なんだろう。
つまり……今コイツは全速力で逃げようとしてるってワケだ。
「随分とつれない話だぜ、狙いは俺の『時間切れ』か……! 確かにこの状態での鬼ごっこってのは骨が折れるかもしれんな……! だがよ……!!」
ブレイブスライムと繋がる俺の体も、ギシギシと消耗を加速させていく。
だがヤツはそのために……すべての触手を使いきった!
つまり……!
「――さっきも言ったろうが……!! 片手落ちで止められるなんて思われるほど、見くびってもらっちゃあ困るってなぁ!!」
張り巡らされた『引力』の中を、ブレイブスライムが力強く進んでいく。
体に、足に、腕に……その全てにまとわりつく『引力』が、これでもかってぐらいにそいつを阻もうとしてくるが……!!
「――そ、そうだ……! 進め……! ぶ、ブレイブスライム……!!」
首元にまわされたネルネの腕にも力が入る。
「で、できるはずだ……! み、みんなの想いも一緒に背負って……!! おっちゃんと……わ、わたし達なら……!!!」
――瞬間、ブレイブスライムの体が、武者震いのように震えた気がした。
そいつは……ネルネの操作のぶれによるモンだったのか、それとも本当に、ブレイブスライムが応えてくれたのか……。
俺にはわからん、わからんが――。
「――随分と待ち焦がれたぜ……!! この瞬間をな!!」
とうとう捕らえた……射程距離にだ!
俺は左腕を大きく振りかぶり、輪っかを支えるのに必死のエンデュケイトの、そのがら空きのボディに一撃を入れてやる。
「――…………」
「……っと、なんだよ? まるで『どうってことない』とでも言いたげな様子だな? ……随分と余裕を見せてくれるじゃねぇか」
さっきとはうってかわって、平然としているエンデュケイト。
確かに傍からから見れば、こっちの攻撃が無意味だったように見えるのかもしれんが――。
「悪いな……! こっちはハナから攻撃のつもりで殴ったんじゃねぇのさ!!」
そう、俺達がここまで近づくことを目的としていた一番の『理由』……。
エンデュケイトを殴った時の『衝撃』の流れを、『傾向限界突破』によって感じ取る……!
まずは、飲み込まれているシズレッタ達の位置を探るためだ。
そして……もう一つ。
――七大魔王『邪君エンデュケイト』……ヤツのドロドロは、魔物のような形をした『攻撃のため』の部分と、そのまま地面に広がっている『飲み込むため』の部分とに分かれていた。
……そうだ、わざわざ分かれちまってるんだ。
ある程度両立でもされちまえば、こっちにとっちゃこれほど厄介なことは無いってのによ。
となりゃあ……そいつが何故かってことになってくる。
……さっきのエテリナの言葉を借りるなら、その必要があるからってとこだな。
コイツは明らかに中心部……魔物の形をした部分に近づけば近づくほど、反応が激しくなっていった。
つまり……!
「お、思えば最初からそうだったんだ……!! あ、あの時も……さ、最初の男の人が近づいたから攻撃が始まった……だから――!!」
「あるんだろ、そこに……!! お前の本体……『核』ってヤツがよ!!」
傾向限界突破で、感覚を限界まで研ぎ澄ます。
そして――。
「――――見つけたぜ……!! ネルネ!!」
「う、うん……!! す、『スライミングセル』……臨界増殖……!!」
ネルネが集中を始めると、俺のマナをたらふくとりこんだスライムがさらに増殖していく。
そしてそれらが全て右腕へと集まっていき……まるで巨大な結晶のような形を作り出していく。
俺達はそいつを力いっぱい引き絞り――。
「――…………!!」
「……さて、幕引きの鐘としちゃあいささか悪趣味だが……なに、気にすることはねぇさ。――どうせ鳴らすのはこれっきりだからな!!!」
――そのままヤツの頭部……エンデュケイトの『核』へと振り上げる!!
「いけぇーっ!!! ネルネーッ!!!」
「おじさまぁーーっ!!!」
「ネルネルやっちゃえーっ!!!」
「決めろ!! イルヴィス!!!」
「――おおおおおおおぉっ!!!」
増殖した『大質量のスライム』を、レガリア二体分の『超防御力』でコーティングしただけの巨大な『塊』。
そいつに俺の残り全部をつぎ込んで……ただ単純に叩き付ける!!
「こ、これが……!! これがわたし達の――!!!」
「――『ギガンティック……マテリアァァッ!!!!』」
巨大なスライムの塊が、エンデュケイトの頭部に炸裂する。
まるで雲を割くほどの衝撃によって、魔物を形作っていたドロドロが花火のようにはじけ飛ぶ。
そして――。
――びき、ぴし……バキンっ!!
……と、確かに感じるその手ごたえ。
その鐘の音ををもって俺はこの戦いの……いや、この賭けの勝利を確信した。




