第38話 生贄
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「――ふむ、これがボイドシンドロームか!!! 確かに、今までに聞いたことの無い症状だね!!!!」
センセーの前で一度リミッターを解除し、インターバルが必要なことまでを含めたボイドシンドロームの一連の流れを披露する。
「どうすかね? 別のとこじゃ、原因不明でどうしようもないって言われちまったんすけど……」
「確かにそれは間違いではないだろう……だが!!! わたしの呪法ならば原因がわからずとも、君の体にどう作用して、どう影響しているのかを調べることは不可能ではないぞ!!!! ふふふ、それさえわかれば……」
「まさか……治せるんすか!?」
「はっはっは!!!! 当然……無理だろうさ!!! 何せ原因すらわからんのでは話にもならんよ、すまないすまない!!!」
えぇ……?
じゃあ今の思わせ振りなアレなんだったんだよ……。
「なぁにそう落ち込むことはない!!! 治すことはできないが……『何も手段が無い』と言っているわけではないからね!!!」
「! っつーと……?」
「以前、呪法の話をしたのを覚えているかい!!! あの時は皮肉にも、私の健康力が災いして話が途中で終わってしまったが……!!」
出たよ健康力……。
皮肉でも何でもなく、それただの不健康ってだけなんじゃねぇのとか思っちまうが、まぁ今は置いとくとしてだ。
「あーと確か……『デメリットを抑える』ことよりも、『デメリットがあってもいいからその分強力な効果』を……ってな話でしたっけ?」
「うむその通りだ!!! だが強力な呪法にはやはり、呪いと同じように『解呪』などが必要になってしまう!!!! 私としては――」
確か以前はそこまで話したところで、センセーが足をつって話が終わっちまったんだよな。
今回もそうならなきゃいいんだが……。
「――そう、私としては、時にそういった手段を用いることも必要だと思うのだよ!!! ……あまり賛同はされんがね!!」
……!
「……俺としてはてっきり、『そういった危険な呪法は感心しない』なんてことを言うもんだと思ってたんすけど……」
「はっはっは!!! もちろん、そう主張する者も多いのもまた事実!! だが……『呪い』も『呪法』も大小は有れど、その本質は変わらない!!! どちらも等しく、根底にあるモノは『贄』の概念だ!!!」
「贄……」
「うむ!!! そしてデメリット……つまり『何かを犠牲にしてでも目的を果たす』ことこそが、呪いの本懐なのだとするならば……『解呪』よりももっと根本的で最たる手段がある!!!!」
根本的、か。
贄だの犠牲だのと、なんつーか結構『重い』感じのするワードが飛びかってはいるんだが……。
「君も聞いたことぐらいはあるだろう!!! 『生贄』という言葉を!!!」
……どうにもこう、センセーのこのテンションが緊迫感のジャマをするんだよなぁ……。
そのセリフ、そんなに親指たてて言うもんでもないと思うっすよホント。
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「――おおおおおぉぉっ!!!!」
再び取り戻した戦闘力をつかい、触手を弾いていく。
――生贄。
生きた生物やその一部を使うことによって、より強力な『呪法』なんかを使用するための手段……とかなんとか、センセーは言っていたな。
もちろん、対象はどんな生き物でもいいってワケじゃあ無いらしい。
俺の場合は『自身の一部』……一時的にボイドシンドロームの影響を肩代わりさせた体の一部を『破壊』することにより、一度だけインターバルを握りつぶせるって話だ。
そして俺が選んだのが――まぁ使えなくなっていっちまってる左目だったってワケだな。
「お、おっちゃん……! わたし、わたしは……!!」
……もちろん生贄の話は、直前の作戦会議でも伝えてある。
そして……いざとなった時、俺は迷わずその手段をとるということもだ。
だがだからと言って、すぐに割り切れるものでもないってのが分からんほど俺も馬鹿じゃあない。
ネルネには……少し時間が必要か。
「わ、わたしはやっぱり……い、いろいろなことを考えちゃうんだ……! もっと早く完成させてたらとか……もっと強力なモノを作り出せたらとか……」
「……なぁネルネ、俺は――」
「でも――」
「!」
「でもきっと、そ、それだけじゃ足りないって……! お、おっちゃんに言われたからだけじゃない……わ、わたし自身もそう思うから……!」
「ネルネ……!」
あぁ、そうか――。
「ひ、左目が無くなって、ふ、不便なことはいっぱいあると思う……。けど、た、大変なことは全部……ごはんも、お風呂も、寝る時だって、わ、わたしがささえてあげるから……!! だから……!」
はっ、なーにが『ネルネには少し時間が必要か』だよ。
……きっと今この瞬間、俺は目の当たりにしてるんだな。
「今は……今は、よ、弱音は吐かないぞ、わたしは……!! お、おっちゃんと……おっちゃんと一緒に……!! 一緒に戦うって、そう決めたんだ……!!!」
ネルネの成長と、そして――!
「おじさまぁーーーっ!!」
ふと聞こえてくるハクの叫び声。
振り返れば、トリアに背負われてこちらに向かってきているハクの姿が目に入った。
「あの輪っかです!! ぐし……っ! さっきブレイブスライムさんの動きが遅くなっちゃったとき、あの頭の輪っかから強い『もやもや』を感じました!! きっとそこが……!!」
……声に涙が混じっているのが分かる。
ハクも俺の左目のことは知っているからな。それでも……それでも危険を承知でここまで来てくれたんだろう。
俺たち皆で、戦うために……!
「よーし、伝達完了だね!! すぐに……ってうわっ!? すっごいこっち向かってきてる!! でも……ハク、しっかりつかまってて!!」
「は、はい!!」
瞬間、踵を返すトリアへと向かっていく複数の触手。
だが……!
「ネルネも、おっちゃんも、必死でがんばってるんだもん!! ボクだって……!! んーーーーーりゃーーーーーー!!!!!」
トリアはその全てを、隙間を縫うように上手く躱していく。
アイツのこういうセンスには、時折心底脱帽するね……!!
「っぷはっ!! ……やった!! 抜けきった!! ボクってばちょースゴイ!! えらい!!」
「はい! トリさんとってもすごいです!」
あぁ、ほんとにな!
あとでしっかり撫でくりまわしてやるから覚悟しとけよ!
さて――!!
「――にゃっふっふ……!! ではではウチのおしごとはー、あの輪っかをなんとかすることってカンジですかなー?」
「! エテリナ!!」
気が付くと少し離れた建物の上……ドロドロの隙間で佇む様に、エテリナが立ち構えているのが目に入った。
アイツいつの間に……!
「強ーい力を使うための大事な器官……一部の魔物もそうだけど、露出させちゃってるのには理由があるわけでしてー! 放熱が必要だったリー、自身の魔素の影響が強すぎちゃったりー……」
……!
確かに俺も、そんな話を聞いたことがあるが……!
「そーんな繊細な場所に大きなダメージを与えられたら……にゃふふ、どうなってしまいますかなー?」
そのまま軽い口調で杖を構えたエテリナの前に、巨大な魔法陣が発生する。
「うちのマナプールは2800……。オジサンの十分の一以下だけど、ウチには頭があるからねー? 元になった『お金』を解析して属性も合わせれば、オジサンの一撃……とまではいかなくても、少しは近づけるハズ……!!」
巨大な剣の形をした光が、エンデュケイトの頭上に現れる。
『エンペルソード』か……!? いや違う、こいつは……!!
「にゃふふ……!! これがウチの新しいとっておき……!! ――『ジェネシオン……キャリバー』!!!!」
杖を振りかぶった瞬間、光の大剣がエンデュケイトの輪っかへと炸裂する。
その効果は……どうやらてきめんみたいだな……!
明らかにヤツの動きに動揺が見て取れる、これなら――!!
「――え、エテリナ……!!」
……!?
しまった、あっちにも触手が……!!
「……にゃふふ、今のでぜーんぶ使い切っちゃったぁ。――ねぇオジサン? あとでちゃーんと、ウチのことも助け出してね?」
そう口にするエテリナの立っていた場所へ、無数の触手が襲い掛かる。
そして――。
「――そんな心配をする暇があったら、舌をかまないようにしっかりつかまっておけ」
「にゃ!? クーよん!?」
土煙の中から飛び出してきたのは、エテリナを抱えて走るクヨウの姿だった。
「イルヴィス! エテリナは私が外まで運ぶ! あとは――!!」
そう言い残し、『脱兎のごとく!』で駆け抜けていくクヨウ。
その姿を……ハクの、トリアの、エテリナの、クヨウの、そして……ネルネのその姿を見て俺は――。
「……くははっ! あーくそ、こんな時だってのによ!」
――ったく、なにニヤついちまってるのかね俺は。
ついつい心情ってやつが顔に出ちまって、困りモンだよホント。
満身創痍で、左目も時間も無いときている。
が……ここまでお膳立てしてもらったんだ、となりゃあ最後は総取りでびしっと決めねぇと、格好がつかんって話だぜ?
だから……!!
「いくぞネルネ!!!」
「うん、おっちゃん……!!!」
――さぁて、クライマックスといこうか!!




