第37話 報いるためなら
「……っ! 流石にもう、これ以上は……!」
「――クヨウ!!」
俺との入れ替わりでヤツの気を引いていてくれていたクヨウのもとへと、急ぎ足で駆けつける。
そのまま迫っていた触手を弾き飛ばしつつ、ちょうどクヨウを庇うような形で陣取るように、この巨体を滑り込ませた。
「イルヴィス! ネルネ! ――そうか、その姿が……!」
体長にして10メートルはゆうに超えるスライムの鎧。
……ブレイブスライムか、なかなかどうして、俺には荷が重すぎる名前だねホント。
だが今は……今だけは、その重さも背負ってやるさ……!
まずは――。
「クヨウ、お前が時間を稼いでくれたおかげでここまではこぎつけた。……あとは任せて、少し下がっててくれ!」
「あぁ、わかった……! ――ネルネ! シズレッタとネーリャ、それと……イルヴィスのことを頼んだぞ?」
「う、うん……。おっちゃんには、わ、わたし達がついていてあげなきゃだめだからな……!!」
「ふふ……! うむ、その通りだ!」
いやまぁ確かに自分でもそう言ったんだが……なんだろな、他人から言われると急に俺のダメさ加減が加速するっつーか……。
後退するクヨウを見送りながら、そんなことを考えつつ体勢を整える。
……ある意味では怪我の功名とでも言って良いのか、二体の鎧がバラバラにされちまったからこそ……いや、それでもネルネが諦めなかったからこそ生まれたこの力、さて――。
「お前との……数時間前からの長い因縁に決着をつけるには、これ以上無いほどにうってつけだとは思わねぇか? ――なぁ、エンデュケイト……!!」
「――…………」
……こっちの言葉を理解してんのかそうじゃないのか。
それでも俺達を見据えるように、静かに触手を構え直すエンデュケイト。
「お、おっちゃん……! の、残り時間は……?」
「体感じゃあ、ひとまずはもって三~四十秒ってところかね……! 嘘や気休めでも長いとは言えねぇが……とにかくやるしかねえさ!」
「……! う、うん……! さ、さっきも話したけど、これは元々おっちゃんのために作ろうとしていたスライムだから、か、感覚で自在に操作できるはず……」
確かにここまで走ってくる時も、ヤツの触手を弾くときも、まるで自分の体のように操ることができたからな。
「だ、だから、おっちゃんは戦闘に集中してくれてかまわない……! スライムの制御や他の細かいことなんかは、ぜ、全部わたしが引き受ける……!!」
「あぁ、頼りにしてるぜ? ――くるぞ!!」
覚悟を決めた俺たちへと、無数の触手が襲い掛かる。
相変わらず触手と言っていいのか分からん太さのそれに、こっちもレガリア二体分×勇者級の力で応戦するが……。
「て、手数が多い……!? さっきまでよりもず、ずっと……!!」
「はっ、流石にこのデカさじゃあ、向こうも警戒して簡単に近寄らせてはくれねぇか……! だが……!!」
生身のままじゃあ『勇者級』の力でも捌くので必死だったんだ。
それが今じゃあ、攻撃を弾いてもなお、次の一歩を踏み出す余裕がある。
そんでもってさらにだ、こっちの一歩は体に応じてデカいときている……!
20も歩を進められれば射程距離……ヤツの懐に潜りこめるはずだ。
とはいえ、余裕があっても猶予はそれほどあるわけじゃあねぇ。
となりゃあやることは一つ……!!
「強引に距離を詰めるぞ!!」
「う、うん……!! お、おっちゃんがどれだけムチャな戦い方をしても、ぜ、全部わたしが調整する……!! だから……!!」
……
…………
……………………
「――おおおおおおぉぉおぉっ!!」
「――…………」
相変わらず恐ろしいまでに威力をもった攻撃が、触手にのって次々と襲い掛かってくる。
だがブレイブスライムも、決してそいつに負けちゃあいない。
いいやそれどころか……増殖したスライムを、レガリア二体分の超防御力と勇者級のマナで固めたこの力……。
質量に大量の魔素を重ねて威力を生み出すやつにとっちゃ、天敵といってもいいかもしれん。
触手を捌き、弾き、歩を進めていく。
向こうにとっちゃ、想定外なんて思ってるかもしれんがね……!!
「の、残り8歩……! おっちゃん……!!」
「あぁ! このままいけば予定通り――!!」
「――…………」
――!? なんだ……!?
急に攻撃が緩んで――。
「――うおぉおぉおおぉおっ!!?」
瞬間、ズシンとのしかかるような衝撃とともに、体がスライムごと、地面へと押しつけられる。
「ぐ……! お、おっちゃん……! こ、これは……!?」
「重力……!? いやコイツは……『引力』か!?」
『押しつけられてる』んじゃねぇ、『引っ張られてる』んだ……!
まるでトラップ床のように、足元に広がったドロドロによって発生した『力場』に囚われてちまってるってワケかよ……!!
「くそ……!! ここに来てまだこんな奥の手を隠してやがったのか……!!」
つくづくと、『強欲』の化身にふさわしい能力を持ってるもんだぜ……!!
これが『七大魔王』……!! だが……!!
「最初からこいつを使わなかったってことは、何か理由があるはずだ……! 燃費か、時間か、その他の何かなのかは分からんが――だったらこっちも、足を止めてはやらんってなぁ!!」
ずしんと一歩、また奴の元へと踏み出す。
その間も、再び触手による攻撃が繰り返されるが……腕を無理やり引き上げて防御態勢を取り、そいつを耐える。
「っ、おっちゃん……!!」
「……ぐっ!! ――大丈夫だ、まだ……!!」
また一歩、足を前へと進めていく。
ブレイブスライムは俺のマナで動いている……つまり、コイツへのダメージは即、俺の消耗へとつながるってワケだ。
だがこの状態で攻撃を捌き切るのは、無理を通り越して不可能に近い。
今は攻撃を耐え忍び、ほんの少しでも奴に近づくべく、一歩ずつ確実ににじり寄っていく。
「……そうだ、ほんの少し……!! そのたったほんの少しが、勝敗を分けることもあるはずだ……!! だったら――!!」
そしてまた一歩足を踏み出したその瞬間、ふっと感じていた『力場』が晴れていき――。
――そして同時に、がくんと俺の戦闘力も抜けていった。
「……っ! おっちゃん……!? まさか……」
「……あぁ悪い、折角お前がこんなすげぇモンを作ってくれたってのによ。――どうやら俺の方が、時間切れみてぇだ……」
「そんな……!!」
まるで本当に俺の体の一部のように、膝をついたまま動きを止めちまうブレイブスライム。
そして……。
その中心……俺たち二人がいる場所を見定めるように、足元からドロドロが伸びあがっててくる。
「そ、それじゃあ……それじゃあやっぱり、お、おっちゃんは――!!」
「……仕方ねぇさ。言ったろ、賭けだってよ? そのうえで……こうなる覚悟はできてたってヤツだ」
このままじゃあ二人とも、アイツに飲み込まれちまうのも時間の問題だろう。
だから――。
「そう、だからよ……。――第二ラウンドといこうか!! 『戦闘力解放』!!!」
俺は再びリミッターを解除し、戦闘力を勇者級まで引き上げる。
と同時に、俺のマナで目を覚ましたブレイブスライムによって、伸びてきていたドロドロを力任せに払いのけてやった。
――こいつが俺の『切り札』……!!
たった一度……本当にたった一度だけ、インターバルを無視して即座に戦闘力を解放できる。
これで残り時間はリセットだ……!
あと5分は勇者級の力でフルに戦えるはず――。
「――っと。……そんな顔すんじゃねぇって、な? 俺は大丈夫だからよ」
「で、でも……だっておっちゃん……!! もう一生、ひ……っ、ひ――」
耳元の絞り出すような声と、しがみつくように腕に力を込めるネルネ。
何を言おうとしているのかは……察しの悪い俺でも想像はつくかもな。
なんせ――。
「――『左目』がっ……!!」
……たった一度だけの切り札、その代償は――。
本当に、もう二度と光をとらえることの無い左目と、そこから流れる血の涙……なんて表現をするのは、ちょっと格好をつけすぎかね?
事前に話をしていたとはいえ、目の当たりにすればショックはデカいだろう。
……だがなネルネ? それでも俺にとっては――。
「なぁに、存外に安いもんさ……! 俺達がこれから取り戻すモンに比べたらな……!!」
そうだ、そんでもって……お前の想いに報いるためなら俺は――!
ブックマーク500! ありがとうございます!
……というのに、最近また少し投稿ペースが落ちてきてて申し訳ないです……!
第三章も残り三話、どうか最後までお付き合いをいただければ幸いです!




