第36話 特別なスライム
====================
「えと……つまり、バラバラになっちゃった鎧の破片を、ただスライムでくっつけるだけじゃないってことですか?」
『わたしにも何かできることがあるかもしれない』と、そう口にしたネルネの提案は、『スライムによって二体の鎧の破片をつなげて修復する』というものだった。
つってもハクの疑問の通り、ただくっつけてはい終わりってワケじゃあ無いようだが……。
「う、うん……。れ、レガリアの鎧、あれだけバラバラにされちゃったら、ただ普通に修復させたぐらいじゃ、じゅ、術式まで再生はできないんだ……」
「にゃーん、術式ちゃんってば繊細なコだからねー?」
……ふーむ、となると言い方は悪くなっちまうが……たとえスライム以外の手段で修復したとしても、出来上がるのは『金属でできた、ただのでっかい鎧』になっちまうってワケか。
あのバケモン……エンデュケイトを相手にするとなりゃ、確かにそのままじゃあ力不足は否めないってやつだな。
「だ、だから……もしこのままレガリアの力を使えなかったとしたら、しょ、正直わたしが、この戦いに貢献できるとは思えない……。で、でも……」
「にゃふふ! なるほどなるほど、それで『お金の術式』ってワケですなー? ……ではではここはー、エテリナちゃんの力が必要になっちゃうーってカンジ?」
「う、うん……、お、おねがいできるかな……?」
「にゃーにゃーもっちろん! おまかせあれー!」
なにやら前倒し気味にネルネの意図を察した様子のエテリナ。
流石は魔術に強い組……と、言ってやりたいとこではあるんだが……。
「まてまてまてって、意気投合してるとこ悪いけどよ、おっさん達にもこう……もうちょいわかりやすいようにだな……」
「にゃふふ、もちろんちゃーんと説明しませうー! んと、さっきも少し話題にでたけど……『世界中のお金はぜーんぶ術式で繋がってて、一つのおっきな脳みたいになってる』って話はしたよねー?」
「ああ、そいつは覚えてるが……」
「ボク達もこないだ、おっちゃんたちとは別のタイミングでお話してもらったもんね?」
まぁそういうことだ。
そんなわけで、ウチのヤツらは全員その話を知っている。
「え、えと……ぶ、物理的にはバラバラのお金が、術式で繋がって『一つの脳』を作り上げてるみたいに……も、もしバラバラになっちゃった鎧の破片を、『スライムで術式を補完して繋げる』ことができれば……」
「そうか……! たとえ実際の鎧は砕けたままだとしても、術式で繋がった『一つの鎧』として、再びレガリア級の力を取り戻せる、という訳なのだな……!」
なるほどな……。
つまり『鎧』も『術式』も両方まとめて、スライムでつなげちまおうって話なワケだ。
……確かに本当にそんなことがができるっつーなら、凄いことではある。
あるんだが……。
「で、でもさネルネ? えっとその……」
「う、うん……、と、トリアの言いたいことは分かってる……。た、確かにもう一度アルファスライムとオメガスライムを使えるようになったとしても……」
そう、そこだ。
現状、あの時の何十倍……いや、それ以上に増殖したエンデュケイト相手に効果的かと聞かれりゃあ……正直のところ、首を縦に振りづらいところではある。
が――どうやらネルネの顔を見るに、その心配は杞憂だったようだがな?
「だ、だから……二体の再生は言うなれば、ぜ、『前提条件』なんだ……。まずはそれができてこそ……ほ、本当の目的は――」
====================
――アルファスライムとオメガスライム。
それぞれの鎧が再びバラバラの破片となっていき、中から溢れ出したスライムとともに、混ざり合うように一つの大きなスライムになっていく。
そしてそいつがそのまま、勢いよく敵の方……ではなく、俺達の方へと向かって飛びかかってきた。
……さて、果たして今回はどんな感触なのか……なんてことを考えながら、ネルネの言葉を思い出す。
====================
「い、一からレガリア級の『超防御力』をもつ術式を作りあげることは、しょ、正直いまのわたしたち……ううん、たとえもっと力のある魔学者だとしても不可能だと思う……。で、でも……」
====================
ごぷん、と、背負ったネルネごと俺をとりこんだ巨大なスライム。
……どうやら事前に聞いていた通り、一部に『大気の属性』を持たせることで、呼吸なんかは問題無いようだ。
====================
「ほ、補完するためのスライムを、そのまま術式の一部に組み込むことができれば……よ、鎧と一つの存在となったスライム自身にも、れ、レガリア級の『超防御力』を浸透させることができるかもしれない……。そして……」
====================
問題の感触はといえば……まぁあれだ、許容範囲ってヤツだな。
……どうにも、徐々に慣れていっちまってる自分が怖いねホント。
====================
「――バラバラになっちゃってることを利用して……ふ、『二つの鎧をを一つにまとめて』効果を重ね掛けする……!」
====================
やがてゴポゴポとスライムが『増殖』していき……。
――その一部が、巨大な『腕』を形作る。
====================
「……正直『ミックス』は、わ、わたしもあれからはうまくいってない……。か、仮にうまくいったとしても、も、元々想定されてない使い方をするから、わたしのマナだけじゃ扱い切れないと思う……。だ、だから……」
====================
続いて、もう一方の『腕』を。
さらには地面を踏みしめる『足』を――、巨大な『体躯』を――、敵を見据える『頭』を――次々と、形作っていく。
====================
「だから、前から一緒に研究してた『スライムマン』の要領で、お、おっちゃんにもそれを纏ってもらいたいんだ……。わ、わたしが制御をして、お、おっちゃんがそれを操る……。お、おっちゃんがそばにいてくれればきっと――」
====================
……
…………
……………………
レガリアの破片を体中にちりばめながら、俺達をとりこんだスライムが巨人のような……いや、『巨大な鎧』のような姿へと、その形を変えていく。
……こいつそう、まるで『意趣返し』とでも言わんばかりだな。
黒いドロドロから形作られたエンデュケイトを倒すために、翠に輝くスライムから生まれた新しいネルネの力。
――これが、ネルネがずっと研究していたものの完成形……!
レガリアの『剛性』とスライムの『柔軟性』の、相反する二つの性質を兼ね備えた究極の『鎧』……!
「はぁ、はぁ……!! やった、で、できた……!!」
ぎゅぅっとひときわ、首にまわされたネルネの腕に力が入る。
……相変わらず伝わってくるね。ネルネの高揚感と、そして――。
「――お、覚えているかおっちゃん……? お、おっちゃんのために、と、特別なスライムを作るって言ってたのを……」
「……あぁ、よーく覚えてるよ。お前が何のためにそんなモンを作るっつってたのかも含めてな?」
「ふふ、そ、そっか……。こ、これがあの時……あの時の約束から生まれた『おっちゃんを勇者にするための特別なスライム』……! だから、こ、この子の名前は――」
そして――アイツらを必ず助け出すっていう、お前の決意がよ……!!
「こ、この子の名前はそう――『ブレイブスライム:ΑΩ』……!!!」




