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第33話 きっと今ここが

 ……

 …………

 ……………………


 獣帝じゅうていガルガロス。

 月姫げっきヴァルハーレ。

 蠱后こごうジャラジャンドラ。

 冥主めいしゅグラナディーテ。

 影勇えいゆうアルヴァトリア。

 機皇きこうディマギドル。

 そして……邪君じゃくんエンデュケイト。


 『ワイルド』『ネイチャー』『バグ』『ホラー』『ドッペル』『ソリッド』『パラダイム』、それぞれの魔属の頂点……と、噂される真偽不明の七つの存在。


 ――通称『七大魔王』。


 マッフィーノの話の通り、あのドロドロがその一体なんだとしたら……俺は、見誤った。


 あれ(・・)の強さを……という意味じゃあない。

 自分の置かれた状況、そして、『優先すべきモノを』だ。


 俺は――。





「――七大魔王、『邪君エンデュケイト』か……」


 マッフィーノはその後、やるべきことがあると言い残してこの場を後にした。

 なんでも、島の共同出資者の中にはマッフィーノの一族も含まれていて、その関係なのだそうだが……。


「……ぐしゅ……。し、シズレッタも、ね、ネーリャも……わ、わたしのせいで……えうぅう……!!」


 ……ひとまず今は、ネルネをぎゅっと抱き寄せてやる。

 あの戦闘から、何とか逃げ延びた俺達……三人(・・)

 

 逃げ延びた……本当にその通りだ。

 飲み込まれたシズレッタも、ネーリャも……見捨てて逃げるしかなかった。


 ……くそ、なにをやってるんだ俺は……!!


 何が勇者級の力だよ……!! 

 肝心な時に役に立たねぇなら何の意味も――!!



「――ぐし……。さ、最近はいろんなことがうまくいってて……、わたしも、ちょ、ちょっとは成長できたのかもって思ってたんだ……。こ、このままいけばもしかしたら、ほ、本当にいつかトリア達と一緒に、みんなで勇者候補にって……」


 俺が自分の力に八つ当たりをしていると、腕の中のネルネがゆっくり心情を語り出す。


「け、けど……違った、弱いままだった……! ぐしゅ……!! わ、わたしが弱かったせいで、し、シズレッタもネーリャも……せっかく、せっかく本当に、な、な、仲良くなれたのにぃ……!」


「ぐす……! ネルネさん……!!」


「調子に乗ってたんだ……! おっちゃんたちと一緒にいて、わ、わたしもレベルアップして、それで……! ぐし……で、でも……やっぱりだめだった……! や、やっぱり、やっぱりわたしなんか――!」





「――ネルネ」


 自分を責め続けるネルネの言葉を、遮るように名前を呼ぶ。


「ぐしゅ……お、おっちゃん……?」


「……自分を責めるな、なんてことは言わん。きっとそいつは、お前の優しさだとか、人を思いやれる気持ちだとか……そういうモンの表れでもあると、俺は思うからだ」


 俺は両腕にハクとネルネを抱えたまま、目線を合せるように膝を下ろす。


「……けどな? ちぐはぐなことを言ってるように聞こえるかもしれんが……それだけじゃあ足りない(・・・・)と、そうも思うのさ。大事なのはその先……いや、今もだな」


「すん……。い、いまも……?」


「ああそうだ。……お前が弱いって? そりゃあ例えば、『馬鹿でかい力をなんも考えずに使えること』を強さっつうならそうかもな? ……だが人の強さってのはそんなことで決まるもんじゃない……そいつはなんとなくわかるだろ?」


「う、うん……」


「本当の強さってのは……そうだな、まぁ正直言っちまえば俺にもわからん。わからんが……少なくとも、俺はお前の姿を弱いと思ったことは一度もない。……本当だぜ?」


 そう、その通りだ。

 だからこそ……!




「……だからもう一歩、もうほんの少しだけ俺達(・・)は強くならないといけない。……シズレッタとネーリャを助けるためにもな」


「――……!」




 だからこそ、ネルネだけ(・・)じゃない。

 ――そうだよ、俺が、俺が狼狽えていてどうする……!


 落ち着け、しっかりしろイルヴィス……!

 この短時間で同じことを繰り返すつもりかお前は……!


 俺が今やるべきことを……やらなければならんことを見間違うんじゃねぇ……!

 でなけりゃ本当に、ただ見捨てて逃げただけ(・・・・・)で終わっちまう……!

 だから――!


「た、たすける……? で、でも……!」


「そうだな。酷なようだが正直、『生きたまま無事に助けられる』と思えるほど楽観的じゃあない、俺もな。だが……!」


 レガリアすら破壊する力をもった魔物(モンスター)による攻撃。

 ただ相手を殺すことだけが目的だってんなら……あまり考えたくはないが、あの『最初に飲み込まれた男』は初めの一撃で、もっと凄惨なことになってたはずだ。


 そうならなかったのは恐らく……男の体を体内に取り込むことを目的としていたためだろう。

 となれば――。


「そっか! 二人の体を取り戻して、アルティラさん達の時みたいに蘇生屋さんにお願いすれば……!」


「た、助けられる……のか……? シズレッタも、ネーリャも……?」


「――あぁそうだ!」


 ……ほんの少し、ネルネの瞳に光が戻ったように見える。


「でもな、それにはお前の力が必要なんだよ。……もちろんお前だけじゃない。トリアも、ハクも、エテリナも、クヨウも……ほれ、おっさんはもういい歳だからよ、お前らが全員、一緒にいてくれないとダメなんだ」


 初めてネルネとビジレスハイヴに潜ったあの時……。

 ごろつきを助けようとする二人を見て、いつか『死』を、それに伴う『蘇生』を、機能的に受け止めなけりゃならん時が来ると、そう感じたことを思いだす。


 ……悲観的な意味じゃあない。

 きっと今ここが、ネルネにとっても――。


「お、おっちゃん……。ぐし、わ、わたしになれるかな……い、今よりも強く……」


「なれるさ、そりゃ今すぐバリバリにってワケにゃいかんかもしれんが……まぁそれまではお前が自分を責める度、何度でもこうしてやるよ。……もちろん、その度に頭皮の匂いを嗅ぎ倒すがな?」


「ふえ……!? そ、そ、それまだ有効だったのか……!?」


 そりゃ当たり前だよ、おっさん少しの間とは言ったがいつまで(・・・・)とは言ってないからね?

 そんなことを考えながら、ネルネの頭を撫でてやる。


「おじさま……ネルネさん……! ――ぐしっ!! ハクも……ハクもがんばります! ネルネさん! 一緒にお二人を助けましょう!!」


「ハク……! うん、うん……!!」



 ……

 …………

 ……………………


「――にゃっふっふ! ネルネルも随分落ち着いてきたようですしー、んじゃんじゃ早速、状況整理といきませうー!」


「うむ。私たちはまだ、軽く状況を説明されただけだからな」


「っと、そうだったな」


 俺はあらためて、エテリナたちがあの場から離れた後の状況を説明する。


 アルファスライムとオメガスライムが破壊され、シズレッタとネーリャがあのドロドロ……エンデュケイトのヤツに飲み込まれちまったこと。

 その後ネルネと……あのナンパ男を連れて、何とか逃げ延びたことも含めてだ。


「……改めて情けない話だが、飲み込まれちまった三人を見捨てるような形になっちまった。時間制限なんかもあったとはいえ、不甲斐ないよホント……」


「えと、ダメですよおじさま! 深刻になりすぎるのはよくない……ですよ!」


「! ……あぁそうだな、その通りだ」


 本当に、毎度毎度気付かされてばかりだね俺は。


 ……しかし今考えてみても、正直、あの状況から逃げられるとは思わなかった。

 『魔王からは逃げられない』なんて話は有名だが……どうにも、逃げる俺達に固執はしてなかった……ように思う。


 『いつでも飲み込める』……なんて余裕だったのか、それとも……。



「それで……壊れちゃった鎧はどうしたの?」


「え、えと……ば、ばらばらになっても鎧はスライムで繋がってたから、う、上手く操作して回収してある……。しょ、正直、無我夢中であまり覚えてないんだけど……ま、まだなにかの手段になるかもって、思ってたのかな……」


「しかしレガリア級の代物ですら破壊する力とは……『七大魔王』だと言うマッフィーノの言葉も、ことさら信憑性を増すように思えるな……」


 たしかに魔王級すら凌駕するあの力。

 パラダイム属の頂点だと言われてもうなずけるが……。


「とにかく、確かめようのない真偽についてはこの際置いとくさ。問題は、どうやって二人を助けだすかだな」


「えと……例えば、シズレッタさん達がとりこまれてる部分だけ切り離す……っていうのはどうですか?」


「にゃむーん……残念ながらハクちー、正直『それでおーけい!』とはならないと思うんだよねー? ほら、アレはもともとお金についてた塗料……つまり、お金に施された魔術が関係してると思うんだけど……」


「前に言ってたな、世界中の紙幣や硬貨は全部つながっていて、一つの脳でっかい脳みそみたいになってる……だったか?」


 確かにその性質がそのままあのドロドロに受け継がれてるっつうなら、たとえ一部を切り離したとしても無力化とはいかねぇかもしれん。


 それどころか切り離した部分までもが襲い掛かってくる……なんてのは勘弁してほしいところだな。


 ドロドロを少しも残さず、全部ひっぺがして助け出せりゃあいいのかもしれんが……どっちにしろ、勇者級の力でさえ攻撃を弾くのが精いっぱいだったんだ。

 切り離すことも含め、とてもじゃないが現実的とは言えんか……。



「そっかぁ……。うーん……ボクもせめて『キラメテオバンキッシュ』が使えればなー……。ねぇおっちゃん、あの時の『ウルトラ相思相愛』だっけ? あれもっかい出せないの?」


「んな都合よく出てくれるもんだったら、俺もとっくに使ってるんだがなぁ」


 ガングリッドの時もそうだったが、トリアのキラメテオバンキッシュはマナをコントロールすることで『力をぶつける対象』と『それ以外』とを区別できる。

 つまり、シズレッタたちをうまく避けて攻撃することが可能ってワケだ。


 ……トリアの言う通り『使えれば』の話だがな。

 

 あれ以降、トリアがキラメテオバンキッシュを使えたことは無い……いやそもそも、エンデュケイト( ヤツ )が町の一角を覆い尽くすほど増殖している現状、どちらにせよ効果的とはいかなかったかもしれん。



「にゃむーん……それじゃあ現実的かどうかは置いておいてー、いっそのこと『討伐』しちゃうーってのはどう?」


「討伐か、そりゃ手段としちゃ分かりやすいが……」


 エテリナの言う通り、アレも魔物(モンスター)だっつうなら討伐さえしちまえば、最終的にはあのドロドロも浄化されて、二人の体も取り戻せるだろう。

 しかし……。


「……いや、そうだな。どんな手段をとるにせよ、戦闘は避けられんか……。とはいえ、このまま考えなしにっつー訳にもいかん。何か策を……ん?」


「…………お、お金の術式……、一つの脳……、ばらばらの鎧……、それと……う、ウルトラ相思相愛……」


 ……!

 真剣な顔で単語を呟くネルネ。

 そして――。


「な、なぁおっちゃん……! も、もしかしたら……わ、わたしにもまだできることがあるのかもしれない……!」

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