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番外編 ワールズレコード026:階層図

「……しかし貝殻の水着とはなぁ。随分器用に作ったもんだよホント」


「えっへん! 落ちてすぐに良い感じの大きさのミミックシェルがいてさ! エテリナがばしーってやっつけてくれて、クヨウが装備品の修復剤なんかで作ってくれたんだよ!」


「……じゃあなんでお前がえらそうに胸を張っとるんだ」


 聞いた感じなんもしとらんだろうがよ。


「……あの、イルヴィス? その……この上着のことなんだが……」


「あーいいっていいて、ダンジョン出て着替えるまでは羽織っとけよ、な?」


「そ、そうか? よ、よかった……」


 赤い顔のまま、ほっとした様子を見せるクヨウ。

 まぁ、流石にその恰好で外を歩くのは勇気がいるなんてもんじゃないよなぁ。


 ……トリアとエテリナはあんまり気にして無い……っつーか、エテリナにおいてはむしろ喜んでるフシさえあるのは、おっさんとしてもどうかと思うねホント。


 しかしあれだ。半裸のおっさんじゃあネルネが動揺しちまいそうなんで、昨日水着と一緒に買っておいたのは幸いだった。

 まぁそんでもまだ少し、ネルネはアワアワしていたようだがね。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード026:階層図

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――しかし今回はマッフィーノがいたおかげでなんとかなったが……やっぱ毎回、予備の階層図は用意しとかねぇとなぁ……」


 いつまたあんな風にパーティを分断されるか分かったもんじゃない。

 と、着替え中のお姫様たちを待つ間、更衣場近くのベンチに腰掛けてそんなことを考える。


 すると……。


「ふふん、どういたしましてですわ! でも階層図というと……やはりみなさん、予備を用意したりするものなんですの?」


 いつの間にか、着替えを終えたマッフィーノもやってきていたようだ。

 見たところトリアとハクも一緒か。……ん?


「まぁパーティによるって感じだな。今回のようにバラバラになっちまうなんてこともあるが、単純にロストしちまうことも……と、三人だけか? 他の五人はどうしたよ?」


「えと、皆さんまだ少し時間がかかるみたいで、ハク達だけお先に出てきたんです。更衣室のスペースも限られてるからって」


「髪長い組はたいへんなんだよー? おっちゃんはもう少し女の子のことをべんきょーしないとね!」


「へいへい。悪かったな、女の子の事情に詳しいヤツじゃなくてよ」


 つーかさっきネーリャにも似たようなことを言われたが……詳しかったら詳しかったでどーせまた『エッチ』だのなんだのと言われちまうんだろ?

 おっさんそういうの分かってきちゃったからね。



「そういえばわたくし……まだ階層図の実物を見たことってありませんわ。実際にはどういったものなんですの?」


「っと、そうなのか?」


 まぁ最近になってウィークスライムを一人で倒したっつってたからな。

 そもそもダンジョンに潜ったこと自体が無いのかもしれん。


「階層図ってのは……こういうもんでな。こいつはハーミナイトラグーンのもんだが、どのダンジョンの階層図も基本的にはおんなじだ。んで、()の上下のダイアルで階層を選んでっと……」


 荷物の中から階層図を取り出し、説明を兼ねて操作をする。

 あとは筒の側面の取っ手を掴んで、ロール状に収納されてる中身を引っ張り出してやれば……。


「……とまぁこんな感じで、ダンジョンの地図なんかが出てくるってワケだ」


「まぁ! お話には聞いていましたが、本当に良くできていますのねぇ……」


「ボク達もいつもお世話になってるモノだけど、何回見ても不思議だよねぇ。 一回戻してから他の階層を選べば、また別の地図が出てくるんでしょ?」


「台紙が魔力に反応する特殊なモンで出来てるらしくてな、こっちの筒の方に記録されてる階層図の情報を、こうして引き出す時に転写されるようになってるんだと」


 さらに付属のペンなんかを使えば、文字や記録を書き込むこともできる。もちろんそいつも収納時に記録されて、次回以降も参照できるって話だ。

 日々変化するダンジョンを相手にするなら必須の機能、なんだが……。


 ……まぁ正直、俺はその辺りのあれこれがどうにも苦手で最新版の階層図を買ってるとこがあるからなぁ。

 あんまり使ったことが無い機能だったりもする。



「でしたら……こちらの色がついてるところはなんですの? それに、地図の周りにも色々と書かれてるようですが……」


「そいつはほれ、俺達が落っこちたあの(・・)トラップだよ。他にも宝箱や……あとはセーフスポットなんかもそんな感じで色がついててな。んで、地図外にはそのあたりの詳細や特筆事項なんかが記されてるってワケだ」


「? えっとおじさま、特筆事項っていうのは……」


「ほれ今回の落とし穴、俺たちは別々に他の階層に飛ばされちまったろ? そういったことも……」


「あ、ほんとだ! ちゃんとここに書いてある!」


 隣で階層図を覗き込むハクに説明してやっていると、背もたれ越しにのしかかってきたトリアが、びしりと階層図に指をさす。

 ま、つまりはそういうことだな。


「特に落とし穴系のトラップは、『落ちたら串刺し』なんてベタなもんから、今回のように別の場所や階層へと繋がっているもんあるからな。その辺のことも、こうしてきっちり記されてるってワケだ」


 たとえデルフォレストのように階層が横へ広がってるダンジョンだとしても、落とし穴で別の階層へってのは珍しい話じゃなかったりするしな。



「……あれ? でもおじさま、こういうのって誰が調べて作ってるんですか?」


「そういえば……ひょっとしてあれじゃない? フルボーンドラゴンの時のボク達みたいに、冒険者の情報をもとにして作られるとか……」


「まぁ間違っちゃいないんだが……基本的にはもっと専門的な奴らがいるんだよ」


「あ! わたくしは知っておりますわ! えっと……そう! 『地図士』の方々ですの!」


「お、正解だ。地図士ってのは基本『職人ギルド』に属しててな。隠ぺい系や測量系のスキルが得意なそいつらが情報を持ち帰り、そいつをもとにして、こうして階層図が作られるってワケだ」


 聞いた話によりゃ地図士の中には、自分を中心にした一定範囲内を自動的に測量し、その情報を随時階層図に転写できる、なんてスキルを持ってるようなヤツもいるらしい。


 確か……『マッピング』とかいうんだったか?


 とはいえだ、日々少しずつ変化していくダンジョンを毎日毎日確認しに行くっつー訳にもいかないからな。

 そういった部分はさっきのトリアが言ったように、俺達冒険者の情報なんかで補完するって寸法だ。


 冒険者ギルドと職人ギルドの共同制作、とでも言ったところかね。


「ちなみに地図士が測量のため、定期的にダンジョンに潜る日を『更新日』なんて言ってな。冒険者ギルドでの評価が高いと、護衛のためのクエストを名指しで依頼されたりするらしいぜ?」


 ま、クエストがクエストだけに、依頼をされるのは相当実力がある奴らだって話だがな。



「あとは、と……0ページ目にもダンジョンの特徴なんかが記載されててな。例えばこのハーミナイトラグーンだと……」


「『大気』と『海』の二つの属性をもつ空間のことですわね! それと、水着でいなければ呼吸ができないというのも大きな特徴ですわ!」


「そう、そのへんのことが記載されてるってワケだ。今回の俺達はマッフィーノから情報をもらっていたが、初めて足を踏み入れるダンジョンなら読んどいて損は無い部分だったりするな」


 リバントンミュージアムで事前にホラー属の魔物(モンスター)が出現することが分かってたのもそのおかげだ。

 ……たった一人、きちんと確認を怠ったなまけ者(・・・・)を除いての話だがな。


「? なぁにおっちゃんじっとみつめてきて……あ! ひょっとしてボクの水着姿思いだしてるんでしょー! ……はふぅ~、まったくおっちゃんはしょーがないんだから~」


「……なんでこんな時だけいつもの鋭さを発揮しねぇんだお前は」


 ドヤ顔でため息なんぞつきやがって……。

 ホントお前、そういうとこだぞ?




「でもさぁ、こうやってちゃんとトラップの場所もかいてあるのに、おっちゃんってば落とし穴に引っかかっちゃったんだね? もっとちゃんと階層図を活用してかないと!」


「そいつを言ってくれるなって、悪かったよホントに……。つかお前、あのトラップを踏み抜いたのは確かに俺だがよ、アレだってお前がずんずん詰め寄ってきたからってのもあってだな……」


 と、我ながら格好の悪い言い訳なんかをしてみる。

 いやあれよ? こいつはほれ、トリアに対する注意喚起も兼ねてるっつーか……。


「あ! そーいえば……!」


 ……お、どうやら思いがけず自覚みたいなモンはあったらしいな。

 うんうん、そいつはなによりだ。

 もちろんおっさんも、そいつを見越したうえで心を鬼にして――。


「そーいえばあの時……! ……あの時さ、またおっちゃんに見られちゃったんだったよねぇ……? いろいろと(・・・・・)?」


「…………ん?」


 ……あ違ったわこれ。

 完全に悪手ってヤツだったわ。


「いやまぁ……そいつはその、な?」


「…………えへへ~? ……ねぇおっちゃん? これで何回目だったかなー?」


 若干の圧を感じる笑顔で、トリアが俺の顔を覗き込む。

 …………いかんな、どうにもヤブヘビだったか。

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