表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/230

第30話 強欲

 一度宿屋へ戻り、装備を整えてから再びその(・・)場所へとやって来る。

 路地裏を抜けたその先は、ほんの少しだけ開けた場所になっていた。


「行き止まり……? いや、これは……」


 壁の一角に向かい、手を伸ばしてみる。

 すると……まるですり抜けるように、腕が壁へと飲み込まれていく。


 どうやら別の空間へと繋がっているようだ。

 つまり――。




「――ここか、ハク?」


「はい、間違いないです。この場所のどこか……ううん、この場所自体から、フリゲイトのぞわぞわを感じます……!」


 この場所自体(・・)から、か。

 そいつはまた……いや、いまさらだな。


「けどさおっちゃん、ここって……」


「う、うん……。ひょっとして、だ、ダンジョンなのかな……?」


「えと、魔素の流れ的にはそうみたいですけど……。地上とダンジョンでは、感じ方が全然違いますから……」


「そうか、ハクが言うのであれば間違いはないのだろうな」


「にゃふふ、しかしそうなりますとー、ここの異質さは尚更否めないってカンジ?」


 エテリナの言う通りだ。

 ダンジョンっつっても、あるのはだだっ広い部屋が一つだけで、俺達が入ってきた入口以外に道のようなもんも見当たらない。


 そんでもってあとは……。


「この得体の知れん、大量の黒いコインやら紙の束やらだな」


 部屋中のあちこちに無造作に積み上げられてるそれ(・・)ら。

 それがことさら、この場所の異様さに拍車をかけている。

 

 ひとまず警戒しながら、その中の一枚を手にとって明かりに透かしてみる。

 ふーむ……なんとなくうっすらと、見覚えがあるような模様が見えるな。


 ………………いやまてまてまて……!!

 見覚えがあるっつーかこいつは……!?



「――まさかこれ全部、紙幣や硬貨……()なのかよ!?」



 思わず驚愕の声ってのが喉から飛び出てきちまう。


「うえぇ!? そ、そうなの? えっと……うわほんとだ!? よく見たらいつも使ってるお金の模様が見える!」


「こ、こっちもそうだ……! ま、真っ黒になっちゃってわかりにくいけど、ぜ、全部本物の硬貨みたいだ……!」


 どうやら、俺の目がおかしいってワケじゃあ無いようだな……。

 ネルネの言うとおり軒並み真っ黒になっちまっているが、恐らく間違いはないだろう。


 これが噂に聞く『汚れた金』……不正な流れで特殊なインクが滲みだしてるって状態なのか?

 しかしなんつーか……。


「おいおいおいおい……いくら使えなくなってるとはいえ、とんでもない金額だろこれ……!?」


「にゃふふ……ちょっと考えなくても数十億、ううん、数百億(・・・)なんて単位じゃ足りなさそうってカンジ?」


 改めて部屋中を見回してみるが……いやおっさん目眩起こしそうよコレ?

 普通の人間じゃあ一生かかってもお目にかかれない金額だろ……。


「ひょっとしてここは、こんな風に汚れてしまったお金の保管場とか廃棄場とか、そういう場所なんでしょうか……?」


「ふーむどうだかねぇ。そんなもんがリーズシャリオに有るなんて話、少なくとも俺は聞いたことはねぇが――」


 ――そこまで口にしたところで、ふとあること(・・・・)を思いだす。


 例の地下室にあった資料の、衛兵や役人なんかに流されていた賄賂の記録。

 それによると、ケインのヤツはそういったもんは全て、直接現金でやりとりを行っていたようだった。


 確かにその方が、間にアイテムなんかの購入や換金を挟まない分、足はつきにくくなるだろう。

 だがそもそもの話、見ての通り使えなくなっちまうってんなら意味が無い。


 が……例えばそう、例えばの話だ。

 賄賂として流されたその『汚れた金』自体を、『商品として』買い取るヤツなんかがいるとしたらどうだ?


 仮にそういうヤツがいて、賄賂を受け取る側がその存在を知っていたとすれば……。

 足のつきにくい現金でのやり取り、十分にメリットはあるだろう。


 そして……もしこの場所がそいつと何か関係あるとするならば、ここにある黒い金は全て、何か目的があって(・・・・・・・・)集められたってことになる。

 ……よほどの『汚れた金コレクター』でもない限りはな。


 だとすれば、そいつは一体――。


「――っ!? イルヴィス!! なにか様子がおかしいぞ!?」


 考え事をしている俺の頭に、クヨウの声が突き刺さる。

 気付いてみれば……手にしていた紙幣がざわざわと動き始めている……?


 いや、手元の紙幣だけじゃねぇ……! どうやら部屋全体に乱雑に置かれた紙幣や硬貨の全部が、同じように動き出しているようだ。

 こいつは……!?


「――おっちゃん!!」


 瞬間、バサバサジャラジャラと音をたてて、一斉に動き出す紙幣や硬貨。

 まるで小さな竜巻でも起きているかと錯覚するような光景に、一瞬怯んじまうが……。


 ……いや違う――!

 目を凝らして見れば、動いているのは滲んでいるインク(・・・)の方で、金はそれに引っ張られているだけなのか……!?


 まずいなこいつは……!

 なにがまずいって、何が起きているか見当もつかんってのが一番まずい……!


「ともかくいったん離れるぞ! 入り口へ走れ!!」




 ……

 …………

 ……………………


「はぁ、はぁ……!! 全員、いるな……!?」


「けほ……うんおっちゃん、けど……」


「……あぁそうだな、わかってる。……ほらネルネ、お前もこっちおいで」


「ぐしゅ……! で、でもおっちゃん……! わ、わたしの……ぐしっ……わたしのせいで(・・・・・・・)……! うあああぁあん……!!」


「ネルネさん……ぐすっ、ごめんなさい……ハクが、あんなところに何か感じるなんて言わなければ……! うぅう……!」


「……っ、よーしよし、大丈夫だ、大丈夫だからな? ……お前達のせいなんかじゃねぇよ、むしろあれは俺が……」


 腕の中で、泣き声を上げるネルネとハク。

 あんなこと(・・・・・)があったんだ、そいつも無理はないだろう。

 俺も……いや、俺が狼狽えてどうする、今は少し切り替えねぇと……。


「しかし……クソ、一体なんだってんだよあれ(・・・)は……!」


 あれから数十分。

 ダンジョン……と、呼んでいいのかはまだ分からんが、ともかくそこから脱出した俺達は、紆余曲折の末、少し離れたこの場所までやってきていた。


 途中、周りにも声をかけながら来たからな。

 辺りには同じように、逃げて来た奴らで溢れかえっている。


 この辺りは小高い崖のようになっていて、普段は景色を楽しめたりする観光スポットになっているらしい。

 ……今はそいつが仇となり、余計に不安を煽る光景(・・)を見せつけてくる。


 恐らくこうしている間にも、あのインクは徐々に紙幣や硬貨から染みだして(・・・・・)きているのだろう。 

 ……まるで、インク自体が意思を持っているかのようにだ。


 染みだしてきたそいつは少しずつその体積すらも増していき、ダンジョンから這い出てきた今も尚、増殖を繰り返している。

 そして――。


「……必然、ここも時期に安全とは言えぬようになるだろうな」


「うにゃにゃ……。あれ(・・)がここまでやって来るのも、時間の問題かもってカンジ?」


 ……エテリナの言うあれ(・・)

 俺達の眼前、増殖を繰り返すインクの中心。


 ――そこには、街の一角を覆い尽くしてうごめく、巨大な一体の化け物の姿があった。





「――イルヴィスさん!!」


「マッフィーノか!? ……よかった、お前も無事だったんだな……」


「えぇ……ですが――」


 俺達と合流し、一瞬安堵の表情を見せたマッフィーノだが、すぐにあの化け物に向けて、真剣なまなざしを向け始める。

 まるでタールのように黒く、どろどろとしたその化け物へと。


 戦慄……いや、少し違うか?

 これは――。


「マッフィーノ、ひょっとして……あれ(・・)がなんなのか知ってるのか?」


 なんとなく、本当になんとなくそう感じた俺は、素直にその疑問をぶつけてみた。……どうやらその顔を見るに、間違っちゃいないようだな。


「はい……! イルヴィスさんも……いいえ、他の皆さんも、話を聞いたことぐらいはあるでしょう」


 マッフィーノは小さく目を伏せると、再び真剣な目を俺に向けてくる。


「――あれこそがわたくしの、冒険者としての目的の一つ。パラダイム属の頂点にして『強欲』の化身……」


 パラダイム属の……頂点(・・)……?

 ……まさか――!?




七大魔王(・・・・)のその一席。――邪君『エンデュケイト』ですわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ